絵本の「絵」の部分は、作品の世界観を構築する重要なパーツです。そんななかこの記事では、さまざまな技法が用いられ独特の味わいや発想を楽しめる、切り絵を使ったおすすめの絵本を紹介していきます。アートともいえるその美しさに、大人も子どもも夢中になれるはずです。
とっても臆病な少年の豆太。夜になると、家の前にあるモチモチの木がお化けに見えてしまい、ひとりでトイレに行くことができません。
ある日のこと、一緒に暮らしているおじいさんが「今夜はモチモチの木に灯がともる。その灯は勇気ある子どもしか見ることができない」と豆太に語りかけました。そしてその晩豆太が目を覚ますと、おじいさんがお腹を抱えて苦しんでいることに気付くのです。
恐怖と不安で押しつぶされそうになりながらも、豆太は医者を呼びに外へと走り出しました。
- 著者
- 斎藤 隆介
- 出版日
- 1971-11-21
1971年に刊行された作品。文を斎藤隆介、切り絵を滝平二郎が担当しています。小学校の国語の教科書に採用されていたこともあり、1度は目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
滝平二郎の切り絵は哀愁がありながらも力強く、趣深いものばかり。創作民話である本書も、まるで昔話を読んでいるような懐かしい雰囲気が漂っています。
特に切り絵が表現する圧倒的な黒は、夜の闇を描くのにこれ以上のものはないだろうと思わせるもの。そんななか、おじいさんを助けたい一心で医者の元に走った豆太の勇気は、読者の心に迫るものがあるでしょう。
白鳥の姫と結婚し、幸せな日々を過ごしていた王子。しかし平穏すぎる生活に退屈し、北の山に住む神に力試しをすることを思いつくのです。
思い留まるよう懇願する姫のことも、忠告してくれた道行く獣たちにも耳を傾けず、王子はいよいよ山の神と対峙することになって……。
- 著者
- 鉄兵, 早川
- 出版日
滋賀県を拠点に全国で活動する切り絵作家、早川鉄兵の作品です。2020年に刊行されました。古事記を題材にして創作したストーリーだそうです。
本書の特徴は、野山に暮らすシカやキツネなどの獣たちと、豊かな自然を切り取るユニークな構図。凛とした気高さを感じつつ、愛らしさもあり、読者を惹きつけます。
結局王子は、大きなイノシシの姿をした山の神を前に、成す術もありませんでした。謙虚であることの大切さも教えてくれる一冊です。
ページをめくると、身体の部位が次々と現れてくる人体図鑑です。
赤と青に配色された動脈と静脈、パッカリと開かれた脳の中……人間の体のあらゆる部位がわかりやすい解説とともに紹介されています。
- 著者
- ["エレーヌ・ドゥルヴェール", "ジャン=クロード・ドゥルヴェール", "奈良 信雄"]
- 出版日
フランスのテキスタイルデザイナー、エレーヌ・ドゥルヴェールの作品。2017年に刊行されました。「ボローニャ・ラガッツィ賞」ノンフィクション部門で優秀賞を受賞しています。文章を担当したのはエレーヌの父親で、医師のジャン=クロード・ドゥルヴェールです。
最大の特徴は、その美しさ。頭から爪先まで精緻に表す細かさはもちろん、色使いも魅力です。グロテスクな印象はまったくなく、むしろうっとりと眺められるほど。部位ごとにページが重なることで人体の立体感もわかる、芸術作品だといえるでしょう。
まるで体の中を旅しているかのように楽しめ、いつのまにか人体の構造も理解できる不思議な図鑑です。
満月の日の森にて。目を明けたオオカミは、山の向こうで静かに光る月に見守られながら、ゆっくりと動き出しました。
草むらで静かに丸まっていたキツネはびくっとし、森の奥をじっと眺めているようです。何かが聞こえてきたのか、動物たちが次々と目を覚まします。
- 著者
- ["アントワーヌ・ギヨペ", "青木 恵都"]
- 出版日
フランスの絵本作家、アントワーヌ・ギヨペの作品。日本では2018年に刊行されました。手でおこなう型抜き加工よりもさらに精微な仕上がりとなる、レーザーカットの切り絵です。
本書の最大の特徴は、黒がベースとなったページと白がベースとなったページが交互に組まれた、モノクロの世界でしょう。ページをめくるたびに色が反転し、夜の森の闇と、月の光のぬくもりの印象の違いを楽しめます。
次々と目覚める動物たちの姿は神秘的で美しく、何かが起こりそうな静かな緊張感を体感できる一冊です。
実がたわわになった木の向こうで、何かが一休みしているようです。ページをめくってみると……木の実を取りに来た小鳥でした。
草原も覗いてみましょう。次はどんな動物が隠れているのかな。
- 著者
- ["ヴィルジニア・アラガ・ド・マレルブ", "のざかえつこ", "いぶきけい"]
- 出版日
2014年に刊行された、ヴィルジニア・アラガ・ド・マレルブの作品。ページは左右に観音開きできるようになっていて、切り絵の特徴を活かし、隙間をのぞいてかくれんぼを楽しめるようになっています。
切り絵で表現された木や草むらの向こうには、動物たちの目だけが覗いています。ページをめくる際には、光の加減で切り絵でできた影が伸縮し、曲線や直線の美しさをさらに実感できるでしょう。
言葉遊びのような文章でヒントが出されているので、クイズのように読み聞かせをするのもおすすめです。
りんごは「ごろごろ」転がって、みかんは「かーんかん」とバンザイ。しいたけは「シュッシュ」と機関車に乗ってご機嫌の様子です。
次はどんなくだものや野菜が登場するのかな。
- 著者
- ["もぎ あきこ", "森 あさ子"]
- 出版日
味わいのある切り絵で知られる、森あさ子の絵本です。2020年に刊行されました。作者自身で色付けをした紙を切って貼っていくスタイルで、独特な風合いをした色使いから温かみを感じられるでしょう。
登場するのは子どもが知っているくだものや野菜たち。「ぐーちょきぱー」の手遊び歌にあわせて読み進められるようになっているので、歌いながら読んでみたり、手遊びをしてみたり、そのまま読んで擬音を感じたりとさまざまな楽しみ方ができるのも嬉しいポイント。
リズムに乗せて読むだけで赤ちゃんが笑顔になる、ともいわれているので、0歳がらおすすめです。