泣ける感動小説おすすめ11作品!家族愛から仕事に対する価値観まで

更新:2021.12.14

最近心を揺さぶられる経験をしていないな、という時。小説なら手軽に感動を体験することができます。思わず涙を流してしまうような、感動できる小説を11作品紹介していきます。

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温かく純粋な夫婦愛に泣ける

映画化やドラマ化で大ヒットしているため、タイトルは知っているという人がほとんどなのではないでしょうか。市川拓司による、恋愛ファンタジー小説です。

著者
市川 拓司
出版日
2007-11-06

主人公の巧は、最愛の妻・澪を亡くし一人息子・佑司と静かに暮らしていました。澪は生前に「1年経ったら、雨の季節に又戻ってくるから」という言葉を残していたのですが、言葉通り、1年経ったある日に、突然二人の前に戻ってきます。巧と息子、死んだはずの澪は再び3人で暮らし始めますが、澪は過去の記憶を全て失っていました。

いずれ再びの別離を予感させるような展開に、胸を痛める準備をしながら読み進めてしまいます。しかし二人の夫婦愛はとても純粋で、そんな痛みの予感が消えないほどその気持ちが大切なものとしてあたたかく感じられます。

雨の季節の静謐な空気感の中で交わされる愛に満ちた言葉の数々は、読み終わってからも心に響き続けます。最後に澪から告げられる「きみの隣はいごこちがよかったです」というシンプルなひとこと。こんなことを思える相手に出会えたなら、と思わせてくれる、深い愛を描いた物語です

世相にマッチした題材だからこその感動

電撃文庫小説大賞「メディアワークス文庫賞」を受賞した北川恵海のデビュー作となります。現在サラリーマンとして働いている人はもちろん、これから就職活動を始める世代の方が読むべき作品です。

主人公はいわゆるブラック企業に勤める男性。残業休出当たり前、職場には上司の怒鳴り声がしょっちゅう響き渡ります。着信音さえ恐れるほど追い詰められた状態で、ある日電車のホームからふらりと身を投げ出しかけた時、「ヤマモト」と名乗る笑顔の男が彼の手を引きます。

著者
北川恵海
出版日
2015-02-25

「ヤマモト」と交流する中で仕事へのモチベーションを取り戻していく主人公。しかしある日大きな事件が起こり、またしても人生に絶望してしまいます。働くことと生きることの意味を考えた、主人公が最後に下した決断とは。

ブラック企業という言葉が広く認知され、働き方の見直しを迫られている今の時代だからこそ生まれ、多くの人の心を打った小説だと言えるでしょう。なんのために働くのか。なぜ会社に勤めるのか。考える暇もなくとにかく働いていた主人公が「ヤマモト」と出会ったことできちんと考える機会を得て、自分なりの答えを見つけていきます。

人生を犠牲にしてまで働く必要なんてない。それを最後に思い切って主張するシーンは、その勇気を思って誰もが感動できるはずです。

母親からの愛情、母親への愛情

多方面で活躍するリリー・フランキーが自身の体験を元に書いた小説。子供時代からの、母親との半生がつづられています。

4歳の時に両親が別居した「ボク」は、福岡の小さな炭鉱の町でオカンと一緒に暮らします。高校で一人暮らし、上京して美大に進学。自堕落な日々を過ごすうちに、まともに就職もできず、借金にまみれた生活に。なんとか奮起して働き始め東京都内にオフィスを構えるまでになった頃、オカンが癌に侵されていると知り、東京に呼び寄せて再び一緒に暮らし始めます。

著者
リリー・フランキー
出版日
2010-06-29

母親からの愛情、母親への愛情、そして時々出てくるオトンを含めた家族愛。オカンとオトンの間に、はっきりとは見えないけれど確かに存在する夫婦愛のようなもの。家族の中にある様々な愛が描かれます。

「オカンの人生は十八のボクから見ても、小さく見えてしまう。それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれたからなのだ」。(『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』より引用)

この「ボク」の言葉に、自分のことを差し置いて愛情を注いでくれた親のことを思い出す人も多いのではないでしょうか。実体験に基づいているからこそ親子関係も常に円満というわけではなく、時には少しぞんざいにあつかってしまう場面も。そんなリアリティが終盤の展開により一層の切なさを与えます。読み終われば必ず親孝行がしたくなる作品です。

飼い猫の引き取り手を探す旅。人と動物の絆に泣ける

有川浩の作品で、ここまで恋愛要素が少ないものは珍しいかもしれません。タイトルの通り猫と旅をするお話です。主人公はサトル、飼い猫の名前はナナ。サトルはとある事情でナナを手放さなければならなくなり、引き取り手を探して関わりのあった何人かの人たちのところへ、ナナと共に会いに行きます。

著者
有川 浩
出版日
2012-11-15

飼い猫の引き取り手を探す旅であると同時に、サトルにとっては人生を振り返る旅でもありました。サトルという人物はナナや彼の友人たちからの目線で語られ、くすっと笑ってしまうシーンもたくさんあります。しかし、サトルが抱えていた事情が明らかになった時、ほのぼのとしていた物語は一気に切ない展開に変わります。

なぜわざわざ旅に出てきたのか、サトルが黙っていた秘密を知ったナナはサトルと喧嘩をしてしまいます。しかし長年の相棒だった一人と一匹の絆は強く、ナナはずっとサトルの相棒でいることをやめません。その秘密が重いものであればあるほど、ナナの気持ちの強さが感じられ、心を打たれます。

家族の絆と親から子への思い

親子や家族の複雑な関係性を描くことを得意とする重松清の名作。会社からリストラをくらい、父親は癌で入院中、家庭はほとんど破綻状態。生きる希望を失いかけていた主人公が、ある日タイムスリップのできるワゴン車を運転する謎の親子と出会い、人生の分岐点となった過去の時点を巡っていきます。

著者
重松 清
出版日
2005-02-15

主人公はなんとか家庭が崩壊するのを防ぐ未来を作ろうと奮闘します。しかしタイムスリップした先でなぜか現れるのが、現在の自分と同じ年齢の父親。強権的だったはずの彼は、自分のことを「チュウさんと呼べ」と言って主人公に関わってくるのです。

父親と同年齢という普通ならありえない視点から自分の父との関係を見直すことで、自分と息子の関係性も同時に見直していく主人公。友達のような関係で過去のエピソードを語り合うことで、あんなに取っつきづらいと思っていた父親が、本当は自分のことを思ってくれていたのだと知ることができます。

タイムスリップをしてやり直す機会は何度も与えられるのですが、大きな変化を起こすことはなかなかできません。しかしその主人公の行動は、心の持ちようで未来を変えることはできるのだと思わせてくれます。直視し難い現実はそのままだけれど、問題に立ち向かっていく勇気を手に入れることのできた男の物語です。

男同士の幼馴染の人生と孤独

NEWSの加藤シゲアキ作ということで有名な青春小説。親友同士の男二人の関係性が軸となっています。幼馴染の距離感の変化、互いに抱く思いの変わりように、青春物らしい切なさをひしひしと感じます。

主人公である大貴と、小学生の頃に出会って以来親友だった同い年の真吾。二人は高校生になり、雑誌の読者モデルを機に芸能界へ同時に足を踏み入れます。しかし真吾だけが順調に成功し、大貴との差が明らかになり始めると二人の仲が決裂してしまいます。

著者
加藤 シゲアキ
出版日
2014-02-25

前半ではここまでの経緯がややノスタルジックに語られていきますが、後半は怒涛の展開。同窓会で再開した大貴と真吾は再び意気投合、真吾がスターならではの悩みを抱えていることも明らかになり、物語は思いも寄らぬ方向へ転がっていきます。

隣を歩いていたはずなのに、一体何が違ったのか。嫉妬や見栄、自意識、承認欲求など、人間の醜悪な部分が垣間見えると同時に、孤独、死の誘惑などただの青春物では片付けられないようなテーマも掘り下げられています。

名声は手にしたものの、芸能界の生活に疲弊していく真吾の苦悩。初めは嫉妬と虚しさに憑かれていたが、真吾の抱えていた深い闇に結局は同調していってしまう大貴。アイドルの著作、という色眼鏡無しに手に取っていただきたい、二人の男の青春を力強く書いた作品です。

フツーって何だろう?感動するあたたかい家族の形

鷺沢萌が描く「フツー」とは何かを問うような家族小説です。中編が2つ収録されており、片や父子家庭の親友の家で居候する男性、片や再婚に失敗したキャリアウーマンの女性が、それぞれの「ウェルカム・ホーム」を探していきます。今回は前者のお話をメインにご紹介します。

著者
鷺沢 萠
出版日
2006-08-29

適当に生きてきたツケで路頭に迷い、前職の経験から料理ができる毅と、まじめに生きてきたのに様々なものを失った英弘。二人の親友は家事と育児をそれぞれ担当して同居生活をすることにします。しかしある時、自分が育ててきた親友の息子が家族について書いた作文を読んでから、家事を担当して家にいた自分の「男としての沽券」が気になるようになってしまうのです。

一時は自分の立場に思い悩む毅ですが、悩みながらも彼なりの「普通」の家族のあり方について答えを出します。どちらのお話出てくる家庭も、男女親と子供が揃った「フツー」の家庭ではありませんが、時には遠回りをしながらも、自分たちなりの家族の形や幸せを受け入れていきます。笑いあり涙ありの、個性的で心温まるファミリーストーリー。血の繋がりがなくたって、愛さえあれば家族は成立するのだと思える作品です。

乙一の代名詞的短編集

様々な名義を持ち数多くの作品を世に送り出している乙一による、7作の短編集。表題作は、事故で全身不随となってしまった男性の話です。唯一触覚が残ったため、ピアニストの妻は腕を叩いて「演奏」することで交信を続けようとします。かろうじて動く指先で応えていた男性ですが、そんな毎日を続けることが次第に心苦しくなり始めます。妻を思うがゆえに、彼が下した決断とは……。

著者
乙一
出版日

設定からしてあまりに過酷な現実には、目を背けたくなってしまうほど。絶望の中にある愛は、必ずしも救いになってくれるわけではありません。悲しみと幸せが表裏一体となったような世界観は独特で、短編だとは思えないほど深い余韻が残ります。

表題作以外も「喪失」という共通したテーマを持っており、読み終わってみれば切なさと温かさがないまぜになった、不思議な充実感で胸が満たされます。

立ち直ることでつかめる幸せとスポーツの力に感動する

米国の作家、オグ・マンディーノによる作品。本作は小説なのですが、自己啓発書で有名な彼の著作らしく、生きる上での指標になりそうなフレーズも数多く登場します。

主人公は、若くして大手コンピューター会社の社長にのぼりつめた男性。成功者として故郷を凱旋し、幸せの絶頂というところで、妻子を事故によって亡くしてしまいます。

著者
オグ マンディーノ
出版日

生きる目的を失った主人公でしたが、友人の頼みで、あるリトルリーグの監督を引き受けることに。そこで出会ったのが、ティモシーという少年。野球の成績がよろしくない彼を育てていく中で主人公は立ち直り始めますが、ティモシーにはある秘密がありました。

社会的な成功を一度手中にしたはずの主人公が、改めて生きる目的、幸せについて考えていく物語です。妻子を同時に失うという大きすぎる傷を負った彼は、ティモシーのひたむきさ、常に前を向いている精神に勇気づけられて、徐々に生気を取り戻していきます。ティモシーの口癖は「絶対、絶対、絶対、あきらめるな」。

タイトルの十二番目の天使というのは11人で行う野球のスタメンに入れないティモシーの姿。主人公と共に彼が頑張れたのは、野球というスポーツに魅せられたためでもあるでしょう。スポーツの与える感動の力も実感することができる一冊です。

逆らうことのできない病という現実が泣ける

山本周五郎賞を受賞した、荻原浩による作品です。広告代理店での仕事は順調、妻とは銀婚式を迎え、一人娘は結婚間近と全てがうまく行っていた最中に、突然若年性アルツハイマーという病に侵されてしまう男性が主人公です。

著者
荻原 浩
出版日
2007-11-08

アルツハイマー病は認知症の一種で、記憶障害、人格の変化、被害妄想、幻覚などが症状として現れ、進行すると意思疎通も困難になり最終的には寝たきりになってしまう病です。作品で描かれている中でも特に辛いのが、記憶を失ってしまうこと。日常生活が困難になることに加え、本人だけでなく周囲の人間にとっても、共有する思い出が失われていく悲しみには耐え難いものがあります。

病気を知って初めは自暴自棄になっていた主人公ですが、やがて妻と共に病気に立ち向かっていくことを決意します。仕事で出会った人の名前を忘れてしまったら、手描きの似顔絵と共に膨大なメモを残す。慣れ親しんだ場所への道順を忘れてしまっても、手描きの地図を作る。

最終的には最寄りの駅から自宅までの道順も書き留めておかなければならなくなります。奥さんは少しでも病状の進行を遅らせるためにと料理を工夫し、夫が大事なことを忘れてしまっても全てを受け入れます。もしも自分が同じ境遇になったら、もしも身近な人がそうなったら想像せずにはいられません。そんな努力の積み重ねと登場人物たちの感情の積み重ねに、ラストの主人公夫婦のやり取りの場面では涙が止まらなくなります。

映画化もされた、切なくて泣ける恋愛小説

まず目を引くのはそのタイトル。見慣れない言葉の組み合わせに読者は惹きつけられ、ページをめくります…‥その後は最後まで目を離せない展開。主人公は高校生ですが、若い世代だけでなく幅広い年代の読者層にオススメしたい魅力的な作品です。

著者
住野 よる
出版日
2017-04-27

主人公の高校生の「僕」はある時、ひょんなことがきっかけで、クラスメイトの山内桜良の秘密を知ります。その秘密は彼女が膵臓の病気にかかっており、余命いくばくもないというもの。

「僕」と彼女は正反対の性格で、会話も最初のうちはなかなか噛み合いません。しかし「秘密を知るクラスメイト」として特別な存在となった「僕」は、自然と彼女と過ごす時間が増えていき、少しずつ彼女に惹かれていきます。

内気な「僕」に対し、病を抱えていても明るく、よく笑って過ごす彼女。そんな健気な彼女の姿に、読者もだんだんと心惹かれていくでしょう。しかし運命とは非情なもので、彼女には現実というものが押し迫ってきます。そして迎える衝撃の結末……。多感な時期の揺れる心や柔らかな感性を瑞々しく描いた、切ない恋愛小説です。

感動できる小説を11作品紹介しました。じわじわと心に染み入るような感動、激しく胸を打つ感動など、感動にも様々な種類があるかと思います。泣ける作品、心を揺さぶられる作品をお探しの際には、ぜひ参考にしてみてください。

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