昭和という時代を背景にした人間の悲しい運命を描く白川道。ドラマチックな展開で飽きさせない作品ばかりです。白川道の作品のおすすめを6作ご紹介します。
白川道(しらかわ とおる)は1945年に北京で生まれ、戦後に引き揚げてきて神奈川県平塚市で育ちました。一橋大学社会学部を卒業しています。
その後、入社した電機メーカーを3ヶ月で退社。先物取引会社勤務から、旅行会社、書店を企業したものの、どれも失敗しています。
日本橋兜町の投資顧問会社を経て、自ら株式投資顧問会社も起業。株式不正売買事件を起こして有名だった投資ジャーナルにも関わり、インサイダー取引、マネーロンダリングなどの違法行為で逮捕され、実刑判決を受けた経歴もあるそうです。
この服役中に小説の書き方を勉強し、1994年『流星たちの宴』でデビューしました。
2015年4月、自宅で意識を失って病院に搬送されましたが、大動脈瘤破裂のために死去。69歳でした。
18歳の梨田雅之は大学に入学し、その寮で、哲学的思考で麻雀を打つ男・永田と出会い、麻雀にはまっていきます。酒場も女も経験し、勉強はせずに、どんどん本来の大学生の姿からは離れてしまい……。
主人公の梨田に自分を投影した白川道の自伝的小説です。
1960年代当時の大学生が入学してから夏休みを迎えるまでの、酒、女、麻雀といった荒んだリアリティが描かれています。
- 著者
- 白川 道
- 出版日
梨田が麻雀にはまっていくきっかけになり、影響を与え続ける長田が、「本当に怖いのは強いタイプのヤツなんだ。強さというのはどんどん伸びる。今から巧さなんてのを覚えちゃだめだ。巧さは強さを弱めてしまう。行く着くところまで博打の強さを伸ばしてやるんだ。強さの限界がきたら、そこで初めて巧さを覚えればいい」などという哲学的な思考を披露するなど、格好よく描かれていました。
麻雀シーンが多く描かれますが、麻雀のことが分からなくても問題はありません。
白川道の青春小説として充分楽しむことができます。
タイトルの『病葉』は「病気や害虫にむしばまれて変色した葉。特に、夏の青葉にまじって赤や黄に変色している葉」のことで、普通に学問をしていれば進めていたであろうエリートへの道を、自らドロップアウトする主人公に引っ掛けて使用しているようです。
やくざからの引退、男にそれを意識させたのは何だったのか?白川道『終着駅』は、ある男のやくざ稼業からの引退と愛の物語です。
岡部は父と彼女を失い、流れるようにやくざ稼業に入り込みました。父と彼女のどちらも自分のせいで死んだと思いこんだためです。しかし、いつでも死んでいいという気持ちで毎日を過ごす彼はかえって命を長らえていきます。
そんな中、近所で偶然出会った女性、かほるは死んだ彼女にそっくりでした。しかもかほるは盲目だったのです。盲目ではありますが、あるいは盲目だからこそ、心の目で岡部を見つめるかほるを岡部はだんだんと愛おしいと思うようになり、人生の転換を感じます。一緒に過ごす時間が増えるにつれ、岡部は癒しを感じ、かほるもまた亡き父を感じるのでした。
しかし、裏稼業の世界では、組の序列を巡る抗争が激しくなり、岡部が簡単に廃業できる状況でもなくなってきました。一刻も早く廃業したい気持ちが募る一方、世話になった会長にも邪険にできないジレンマに岡部は悩みます。あと数日で会長との約束を迎えるというところで最後の事件が勃発、岡部もまた重傷を負うのです。かほるとの約束を果たすために、岡部が取った行動とは?
- 著者
- 白川 道
- 出版日
- 2007-01-30
裏稼業を空虚な気持ちで続けてきたやくざ者が、人の愛情に触れ、堅気の世界、しかも愛があふれている世界へと少しずつ踏み出していく心境の変化が切ないほど淡々と綴られていきます。それでも引退の最後までやくざとして生きていかねばならない岡部のこだわりとはいったいなんなのでしょうか?
やくざものの世界と愛する人との世界の混ざり具合が、岡部の気持ちをとてもうまく表現していると思います。結末まで気が抜けない本作品をぜひ手にとり、裏世界の気持ちを感じ取ってみてください。
小樽で、漁船の網が引き揚げた女性の変死体には銀製のテッポウユリのペンダントがぶら下がっていました。事件が迷宮入りする一方、東京で、新進気鋭の建築家として注目されている桐生晴之の首にもテッポウユリのペンダントがかかっていて……。
桐生と小樽の死体遺棄事件とはどうかかわるのか、なにが起きたのかが描かれていく白川道の大長編小説です。
冒頭に事件の全容が描かれ、犯人と事件を追う刑事の双方の視点で進んでいく展開なので、謎解き重視のミステリーに慣れていなくても読みやすいかもしれません。
- 著者
- 白川 道
- 出版日
貧困の中で愛する女性を失った主人公が、その恋人と瓜二つの女性と出会ったことからチャンスを掴み、同時にすべてを失う可能性にも晒されていきます。その描かれ方が巧みで、ページを捲る手が止まらなくなってしまいます。
真実が必ずしも幸せではないのではないかと考えてしまうほど、主人公の桐生に思い入れが深くなってしまうかも。ドラマチックな物語を楽しみたい方におすすめの白川道作品です。
バブル期。梨田雅之は、自らを『兜研』に入れた投資顧問会社社長の見崎が仕手戦に出た土壇場で裏切ります。
その後、手にした大金を浪費し、今度は自らの仕手集団『群青』とともに相場の世界に戻り……。
- 著者
- 白川 道
- 出版日
- 1997-07-30
ミステリーではないものの、登場人物も含めてなにもかもが謎として描かれ、どれも一筋縄ではいかないのですが、読んでいくにつれて解き明かされていきます。白川道が投資の世界で生きてきたからなのでしょうか、展開や表現に臨場感と緊張感がみなぎっているのです。
この物語の主人公・梨田は『病葉流れて』の主人公と同一人物で、その後の生きざまが描かれていることになります。『流星たちの宴』のほうが後の時代を描いているのですが、時系列で読むよりも、白川道の『流星たちの宴』の後に『病葉流れて』を読み進めるのがおすすめです。
父親と牧場、最愛の恋人を奪われた柏木圭一は、故郷を離れて東京へ向かいます。それから26年後、実業家として成功した柏木は、すべてを奪っていった江成への復讐をスタートすることに……。
帯に現代版『レ・ミゼラブル』とあるのですが、展開的には『モンテ・クリスト伯』では?と思ってしまいました。
財をなすために犯した罪に追い詰められていく部分もありますので、前者の要素もありますが、「復讐」ものとなるとモチーフは後者かなと、ちょっと首を傾げてしまいます。奪われたものも同じですし、読んでいてすぐに頭に浮かんだのも『モンテ・クリスト伯』=『巌窟王』でした。
- 著者
- 白川 道
- 出版日
復讐と愛憎が絡み合ってすすんでいく展開の中に、栄光、欲望、失墜が見事に描かれています。北海道の風土の過酷なまでの厳しさと寂しさ、そして美しさと東京の欲望と穢れと上っ面の華やかさの対比がそこに色を添えていました。
白川道の筆力とストーリーティングの巧みさに舌を巻く1作。ぜひ、手に取ってみてください。
暴力団に会社の経営を任されている、いわゆる企業舎弟の伊勢商事社長・伊勢孝昭が過去に起こした殺人は迷宮入りしていました。
ですが、孤児院時代の親友が新たな殺人事件を犯したため、過去が引きずり出されてしまい……。
伊勢とこの事件を追う警視庁・佐古警部の双方の視点で描かれる白川道によるハードボイルド小説。
- 著者
- 白川 道
- 出版日
- 1998-03-30
このふたりは、追う者と追われる者というだけでなく、あらゆるものが対比的な存在として描かれています。
不幸な家庭に生まれ育った伊勢と温かな家庭を築いている佐古。それぞれ守るべきものはあるけれど、形が違い、互いの気持ちはわかるけれど、相容れることはできない――その切なさが沁みるのです。
それでいて、捜査が進む中で、伊勢がこの事件の中心であることを確信した佐古が、度重なる不幸とから大切なものを守ろうとする伊勢の真実の姿を知ってしまい、共鳴せざるを得なくもなっていきます。その関係性がこの物語の肝のような気がしました。
男の強さも弱さも描かれた切ない白川道のハードボイルド小説。ぜひとも読んでみてくださいね。
ドラマチックなハードボイルド、ピカレスク小説を描き切った白川道。もう新作が読めないのは残念ですが、残された長編の数々をしっかり堪能していただきたいと思います。