鬼才・舞城王太郎が原案を務めるグルメ漫画『月夜のグルメ』。漫画を担当する奥西チエの温かい鉛筆画が奏でる夢のような深夜の食の冒険はとても奥深く魅力的です。もうすぐ3巻も発売される『月夜のグルメ』の既刊コミックを中心に、主人公・朔良も堪能する「月夜のグルメ」の世界を紹介します。
世にグルメ漫画は数多く存在しますが、『月夜のグルメ』はこれまでのグルメ漫画とはひと味もふた味も違った味わいの作品です。深夜、1冊の手帖を頼りに、新しい食の世界へと足を踏み入れる女性・朔良(さくら)。父から娘へと伝わる美味しいお酒と料理の数々が登場。父の面影に近づくにつれ、大人への階段を一歩一歩ゆっくりと歩んでいく朔良の成長も描いています。
『孤独のグルメ』も掲載されていた「週刊SPA!」にて連載中の本作。原案は『阿修羅ガール』『好き好き大好き超愛してる。』『NECK』など独特な世界観で読者を魅了する舞城王太郎。これまでの舞城作品とは異なる新境地を披露しています。
漫画を担当するのは、新鋭・奥西チエ。前作『玉子の毎週BBQ!』でもグルメの世界を描き、その高い画力が好評だった奥西。今回はなんと全編鉛筆画に挑戦しています。圧巻の画力で描く料理に食欲をそそられ、ついついお腹が空いてしまうことも。
繊細なタッチで描く奥西の世界と舞城の原案との融合により、これまで見たことのないグルメ漫画となりました。毎回、「第〇夜」との表題へのこだわりも。深夜に訪れる店の数々が、朔良を優しく温かく迎えてくれるように、ほっと心が和み潤う珠玉の作品です。
この記事では、そんな『月夜のグルメ』の魅力を探りながら各巻を紹介。美味しいお酒や料理、素敵な町やお店を知りたい人にぜひおすすめです。
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型破りな作風で知られる舞城王太郎の魅力は、独特のリズムにスピード感。口語体を主体とした言葉遊び。予測不可能な展開。そして、まるで迷路のように入り組んだ構造です。 クセの強さが後を引く、ハマったら抜け出せない舞城作品をご紹介したいと思います。
『月夜のグルメ』に登場する素敵なキャラクターを紹介します。
新月(朔・さく)から朔良と名付けられた。父の手帖を見つけ、そこに書かれている情報を頼りに、深夜さまざまな店を訪れることに。お酒や料理の奥深さを知る。
手帖の持ち主。すでに他界している(?)。家族と離れて東京で1人暮らしをしていた様子。食べ歩きを重ね、それぞれのお店で自分が頼んだお酒や料理、その感想などを書き記してきた。
高校生。雛祭りや朔良の誕生日などに連絡してくれる。姉が深夜に訪れているお店に興味があるらしく、写真を送ってもらうことも。
朔良が働く本屋の同僚。朔良が訪れる店でたまに顔を合わせる。職場とはまた違う一面を見せている。1人でお酒を飲みながら本を読むのが好き。朔良との程よい距離感を保ってくれる。
朔良が訪れる店でたまに見かける男性。いつも同僚や後輩と一緒にいる。朔良のことを覚えている。
父のモレスキンの手帖を見つけた朔良。そこには、父が東京で訪れたお店とそこで味わった美味しいお酒と料理について書かれていました。その手帖を頼りに朔良も1人、月の髪飾りをつけ、深夜の冒険「手帖のグルメ」を始めることに。
最初に訪れたお店で、似たような手帖を使っている人がいたと聞きます。おそらくそれが父であろうと。本当は父と一緒に来たかった……。そんな思いを胸に、父の手帖とともに、さまざまな店を探索していく朔良が描かれていきます。
戸惑いながらも、ゆっくり深夜の冒険を楽しんでいく朔良。店の種類は多岐に渡り、和食、スペイン料理、中華料理、タイ料理、そば、もつ焼き、おでんなどなど。毎回、父の面影を感じているであろう朔良の心の声、その季節や国ごとの豆知識など充実した内容もみどころのひとつ。
そのほか、ちょっとした出会いもあります。職場の同僚・柘植や何度か登場する気になる男性の姿も。今後のお話にもどう関わってくるかまだわかりませんが、覚えておきたい人物です。
- 著者
- ["舞城 王太郎", "奥西 チエ"]
- 出版日
徐々に深夜の冒険にも慣れてくる朔良。卒業旅行で行ったニューヨークを思い出しながら、ビールを堪能する姿から始まる第2巻。季節の風景や月夜を楽しみながら、お店を散策していきます。
ある店では、手帖に書かれた数字に目が留まります。お店のメニューに同じような数字が。それは毎日手書きで書かれたメニューのナンバリングだったのです。こんなところに父とのつながりを感じながら食を楽しむ朔良がいました。
新しい発見がいつしか自分の定番になり、少しずつ朔良自身の成長にも。深夜の独特な落ち着きに心癒されながら、父や家族のことを思う姿なども描かれていきます。
お酒や料理で感じる季節の移り変わり、今まで知らなかった文化との出会い、過去の自分を振り返り人生を考えることも。朔良の冒険もちょうど1年続きました。
そんなとき、訪れたお店で職場の同僚・柘植の姿を見つけます。彼女とのほどよい距離感が心地よい朔良なのでした。また今回も例の男性が登場。朔良は気付いていませんが、男性の方は少し気になるようですが……。
- 著者
- ["舞城 王太郎", "奥西 チエ"]
- 出版日
第3巻は第41夜メキシカンから始まると予想。日本でも馴染みのあるコロナビールですが、初めて注文する朔良の姿が。ライムの使い方がわからないまま、偶然絞って飲んでみます。こうして、自分好みの飲み方を発見するなど、朔良の成長が感じられるお話なども。
第1巻から店名は特に明かされていないものの、外観や提供される料理などがかなりリアルに描かれているので、ファンの間では店名を特定する楽しみ方もあります。また、メキシカン、スポーツバーなど多種多様なお店が東京にはあることも気付かせてくれます。
料理やお酒だけでなく、お店があるそれぞれの町を散策する朔良の姿も見られ、深夜の冒険がすっかり板についた様子。朔良の料理から連想される豊かなイメージが、より一層、作品の魅力を引き立てています。朔良という人物をゆるやかに描きながら、お酒や料理のこだわりも存分に感じられることでしょう。
『月夜のグルメ』の原案を担当するのは、作家・舞城王太郎。その独特の世界感で読者を魅了し、芥川賞候補にもなるほどの逸材です。これまで純文学のイメージが強い舞城が、本作ではグルメ漫画の原案に挑戦。お酒と料理にいかに造詣が深いかがわかります。
単行本では、各話の冒頭に舞城が描く朔良の言葉が添えられ、冒険の世界に誘っています。また、コミックには書下ろし短編や直筆の挿絵も収録されており満足度の高い1冊となりました。ぜひそちらもチェックしてみてください。
『月夜のグルメ』で漫画を担当するのは、前作『玉子の毎週BBQ!』でもグルメ漫画を連載していた奥西チエです。その画力の高さには定評があり、特に食べ物を美味しく描くと話題に。本作では、そんな奥西が全編鉛筆で描くというスゴ技を披露しています。
複雑な料理を枠からはみ出さんばかりに描く豪快さに思わず目が釘付けに。また、ほかのお客の声を書き文字で表現することにより、お店の賑やかさを伝える演出もさすがです。朔良のキャラクターの持つ雰囲気、舞城の描く月夜の冒険という世界観、奥西の鉛筆画の優しいタッチが見事に融合し心和む作品となっています。
玉子の毎週BBQ! 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
2018/3/19
『玉子の毎週BBQ!』を読みたい方はこちらから試し読みと購入ができます。
『月夜のグルメ』では、多くのことが語られていません。朔良のプライベートの部分や職場での詳細、父との関係、父の現在など。各話のエピソードから、少しだけ垣間見られる父のこと、家族のこと、職場のこと、朔良自身のことから、なんとなくこういう物語だろうと想像することも。多くが描かれていない分、読者の想像力が存分に掻き立てられる楽しさが本作にはあります。
『月夜のグルメ』に毎回登場する魅惑的なお酒や料理の数々。どれも本当に美味しそうで、朔良の満足気な様子がまた共感を誘います。
その季節ごとの食材の話、それぞれのお酒の飲み方、登場する各国グルメだけでなくその国の食文化なども1話8ページの中に凝縮されています。大人のための食育といったところでしょうか。まるで自分が体験したかのように、読者もまた朔良とともに大人の文化を楽しみ、学ぶことができるのも魅力的ですね。
『月夜のグルメ』は「週刊SPA!」にて連載中ですが、その周辺情報を紹介しているサイト「日刊SPA!」にて第1夜~第3夜が無料公開されています。またコミックスは第2巻まで発売中。そろそろ第3巻が刊行されるのではと予想されます。今度はどんな書下ろし短編が掲載されているのかなど楽しみな要素も満載です。
『月夜のグルメ』は主人公の成長も描いたグルメ漫画です。お酒や料理の奥深さを知ることはもちろん、東京にあるさまざまなお店や町並みも堪能することができる貴重な作品。朔良の手帖よろしく、『月夜のグルメ』片手に、月夜の東京グルメを散策してみてもいいかもしれませんね。