青春ど真ん中!正直羨ましいぞ!一気読み間違いなしの青春小説【片桐美穂】

更新:2021.12.7

や、やっとこさ舞台に立てる日が近づいてまいりました! うれしい! しかも私の地元、茨城での上演。とても感慨深いです(詳細は私のプロフィールページをご覧ください)。ということで、今月は、今回出演する舞台の原作をちゃっかり! 紹介させていただこうと思います。

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みなさま、青春時代はいかが過ごしましたでしょうか? 恋愛したり、部活や受験で夢にまっしぐらだったり、はたまた「これから!」って方もいらっしゃるかと思います。

私の青春時代は、高校生の頃。それはそれは楽しい学校生活でした。進学校に入学しましたが、早々に大学進学の選択肢がなくなり(お察しください。)、大好きなバレエのレッスンと、大好きな友人がいる学校に行くだけ。という大好き尽くしの毎日。友人とふざけていた記憶しかありません。今写真を見返しても何が面白いのか全く分かりませんが、あの頃は箸が転んでもおかしかったですねぇ。

はぁ~、戻りたい。

「バケツプリンで誕生日を祝ってもらったとき」

ただ、やり残したことと言えば、そう、青春の代名詞「恋」。当時は「恋してぇ〜」が脳みその大半を占めてましたね。口を開けば、「彼氏欲しい」「彼女欲しい」「恋したい」。学校中から聞こえてきました。とりあえず、2日ある文化祭のうち1日は恋人と一緒に回り、友達にヒューヒュー言われて、「ちょ、やめてよー!」とか言って、人混みゾーンではさりげなく手繋ぐ。みたいなっ!

いや、なかったー! 全然そんなんなかったー! まず恋人どこー!

永遠の憧れですね〜。羨ましい。

と、まぁ、書きながら思い返していると、中々空っぽだったな自分。その頃は一生懸命だったんですけどね。

さて、今回ご紹介するのは、その頃に出会っていたら、もう少し中身が詰まった自分でいられたのかなと後悔した、青春物語。初めて読んだときは、「え、高校生ってこんなしっかり物事考えてるの?」と私との差に落ち込みました。

「夜のピクニック」

著者
恩田 陸
出版日
2006-09-07

有名すぎますね。恩田陸さんと言えば、近年では映像化は難しいとされていた「蜜蜂と遠雷」が映画化され話題となりましたね。

この「夜のピクニック」は2002年から掲載が始まり、2004年に刊行されましたが、本当に色褪せませんねぇ!

物語は、24時間かけて80kmの道のりをひたすら歩く「歩行祭」の中で繰り広げられる。主人公の甲田貴子は、高校最後の一大行事であるこの歩行祭で密かな賭けをする。それはクラスメイトの西脇(にしわき とおる)に声を掛けること。2人の中だけで流れる、恋心とも違う感情。3年間思い続けているその気持ちを精算するために……。

長編小説で「24時間」という時間経過はとても短い。だが、こんなにも感情が揺さぶられる「24時間」を経験したことがあっただろうか。感情だけでなく、体の痛みやダメージの描写が細かいため、まるで自分も歩行祭に参加しているような錯覚に陥る瞬間が何度もあった(私が実際に足を痛めていたというのもあるが)。ジワジワと静かに臨場感が迫ってくるのだ。

貴子の心情や目線、融から見た情景が交互に描かれながら進むこの物語は、全部知っている読者からすると、「じれったいぃ」となるのがまた、青春を感じることができてたまらない。

2人とも「こうか?いや、違う。こうなのか?これも違う」ぐるぐるぐるぐる勝手に考えて、勝手に傷ついて、本当にドギマギさせやがって!可愛い奴らめ!と思ったら、とても大人な意見を持っていたりして、言語化されたことで鋭い形となってグサリと胸を突いてくる。

大人になって、しょうがないと目をつぶる事が増えたように思う。時間の経過が早く感じるのはそのせいだからだろうか。葛藤する時間が減り、時間の大切さを感じなくなってきたように思うのだ。24時間という時間は平等であるはずなのに、無駄遣いしている日が何日あるだろうか。考えただけで恐ろしい。

そうやって過ぎ去っていった時間に後悔を感じた、融の言葉がある。

昨日から歩いてきた道の大部分も、これから二度と歩くことのない道、歩くことのないところなのだ。そんなふうにして、これからどれだけ「一生に一度」を繰り返していくのだろう。いったいどれだけ、二度と会うことのない人に会うんだろう。なんだか空恐ろしい感じがした。

言わないでくれ。それだけは言わないでくれ。と正直思った。

「一生に一度」を繰り返していく。私はすでに何回の「一生に一度」を経験し、無駄にしてきたのだろうか。舞台の千秋楽で「この台詞一生言わないんだろうなー」などと思うことはあるが、日常生活で感じる事ができていれば時間や人をもっと大切に出来ただろうに。自分が憎い。

この作品は大人になった私たちへの、飴と鞭のバランスが絶妙で、「永遠の青春小説」と評されるのも納得すぎる。自分が今度の舞台で作品の一員になるということで、高校生になったつもりで読んだりするのだが、やっぱり眩しい。夏の終わりを感じる夜に読んだりなんかしちゃったもんだから、おセンチメンタルになっちゃったわよ。

おセンチメンタルに拍車をかけた大好きなシーンが、夜に突入し始めた海沿いの道を貴子達が歩くシーン。

日はとっくに沈んでいる。しかし、水平線は明るかった。
(中略)
少し視線を上げ下げすれば、漆黒の夜と波が水平線目指して押し寄せているのが分かる。今、あの水平線だけが、昼の最後の牙城なのだ。
(中略)
時々躓いたり、人にぶつかったりしながらも、三人は暫くの間水平線から目を離さなかった。あの不思議な光が消えてしまうのが惜しい。

目の前に水平線が広がっているようで、ぐーっと心が引き付けられた。波の音が聞こえ、光が消えていく時間は永遠のようにも感じられるが、目を逸らすと一瞬で終わってしまう。集団行動である歩行祭から、世界がふわっと広がった瞬間だった。

何回読んでも、飽きないこの作品には、自分たちの心に永遠に残っている「青春」があるからだろうか。彼女達の未来に対しての、恐怖感よりも大きな希望が、私たちの心をカッと熱くしてくれる。「明日も頑張ろう」小さく背中を押してくれるこの作品に、感謝している。

 

「青春」って一言で言い表すことができないくらい、目まぐるしく揺らぎまくってて、正解ばかり求めてしまう世の中に現れた、一つの光にように感じます。この作品のモデルは水戸一高の「歩く会」。今回上演する地も水戸でございます。計り知れないくらいの数の「青春」を見てきたその土地で上演出来ること、ワクワクが止まりません。ちょうどこの季節に読むのがおすすめですので、どうぞ、お手にとってみてくださいまし。

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