電子音の高揚感。クラブミュージックとしての「テクノ」を紹介した書籍たち

電子音の高揚感。クラブミュージックとしての「テクノ」を紹介した書籍たち

更新:2021.12.15

1980年代後半から勃興したジャンル“テクノ”。21世紀が目前にせまっていた時代に、未来感あふれるこの単語がダンスシーンに新たな指針を与えた。クラブ、レイヴ、フェスティバル。様々な場所でシンセサイザーによる電子音が盛り込まれたトラックをDJがプレイし、「ラヴ・パレード」では100万人が集まり社会現象になった。 そしてテクノという大きな枠組みから多くのサブジャンルが派生。テクノは日本国内では90年代初頭から輸入され、書籍などによって状況を把握する試みが行われていた。今回はその一部を選書した。

ブックカルテ リンク

日本初のテクノ書物

テクノボン

石野 卓球 野田 努
JICC出版局
出版されたのは1994年、国内初となるテクノに関する書籍。世界的な盛り上がりと連動して国内テクノ・シーンが形成される最中で、その熱気を言語化しようと挑戦した、電気グルーヴの石野卓球と音楽ライターの野田努による対談本だ。

当時は「(クラブ・ミュージックとしての)テクノ」に関する情報が少なったゆえに「(シンセサイザーを取り入れたバンドとしての)テクノ・ポップ」と混同されていた。まずその違いの説明から始まり、クラフトワークからエイフェックスツインに至るまでの歴史の連なりを熱弁。今後が予測できない巨大化するムーヴメントの渦中からザワついたテンションが当時ならでは。

ジャンルが細分化される過程を記録

著者
佐久間 英夫
出版日
1999年までに派生したテクノのサブジャンルを章立てして紹介。個々のサブジャンルを、それぞれの成り立ちとディスクガイドによって解説しており、歴史的な連なりが把握できる一冊。単なるディスクガイドはディスクのみを紹介するためにどうしても断片的になってしまうが、こういった一冊があることでシーンの全体像を把握できる。

当時の論調としては、テクノポップとクラブ・ミュージックとしてのテクノは別のジャンルだということが強調されていたが、この頃から電子音楽及びテクノポップをルーツとして捉えなおす動きが出始めていた。本書も、そのルーツから紐解かれている。

あまりにメジャーだったために多くの書籍で取り上げられなかったビッグビートから、逆にアンダーグラウンドなジャンルなのであまり紹介されないガバ/ハードコア・テクノ、そして当時はまだ勃興したてだったテックハウスまで掲載している。著者の佐久間英夫はテクノ専門のレコード店テクニークを経営し、これまでに『テクノ・ディスク・ガイド』など数冊を上梓。

テクノでは包括しきれずエレクトロニカも

著者
出版日
2000年代初頭に注目されたテクノのサブジャンル“エレクトロニカ”とテクノがクロスオーバーした音源を紹介する一冊。本著ではエレクトロニカを「DJツール的/ミックス・フレンドリーな要素にも、旧来のポップ/ロック的な楽曲構造にも束縛されていない(だが、そのいずれとも柔軟な関係を結んだ)、新しい電子音楽のカタチ」と定義している。

オウテカ、ボーズ・オブ・カナダなど当時先鋭的とされたアーティストを中心に、電子音楽の始祖カールハインツ・シュトックハウゼンから始まりファレル・ウィリアムスのN*E*R*Dまで、個性的な電子音を取り入れたアルバムが並ぶ。クラブ系のみでなく電子音楽系に特化した書き手が多いのも特徴的。

ディスクガイド史に残るであろう掲載量

著者
出版日
掲載されたレコードの総数4000枚。ディスクガイド史に残る網羅性が特徴。

“バイヤーズガイド”とあるようにレコードショップのバイヤーを含めた執筆陣による一冊。ページを開いて驚くのは、情報量を詰め込むための文字の細かさ。膨大な数のレコードがリリースされ、それらをDJが繋ぐことで聴こえ方が変わり、新たな音楽的な価値を産むことがDJカルチャーの醍醐味で、その素材となる膨大なアーカイヴが存在することを紙面で可視化している。

当時のテクノ系のクラブでプレイされたレコードから選りすぐりの盤が記され、なかでも勃興したてのエレクトロニカ・クリックハウスの章があるのが2003年らしい。

テクノにおける闘争の物語

著者
野田 努
出版日
2014-10-09
本書の中核となるアーティストは、デトロイト・テクノの大御所アンダーグラウンド・レジスタンス(UR)。マイノリティである黒人が商業主義(メジャー)との対立を掲げながら“テクノ”という武器を持って戦うという、カウンターカルチャーの側面を強く感じさせる内容。

ディスコ、ハウスを経由してデトロイト・テクノに至る黒人とダンスミュージックの遍歴を綴った一冊。2000年前半に人文系で盛り上がったカルチュラルスタディーズとアフロフューチャリズムがクロスオーバーした視点によって記された、「黒人が社会との接点をダンスミュージックによって模索する」という物語に心酔した読者も多いはず。国内でデトロイト・テクノを崇拝するリスナーが多いのはこの一冊の影響が大きい。

2010年代から振り返ったテクノ

著者
["三田格", "野田努"]
出版日
2012-11-23
“テクノ”を主題に置いて、2012年に著された最新のディスクガイド(2017年1月現在)。テクノのルーツを解き明かすため、電子音楽以前の現代音楽まで遡っている。

ジョン・ケージから、2012年のダブステップやグライムに至る音源を700枚紹介。過去に出版された数々のディスクガイドと比較して、何が残って何が消えたのか。そして何が加えられたのかを再考すると面白い。

ただ、事前にある程度知識がないと読み解けない難解なレビューが多く、この一冊だけではテクノを俯瞰できない。テクノが国内に輸入された熱狂から20年経ち、洗練されたことが音源だけでなく紙面や文面からも伝わる。

この記事が含まれる特集

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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