ラノベと言えば、ティーンが読むラブコメばかり、なんて思っていませんか?大人が読んでも思わずハマってしまう、シリアスなラノベもたくさんあるんです。今回は、シリアスな物語が魅力のラノベをご紹介していきます。
小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞の受作で、様々な妖怪たちがのさばる江戸時代を舞台にした渡航が描く時代劇風ライトノベル『あやかしがたり』。この物語の中の江戸時代では、妖怪、もののけ、化け物がのさばり、それ等はまとめて「あやかし」という通称をつけられています。
江戸で剣の修行に励む主人公の大久保新之助は、弱冠15歳にして一流と称されるほどの剣の腕の持ち主ですが、心は内気でおまけにビビリな性質の持ち主です。そんな彼は故郷の山手藩へ帰郷する途中、ふたりの仲間と出会うことになります。
ひとりは、新之助と同じように「あやかし」を見る事ができ、修験者のような出で立ちをして、自らを「拝み屋」と称する謎の男・ふくろう。もうひとりは、天真爛漫な性格で新之助に懐いてくる、不思議な力を持った白い印象を持った少女・ましろ。思わぬ形で彼らと出会い、一緒に帰郷の旅をすることになった新之助ですが、山手藩では「あやかし」がらみの陰謀の影が迫っていたのです。
- 著者
- 渡 航
- 出版日
- 2009-05-20
戦いや駆け引きなどシリアスな展開がいくつかあって、まさに時代劇とバトルファンタジーをミックスさせたような妖怪ラノベ作品です。
さらに新之助は、幼い頃から「あやかし」が見えることで故郷の人々から疎まれ、自身もそれが原因でビビリで内気な性格になっていました。しかし、故郷での陰謀に続き、仲間たちと共に「あやかし」をはじめとした多くの敵や困難にぶつかり、立ち向かっていくことで人間的に成長していきます。
そして、敵・味方・あやかしが入り乱れ、剣術、そして呪術が火花を散らす幾多の戦いの中、自分を孤独にしてきた「あやかし」が見えるその能力が覚醒を果たした時、新之助はある決断を強いられることになります。果たして彼は、一体どうなってしまうのでしょうか?
ページを捲り、読み進めていくたびに、ますます目が離せなくなる展開が続く『あやかしがたり』は、戦いだけでなく、ストーリーでもしっかりと楽しませてくれるラノベ作品です。キュートでポップで可愛らしい妖怪モノだけでなく、バトルやシリアスで盛り上がれる妖怪モノも楽しみたい方には、まさにオススメの一作でしょう。
物語の舞台は人間と妖魔が存在する世界。人々は妖魔の力を恐れ、生活を脅かされていました。そんな妖魔に対抗できる手段を持つのは、浮城に住む、能力を持った人々だけ。浮城にある最強の剣「紅蓮姫」。その使い手に選ばれた少女ラエスリールは、人間と最強妖魔のハーフだった……。
- 著者
- 前田 珠子
- 出版日
- 1989-11-02
自分に自信のない少女ラエスリールと、そんな少女の押しかけ護り手となった謎の妖魔・闇主。そしてラエスリールを付け狙う、妖魔として生きることを選んだ弟。ラエスリールは人間として生き続けることができるのか?
闇主がラエスリールの護り手となった本当の理由とは。切なく悲しい中にあるからこそ、優しさの温もりを感じることができるそんな珠玉の物語です。
『破妖の剣』は単なる異世界ファンタジーという言葉で括れない、複雑に絡み合った人間関係と、切ないほどに届かない想いが混ざり合う物語です。
「人として生きよ」。妖魔の中でも最強の存在である父のその言葉は、親子の永遠の決別も意味していました。妻を想い、娘を想う父と、姉を慕い、それと同じくらい姉を憎む弟。種族の違う敵味方故に、素直に伝わらない家族の物語としても読み応えのある作品となっています。
自信を持てない少女が、幼い頃の呪縛を断ち切ったとき、運命が動き出します。息を付かせぬ展開に、ページをめくる手が止まらない作品となっています。
身に覚えのない罪をかぶせられ、罪人としての烙印を押されたストライフ国の王女フェンベルク、通称フェン。フェンの国に強い憎しみを持つテオ。濡れ衣によって追放され、笑顔を忘れてしまったフェンがテオと旅するうちに見つけたものとは……?
- 著者
- 高里 椎奈
- 出版日
- 2004-05-11
祖国に捨てられた少女は、世界を知るための旅に出ます。そこでさまざまな人たちと出会い、多くの事件に出くわすのです。利用されても、騙されても、彼女は己の信念に従って突き進みます。やがて少女は己を捨てた祖国を救うため、動き出すのです。
単なる捨て駒だったのだとわかっていても、祖国を見捨てることができない少女は、乗り込んだ祖国で再会した友を守るために冷たい言葉を投げつけます。いくら利用されようと、祖国とそこに住む人々への愛を忘れない彼女の姿は胸が熱くなります。
そんな罪人として捨てられた少女が英雄のような活躍を見せ、さらにすべてを守るために、発した言葉たちは名言も多いです。
どこまでも救いのない悲しい主人公のようにも思えますが、この物語に読み手を惹きつけられるのは、フェンの瞳に映るのが希望だからではないでしょうか。読んだあと、苦しいながらもやさしい気持ちにさせられる、そんなストーリーです。
主人公はごくごく普通の男子高校生沢村隆史、彼はある日家に帰ったら見知らぬ女子高校生がいることに驚きます。しかも、彼女は何気ない顔で隆史におかえりーと声をかけるのです。あれもしかして、これって俺の母親?
突然若くなった母親に困惑しながらも真相を探るべく、隆史は引きこもりの妹と共に行動を開始します。
「17歳教」に入れば17歳の肉体になれるらしいこと、そして母は昔引退した芸能界でアイドルを始めたらしいことが分かってしまうという物語です。
- 著者
- 弘前 龍
- 出版日
- 2013-07-10
何の変哲もない二児の母が若返り、アイドルになるというだけなら少しコミカルにも思える内容ですが、実はとてもシリアスな作りになっています。隆史の家庭は所謂母子家庭で、彼らの母親はレジ打ちをしたり、ぬいぐるみの中の人をやったりと、なんとかして過程を支えているのです。そんな献身的な母親がなぜ17歳に戻ってまでアイドルをやろうとしてしまったのか、読み進んでいけば分かる親子の物語が書かれたヘビーなラノベです。
不器用に生きる少女・嬢は、通り魔に襲われたところを美少年に助けられます。少年・彰に強烈に惹かれた嬢。嬢にとっての日常は、父親からの暴力とリストカットを行うことでしか生きている実感を持てない退屈な日々でした。彼なら自分を違う世界へと連れ出してくれる。そう確信します。
しかし、彰も抱えるものがありました。それは、母親の死です。そんな彰と関わることで嬢は、街で起こる事件に少しずつ巻き込まれていきます。
- 著者
- 森橋 ビンゴ
- 出版日
- 2005-12-24
リストカットで生を実感する少女の物語。少女は、なぜリストカットをしなければ生を実感することができないのか。危うい雰囲気の漂う物語で少女がどのように変化をしていくのか。繊細な心理描写により浮き彫りになる少女の心は、読者の胸に痛いほど迫ってきます。
退屈な日常や父親の暴力などの日常に囲まれた少女にとって、少年との関わりは非日常。詰め込まれた要素に突出した部分がなくても、一つ一つが丁寧に描かれているため、続きを読みたくなる作品です。綺麗な表紙に惹かれて手にとっても、満足できるのではないでしょうか。
人を喰らう魔物が出るという冬至の夜。魔物の食欲を抑える方法はただ1つだけ。語り部たちは、魔物の食欲を抑え人々を守るため、夜通しさまざまな物語を紡ぎます。
- 著者
- 多崎 礼
- 出版日
ただただ魔物に食われる恐怖に怯えるだけのストーリーには終わらない、この作品。気が付けば一気にページを進めていることでしょう。ピースを一つずつ集めて謎解きをするような楽しさに惹きつけられるのです。
物語は、まるで御伽話を聞かせるかのように、ゆっくりと進んでいきます。バラバラに思えた話が寄せる波のように、時折混ざり合い、時には離れていく。語り部たちが紡ぎ出すいくつもの短編がやがて絵画のパズルのようにはまって完成したとき、予想もしていなかったストーリーに気付きます。
ひとつのものを同じものを見ていても、見るものによってそれは違うように映るのだという、本当に当たり前のことに改めて気づかされる、そんな作品となっています。読み終わったあと、もう一度改めてページをめくりたくなる。そんなストーリーです。
少女の旅人と喋る二輪車の旅を描く、時雨沢恵一著作の冒険ラノベです。電撃文庫の看板となった作品のひとつとして有名で、2016年10月に20巻が発売され、今なお絶大な人気を誇っています。
「私は……、キノ。キノだよ。いい名前でしょう」
「うん、気に入ったよ。ところで、ぼくの名前は?何かあるの?」
「エルメス、だよ。エルメス。昔のキノのともだちの名前だよ」
「ふーん、エルメスか。悪くない、かな」
「で、これからどうするの?」(『キノの旅』より引用)
少年を思わせる中性的な容貌を持つ少女・キノと、人の言葉を話すことができる、「モトラド」と呼ばれる二輪車・ヘルメス。そう言葉を交わし合った不思議な出会いの後、ふたりはあてのない旅に出ることになります。本作の特徴として、そのキノとヘルメスが旅先で訪れた国々では、現代社会の問題にちなんだ出来事が起きているのです。
例えば、第1巻の「平和な国」では、戦争に疲弊した二つの国が、自分たちがこれ以上戦争に怯えない為に、ある部族をどちらがより多く撃ち殺せるかで勝ち負けを競うという、新たな形式の「戦争」をしていました。「平和には犠牲が必要」。ただそれだけの言葉と思想で、現代社会でもよくあるように、自分が生き残る為に他者を犠牲にして、平和を謳歌してきました。
その他にも、国民全員による多数決で自分たちの邪魔となる少数派を切り捨てる為に死刑を繰り返し、結果として誰もいない国となった「多数決の国」。テレパシーができる薬を飲んでしまい、お互いに何を考えているのかわかるようになってしまった為、誰もが外に出ずに暮らしている「人の痛みが分かる国」。
そんな国々という、ひとつひとつの世界を訪れるキノとヘルメスに感情移入しながら読んでいくと、まるでふたりが訪れた一つ一つの世界が、現代の光と闇を映した鏡のように思えてくるだろうと思います。
- 著者
- 時雨沢恵一
- 出版日
- 2000-07-10
しかし、それでもふたりが旅を止める様子はありません。時に命を狙われようとも、時に目を背けたくなる現実を目の当たりにしようとも、キノはヘルメスと共にあてなき旅路を行き続けます。
「だからといって、旅を止めようとは思わない。止めることはいつだってできる。だから…続けようと思う。」(『キノの旅』から引用)
何かを途中で止めることはいつでも、そして簡単にできるけれど、再び始めることはもちろん、そう決心するのは簡単なことではない。旅の途中、自分を優しく、温かく出迎えてくれたあるひとつの国が火砕流に消えていったのを見た、キノのその呟きからは、人間として今を生きるということへの想いが込められています。
黒星紅白の愛らしくも幻想的なイラストで彩られる、光と影の狭間を経て世界を旅する少女と喋る二輪車の物語が繰り広げられる旅ものラノベ。ひとたびふたりに感情移入して、切ないけれどもどこか愛おしい果てなき旅に想いを馳せてはいかがでしょうか。
花屋を営むアメリカ在住の南雲秋人。愛する妻子をマフィアによって惨殺されてしまい、マフィアに報復するための復讐鬼と化します。標的は日本最大の暴力団・瓜生組。ただの花屋がマフィアに復讐できるのか。
実は彼は先端科学による生体強化戦士・バイオニック・ソルジャーでした。しかし瓜生組組長の背後には死霊(ゾンビ)戦士を操る不死の魔人である組長の義弟・義龍の存在が。
- 著者
- 菊地 秀行
- 出版日
バイオニック・ソルジャーと不死の魔人の壮絶な死闘が始まります。この戦いはやがてそれを制するものは世界を制するといわれる「パワー・ライン」を巡る戦いに発展。異能力を持つ魔神たちの戦いが始まりました。マフィアや暴力団が登場する復讐劇かと思いきや、魔人や地獄、魔界などが登場する伝奇アクション小説です。
まず引き込まれるのは主人公である南雲秋人という人物そのもの。花屋を営み、妻子と共に平穏な日常を過ごしていたはずがある日突然奪われてしまいます。南雲が見ている世界は地獄。愛しい家族を失った今、彼を突き動かすものは復讐心のみです。
また、重厚でありながらスピード感を失うことなく繰り出される展開や細部にまでこだわった描写、迫力のある戦闘シーンに凄惨な性描写なども魅力的。非道徳的な内容に目を背けたくなる場面もありますが人間の本性に迫った内容は読むごとに引き込まれてしまいます。ぜひその重厚感のある世界観をお楽しみください。
真面目で地味な優等生。決して目立つタイプの生徒ではなかった中嶋陽子はある日、突然異界へと連れて行かれます。理由もなく狙われる命。見たこともない生き物、通じない常識。次第に陽子は人間不信へと陥っていきます。
人の好意を素直に信じられなくなったとき、無条件にやさしくしてくれる半獣・楽俊と出会った陽子。けれど、陽子は楽俊すらも信じきることができません。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2012-06-27
楽俊の気持ちが陽子に通じ、友情を育むようになったとき、陽子に信じられない事実が突きつけられます。これまでになかった壮大な異世界ファンタジー小説です。
この作品は、小野不由美の代表作である「十二国記」シリーズの第一作目です。誰かと争うことも、本音を伝えることもできなかった陽子が連れてこられた世界は、これまでとまったく違う世界でした。そこで孤独な少女がもう一度他者を信じるようになる心の成長が物語の魅力です。
陽子は、楽俊によって人を信じる大切さを思い出します。しかし身分の変わってしまった二人は少しずつすれ違ってしまいます。そんな時陽子が口にした「わたしと楽俊の間にはたかだか二歩の距離しかないじゃないか」という言葉。それまでは距離をとっていた陽子が自ら楽俊に歩み寄り、その関係性を信頼していることがわかる言葉です。
これは、今の私たちにも深く考えさせられる言葉なのではないでしょうか。人との繋がりについて改めて考えさせられる、そんな物語です。
前デルフィニア王の血を引きながらも、庶子であるが故に城を追われ命を狙われるウォル。そんなウォルの前に現れたのは、恐ろしく強く、人間離れした身体能力を持つ、目を見張るほど美しい少女・リィでした。
- 著者
- 茅田 砂胡
- 出版日
二人の孤独な戦士の出会いは、必然でした。奇跡のようなその出会いによって、大国デルフィニアの運命は、大きなうねりを伴い動き出すのです。寄りかかるのではなく、支え合う仲間として彼らは共に闘うことを誓います。運命の女神に微笑ませるために……。
茅田砂胡の代表作とも言える『デルフィニア戦記』。どこにでもありそうな異世界冒険物ファンタジーにも思えますが、この作品に出てくるキャラクターたちは、皆個性的で愛おしくなる人たちばかり。
常人とはかけ離れた力を持つがゆえに、本来住むべき世界でも異端児扱いされてしまうリィは、自分の力を目の当たりにしても、態度を変えない稀有な存在ウォルに心を開いていきます。
ウォルも王としての自分ではなく、単なる自由戦士として接してくれるリィを信頼していくのです。二人が力を合わせて、ウォルの育ての父を救出するシーンは、涙なしでは読むことのできない感動的な場面です。人を条件や外聞だけで判断せずに見ることの大切さを感じられます。
今回は、シリアスなラノベ作品をご紹介していきました。気軽に読めるのが魅力のラノベですが、シリアスな作品も読みやすく、面白いものばかり。大人が読むとつい、シリーズ全巻大人買いしてしまいそうになるかもしれません。