漫画『蒼き鋼のアルペジオ』は人類の脅威「霧の艦隊」に対して、主人公がわずかな戦力で立ち向かう海洋SFアクション。ハイクオリティなアニメや映画、ゲームのコラボで知っている方も多いですが、アニメと原作のストーリーはまったく別物です。 この記事ではそんな『蒼き鋼のアルペジオ』の原作ならではの魅力を紹介!そして原作読者向けの最新情報をネタバレありでわかりやすく解説します。
『蒼き鋼のアルペジオ』は「ヤングキングアワーズ」で2009年から連載されているSF漫画です。「霧」の自我を擬人化&美少女化したキャッチーなメンタルモデルの設定、旧海軍艦艇をモデルとした「霧」のロマン溢れるビジュアル、ド派手な海洋アクションと予想できない物語展開が多くのファンに支持されています。
西暦2039年。突如現れた謎の勢力「霧の艦隊」(以下、「霧」)によって、地球上の約7割を占める海洋が封鎖され、人類はわずかな陸地に分断されました。それから17年後、士官候補生の千早群像は父・翔像によって捕獲された「霧」の潜水艦イ401に乗り込み、圧倒的戦力を保有する「霧」への反抗作戦を開始します。
2013年には3DCGでアニメ化され、映画も製作されるほど人気を博しました。艦艇の擬人化つながりでゲーム『艦隊これくしょん』ともコラボし、話題にもなりました。実のところアニメは放送期間の都合上、話に変更が加えられており、原作とアニメでは展開がまったく違います。
この記事では漫画『蒼き鋼のアルペジオ』の魅力を未読の方、アニメ視聴者向けにわかりやすく解説するとともに、記事後半では最新巻までの見所や現状をネタバレありでわかりやすくまとめていきます。本作は長期連載かつ込み入った設定が多いため、原作読者のおさらいとしてもオススメです。
蒼き鋼のアルペジオ 01 (ヤングキングコミックス)
2010/4/30
『蒼き鋼のアルペジオ』の魅力と言えば、やはりメンタルモデルの設定でしょう。
機械的存在である「霧」の艦艇は本来自我を持ちませんが、一部の「霧」は柔軟な思考を獲得すべく、人間をトレースしたインターフェイスを生み出しました。それがメンタルモデルです。
メンタルモデルの外見には各艦の個性が反映されています。
などなど……見た目だけでなく、性格の方もポンコツやクール、天才肌と多種多様です。
ちなみにタカオはスピンオフが作られるほど人気で、ツンデレかつ主人公にぞっこんなことから「ちょろイン」とも呼ばれています。こうした読者のツボを突く絶妙なキャラ付けも人気の秘密。
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『蒼き鋼のアルペジオ』はキャッチーな美少女も素晴らしいですが、単なる萌え漫画になっていないのは、世界観を支える骨太なSF設定とド派手なアクションのたまものです。
あらすじでも少し触れましたが、「霧」はすべて第2次大戦中の旧海軍艦艇を模倣した軍艦として描かれます。主人公・群像の乗るイ401は当時としては画期的な艦載機を搭載する大型潜水艦伊401ですし、物語の鍵を握る総旗艦ヤマトは日本でもっとも有名な巨大戦艦大和がモチーフ。
物語の舞台が日本中心なことから日本の艦艇が大半ですが、アメリカやイギリス、ドイツ海軍が元ネタの「霧」も出てきます。
見た目は旧式艦ながら、実のところ万能素材ナノマテリアルを用いたオーバーテクノロジーの塊。艦によって装備はまちまちですが、戦艦クラスになると防御不能のビーム兵器「超重力砲」を持ち、あらゆる攻撃を防ぐ「クラインフィールド」を展開可能です。いずれも人類の技術では防ぐことも、突破することも不可能な超絶武装。
ロボットこそ出てきませんが、『宇宙戦艦ヤマト』などに通じるメカアクション、兵器戦が読んでいるととてもワクワクします。
人類に敵対する「霧」。その正体は最新巻でも謎のままですが、「アドミラリティ・コード」なる上位存在が仄めかされています。「アドミラリティ・コード」は1900年代初頭、第1次世界大戦のころから歴史に介入していたとか。一体何者で、人類を海から排除して何を狙っているのか?この辺りのSF展開からも目が離せません。
本作はアクションが魅力とすでにご紹介しましたが、そのアクションが映えるのは、登場キャラによる見事な戦術あってのことです。
たとえばイ401は「霧」の艦艇なので同じ「霧」に対して攻撃が通るのは当然ですが、単独で戦艦などの大型艦や艦隊を撃破できるのは、ひとえに群像の指揮があればこそ。潜水艦の特性を活かした水中の立体機動、デコイ(おとり)に騙し討ちとなんでもござれ。たった1隻の潜水艦で「霧」に挑むのは伊達ではありません。
「霧」側も学習能力の高いメンタルモデルがあることから、戦術を練って群像=イ401に対抗するなど、熱い駆け引きが楽しめます。戦術よりさらに高次元のやりとり、戦略も興味深いもの。大局的な艦隊運用によって、個別の戦闘では優位だったはずのイ401が窮地に陥ることも……。
また戦略の別側面として、政治要素が絡んでくるのも面白い点です。作中の日本は「霧」による制海権奪取の影響で、日本政府が3つに分裂しています。日本政府それぞれの思惑、軍部の暗躍、そして現存する各国家間のパワーバランス。「霧」相手だけではない、人間同士の駆け引きも魅力です。
『蒼き鋼のアルペジオ』の魅力を3つ取り上げてきましたが、ここからは最新20巻に至る各視点の現状をまとめていきます。
『蒼き鋼のアルペジオ』は1人の主人公による直線的な物語ではなく、無数の人々が同時多発的に行動する重層的な物語です。そこには多数の主要人物がいますが、話の起点となる場所によってざっくりと視点を分けられます。
以上4つです。重要なエピソードには巻数を付記してあります。本作を継続して読むファンもおさらいできるように、ネタバレありでご紹介していくので、未読の方は注意してください。
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主人公の千早群像は大戦艦コンゴウとの総力戦の際、瀕死の重傷を負いました(12巻)。意識を改めたコンゴウによって、群像は「霧」の補給基地ハシラジマへ移送され、肉体を再構築されます。
コンゴウらはクローン技術で群像を復活させようとしたものの、容れ物としての肉体はできても、記憶や経験といった魂の複写ができなかったのです。
群像のクローンは「グンゾウ」と呼ばれ、群像とは別の人格を持った少年として急速に成長しました。この状態を見かねたのが、「アドミラリティ・コード」を名乗る謎の少女グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリです。彼女は魔法のような力を使い、ナノマテリアルで群像を完全に再生しました(16巻)。
群像は無事復活したものの、ハシラジマで孤立無援状態にあります。「霧」の勢力圏のど真ん中なので脱出は困難……かと思いきや、グンゾウの手引きで旧式潜水艦があると判明。実はハシラジマには、「霧」の大攻勢で逃げ遅れた民間人が数百人居住しており、この潜水艦は救助に来たまま戻れなくなっていたのです。
志願者を募ってハシラジマ脱出を目指す群像(20巻)。果たして「霧」はどう対応するのか? ハシラジマにはイ401に破れた「霧」(通称「撃沈倶楽部」)が何隻か滞在しているはずなので、おそらくこの先の話に関わってくるでしょう。
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群像と離れ離れになったイ401、そして海軍所属潜水艦「白鯨」は群像が事前に仕込んでいた計画通り新型兵器「振動弾頭」をアメリカに届けるべく、北米航路を進行しています(14巻)。新兵器の振動弾頭を量産可能なアメリカへ「白鯨」が輸送する計画ですが、北米へ到達するには旧総旗艦ナガト率いる東洋方面第2巡航艦隊が大きな障害でした。
「白鯨」はあくまで普通の潜水艦です。イ401は群像不在のまま単艦で囮となり、ナガトに加えて大戦艦ムツ、モガミ型重巡らの猛攻に晒されます(20巻)。
そんなイ401達の窮地を救ったのは、「霧」から離反した巡洋戦艦レパルスでした。レパルスは以前「白鯨」駒城艦長に助けられたことがあり、恩義を返すべく密かに様子を窺っていたのです。人類と「霧」の共存が群像の目指す未来であるため、レパルスと彼女に協力する駆逐艦ヴァンパイアの活躍は、本作におけるターニングポイントの1つになるでしょう。
レパルスはタカオに次ぐちょろインの素質があり、人類(というより駒城艦長)に味方する「霧」として今後要注目です。
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イ401とは別働隊で行動していた重巡タカオは、ゾルダン・スタークが指揮する「霧」の潜水艦U-2501に襲撃され、船体を失います。タカオはコアを総旗艦ヤマト直属のイ402に回収されたあと、ヤマトの意向によって横須賀にある海洋技術学院に入学しました(14巻、ソルティ・ロード)。目的は大戦艦キリシマおよびハルナへの牽制です。
デザインチャイルドの刑部蒔絵に影響されたキリシマ、ハルナは事実上「霧」を離れて独自行動中。彼女達は函館の日本政府と利害が一致したことから、刑部首相の提案で謎に包まれた「第4施設消失事件」調査のため、海洋技術学院に潜り込みました。
ほぼ同じころ、タカオを派遣したヤマトの動きを察知した、「霧」北米方面艦隊の空母レキシントン。彼女はゾルダンに協力を取り付け、メンタルモデルのみでU-2501に同乗し、やはり海洋技術学園へ向かいます(15巻)。
にわかに注目度の上がる海洋技術学院。そこではちょうど数十年振りに学園祭が大々的に開かれ、分裂した日本政府の3人の首相を含む要人が多数出席していました。ヤマトは学園祭に合わせてタカオやキリシマ、そして首相らを封鎖されていた第4施設に招き入れ、2年前に起きた事件の真相が明かします。
長らく作中のキーワードになっていた第4施設消失事件。それは不在の「アドミラリティ・コード」に代わる上位存在を求めたヤマトが、偶発的に起こしてしまった爆発事故でした。彼女は失態を詫びつつ、巻き込まれた全犠牲者の人体修復が完了したことを告げます(19巻)。
ヤマトの告白には「霧」の根幹を揺るがす情報が含まれており、さらなる事態の展開が示唆されています。おそらく海洋技術学院視点の動向が、今後の趨勢を決定付けることでしょう。
最後は群像の父・千早翔像が介入中の欧州大戦です。しかしながらこちらの視点は情報が少なく、翔像がヤマトの姉妹艦ムサシを率いて「緋色の艦隊」を名乗り、内乱状態のヨーロッパを統一しようとしてることが断片的にしか描写されていません。
なぜヨーロッパなのか、何が目的の戦争介入なのかは完全に不明。ゾルダンにU-2501を与えて日本に派遣したのも翔像の意向ですが、真意については当事者たるゾルダンにもはっきしていない様子です。
不明と言えば、「緋色の艦隊」に協力的な大戦艦ビスマルクの意図もわかっていません。「霧」が「アドミラリティ・コード」に与えられた目的は海上封鎖のみなので、陸上に対するムサシとビスマルクの戦争行為は明らかに「霧」の行動規範から逸脱しています。
ムサシとビスマルクには、それぞれ別の思惑があるようですが……?
当初物語は人類VS「霧」の構図かに思われましたが、かなり様相が変わってきました。
「霧」の行動は海上封鎖が主目的であり、副次的に人類に損害を出してしまっただけで、直接的な敵対はしていないという事実。真相を知るのは、沈黙を守る「アドミラリティ・コード」のみです。
そんな「アドミラリティ・コード」を名乗る少女グレーテルが、20巻ラストに「惑星のヴァーディクト」として、海洋技術学院に降臨しました。
ヴァーディクト(Verdict)とは「評決」を意味する言葉です。惑星はこの場合、地球のことでしょう。言葉を字義通り受け取るなら、「アドミラリティ・コード」は単なる「霧」の上位存在ではなく、もっと高次元の神に近い存在なのかもしれません。
不在の「アドミラリティ・コード」の登場は、「霧」のあり方も含めて、人類の行く末を決定付けるに違いないでしょう。グレーテルの群像に対する行動から考えるに、共存する方向のような気がしますが、断言はできません。
1つ気がかりなのは、翔像とムサシの出方です。ナガトやヤマトのような一部の大戦艦、超戦艦クラスは演算能力の高さから、メンタルモデルを2体作りだしています。ところがムサシだけ例外的に、1体しか姿を見せていません。
群像が翔像の行動に疑問を抱いていることも考え合わせると、ムサシを指揮する翔像は本人ではなく、メンタルモデルの擬態である可能性があります。果たしてムサシはグレーテルの意志を汲んで動いているのか……もし違うとすれば、欧州大戦に絡んでもう一波乱起きそうです。
謎また謎がたたみかけてくる『蒼き鋼のアルペジオ』。多数の視点で語られる物語は非常に面白いですが、長期の月間連載でわかりづらい一面があります。エンタメとして優れているので、なんとなくで読み進めても楽しめますが、本当のよさを味わうには何が起きているか理解する必要があります。この記事で作品の魅力を再発見しつつ、最新の現状まとめで物語を読み解く一助になれば幸いです。