賢く泣こう!涙活のすすめ【荒井沙織】

更新:2021.11.30

あなたが最後に涙を流したのは、いつですか? 目にゴミが入っただとか花粉症の症状なんかじゃなく、感情とともに溢れ出すような涙を。今回は、泣き虫で感動屋の私が、みなさんに涙活をおすすめします。

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だって、涙は出ちゃうんだもん。

幼児の頃はさておき、ある程度成長して以降も、私はなかなかの泣き虫だ。悲しい辛い悔しい思いをした時だけでなく、本を読んでも、映画を観ても、ドラマを観ても、存分に感情移入するし、何かと心を震わせてしまうタイプなのだ。

卒業式は、最も涙腺を刺激されるイベントの一つだ。

中学校を卒業する時は、ひな壇で歌い始めると序盤から泣けてきて、それが周囲に影響し、泣き出す子が続出してしまった。式の後にクラスメイトから、「泣くの早すぎー!」といじられた記憶がある。

高校の卒業式では、クラスの代表として壇上で卒業証書を受け取る役割だった。ステージの階段を登り、担任の先生の顔を見た瞬間から涙が止まらなくなって、それから退場するまでの間、ポロポロと涙が出続けていた。客席の間を通る時、保護者席から「あら〜、あの子泣いてる。」というような声が聞こえてきて、ちょっと恥ずかしかったのを憶えている。

思えば小学生時代は、在校生の立場でもウルウルきていたくらいだから、私はよほど「卒業シーン」に弱いのだろう。

大人こそ、泣くべき理由。

大人になってからも、むしろ、大人だからこそ、もっと泣くべきだと思う。

こう言うと抵抗のある人もいるだろうが、何もピイピイと日常的に泣き喚けと言っているわけではない。《デトックスのために涙を流すこと》を薦めたいのだ。

泣くことで副交感神経が刺激され、その結果、 “睡眠をとるのと同等に、心身の緊張をほぐす” と言われているのだから、セルフメンテナンスの一つとして取り入れる価値はあるだろう。そういえば、近頃は【涙活】という言葉も、大分一般化してきたように思う。

1ヶ月に2〜3分でも、能動的に涙を流すことで、心のデトックスを図る【涙活】。医学的にもストレス解消効果が証明されているとのことで、関連したサービス・商品も増えている。こちらは、提唱者による公式ガイドブックだ。

著者
["寺井 広樹", "杉江 松恋", "吉田 尚記", "米光 一成", "佐藤 文香", "石原 壮一郎", "清水 智樹", "泣石家芭蕉", "横山 亮子", "松浦 達也", "清田 隆之", "オグマナオト"]
出版日

大人になればなるほど、自分の感情を表に出す機会が減ってきてはいないだろうか。もちろん社会生活を送る上で、自ら感情をコントロールすることは必要だ。でも、人間はAIのように記憶をリセットできない。行き場のない感情を押し込めたままにしていると、知らず知らずのうちに、心身に不調をきたす元凶となりかねない。

だから、一見すると鋼の心を持っていそうなタイプの人や、自分を強く保ちながら頑張っているような人こそ、時には涙を流して、心を開放するべきなのだ。

涙は効果的に流すべし。

映画やドラマで、登場人物のキャラクターを説明する一つの要素として《泣くことができない・泣くことが苦手》という特徴を描いているものがある。

例えば、映画「ホリデイ」で、キャメロン・ディアス演じるアマンダや、ドラマ「グレイス&フランキー」に登場する主人公の娘、ブリアナがそうだ。この二人は、キャリアウーマンタイプの女性キャラクターで、普段は強さが目立つ性格だ。

共通しているのは、二人とも心のどこかでは泣きたいと思っているところだ。アマンダは度々泣くことを試みてはいるものの、過去の悲しい出来事が尾をひいていることもあり、どうしても涙が出てこない。ブリアナは、年に一度、一人きりで “犬との別れ” を描く映画を観て(これが、彼女が唯一泣くことのできる方法らしい)、涙を流す日をつくっている。

著者
寺井 広樹
出版日

この二人から学べるのは、《涙を流すこと》を、自分にとっての効果的なリフレッシュ方法や、感情を解放することの目安として捉えている点だ。少々ドライにも思えるが、これは私のように涙腺が緩めの人間にも参考になる考え方だ。仮に辛い涙を流したとしても、泣き疲れた頃には心のどこかで、「経緯はさておき、デトックスにはなった。」と思うことができる。

この記事を読みながら、「自分が泣くことに、どうしても違和感があるなぁ。」と感じている人がいるかもしれない。それならまずは、《心を動かす》だけでも良いと思う。好きなアーティストのライブにワクワクする、名作映画を観て感動する、小説を読んで感情移入する、懐かしい写真を見返して郷愁を感じる。一週間のうちのどこかに、ほんの一時でも、心を動かす時間を取り入れてみてはどうだろうか。それがきっと、賢い涙活への一歩になるはずだ。

著者
住野 よる
出版日
2017-04-27
(撮影: 荒井沙織)

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