豊島ミホおすすめ作品ベスト6!『底辺女子高生』作者の名作を読む

更新:2021.12.14

大学時代に作家デビューした豊島ミホ。切なく澄み切った青春小説と自らの「底辺」な記憶を綴るエッセイが際立っています。 豊島ミホの作品のおすすめを6作ご紹介します。

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女子大生作家としてスタートした豊島ミホ

豊島ミホは1982年、秋田県湯沢市生まれの小説家です。秋田県立横手高等学校を経て早稲田大学第二文学を卒業しています。

大学1年のときに執筆した『青空チェリー』が2002年女による女のためのR―18文学賞読者賞を受賞し、デビューしました。

ペンネームの由来は当時、東京都豊島区に住んでいたため。同時期に第一文学部に芥川賞作家の綿矢りさがいたので、大学名は隠していたそうです。

2008年「小説新潮」上で小説家として休業宣言し、秋田へ帰郷。

2011年7月東日本大震災の復興チャリティで、女による女のためのR―18文学賞がらみの女性作家による同人誌『文芸あねもね』の電子出版に参加して小説を執筆しましたが、それ以外はおもにエッセイやインタビュアーとして活動しています。
 

6位:異性の幼なじみ独特の関係性『夏が僕を抱く』

中学生の菊南は、幼なじみの毬男が不良だから、入学からひとつきで不良になることを決め……「変身少女」

同じ団地に住む1歳上の「らくだ」は学校が同じわけでもないのに、いるかといっしょに仲良くしてくれる幼なじみだったのですが……「らくだとモノレール」

園子は、小学生の頃にお姉ちゃんがキスしていた相手・石川研吾と見合いすることになって……「あさなぎ」

岬は、どんなに彼氏の話をされるとしても、高校までずっと一緒だった有里には部屋に顔を出してほしくて……「遠回りもまだ途中」

ハネは、父の実家がある青森でよく遊んでいた従姉のミーちゃんと、どしゃ降りの雨の日の、渋谷のレコード屋の前で再会して……「夏が僕を抱く」

十和子は、クリーニング屋のおばさんに帰ってきたことを知らされて、護の家へ行き……「ストロベリー・ホープ」

異性の幼なじみをテーマにした6本が収録されています。
 

著者
豊島 ミホ
出版日
2012-07-25

昔から知っていて、ずっといっしょに過ごしてきたけれど、もう家が近所だからという理由だけではそばにいられないことへのためらいや、いっしょにいるのが当然で心地よいけれど、これは恋だろうかとの戸惑いが、豊島ミホによって巧みに描かれていました。

思春期でも大人になっても、無邪気でいられなくなったふたりの距離感がとても胸にしみるのです。

そんな幼なじみがいるひとも、いないひとも、ぜひ切なく感じてほしい豊島ミホの一作です。

5位:憎しみは悪いことじゃない!『大きらいなやつがいる君のためのリベンジマニュアル』

高校時代にいじめにあって、作家になって「キレイゴト」を書いたらそこそこ売れたけれど、直木賞候補にはなれなくてやめてしまったという顛末を描く、豊島ミホの私小説風エッセイです。

いじめや、スクールカーストがはびこる狭い人間関係に息苦しさを感じている若者向けの「リベンジ」を呼びかけています。
 

著者
豊島 ミホ
出版日
2015-05-21

そして、追い詰められて、相手に対して「殺してやりたいほど憎い」という感情が湧くのは自然なことで、その考え方を責める必要はないけれど、相手をほんとうに殺したり自分の身体を傷つけたりしてはいけない、幸せになることこそが「リベンジ」と語ってくれている豊島ミホの1冊です。

今まさにつらい思いをしている人たちに読んでほしいです。つらいときの憎しみへの向き合い方を教えてくれるのではないかなと思えました。

心に傷をもつすべての人に読んでいただきたいです。
 

4位:20代後半女性の等身大エッセイ『やさぐれるには、まだ早い!』

豊島ミホのエッセイと現状報告です。「L25」で連載していたものをまとめたものに、書き下ろしを加えた1冊。

東京、恋愛、選挙、仕事、引越し、犬、思い出、コンプレックスなど、書かれているのはごく普通のありふれたものばかり。ちょっとユーモラスでわがままで、かわいくてナイーブで、20代後半女性とお茶をしながらおしゃべりをしている気分になるかもしれません。
 

著者
豊島ミホ
出版日
2011-12-21

際立った特徴はなく、息抜きにほっとしながら読めるように、豊島ミホ自身が意識して書いている内容なのだとか。先にあとがきを読むとより本の雰囲気がわかるのではないでしょうか。

同世代なら共感もできるでしょうし、これからその年代を迎えるひとは未来に想いを馳せ、通り過ぎてしまったひとは当時の自分と重ね合わせながら読んでみてほしい、豊島ミホの魅力的な1冊です。
 

3位:夢と現実を抱えた10年後・・・『エバーグリーン』

アヤコの夢は漫画家になること。シンの夢はミュージシャン。別々の高校に進学することになり、ふたりは卒業式で「10年後の今日、3月14日、ここ」と夢を叶えて再会する約束をしますが……

肩を並べて田んぼを歩いたり、友達に嘘をついていっしょに帰ろうとしたり、思春期の男の子と女の子の照れくさくも切ないような、きらきらした関係が描かれていて、友達以上恋人未満という関係のふたりがいとおしくなります。

著者
豊島 ミホ
出版日
2009-03-12

でも、夢はいつまでもきらきらしてはいなくて、現実は残酷で、綺麗なハッピーエンドにはなりません。

それでも、ちゃんと救いはあって、結末には良かったねと思えてしまう不思議な透明感のある豊島ミホの作品です。展開や人間関係の描き方が緻密で上手い作家だと思いました。

澄み切った気持ちになれる青春小説です。
 

2位:ここは東北の田舎町。地味な高校生たちの青春を描く 『檸檬のころ』

司法試験に落ち続けている金子商店の孫がひさしぶりに実家に帰ってきて……『金子商店の夏』

同じ高校に行ったのに、中学校時代仲が良かった女の子と距離ができてしまった男の子の恋愛……『ルパンとレモン』

男女交際禁止の高校生が、交際しているらしき下宿生の二人をなんとかしなければならなくなり……『ジュリエット・スター』

音楽にしか興味のなかった女の子の初恋……『ラブソング』

不登校の生徒をもつ担任教師の姿を描く……『担任稼業』

大学進学で離れ離れになってしまうふたりの旅立ち……『雪の降る町、春に散る花』

この6本が収録されています。コンビニもない東北の高校を舞台にした豊島ミホの短編連作です。
 

著者
豊島 ミホ
出版日

ごく普通の高校生たちが登場しますが、あまり美化されておらず、可愛くないところや悪いところもちゃんと描かれています。だからこそ読んでいる側には「ほんとうのこと」のように思えるのかもしれません。

当たり前の青春がなつかしくなる、豊島ミホの1冊。おすすめですよ!
 

1位:「底辺」な生活を綴るエッセイ『底辺女子高生』

普通の生活を送りたいのに空回りして、「底辺」になってしまった豊島ミホ自身の高校生活のことを客観的に綴るエッセイ集です。

女性作家のエッセイというと、楽しげでおしゃれだったり、素敵な交流関係だったりが登場して憧れの象徴のようなものが多いのですが、これは全く違いました。

底辺な生活から脱出するための家出、地味な学祭、保健室登校、スキー教室、スクールカースト、ひとりきりの卒業式などをほろ苦くもさらりと書いてしまっています。
 

著者
豊島 ミホ
出版日

不安だったり、自信がなかったり、誰もが経験する可能性のある感情が描かれていて、この経験があったからこそ、豊島ミホのあの作品たちは生まれたのだと実感することができました。

でも、読めば読むほど「底辺」ではなかったのでは? ほんとうに「底辺」だったらこんなことあけすけに書けないのでは……と、少し考えてしまいました。

それでも充分楽しめるエッセイです。
 

作家休業宣言中の豊島ミホ。小説以外のエッセイも彼女の感性が活かされていて、とても魅力的なので、ぜひ読んでみてくださいね!

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