ストーリーだけでなく、絵や装丁に工夫を凝らした芸術性の高い絵本がたくさん刊行されています。その美しさにうっとりし、本棚にしまうのがもったいなく感じるほど。今回は、アートな感性を刺激してくれるおすすめの絵本を紹介していきます。
20世紀を代表する画家パウル・クレーの絵に、日本を代表する詩人の谷川俊太郎が詩を添えた詩絵本です。40点の絵と14編の詩で構成されています。
クレーは、亡命や難病との闘いなど波乱の人生を送りますが、過酷な状況でも意欲的に創作に取り組み、数多くの名画を後世に残しました。谷川は若いころから彼の作品に感銘を受けていたそうです。
- 著者
- ["パウル・クレー", "谷川 俊太郎"]
- 出版日
- 1995-10-04
表紙に描かれているのは、「黄金の魚」と名付けられた絵。真ん中には深海で光る黄色の魚がいますが、周囲の魚たちは少し距離を置いているように見えます。この絵にインスピレーションを得た谷川の詩がこちらです。
「いのちはいのちをいけにえとして ひかりかがやく しあわせはふしあわせをやしないとして はなひらく どんなよろこびのふかいうみにも ひとつぶのなみだが とけていないということはない」(『クレーの絵本』より引用)
表現主義、超現実主義とされるクレーの絵に、異なる国と時代に生きる谷川の優しい詩が響きます。静謐で奥深く、独特な世界を作りあげるハーモニーを楽しみたい作品です。
絵の授業で、時間内に何も描けなかった少女ワシテ。先生は、そんな彼女に記号を描いてみることを勧めます。
ワシテが苦し紛れに描いたのは、小さな「点」。ところが先生は、その「絵」を額に入れて飾るのです。それを見たワシテは……?
- 著者
- ["ピーター レイノルズ", "Reynolds,Peter H.", "俊太郎, 谷川"]
- 出版日
カナダのイラストレーター、ピーター・レイノルズの作品。谷川俊太郎が翻訳をし、2004年に刊行されました。
大きく心を揺さぶられたワシテは、溢れる想いのままに、さまざまな点を描いていきます。やがて彼女の絵は展覧会で評判を得るまでに。しかしワシテにとっては評価よりも、描くことの喜びを知ったことのほうが嬉しい出来事だったようです。
味わいのある彩りの絵は、水彩用インクと紅茶を使って表現したもの。紙の白地にも映えた見事なものなので、ストーリーとともに楽しめます。
「ペネロペしかけえほん」シリーズは、人気キャラクターのペネロペがくり広げる物語とともに、読者がペネロペのお手伝いをする仕掛けが施された絵本です。
1作目の『ペネロペまきばへいく』では、動物たちがペネロペが歌う声の大きさに驚いて、逃げ出してしまいました。牧場のあちこちに隠れているようなのですが……一緒に探しに行きましょう。
- 著者
- ["アン グットマン", "ゲオルグ ハレンスレーベン", "ひがし かずこ"]
- 出版日
フランスのゲオルグ・ハレンスレーベンとアン・グットマン夫妻によるシリーズ。うっかりやさんのコアラの女の子ペネロペは、日本でも大人気です。
「ペネロペしかけえほん」シリーズの魅力は、キャラクターのかわいらしさはもちろんですが、芸術性も追求しているところでしょう。オレンジ、水色、グリーンなど、濁りの無い色使いは華やかで、筆の跡を残すことで美しい色差を表現するなど細部のこだわりも光ります。
また、引いたり回したりとさまざまな仕掛けを動かしながら読み進めることで、ペネロペを手助けする参加型なのも面白いところ。アートな刺激を受けながら、仕掛けのアイデアも堪能できる絵本です。
一度は目にしたことがある、ピカソの名画12点が紹介された絵本です。
詩のような優しい語りはシンプルながらもユニークなもの。絵の中に描かれた人物に「あっちむいてホイッ」と声を掛けたり、質問や感想を投げかけてみたりして、まるで会話をしているようです。
- 著者
- 昌子, 結城
- 出版日
作者の結城昌子が、美術館巡りの趣味を活かして企画したという作品。シリーズの3作目にあたり、1993年に刊行されました。
「ピカソはキュビズム絵画を代表する画家です」と子どもたちに話しても、その魅力は伝わりません。本書は何よりも子どもの目線に立ち、ひとつひとつの絵を「観察」することを重視しているのが特徴です。
絵に親しみ、興味を抱くだけでなく、こんな楽しみ方もいいなと大人にも思わせてくれる、名画観賞の入門書となっています。
デザイナーの渡邉良重が書いた絵に、タレントの内田也哉子がストーリーを加えた作品。大人向けのロングセラー絵本です。
最大の特徴は、その装丁でしょう。小さな子どもが扱うには不向きともいえる薄い紙が用いられ、曇りガラスのように後ろのページをぼんやりと透かしています。1ページごとに見てもいいし、透かしを活かして2ページごとに読むこともできるのです。
- 著者
- ["内田 也哉子", "渡邉 良重"]
- 出版日
装丁だけでなく、あたたかみを感じるイラストも魅力的。部分的に彩色された線画や、モノクロなのに彩りを感じる絵など、渡邉の世界観に驚きます。
またブローチを探しているはずなのにいつのまにか自分探しをしているように感じていたりと、読者の数だけ受け止め方がある不思議なストーリーにも心惹かれるでしょう。
大きな船の上に屋外プールがあります。飛び込む人がいて、賑やかな笑い声と水しぶきの音が聞こえてきそうです。
船上の様子が広く見えてきました。屋外プールの上のフロアには海の景色を楽しむ人たちがいます。
さらにページをめくってみると、描かれていたのは、客船の写真が掲載された広告。船上で楽しんでいたのは、写真の中に写っていた人々だったのです。
- 著者
- ["イシュトバン バンニャイ", "Banyai,Istvan"]
- 出版日
1995年に刊行され、2005年に復刊した絵本です。ハンガリーのイラストレーターで、アニメーション作家でもあるイシュトバン・バンニャイが手掛けました。
タイトルの『ZOOM』とは、映像を拡大または縮小すること。ひとつのシーンが3つの見開きに描かれ、徐々に広角になっていきます。
まるでカメラが動いているような感覚と、意外な展開に何度でもワクワクできるでしょう。アニメーション作家らしい斬新な発想を楽しめる一冊です。