アイザック・アシモフおすすめ代表作5選!SF小説、ミステリから科学本まで

更新:2021.12.14

アイザック・アシモフは作家にして、科学者。数多の作品を精力的に生み出し、そのジャンルは多岐にわたります。SF小説家としての名声が高いアメリカ文学界の巨人アシモフの著書を幅広いジャンルからご紹介します。

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創作意欲旺盛な生化学者、アイザック・アシモフのめくるめく世界

アイザック・アシモフはロシア系アメリカ人の作家です。コロンビア大学で生化学を専攻し、のちにボストン大学の医学部で生化学教授を務めた、本物の科学者でもあります。その科学への造詣の深さから生み出される数々のSF作品は、のちのSF界に多大な影響を与えました。

そんなアシモフはアーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインラインとならぶSF御三家と称されています。とくに初期のロボットシリーズで示した「ロボット工学三原則」は有名で、後世のSF作品のロボットという存在を定義づけた他、実際の工学の世界でも応用されることになりました。

SF作家として名声を確立したアシモフですが、その後小説から科学ノンフィクションの世界に活動の軸を移し、科学の啓蒙に努めます。わかりにくい理系の世界をアシモフは軽妙なユーモアで表すことに成功しました。

他にも自伝や聖書の解説書、子供向けの科学ノンフィクション、そして推理小説と多岐にわたるジャンルで活躍をつづけ、旺盛な創作意欲から生み出された作品数は生涯で500冊を超えるというとんでもないものでした。

SFでもあり、ミステリでもあり……「ロボット工学三原則」を堪能せよ

『われはロボット』はアシモフの有名なSF短編集です。『われはロボット』を映画化した『アイ ロボット』という作品が2004年に公開されていますが、画面映えするようにでしょうか、SFアクション的つくりになっているため原作とはかなりの別物です。原作の『われはロボット』はSF作品でありながら、かなり論理的なミステリ作品もふくまれていますので。

まず「ロボット工学三原則」について言及しておかなければなりません。

.「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

.第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

.第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。」
(『われはロボット』より引用)

つまり大雑把に言うと人間を第一に行動せよということです。これだけ厳格にロボットに規定を与えればロボットに不具合など起きないはず……ところが、これらの規定を守っていながら、ロボットが役に立たないという事態が発生する、というのがこの作品のミステリなのです。

 

著者
アイザック・アシモフ
出版日
2004-08-06


『われはロボット』の中の一編「堂々巡り」という作品がそのミステリをよく表現しています。

水星で探索チームとして仕事をするグレゴリイとマイクの二人組に困った事態が発生します。水星での行動には強すぎる太陽光から身を守るためにセレンという物質が必要です。そのセレンを高性能ロボット、スピーディに取りに行かせたのですが、いつまでたっても戻ってきません。調べてみるとセレンの採掘場所付近をスピーディがぐるぐる回っていることが分かります。

実はセレンの採掘場所にはスピーディを爆発させる可能性のあるガスが発生していたのです。高性能なロボットのスピーディにはロボット工学三原則の第三条が強く定義されていました。人間の命令である「セレンを取ってこい」、つまり第二条に従ってセレンの採掘場所に近づこうとすると、自分を守らなければならない第三条が働くため、今度は遠ざかってしまう。これを繰り返していたためスピーディーは帰ってこなかったのです。

スピーディにかかっているこの行動パターンをどうにか崩してセレンを手に入れないと二人とも死んでしまいます。そこでグレゴリイがとった行動とは、自分を危険にさらし、ロボット工学三原則の第一条をつかってスピーディの堂々巡りを破ろうというもの。さて、この一か八かの行動は実を結ぶのでしょうか?

銀河帝国、その壮大な滅びの物語

『ファウンデーション』はアシモフの代表的SF作品です。日本ではハヤカワ文庫として7冊が出版され、「ファウンデーション」シリーズとして親しまれています。さらにアシモフの死後も『新 銀河帝国興亡史』とされる3部作が別の作家の手で公式に作成されている息の長い作品なのです。

『ファウンデーション』のサブタイトルが『銀河帝国興亡史』であることからもわかるように、この物語は壮大な銀河帝国が滅びゆくさまを書いた小説です。なぜ多くの小説のように銀河統一の話ではなく帝国の滅びから話が始まるのでしょうか。エドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』という1700年代にベストセラーとなった歴史書がありますが、アシモフはこの本から「ファウンデーション」シリーズの発想を得たといいます。偉大なローマ帝国の滅びゆく姿を、今度はSFの世界に投影させた小説が『ファウンデーション』なのです。

 

著者
アイザック・アシモフ
出版日


長い物語の発端は銀河帝国の滅びを天才数学者ハリ・セルダンが予言したことから始まります。1万2000年の長きにわたり、銀河を統一してきた帝国の滅亡は人類に長い混迷の時代をもたらすことを彼は悟っていました。この暗い時代はセルダンによれば3万年続くと予想されます。

これを1000年に縮めるためハリ・セルダンがたてた計画がありました。彼は銀河百科事典を作るという名目で「ファウンデーション」という集団を組織します。この集団に科学技術を結集し、人類の英知を保存しようという計画です。さらには第二銀河帝国の発祥の核となるべくことも見越して……。

ところがこの集団は銀河帝国の滅びを公言しているという罪で辺境の地ターミナスに送られてしまいます。頓挫しかけたようにみえた「ファウンデーション」計画ですが、それすらもセルダンの目論見の一つでした。

このシリーズで何より魅力的なのはこのセルダンの鮮やかな予測です。「ファウンデーション」が危うい!となったとき、たいていこれらの危機はセルダンの予測の範囲内なのです。彼がこの予測に用いているのは心理歴史学という学問。個々の人間の行動予測は難しいですが、それが膨大な量(銀河規模にまで)になると、理論的にどういう行動をおこすのか予想が可能というもの。

シリーズの冒頭でこの物語の主役といえるハリ・セルダンは死んでしまうのですが、その後も彼の予測どおりに物事は運び、やがて「ファウンデーション」は第二銀河帝国の基礎となっていくのです。

読者はアシモフの、そしてセルダンの掌の上でもてあそばれているような感覚に陥ります。いったい今回の危機はどのように回避されるのか…。読者をミスリードしてくるストーリー展開や伏線の数々は上質な推理小説を読んでいるようにも感じられます。長年愛される鮮やかなSFヒストリーをお楽しみください。

安楽椅子探偵ものの白眉!スマートな推理合戦を楽しもう

『黒後家蜘蛛の会』は短編連作の推理小説シリーズ。事件現場に出向くことなく事件を解決する安楽椅子探偵ものとして有名な作品です。

タイトルの「黒後家蜘蛛の会」とはニューヨークのミラノ・レストランで開かれる月一回の例会のことです。メンバーは数学者、化学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の6人の男性(黒後家蜘蛛の会は女人禁制)、持ち回りでホストを決め、ホストは一人のゲストをこの食事会に招くのです。

ゲストの話の中にメンバーは謎を発見し、喧々諤々議論を交わして推理ゲームを楽しみます。メンバーはそれぞれの分野の専門家、自分の知識を総動員して推理をしますが、いつも最後に謎を解くのは会の話を後ろで聞いている給仕係のヘンリー、というのがこの話のお決まりのパターンです。

 

著者
アイザック・アシモフ
出版日
1976-12-24


この本、推理小説とは言っても殺人事件の犯人を当てるとか、密室殺人の謎を解くとかそういう血なまぐさい話はあまり登場しません。盗難事件や遺産がらみの暗号解読の話などはまだしも、場合によっては時たま聞こえる謎の金属音の正体とか、シャーロックホームズに登場するライバルキャラ、モリアーティ教授の論文の内容といった、ささいな日常のミステリに終始する場合もあります。

その中に出てくる教養の数々!SF、文学、化学、歴史……アシモフの膨大な知識が溢れ出すのが『黒後家蜘蛛の会』なのです。

たとえば2巻に収録されている「十三日金曜日」は曜日と日付の関係を数学の知識(整数論)と暦の歴史を使って考え抜くという、すごくマニアックな内容です。数学嫌いの人は頭が痛くなるような内容ですが、逆に好きな人にとってはたまらないでしょう。

これから読む人は苦手な分野の話は飛ばしてもいいと思います。そのかわり、好きなカテゴリの話が出てきたら、存分に食いついていただきたいです。

ちなみにこの「黒後家蜘蛛の会」シリーズ、日本語では5巻まで翻訳されていますが、原書では6巻が存在します。

アイザック・アシモフ流オモシロ理系ノンフィクション

『空想自然科学入門』、これはアシモフの科学エッセイです。恐るべきはさほど厚いとは言えないこの一冊の中に生物学、化学、物理学、天文学の4つの分野を凝縮していること。本の冒頭でアシモフは言います。

「一八〇〇年までの科学といえば、まるで果樹園のようなものだった。それは、よく耕され、手入れされ、整理されて、香高く、枝もたわわに身をつけていた。…(中略)…しかし、一八〇〇年頃になると、人々があまりせっせと木を植え、手入れし、耕したために、散歩している人たちは、果樹園の一部が暗く生いしげり、薄気味悪くなってきたことに気づいた。…(中略)…やがて、果樹園が広すぎることに気づいて愕然と知る時が来た。もう隅から隅まで通り抜けることはできなかった。」
(『空想自然科学入門』より引用)

そう、最近の科学事情は複雑すぎるのです。そこでアシモフは果樹園(科学の世界)を気球に乗ったように、上から大雑把にとらえようとします。

「というわけで、あまりまとまりのないこの随筆集ができた。これらは、高いところから眺めながら、科学の果樹園をところどころ覗き見したものである。この文集を出版した理由は、ただ一つ、私に見えるものを、あなた方にも見てほしいと、心から思うからである。」
(『空想自然科学入門』より引用)

 

著者
アイザック・アシモフ
出版日


アシモフがとらえた科学の世界はいろいろな分野、発想に飛び火します。イルカの話がギリシャの哲人の話につながり、そして人間の聴力の話につながっていきます。境目のない自由な科学エッセイ、読めば理科を学びなおしてみたくなるかもしれません。

科学に興味があるけれど、何を読んだらいいかわからないという人におすすめしたい科学全般の入門書といえます。

アイザック・アシモフ版ドラえもん?ちょっと趣向を変えた気軽に読める連作

アシモフの作品はすこし知的で、頭の体操になるような物が多いですが、最後にちょっと毛色の違う連作集をご紹介します。それが『小悪魔アザゼル18の物語』です。

これはジョージという主人公が、小悪魔アザゼルを呼び出し、その不思議な力でもって人々の望みをかなえようとするファンタジー短編連作。とはいっても、ジョージが聞き手の私(アイザック・アシモフ自身)に、アザゼルを呼び出したのだと言い張っているだけで、本当にアザゼルが存在するかどうかの真偽は不明です。

ジョージは知り合いに悩み事を相談されると、アザゼルの力を使って彼らの悩み事を解決してやろうとするのですが、なぜか予想外の結果がもたらされ、人々は幸せになれない……というのがこのお話のパターン。さながら、秘密道具の力に頼ったはいいけれどいつも失敗してしまうのび太君のようなものでしょうか。『小悪魔アザゼル18の物語』はアシモフ版ドラえもんといってもいいと思います。

 

著者
アイザック アシモフ
出版日


さて、この本ではSFやミステリーの分野で見せた、論理的な文章とは違うウィットにとんだ表現がここかしこに見受けられ、アシモフ自身が肩の力を抜き、楽しんで書いているなあというのがよくわかります。

「作品はすべてユーモアと皮肉を込めて書かれていることをお忘れなく。なんだかどの話も妙に大げさでちっとも”アシモフらしくない”と思われたとしたら、それは意図的なものである。そのあたり、どうかご承知おきを。」
(『小悪魔アザゼル18の物語』より引用)

と冒頭で断っている通り。

例えばバスケットボール選手だったリンダーがアザゼルの力によって失敗を演じた後の描写です。バスケットの道をあきらめた彼は勉学に励むのですが、

「その後リンダーは堕ちるところまで堕ちて、ついには物理学で博士号の烙印を捺されるんですが」
「まともな運動選手だった頃の彼を知る友人たちはみな驚きを隠せない様子でね。今にノーベル賞をとるんじゃないかと、大きな声じゃいえないもんだから、ひそひそ陰で噂し合ってます。」
(『小悪魔アザゼル18の物語』より引用)

普通は物理学者になって大成功、というシーンをまるで犯罪者にでも堕ちたかのように皮肉っぽく書く、このお遊びっぷりがたまりません。

アイザック・アシモフの著書は膨大にして、多くのジャンルに渡ります。知識欲のある読書家には必ずお気に入りの一冊が見つかるはず。詳細な科学知識に裏付けされたSF、雑学要素たっぷりのミステリー、洒脱な科学エッセイ、そしてファンタジー。数十年前の本ながら、現在でもわくわくする発想の数々には脱帽させられること請け合いです。

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