多くの共感を呼び、支持される『明日、私は誰かのカノジョ』の見所を、全巻あらすじとともにご紹介します。主人公はレンタル彼女として働く女子大生。女性の抱える様々な痛みをリアルに描いた等身大の恋愛漫画です。
漫画『明日、私は誰かのカノジョ』がSNSを中心に話題になっています。整形や昨今注目されるジェンダーレスの問題、承認欲求に振り回される姿など現実でも話題となっているキーワードが登場する作品です。
登場する女性たちの抱えている悩みや問題に、リアリティがあるのが本作の大きな特徴。登場人物は特別な能力があるわけではない普通の女性であるため、特に女性読者は共感できる部分が多いのではないでしょうか。
衝撃的なタイトルですが、幾人もの男性と交際している女性が主人公というわけではありません。主人公の雪は、「レンタル彼女」として働いているのです。
「レンタル彼女」とは、派遣型接客サービスの一種で、文字通り恋人を代行するサービスのこと。既定の代金を支払って、好みの女性キャストとデートをすることができます。本作の主人公はレンタル彼女として働く女子大生の雪ですが、章ごとにメインとなる女性が変わるオムニバス形式の物語。様々な女性が登場します。
主人公となる女性ごとに抱える悩みも様々。彼女らの感じる痛みは、読者の気持ちを代弁しているかのように置き換えて読むことができるでしょう。
本作の作者はをのひなお。マンガ配信サービス「サイコミ」で連載されていますが書籍化され、コミックスが発売されています。
この記事では本作のあらすじや登場人物だけでなく全巻の見所を解説、気になるエピソードを網羅していきます。
まずは本作のあらすじをご紹介いたします。
白井雪は18歳の女子大生。長い黒髪が特徴的な、きれいな顔立ちをしています。雪は週1回、レンタル彼女のアルバイトをしていました。その日、雪をレンタルしたのは壮太という社会人になりたての男性。友人に彼女ができたと嘘をついてしまい、引っ込みがつかなくなってしまったことから、レンタル彼女を利用しました。
壮太の友人を織り交ぜたデートでひと悶着、空気が悪くなってしまいます。依頼は終わり、二度と顔を合わせることはないだろうと思っていた雪。しかし、雪はある秘密を隠すための化粧をしていない状態で、偶然壮太と再会してしまいます。
雪はあるコンプレックスを抱えていますが、一見すると普通の女子大生。他者に痛みや弱みを見せることを拒み、普段も誰かの彼女でいるときも、笑顔の中に本音を隠して生きています。雪のように本音を隠し、何でもないような顔で日々を過ごしている女性は大勢いるのでしょう。本作は、そんな普通の女性たちが登場する物語でもあるのです。
- 著者
- をの ひなお
- 出版日
- 2019-12-19
それではどんな女性たちが登場するのか、気になってきたのではないでしょうか。こちらではリアルな悩みを抱える登場人物をご紹介していきます。
まずはメイン主人公である白井雪。黒髪ロングで整った顔立ちの女子大生ですが、実は壮絶な過去の持ち主です。顔に秘密があり、化粧で念入りに隠しています。
雪の唯一の友達がリナ。メンヘラ気質で寂しさのあまり男性との関係が絶えず、パパ活などもしています。
雪と同じくレンタル彼女として働いているのが彩。レンタル彼女の時は「アヤナ」と名乗っており、女性の美醜判定はかなり辛口で、雪の容姿に嫉妬しています。
萌は登場する女性陣の中では、容姿も価値観も普通に近いのではないでしょうか。
周囲に埋没しがちな萌とは対照的に、ゆあ(ゆあてゃ)はオタク気質で少々空気の読めない少女。地雷系という、独特なキャラクターをしています。
物語は各章ごとに女性の視点で進んでいきますが、男性の登場人物もご紹介しておきましょう。まず、辻壮太はある事情から雪をレンタル彼女として雇った新米社会人。飯田は妻子持ちのセレブで、リナのパパ活の相手でもあります。
雄大はリナとナンパで知り合った大学生。小森翼はある決意をもってレンタル彼女を利用します。異なるタイプではあるものの、ひやりとした感覚になってしまうのが、ホストのハルヒと楓。巧みな話術に読者も翻弄されてしまいます。
続いて、作品の見所を解説します。本作の魅力は、登場人物らの悩みや行動にリアリティがあることです。
本作は恋物語ですが、ふわふわとした柔らかく温かい気持ちになるような、幸せな物語が展開されるわけではありません。上辺のきれいな感情だけではなく、心の奥で隠しておきたいようなものも暴き立ててしまいます。あらすじや登場人物紹介を見ても、一筋縄ではいかない雰囲気が伝わったのではないでしょうか。
なぜ幸せな恋物語にならないのか、それは彼女たちが抱える悩みや問題に起因しています。彼女たちの悩みや、現代女性の抱えている悩みそのもの。たとえばリナは承認欲求が強く、誰かとつながっていなければ不安になってしまいます。アヤナは容姿にコンプレックスがあり、整形に多くの時間を費やしてきました。
それだけでなく、心の動きや感想もリアルなところが特徴。たとえば萌が初めてホストクラブに行ったときの、身の置き場のない様子も実体験です。登場するエピソードは取材や実体験が元となっており、実際に誰かが抱いた感情がベースであることからもよりリアリティを感じることができるでしょう。
まったく同じ体験をしたわけではなくても、「なんかわかる」という気持ちにさせてくれるのが、本作の人気の理由。SNSを利用する人が思わず拡散したくなるのも納得です。
ここからは各巻のあらすじと見所を細かくご紹介していきましょう。
雪は週1回、レンタル彼女のアルバイトをして生活費と学費を稼ぐ日々を送っていました。ある日の依頼は、彼女のフリをしてほしいというもの。新社会人の壮太はうぶで人のよさそうな青年で、Wデート中に家族のことを話す姿に大事にされて育ったのだろうと考えてしまいます。
- 著者
- をの ひなお
- 出版日
- 2019-12-19
依頼は終わり、もう二度と会わないだろうと思っていた雪でしたが街中で偶然再会。すっぴんで歩いていたため、隠していた秘密を壮太に見られてしまいます。雪の秘密は、幼少期に母親から虐待されたこと。そして、顔には酷い火傷の痕があるのです。仕事の時は念入りにカバーメイクを施しているため、誰にも見せたことはありませんでした。
壮太を激しく拒絶した雪。しかし、壮太は再び雪に予約を入れて会いに来ました。その後何度も予約を入れてデートに誘ってくる壮太。雪は自分に向けられる好意を強く感じます。壮太がレンタル彼女を利用しているお金は親の援助で成り立っていると指摘した雪は、自分に会うための条件を突きつけるのでした。
一方、雪の大学の友人であるリナは、男性関係で悩みを抱えています。パパ活相手が既婚男性だったと知ってショックを受けたリナは、ナンパしてきた男たちと関係を持ってしまいます。
メインは雪の物語です。虐待による傷を持つ雪と家族に愛されて育った真っすぐな青年、壮太はまさしく対極の環境で育ったと言っても過言ではない存在。雪を救い上げてくれるのではという期待を持つ一方、その純粋さで傷つけないでほしいと願ってしまいます。
程度の差はあっても、雪のように円満な家庭で育っていないことをコンプレックスに思っている方は多いのではないでしょうか。今後彼女のかたくなな心情がどのように変化していくのか、見所となっていきます。
心理的にヒリヒリする内容が続く作品ですが、後半の旅行の場面は和めるシーンも。ビシッと決まらない壮太の残念なところが満載で、辛い展開ながら和ませてくれます。
パパ活の相手である飯田が既婚者だと知り、情緒不安定になってナンパ男たちと関係を持ってしまったリナ。男たちと過ごしても不安が晴れず、より不安定になってしまい飯田の元に戻ってしまいます。一方で連絡を取ったナンパ男の雄大と言い争った結果、セックスなしの関係を築いていくことになるのでした。
ある日、リナに飯田との食事に誘われた雪は、飯田からリナの誕生日プレゼントの相談を持ち掛けられます。連絡先を交換し、プレゼント選びに同行した雪は飯田から関係を持ち掛けられますが、拒んだことで中傷する言葉を投げつけられました。飯田はリナとの関係も一方的に終了させてしまいます。
パパ活がやめられず、自分を卑下する言葉を吐くリナ。雄大はそんなリナの言葉を聞き、寄り添ってくれます。雄大に心を許しかけ、安定していたリナでしたが、ある日大学の友達との飲み会で、自分と雪にパパ活の疑惑がかけられているのに加え、雪が身体を売っていると知りショックを受けます。自分とは違うと信じていた雪の意外な一面に、リナはひどい言葉をぶつけてしまうのでした。
- 著者
- をの ひなお
- 出版日
- 2020-03-19
リナは愛してくれる存在に弱く、すぐに身体の関係を許してしまうメンヘラ気質の女性です。パパ活を辞めたいと思いながらも、優しく甘えさせてくれて必要としてくれる相手におぼれてしまう。だからこそ、一見清廉で穢れたところのない雪に強いあこがれを抱いていたのでしょう。2巻では翻弄されるリナの恋愛模様よりも、雪との友情の行方が見所です。
対照的な男性が登場するというのも、2巻の見所の1つでしょう。雄大とは最悪な出会い方をしていますが、意外と女性に寄り添った言動ができる姿に好感が持てます。対照的なのは飯田。女性を軽視するとある発言には思わずイラっとしてしまうはず。
彩は「アヤナ」として雪と同じレンタル彼女の事務所で働いています。29歳と公言していますが実年齢は35歳。外見に強いこだわりを持っており、美容整形の費用を稼ぐためにレンタル彼女を続けていました。ある日、アヤナは店長からクレームが入っていると注意されます。比較されたアヤナは、若くて美しい雪に憎しみの感情を覚えます。
アヤナはレンタル彼女や年齢のことを内緒にしている彼氏、光晴に結婚をしたいと言われていました。美容整形を希望しているアヤナはあまり乗り気ではありません。そんな時、光晴の友人である前田夫妻の家に招待されます。美意識の高いアヤナにとって、前田夫妻は対極のような存在。苛立ちが募り、つい光晴に暴言を吐いてしまいますが、同時に外見ばかりにこだわるアヤナを心配してくれている光晴との結婚を強く意識するのでした。
一方雪は、可愛い服やメイクに興味を持つ10代男性である翼の依頼を受けます。メイク道具をそろえる手伝いをしてくれた雪を再び指名し、実際にメイクしたところを見てもらおうとした翼でしたが、予定が合わずに断念。代わりにメイクをした状態でアヤナと会うことになるのでした。
- 著者
- をの ひなお
- 出版日
雪やリナと比較すると、アヤナは苛烈という言葉が似合う女性。常に不満と不安を胸の内に抱えており、消化することができません。自分の容姿に不満があるからこそ努力をしており、それゆえに他者を見下してしまいます。一見すると嫌みな女性ですが、アヤナほどで極端はなくても似たような感情を抱くことはあるのではないでしょうか。アヤナの苛烈さを不快に思う時、自分を顧みてヒヤリとしてしまいます。
アヤナは過去に容姿で馬鹿にされ、深く傷つけられました。整形前の顔を見てしまうのは秘密を暴くようで気が引けますが、本人が思っている以上に悪いとは感じないでしょう。
アヤナは整形をし続けてしまう女性の心理を余すことなく投影させたキャラクター。見所はアヤナの執念で、終わりのない追及に胸が苦しくなります。
雪の代わりとしてメイクをした翼に会ったアヤナ。しかし、あまりの似合わなさに強い口調で接してしまいます。泣きだした翼にイラつきながらも、アヤナは泣かせたお詫びにと翼にメイクをしてあげます。完成した姿は別人のようで、大喜びした翼はアヤナに感謝するのでした。
結婚前に美容整形をするための費用を稼ぎたいアヤナは、交際していると勘違いするほどのめりこまれている客、桧山と再び会います。お金がないため別の風俗の面接に行くと嘘を言ったアヤナ。桧山は急いで金を用意し、身体の関係を迫りますがアヤナは拒否しその場を離れるのでした。
桧山と別れた後、自宅に戻ったアヤナの前に光晴が現れます。頻繁に知らない相手から連絡が来るため、浮気を疑っていました。アヤナはレンタル彼女として働いていると告白し、桧山は客で浮気ではないと説明しますが、喧嘩別れになってしまいます。
後日あらためて光晴と会うことになったアヤナ。レンタル彼女のバイトを辞めればやり直すという光晴に、アヤナは過去の写真を突き付けながら隠していたことをすべて告白するのでした。
- 著者
- をの ひなお
- 出版日
アヤナ編完結ですが、いろいろと際どい行動にハラハラさせられます。嫉妬していたわりには雪に優しかったり翼の面倒を見たりと、よき姉貴分というようなアヤナの姿も見られ好感度は上がっていくはず。ブレない生きざまには素直に称賛の言葉を送りたくなります。
新章では、本命の女子がいるのに自分と関係を持っている男に複雑な感情を抱く萌と、ガールズバーで働きながらホストクラブに通っているゆあが登場します。
萌は派手さのない感覚も普通の女の子ですが、ゆあはいわゆる地雷系女。まったく違うタイプの2人の女性が、違った方向からホストクラブにのめり込んでいく姿に、若干のスリルを覚えます。怖いもの見たさで次の展開が待ち遠しい新章です。
本作は、女性が隠しておきたかった様々な悩みや感情が表現されている作品です。読むことで感じる痛みは、キャラクターや読者自身だけでなく、誰かが感じる痛みなのでしょう。レンタル彼女は限られた夢を見せているようで、自分自身を現世から切り離すことができる職業でもあるのです。リアルな痛みをともなう物語が、彼女たちの現実が確かにあるのだと教えてくれます。
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