私のパラレルな働き方の話【荒井沙織】

更新:2021.2.4

自分が何者か、明確に答えることのできる人は、どのくらいいるものなのだろうか。いかにも哲学的な話に聞こえるが、私が言いたいのは職業においてのことだ。前回の記事に書いた、時代の変化。今回はさらにもう一つ、最近私が実感した、仕事に関する時代の変化について書いていきます。

荒井沙織プロフィール画像
フリーアナウンサー、タレント
荒井沙織
広島県出身。2012年テレビ東京「釣りロマンを求めて」でデビュー。 釣り番組・旅番組・地域情報番組・経済番組でのリポーターやお天気キャスターの他、YouTuberや写真展出展など。 趣味は映画鑑賞、海外ドラマ鑑賞、読書、お散歩、カメラ。競馬を勉強中。
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その1、私は何者?

「荒井さんって何者なんですか?」
社会人になってからというもの、何度この質問を投げかけられてきただろうか。

私は、大学を卒業してからそのまま事務所に所属し、活動をしてきた。学生時代から芸能活動をしていたわけでも、ミスキャンパスだったわけでもなく、アナウンススクールに通った経験も無い、普通の素人。それはまるでコンパスも持たずに、それどころか、浮き輪一つで大海原へ漕ぎ出したようなものだった。経歴欄が実質真っ白な状態の私を所属させてくれた、事務所とマネージャーには感謝してもしきれない。それに、早々に私の起用を決め、デビューさせてくれた番組プロデューサーも恩人だ。

さて、仕事の経験もほとんど無ければ、分かりやすいウリも無い、そもそも自分を売り込んだことなんて無いものだから、デビュー以降のオーディションでは、大分苦戦した思い出がある。その “苦戦した” 記憶の中には必ずと言っていいほど、

「荒井さんって何者なんですか?」
「何の人ですか?」
「何をしている人なんですか?」

と言う質問があり、私はこれがとても苦手だった。自分には一体どんなことが向いていて、何ができるのか、自分自身も分かっていなかったものだから、 “何の人か” と聞かれると困ってしまうのだ。

プロフィールを見ればある程度想像はつくはずで、それはきっと、単に受け応えの様子を見るための質問なのだろう。ただ難しいのは、「色々なお仕事を担当していますが、主にリポーターです。」と答えると「リポーターでいいの?」と聞き返す人が想像以上に多いことだ。きっと「フリーアナウンサーじゃなくていいの?」とか「わかりやすく名乗ってほしい。」ということだろう。でも正直なところ、私が自ら「フリーアナウンサー」と名乗るのは、どうもカサ増しが過ぎる気がするし、リポーターだっていいじゃないか、と思ってしまう。

こんな風に、自分を何か一つに分類して《何者であるか》を示さなければならないような時、自信の無さも手伝って、どうも居心地の悪さを感じてしまうのだった。そして、これまでの9年近くの仕事人生で、できれば一つのジャンルの中でキャリアを形成していくことこそ、他人からみて評価されやすいものなのだなと、実感してきた。

著者
横石 崇
出版日

その2、開き直る。

年数が浅いうちはまだ良かった。説明すれば、活動歴が浅いことは納得してもらえる。だがそんな私も、数年のうちに少しづつ経験を積み、番組出演以外の活動も積極的に取り組むようになった。

まだその言葉が珍しかった頃に、YouTuberとして3年以上もの間、自分で収録・編集した動画を毎日投稿したりもしていた。当時は、始めに【YouTuber】という言葉を説明しなければならないくらいの頃だった。後にオーディションの場で、このワードへの反応が、分かりやすくポジティブに変化していった時期があったのをよく憶えている。それでもまだ、実際にはピンときていないのだろうな、というリアクションが大半だった。

YouTubeからの派生で、Google+というSNSを活用して毎週番組を配信したり、撮った写真をコマーシャルギャラリー主催の写真展に出展するようにもなった。特に写真の活動は、現在も定期的に展示・販売を続けており、私の活動の中で、軸の一つとなっている。

YouTuberをしていた当時から、「色々なジャンルの番組に出演することは評価されるのに、なぜ色々なジャンルの活動をしていると “軸が分かりにくい” “本業はどれなんだ” と冷遇されるのだろう。」と悲しい思いをしてきた。“軸となるものに集中できていない” とみなされたり、番組出演以外の活動をお遊びのように扱われるのは悔しかった。私にとってはどれも懸命に取り組んでいる、本業なのだ。

そして、やはり変わらずあの質問もついて回った。

「あなたは一体何の人?(ただし、リポーターを除く。)」

この質問を投げかけられる度、長らく、分かりやすく一言で伝わらない自分の活動を後ろめたく思っていたところがあった。それが、今思えば30歳を境に、しだいに「理解してくれない人がいても気にしなくていいか。だって私は真剣に色々とやってきたんだもの。」と開き直りの境地に至ったのだった。

きっかけは、ただ年齢を重ねたというだけではない。ギャラリーで自分の写真作品を販売していくうちに学んだことでもある。どんな活動も、それぞれ支持してくれている人たちがいる。だから少しでも後ろめたく思うのは、その人たちにも失礼だということに気づいたのだ。

自分が懸命に取り組み、評価してくれる人がいるのだから、それで世界は完結している。そんな世界をいくつも持っている、なんて幸せなことなのだろう。複数の世界を共有できる人もいれば、一つも分かり合えない人だっているのは当然だと思えるようになった。

その3、時代が変わった!

最近よく見聞きするようになった【パラレル】という言葉。並行や並列という意味だ。複数の事物が同時に進行したり存在することを指して使われる。

近頃は以前に比べて、本業として複数の仕事を生業とする、パラレルキャリア・パラレルワーカーが増えたように思う。そして、それを堂々と主張できる世の中に変わってきた。なぜそう言えるのかというと、私自身が、風向きが変わったと感じているまさにその一人だからだ。

担当しているラジオ番組でも、しばしば副業についての話題を取り上げるのだが、副業を持つ人が増えていることこそ、パラレルワーカーが受容されやすくなった大きな要因ではないだろうか。以前は何となく 、色々なことをしている人は “一つの本業で稼ぐことができない、能力の劣る人” “一つのことを突き詰めていない人” “掴みどころがない人” というような、ネガティブな印象を持たれることも多かった。けれど、副業をする人が増え、珍しくなくなった現在、やっと “色々なことができる人” であると、本当の意味でポジティブに捉えてもらえるようになってきたのだ。

著者
三原菜央
出版日

これからさらに、働き方、ひいては生活のしかたや生き方が多様化していく。コロナ禍におかれた世界は、急速な変化の時代になった。一度進んだ私たちの感覚は、きっと元に戻ることができないはずだ。

著者
山田 英夫
出版日

パラレルなみなさん、やっと時代が巡ってきました!きっと誰にでも、どこか並行している側面があると思う。だってそもそも、人間はパラレルな感情を持って生きているのだ。

だから私はこれからも、【職業: 荒井沙織】を目指して、もっともっとパラレルに、働いて、生きます!

(撮影: 荒井沙織)

『 parallel 』
深くからあらわれて
心を映す。
ただよい 引きよせながら、
道を紡ぐ。

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