今回は、医療系小説のおすすめ作品をランキング形式でご紹介。専門用語が難しく、読みづらそう……と思われている方もご安心ください。読みやすい作品ばかりを厳選しましたよ!
人間の体の変わりをも作り出せるほど科学が発達した近未来。その世界では、人の意識を別の器「代体」へと移動させる技術さえも実現していました。代体メーカーに勤める八田は、そんな世界で医療機関に代体を販売する営業担当として働いています。
- 著者
- 山田 宗樹
- 出版日
- 2016-05-28
ある日、八田が担当した患者が代体中の状態で疾走し、その後凄惨な状態で発見されます。患者の意識は行方不明。そしてその事故の裏で蠢く、医療関係者たちの利権や陰謀、悪意。生命倫理を科学と欲望が侵害する世界で、人間の根源を問うSF小説です。
病気にかかったり怪我を負ったりしても代体へと意識を移動させれば問題無く生活ができる、一見とても便利な世界に感じます。ですが、それは表層的な視点を捉えたに過ぎません。作品を読み進めていくとそこには倫理を脅かしかねない人間の欲望があり、私利私欲の為に蠢く国家権力の存在があります。
生命科学への警鐘を鳴らしているエンターテイメントです。生命倫理や、生命科学分野に興味のある方におすすめです。
警防課救急第二係の隊長・真田健志。彼は工藤・木佐貫と共に救急隊として働いていますが、急に「少女を閉じ込めた。早く助けないと死ぬ」という謎の通報が入ります。
3人が駆けつけると、犯人が電話で言っていた通り、監禁された少女は実在していたのです。弱った少女の背中には、トリアージタッグ(黒、赤、黄、緑と災害現場で治療の優先順位をつけるために色分けするためのもの)を模したシールが貼られていました。
なんと、犯人はこのシールを「被害者をどれだけ痛めつけたか」の指標として使っていたのです。非道な犯人を相手に、3人は人々を守るために戦うことを決意します。
- 著者
- 麻見 和史
- 出版日
- 2015-05-26
救急車に乗っている人が主人公のミステリーという珍しい作品です。救急という一般人からはあまり馴染みのない仕事の世界ですが、本作で鍵になっているトリアージタッグからは、救急隊員にとっては一瞬で正確な判断が要求される難しさと人の命と直結した重い責任がしっかりと伝わってきます。
救急現場の問題点と本格ミステリー……社会派のテーマと推理のバランスが良く、ラストにはタイトル「深紅の断片」の意味が繋がるようになっている構成も綺麗です。
医療現場における人間関係や、医療ミス、復讐といった内容を扱う『チーム・バチスタの栄光』。このミステリーがすごい!大賞受賞作品です。
本作は、桐生恭一を中心として結成された、バチスタ手術を専門的に行う「チーム・バチスタ」をめぐる物語です。手掛けた手術は必ず成功するチーム・バチスタですが、3つの手術を立て続けに成功できず、患者が死んでしまいます。それは医療過誤なのか、それとも殺人だったのかという視点で物語は進んでいきます。そして謎の術中死の秘密が明らかになっていきます。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2006-02-04
医療系の小説なのですが専門用語が少ないので読みにくい印象は受けず、ラストに向かうにつれて、ページをめくる手が止まらなくなります。続編も出版されているので、この作品にハマってしまう方も多いかもしれません。
個人的には特に、ラストシーンの緊迫した雰囲気に虜になりました。手術をするシーンの中で繰り広げられる緊張と駆け引きに、手に汗握ること間違いなし。
愛する人を失った人による復讐の要素も含むため、人間の恐ろしさを考えるきっかけにもなることでしょう。患者と医師、遺族と医師という、医療から描く人間ドラマにぜひ魅了されてください。
本作のタイトルにもなっている「デザイナーベイビー」とは、「胎児が生まれてくる前の受精卵に手を加え、両親が望む子供を手に入れる方法」という意味。医療に関する技術が発達していく中で、このような倫理上の問題に鋭く切り込んだ作品です。
- 著者
- 岡井 崇
- 出版日
- 2015-09-08
ある病院から、生まれて間もない女の子の赤ちゃんが誘拐されます。彼女の母親は、研究者としてとても名のある近森博士。そんな中、同じ病院内で妊娠中に脳梗塞を起こした妊婦が、肺塞栓症によって急死します。看護師の薬の投与忘れによる医療過誤であるとして処理されかけますが、看護師による殺人の可能性が出てきます。物語が進むにつれ、赤ちゃんの誘拐事件と妊婦の急死事件の関係が明らかになっていき……。
犯人は誰か、動機はなにか……ということを軸にストーリーが進みますので、ミステリー小説が好きな方にもおすすめできます。
日本医療小説大賞受賞作品『悪医』。いきなり「もう万策つきました。余命三ヶ月です」と宣告された患者と、胸を痛めながらそれを宣告した医師、という二人の関係から現代の医療課題を描き出します。
- 著者
- 久坂部 羊
- 出版日
- 2013-11-07
癌となり、余命宣告された小仲辰郎は最後まで生きる希望を捨てず、あちこちの病院へ足を運びます。一方、余命宣告をした患者の怒りを買った医師森川良生は、患者には残りの人生を有意義に過ごしてほしいという感情を持っています。
医療系作品を患者目線から読むことが多いという方は、現役の医者が著した本作によって、新たな視点から医療系小説を捉えることが可能になるはず。
医師と患者という立場から、「悪い医者」とはなんなのか、クオリティ・オブ・ライフ(人生の質)とはなんなのか、という難題に斬り込む本作。それらの問題を考えるきっかけをあたえてくれる1冊になることでしょう。
精神科医の医者が患者の視点に立って書いた作品『閉鎖病棟』。山本周五郎賞受賞作品です。
閉鎖病棟とは、病棟の出入り口が常に施錠され、患者の自由な出入りが許されない精神科病院の病棟です。家族との面会さえも簡単にすることはできません。そんな孤独な病棟で、必死に明るく過ごそうとする患者たち。そんな中、ある殺人事件が起こり……。
- 著者
- 帚木 蓬生
- 出版日
- 1997-04-25
本作で描かれる人間味ある個性的な患者たちは、それぞれが言葉にならないほど重たい背景を持っています。しかし明日を夢見て歩む姿や、暗い状況でも諦めない姿から多くのことを学べることでしょう。決して明るい作品ではありませんが、読み応えのある傑作です。
財前五郎と里見修二という、対照的な二人の人物を軸とした山崎豊子の超大作『白い巨塔』。本作は、医局制度といった医療界の腐敗、手術に失敗した医師の責任といった医療課題を厳しく突いた作品です。人間関係から裁判まで、ダイナミックなストーリー展開が魅力といえます。
- 著者
- 山崎 豊子
- 出版日
- 2002-11-20
映像化された作品によって、本作の名を知る方も多いことでしょう。しかし詳細な描写や心情変化まで描き出された小説は、映像化作品よりもより深くのめり込めること請け合いです。テーマは重たいですが、話が進むにつれて結末が気になり、テンポよく読むことができるはず。
本作でぜひ、重厚感のある厳格な雰囲気を感じてみてくださいね。
医療を描いた作品は、普段知ることのできない部分も多く描かれており、好奇心を掻き立てられることでしょう。また医療系作品はミステリーの要素が絡むことも多く、ミステリー好きの方にもおすすめできる作品ばかり。医療系小説をきっかけに、医者と患者の関係、医療における道徳といった課題を新たに考え直してみるのもいいかもしれませんね。