「なろう系」小説を原作とする漫画『リビルドワールド』。遺跡で出会った謎の美女・アルファに導かれ、アキラの波瀾万丈なハンター稼業が始まります。高度な文明の痕跡が残るSFな世界観や過酷な世界を生き抜く登場人物たちなど、読めば読むほどハマってしまう本作の魅力をご紹介します。
『リビルドワールド』の原作は投稿サイト「小説家になろう」にて発表された小説。「電撃《新文芸》スタートアップコンテスト」大賞を受賞し、書籍化とコミカライズが決定しました。「このライトノベルがすごい!2020」単行本・ノベルズ部門新作第3位にもランクインし、注目されています。コミカライズは「Comic Walker」や「ニコニコ静画」で連載中です。
舞台は荒廃した世界。過去に存在したという高度な文明の残骸が遺跡となって残っていました。
主人公・アキラはハンターを目指す少年。遺跡で出会った謎の美女・アルファに導かれ、ハンターとして成り上がっていきます。
文明が崩壊したあとに遺された科学技術の痕跡や、荒涼とした大地を跋扈するモンスターなど、綿密に作り上げられた壮大な世界観に引き込まれます。
そして、過酷な世界を生き抜いていくアキラの成長や、彼をサポートするアルファの謎など、ワクワクする要素も盛りだくさんです。
この記事では、登場人物や世界観の解説を交えながら、見どころ満載な本作の魅力を紹介していきます。
まずはあらすじからご紹介します。
アキラが暮らしていたスラム街では、モンスターの侵入や強者による暴力・略奪が日常茶飯事。踏み躙られるばかりの生活を抜け出すため、アキラはハンターとなって金を稼ぎ、成り上がっていくことを決意します。
そんな彼が遺跡で出会ったのは、謎の美女・アルファ。ハンター界隈で「誘う亡霊」として噂される彼女は実体がなく、一部の人間だけに見える存在です。
アルファはアキラをサポートする代わりに、ある遺跡を攻略してほしいと依頼。こうして、アキラとアルファの波乱に満ちたハンター稼業が始まるのです。
- 著者
- ["綾村 切人", "わいっしゅ", "ナフセ", "吟", "吟", "cell"]
- 出版日
アキラのハンターとしての成長や派手なガンアクションも見どころですが、アルファの謎に包まれた正体も気になります。不穏な気配も感じさせる彼女の真の目的とは?読み進めるほど先の展開から目が離せなくなっていくでしょう。
崩れ落ちたビル群や凶暴なモンスター、そして略奪しあう人間たち。荒れ果てた本作の世界観は、映画「マッドマックス」シリーズのような殺伐としてハードボイルドな雰囲気が好きな人におすすめです。
また、遺跡には「旧世界」の高度な技術で作られたものが残されており、オーパーツなどの未知の文明の遺物に惹かれる人も楽しめるでしょう。
科学技術が中心のSFな世界観なので、「なろう系」の他作品に多い剣と魔法のファンタジーに飽きたという人には新鮮に感じられるかも知れません。
続いて、登場人物を紹介していきます。
まずは主人公のアキラ。スラム街の過酷な環境で生きてきたため、他人のことも簡単には信用しません。
字の読み書きができず、身分証明のハンター証に間違った名前が記載されてしまうというエピソードからも、彼が育ってきた環境の劣悪さが窺い知れます。
そんなアキラが遺跡で出会った謎の美女がアルファ。初めて出会った時はなんと全裸の姿でした。彼女の姿は旧世界の技術で生み出された「拡張現実」によるものです。
拡張現実はARとも呼ばれ、現実にもある技術。たとえば、スマホで専用のカメラアプリを使用すると、現実世界に重なるようにキャラクターが画面の中に登場するものがありますよね。これをさらに大規模にした技術で、アルファはまるで現実に存在しているかのようにアキラと会話ができるのです。
アキラはアルファのサポートを受ける代わりに、ある遺跡を攻略するという依頼を引き受けることに。美しく愛嬌もあるアルファですが、アキラが自分の意に反する行動をすると冷たい表情を見せることも。依頼に関しては何か秘密を隠している様子です。
アルファに導かれてアキラはハンターとして成長していきますが、果たしてその行き着く先とは……?年の差もあり余裕ぶった態度のアルファと、彼女に時に振り回されるアキラのコンビに注目です。
アキラはアルファのサポートでハンターとしての腕をメキメキ上げ、さまざまな人と出会っていきます。
ハンター用品を売る「カートリッジフリーク」の店主シズカは、アキラを優しく見守るお姉さん的な存在。店主と客の関係ではありますが、損得抜きでアキラを気にかけてくれている様子があり、殺伐とした世界の中で癒しを感じさせてくれます。
サラとエレナは、ピンチをアキラに救われた腕利きのハンターコンビ。サラはナノマシンによって身体能力を強化している「拡張者」です。体内に保有しているナノマシンの量で胸の大きさが変わるというユニークな特徴があります。
モンスターに追われているところをアキラに助けられたカツラギとダリスは、武器や遺物を売買する商人です。商魂たくましいカツラギは、いつか自分の名前の通貨を発行するのが夢。アキラともよい取引相手になりそうです。
そしてシェリルは、スラム街の徒党に取り入ることで生きてきたアキラと同年代の少女。徒党を壊滅させたアキラと協力関係を結び、新たなボスを務めることに。最初は頼りなさげでしたが、アキラと関わるうちに徐々に変化していきます。可愛らしい見た目の彼女がしたたかに立ち振る舞う姿には、友好関係だけでは生きていけないスラムの過酷さを思い知らされるでしょう。
こうした個性豊かな登場人物たちが物語に彩りを与えています。ぜひお気に入りのキャラクターを探してみてくださいね。
ここからは、本作の独特な世界観を形成する用語などについて解説します。
本作の世界では、かつて高度な科学技術を有した文明がありました。その文明や、それが栄えていた時代を指して「旧世界」と呼びます。旧世界の残骸は荒野に遺跡として存在し、アキラが主に探索しているのは「クズスハラ街遺跡」と呼ばれる場所です。
アルファの姿やアキラへのサポートも、この旧世界の技術を利用して送信されているもの。
他にも、怪我や病気を治療したり、身体能力を強化したりする「ナノマシン」を用いた薬もあります。荒野を闊歩しているモンスターたちも、この旧世界で生み出された兵器や動物が暴走して生まれたものです。
人々は旧世界が遺したさまざまものに、時には助けられ、時には脅かされながら生きています。
アキラが暮らしていたスラム街は「クガマヤマ都市」という大きな都市の一部分です。
この世界では統治企業と呼ばれる組織が都市を運営しています。
都市は巨大な防壁によって大きく二つの区画に分かれており、壁の内側は富裕層が、外側は貧困層が暮らす場所です。
コミックス3巻まででは壁の内側の様子は多くは描かれていませんが、サラの幼少期の回想シーンなどを見ると、スラム街でのアキラの生活と比べて大きな格差があることは容易に予想できるでしょう。
統治企業のなかでも特に強大な5つの組織は五大企業と呼ばれています。クガマヤマ都市で流通しているオーラムという通貨は、この五大企業の1つ「坂下重工」が発行しているものです。
政府ではなく企業が都市を統治しているという状況も、この世界がどれほど荒れているのかを示しているようですね。
ハンターは遺跡に繰り出して、時にはモンスターと戦い、命をかけて旧世界の遺物を追い求める人たちです。
「ハンターオフィス」と呼ばれる組織でハンター証を発行してもらい、手に入れた遺物を買い取ってもらったり、依頼を受注したりします。
ハンターたちの実績や実力を示すのが「ハンターランク」。持ち込んだ遺物や依頼の達成などに応じてランクが上がっていき、高ランクになるほど受けられる仕事や手に入る装備の幅も広がっていくのです。
アキラは最初はランク1からのスタート。じつはランク1〜9は「自称ハンター」の域を出ず、ランク10からが一般的なハンターとして認められます。
何度も遺物を持ち込み、晴れてランク10となった際にはハンターオフィスの受付の男性も感心した様子でした。それだけハンターとして生きていくのが困難な道であることが推察できますね。
「色無しの霧」は、この世界の独特の現象です。
一見ただの霧のように見えますが、濃度が濃くなると通信や電波が通じなくなる上に、生身でも匂いや音などを感じにくくなってしまいます。もちろん霧ですから視界も悪いです。
アルファの索敵能力も格段に落ち、さらには銃火器の威力も下がってしまいます。この霧の中でモンスターに襲われたら、ひとたまりもありません。ハンターたちの間では厄介な現象として常識になっています。
「霧」という名前がついているこの不思議な現象は、水蒸気ではなく旧世界のナノマシンによるものではないかと考えられているようです。しかし、それも憶測の域を出ず、実態は不明。
アキラがハンター業を続けていくうちに、今後その正体が明らかになることはあるのでしょうか?
こうした不思議な現象からも、この世界の謎が感じられて気になります。
本作の大きな見どころの1つが、過酷な環境で逞しく生きていくアキラの成長を感じられる点です。
駆け出しの頃の彼は、アルファに出会えなければモンスターに殺されていたでしょう。しかしアルファと契約し、彼女のサポートや訓練を受けてどんどん強く頼もしくなっていきます。
また、ハンターとしての腕前だけでなく、人間的な情緒が育っている様子も感じられます。他人を信用できず、いつも冷たい表情をしているアキラですが、アルファやサラ、シェリルたちとの関わりで、自信に満ちた笑みや気まずさゆえの苦笑い、照れた時の困惑顔など、さまざまな表情を見せるようになるのです。
物語を通して彼がどんな人間になっていくのか、最後まで彼の成長を見届けたくなることでしょう。
そしてもう1つ、遺跡の描写から感じるワクワク感も本作の魅力。
現代科学では到底及ばないようなナノマシンなどの遺物にもロマンを感じますが、クズスハラ街遺跡では数々の高層ビルが立ち並び、われわれ読者が生きている現実世界の都会の風景にもどこか似ているのです。
未知の技術が見知った風景の中にあり、この作品の世界が「読者が生きている世界と地続きの未来にあるかもしれない」という可能性が浮かび上がってきます。なんだかドキドキしてきますよね。
そして、そんな期待感が湧いてくるからこそ、アルファが一体どんな秘密を隠しているのか一層気になり、物語に目が釘付けになっていってしまうのです。
装備に大金を注ぎ込んで所持金が減ったアキラは、日銭を稼ぐためにハンターオフィスから荒野巡回の依頼を受けることに。コミックス3巻のラストでは、他のハンターたちとともに車に乗って荒野へと繰り出します。
そこにはアキラと同じぐらいの年齢の少年ハンターの姿も。彼の名はカツヤ。ドランカムという徒党に属するハンターです。
同年代の少年ハンターとの出会いは、アキラに何をもたらすのでしょうか?友情を築いてともにハンターとして活躍する姿も見てみたいですが、アキラのこれまでの他人に対するドライな態度を考えると、敵対することも十分あり得そうです。
2人の少年ハンターがどのように関わっていくのか、今後の展開からも目が離せませんね。
- 著者
- ["綾村 切人", "わいっしゅ", "ナフセ", "吟", "吟", "cell"]
- 出版日
本作は原作者・ナフセが小説を、漫画家・綾村切人がコミカライズを執筆しています。キャラクターデザインは原作小説の挿絵を担当する吟によるものです。
『鎌鼬殺人事件』でデビューした綾村切人は、これまでに山田悠介原作の『親指さがし』やテレビアニメ『RED GARDEN』のコミカライズを担当し、高い画力が評価されてきました。
キャラクターデザインと漫画の執筆がそれぞれ別担当になるのは小説のコミカライズではよくあることですが、本作ではさらにPCゲーム『ATRI』『神様のような君へ』などで背景美術を担当したわいっしゅが世界観デザインをおこない、武器やモンスターなど、メカニックなアイテムやキャラクターはイラストレーターのcellがデザインを担当しています。
世界観やメカまで細かくデザインが分担されているのです。それぞれの分野を得意とする多彩なメンバーが製作に関わっていることで、世界観がより重厚なものになり、深みが出ています。
読者を夢中にさせる世界は多くの人の手によって作り上げられているんですね。
- 著者
- ["山田 悠介", "綾村 切人"]
- 出版日
まとめ
作り込まれた世界観や謎に満ちたアルファの目的、そしてアキラがどんなハンターに成長していくのか……一度読むと先の展開が気になる要素ばかりで、ハマってしまうこと間違いなしです。ぜひ目を通してみてください。