今回の記事は警察小説のおすすめ作品です。警察に関する小説はある事件をめぐって様々な人間関係や背景が明らかになっていくので、読みやすいジャンルだと思います。これらの作品から様々な人物の人生を体験してみてください。
「警視庁捜査一課十一係」シリーズの第1作です。
モルタルで固められた変死体が発見されました。翌日、トレミーと名乗る犯人から特捜本部に電話があります。なぜか犯人から気に入られ交渉相手に指名されたのは、新人刑事の如月塔子でした。
ヒントを出して警察を挑発するトレミー。その言葉から過去の未解決誘拐事件との関連が明らかになり、さらに第二の事件が起きます。
だんだんと明かされていく、トレミーの過去。その意図はいったい何なのか……そしてなぜ如月を指名したのか。恐ろしい真実が待っています。
- 著者
- 麻見 和史
- 出版日
- 2013-05-15
非常によく練られた作品です。伏線がバランス良く全体に張られていて、過去の事件との関わりを含め、綺麗にまとめられています。
探偵役がチームであるというのも読みやすさのポイントです。それぞれの得意分野があって、全員で議論を深めていくことによって、読者への説明となりキャラクターの書き分けにも繋がっています。
エンターテイメント性が高い、ドラマ化された話題作。読者に優しいミステリー小説です。
ある岬で記憶喪失の男が発見されるところから物語は始まります。その妹だという女によって、その男が新谷和彦であるということがわかります。一方その頃、新宿では過激派集団によって爆撃事件が発生します。その事件によって妻を失った倉木警部は謎に包まれた、その事件を追うことにします。様々な人物の思惑が錯綜するサスペンス小説です。
- 著者
- 逢坂 剛
- 出版日
- 2014-03-20
この作品は序章『裏切りの日日』、『百舌の叫ぶ夜』、『幻の翼』、『砕かれた鍵』、『よみがえる百舌』、『のすりの巣』、『墓標なき街』と現在7作続いている人気シリーズ作品です。
推理小説とハードボイルドを融合させた作品だと作者自身が話しているように、本格トリックを扱いながらもキャラクターが立った小説となっています。
この作品は物語の最も重要なキャラクター、主人公・倉木の心情が全く小説内で描かれていないことが特徴です。彼の心情は他の登場人物の証言や、彼の行動・言動から想像することができるように書かれています。
そんなフラットに切り取られた人物像ですが、実は倉木はとても人間臭い男なのです。しかしそれをどう感じるかは読み手次第。二次的な要素のみで構成された男に関して、どう捉えるかが人によって違うというのもこの作品の魅力の一つだと思います。
この作品はドラマ化、映画化されたことで知っている人も多いかもしれません。しかし小説だと、そんな描写によって変わる印象を楽しむ読み方ができますし、より複雑な人間関係に推理を巡らせることができます。
南アルプスの峠での親子心中事件で生き残った少年・水沢裕之が16年後、東京で連続殺人犯として再び世間を騒がせます。自らを「マークス」と名乗り、殺人を犯していく水沢。物語は彼と被害者は関係があったのか、という問いが軸に進んでいきます。そのつかみどころのない殺人犯を警視庁の第一課強行犯捜査第7係の合田雄一郎が追います。
- 著者
- 高村 薫
- 出版日
- 2011-07-28
この作品は心中による後遺症で統合失調症になった水沢と彼のもう一つの人格・マークスを通して展開していきます。心理的な病気を扱った作品だけに情景描写が細かいこの小説。家族との問題や仕事の問題などそれぞれに背景を抱えた人物が多く登場するので、物語に厚みが出ています。
また、それぞれのキャラクターも個性が強く、彼らの描写によって物語が彩られていきます。主人公のように重度ではないとしても、心の葛藤や内なる悪の声に悩んだことはだれしもあるはず。細かい心理描写と様々な生き方のパターンがみられる本作には、きっとどこか共感できる部分があるはずです。
警視庁刑事部に「警視庁広域捜査専任特別調査室」通称SROが新設されます。この組織はメンバ−7人のうち、キャリアが5人という変わった構成で、日本版FBIと言われるエリート組織です。
- 著者
- 富樫 倫太郎
- 出版日
- 2009-10-26
彼らが普通の警察では扱えない国際的な事件などを扱いながら成長していく姿を軸に描いた作品です。この花形組織を構成しているエリートたちが実は、それぞれ様々な事情や背景を抱えています。そのため度々このSROは空中分解しそうになりますが、事件を通して一つにまとまっていきます。
エリートが集まりながらもそれぞれに苦悩があり、うまくいかない様子がこの作品の面白いポイントだと思います。エリート集団なのにうまく進まない組織とそれに絡まる彼らの感情が人間らしく、違う境遇でも共感できるもの場面が多々あります。
また、事件を起こしていく犯人の手口も新鮮で大胆なので飽きることなく読めると思います。テンポよく進んでいく作品なので最後までさくさくと読み進めてしまうこと間違いなしです。
警視庁のキャリア官僚である竜崎はある暴力団による殺人事件によって運命が変わっていきます。その事件は10年前の事件と関連があるとされました。その対応の遅さに竜崎は我慢の限界になり、担当捜査本部に詰め寄りますが、相手にされません。
- 著者
- 今野 敏
- 出版日
- 2008-01-29
しかしそれから連続して起こる殺人事件に方針は一点。そしてこの事件に警察官が関わっているのではないかという疑惑が出てきます。そんな状況下で息子・邦彦が薬物を使用していることを竜崎は知ります。
片方ではキャリアとして大変な仕事をこなす一方、片方では父親として生きて行く竜崎の姿が中心に描かれています。警視庁のキャリアを描かれる作品は少ないので、この作品を新鮮に読むことができると思います。
キャリアとしての描写もそうですが、父親として苦悩する様子もリアルに描かれているため、一人の男を多面的に描いたクオリティーの高い作品だと評価されています。一般的な警察官による推理小説ではなく、竜崎という一人の人物にスポットを当てた本作品。彼の事件に対する強い信念や、正義感がひしひしと伝わってくるので、主人公に想いを寄せながら読むことができると思います。
また綺麗な話だけではなく、少しドロドロとした人間関係が描かれているので共感するところも多く、大変楽しめると思います。
殺人事件の時効成立目前。現場の刑事に知られず、巧妙に仕組まれた「第三の時効」とは何かということが軸に進んでいく、一話完結の短編集です。短編集ですがそれぞれの事件のクオリティーが高いのでとても厳格な作品だと思います。
今回は表題作「第三の時効」をご紹介します。15年前に起こったタクシー運転手殺人とその妻のレイプ事件の時効成立目前。レイプされた妻と犯人の子供である娘に犯人が接触してくるだろうという予測のもと捜査が行われます。
その努力も虚しく、第一の時効、第二の時効も過ぎて誰もが諦めかけていました。しかし捜査に助っ人として参加していた別の班の森が「第三の時効」の存在を明らかにして……。
- 著者
- 横山 秀夫
- 出版日
- 2006-03-17
事件の鍵を握るこの話では誰も想像できないような結末が待っています。「第三の時効」を軸に綺麗にストーリーが収束していきます。
他にも、裁判の途中でどんでん返しが起こる「沈黙のアリバイ」、3件の殺人事件をめぐる「囚人のジレンマ」、犯人を取り逃がした裏に隠された真実が暴かれる「密室の抜け穴」、13年前の事件と現在に起こった事件が実はつながっていたという「ペルソナの微笑」、殺人事件と同時に警察内での対立を描いた「モノロームの反転」といった個性豊かな作品が絵描かれています。
すべての短編において、驚きの結末やどんでん返しが待っているので最後まで息をのむ展開が続きます。短編作品ということもあり、テンポよく読んでいくことができると思います。
私がここで紹介した作品は警察に関する小説と言いながらも、王道の推理小説や、アクションを踏まえた作品、キャリアが主人公の作品など様々です。それぞれの小説にそれぞれの良さや色があると思います。
謎解きが好きな方、人間関係を描いたものが好きな方、ハードボイルドが好きな方など、様々な趣味を持った読者がいると思いますが、そのどれも満たすのが警察小説だと思います。最後まで手に汗握る作品ばかりなので、読み終わるまで、飽きずに、テンポよく読めると思います。
ぜひ自分の好みにあった一冊を見つけてみてください。