美術学と聞いて思い出すのは、学生時代の美術の授業風景が一般的なのではないでしょうか。絵画や彫刻、工作などは美術学のひとつで、実際には建築物や工芸品、家具なども美術の分野で取り扱われることがあります。広義には芸術ととらえる場合もあるでしょう。学生時代は座学より実技の授業が圧倒的に多いですが、美術学の知識は学んでみると意外に面白く、魅力的です。本記事では、そんな美術学について学問・学び方・検定などの視点から解説。知識を生かせる就職先についてもご紹介しています。記事の最後には関連書籍も紹介しているので、興味がある方は本もぜひ手にとってみてくださいね。
美術の分野はとても多彩です。代表的なのは彫刻と絵画ですが、ほかにも工芸やイラスト、映像、アニメなどその種類は多岐にわたります。近代ではデジタルアートなどを学ぶ学問も美術のひとつとされています。
一例ですが、武蔵野美術大学のカリキュラムを抜粋しました。
美術学は、「絵画」「彫刻」「工芸」の大きく3つに分類されます。
美術の授業が始まるのは、中学からです。すべての美術分野の作品を実際に制作したり、美術の歴史を学んだりもします。高校になるとさらに3つの分野から選択するケースが増え、大学や専門学校になると、専門的に細分化された分類についての知識や技術を高めます。
美術を学問として専門的に学ぶには、美術大学や芸術大学、専門学校で分野を専攻し学ぶのが一般的です。
最近では、通信教育などで専門分野のデザインアートやグラフィックを学ぶケースもありますす。この場合には、美術における専門分野の技術だけでなく、その分野の歴史や、再現方法のテクニック、理論などを習得できます。
なかには、独学で技術を身につけたり、何かしらの美術の技術を身につけている方に師事して技術を習得するケースもあります。
また、街中の絵画教室や、漫画教室、デジタルアート作成教室などもありますので、趣味の延長として学んでいるケースも少なくありません。この場合には、理論や歴史よりも、技術そのものを習得し、自身の表現力を高めることに特化している環境といえるでしょう。
美術学を学ぶことで、将来就ける職業は非常に幅広いです。美術学をよく知らない人たちのイメージでは学芸員や画家などでしょう。しかしながら、美術学の学問はとても幅広く、分野も細分化されているので、そのぶん就職先も多岐にわたります。
絵画や彫刻を選択していれば、美術の王道でもある油絵を制作する画家や、彫刻かなどでしょうが、最近ではデザインを学ぶことで、グラフィックデザイナーから始まり、日用品のデザインやSNS、LPサイトのデザインなど、仕事の分野は細分化されています。
街中にあふれる看板や広告も、美術を学んだデザイナーが作成しています。
「美術検定」とは、2007年にアートディレクター検定から名称を変更し実施されている試験です。美術検定協会が主催し「成熟した美術鑑賞者」かどうかを見極めるための検定です。
美術検定は4級から1級まであり、4級・3級・2級はどなたでも受験が可能です。
また2021年の検定はオンラインのみと、場所を問わず受験しやすい環境が整えられています。同時に複数の級の受験申し込みも可能です。
また、4級に関しては通年実施。受験費用を支払って30日間は自身のタイミングで試験が可能です。3級以降は期日内に1回のみの受験スタイルです。ただ、受験時間は10時から18時までの間で受けられるので、スケジュールに合わせて受験できます。
全階級マークシート方式です。ただ、1級だけは選択式および記述式を採用しています。
試験時間に対して問題数が多いため、あまり考えながら解く時間は正直ありません。まずは全問回答を目標とし、あまった時間で見直すのがよいでしょう。
4級・3級・2級の合格率は約60%と低くもなく、高くもない数値です。しかし1級に関しては約20%と合格率はぐんとさがります。
参照:出題範囲/参考書
背景美術とは、とくにアニメ制作において登場人物が登場する背景を作画する担当者のことを指します。美術を学んだ方々のなかで、近年では非常に人気の職業です。アニメに登場するアニメキャラを描くアニメーターとは明確に分けられています。
アニメの背景は、その作品の世界観を構築する上で重要な位置を占めます。実際にある風景や屋内、建物など、キャラクターがいる場所を再現するのですが、なかにはファンタジーの世界での背景作画を描くことが求められる場合もあります。
背景には、キャラクターが座る椅子やテーブル、カバンなどの小物も含まれます。キャラクターの寸法と合わせて作画する必要があります。また、時間軸によっても再現方法は異なります。「いつ」「どこで」「どのように」をしっかりと理解して制作しなければなりません。
作品の世界観を再現するため、アニメ監督と何度も打ち合わせをして、作品の方向性や世界観を理解します。
背景を書き上げるには、以前は総じて手書きで作成されていましたが、最近ではデジタル化が進み、ペンタブやパソコンでの作業が主流となりつつあります。編集の素材や安定性はデジタルのほうが自由度が高く、編集スピードもあがります。
デジタル技術は、加筆修正が簡単にできるのがメリットです。また、陰影をつけるなど加工技術が非常に緻密におこなえるので、より写実的に仕上げられます。「エヴァンゲリオン」などはデジタルアートアニメの代表でしょう。
しかし、今でも手書きの背景にこだわって制作されたアニメもあります。有名どころでいうと「もののけ姫」や「スチームボーイ」などは、手書きで描かれています。
手書きは、書き手によって微妙な風合いやタッチが繊細に再現されるため、個性が出ます。デジタルにはない、人の手だからのこその表現を引き出せることもあるのです。手書きで書く場合は、どうしても時間がかかります。映画などの制作で、十分な制作時間が確保できるときに使われる傾向があります。
手書き作品は1枚におよそ4時間程度、デジタル作品は1枚におよそ3時間程度かかるといわれています。1日に描ける枚数には限りがありますが、アニメの制作時間にも限りがあります。
作品を監督の意図通りに仕上げることも重要ですが、同じくらいに作品制作に支障が出ないように作画のペース配分をする必要もあるのです。
ここでは、実際にアニメの背景制作の仕事内容を紹介します。
美術担当者がアニメ監督や制作担当とアニメの世界観や背景のイメージに打ち合わせをします。美術設定、背景の基礎基本を決めていきます。
美術監督はアニメの総監督と打ち合わせした内容をもとに、建物・風景・季節・時間・彩などの決まり事を細かく指定し書き出します。これが「美術ボード」です。アニメの時間胃もよりますが、30分のアニメで10枚前後の美術ボードが作られます。
原画担当者が描いたレイアウトが届きます。レイアウトとは、アニメの1カット全体を書き出したもので、これをもとに背景の原図を描きます。書くときには美術ボードを参考にして、光源(太陽など)の位置を決まるのも重要です。
背景制作は「原図」→「転写・水張」→「地塗り」→「ライティング」→「仕上げ」の工程で進んでいきます。
背景制作の美術担当者は、およそ5~6人ほどである場合が多く、30分アニメでおよそ250~300枚の背景画を手分けして書き上げていきます。
- 著者
- 美術検定実行委員会
- 出版日
本書は、美術検定実行委員会から公式テキストとして出版された美術史の基礎基本を学ぶための書籍です。美術史を習ううえで必読の書籍で、美術史を連続的に捉えられる構です。「見てわかる」「読んでわかる」「ポイントでわかる」と3つの構成から成り立ち、その日の勉強スタイルに合わせて学習を進められます。
時代背景から分析し、生まれた美術作品と絡めあわせて解説されているので、美術作品と美術史を統計的に捉えられます。美術の豆知識も書かれており、美術学を初めて学ぶ方にもおすすめです。
- 著者
- ["代々木アニメーション学院", "ポリゴンピクチュアズ"]
- 出版日
本書は、アニメに関わる仕事にフォーカスされた本です。代々木アニメーション学院が監修し、実際にアニメ制作をしている現場に取材・実際に業務に従事した方へのインタビューも掲載されています。
「アニメ監督」と「背景美術」「音響」にフォーカスした内容です。同シリーズの書籍で「アニメーター」に特化した書籍もありますので、自分の目指すアニメに携わる仕事によって、選んでみるとよいでしょう。
- 著者
- ["ジョンヒョン, ソク", "ジニ, チャン"]
- 出版日
本書は、人間を描くときに、その解剖学から筋肉の動きや関節の動きを考え、表現したときに参考となる書籍です。
人物を描くときに解剖学を学ぶケースもあるようですが、一般的な解剖学の書籍は、基本的に医療従事者が読むことを前提としているので、その仕組みや作用を理解するのが難しいです。一方、本書は、あくまでも美術として再現するために学ぶことを前提としているので、細かい解説が医学用語なしにわかりやすくまとめられています。
わかりやすく豊富な解説と、全編カラーページで表現されています。目から学ぶことができる美術学として、解剖学を学べます。韓国で漫画家として活動する著者が約9年をかけて完成させた1冊です。
美術学は一見、汎用性がない学問に感じるかもしれません。しかし、日常のなかには美術作品が満ち溢れています。それゆえ、将来性も十分で、学ぶ価値はおおいにある学問です。美術学に興味がある方は、ぜひ一度ご紹介した書籍を手に取ってみてくださいね。