日本人は祭り好きだとよく言われますが、では、日本の祭りはそもそもどのようなものなのでしょうか。今回は、民俗学に興味のある方から、奇祭に参加してみたいという方まで、様々な人に向けて、日本の祭りについて取り上げた本を5冊ご紹介いたします。
民俗学の巨匠、柳田國男著の本書は、1941年に東京大学で行われた祭りに関する講義をまとめた講義録の本です。古くから伝承されてきた祭りの歴史を、ジャンルごとに分類してわかりやすく説明しています。「祭りから祭礼へ」、「物忌みと精進」、「参詣と参拝」などジャンルに分かれていることが、講義録としてわかりやすい点であると言えるでしょう。
- 著者
- 柳田 国男
- 出版日
- 2013-01-25
内容は、当時の東大生に向けたメッセージ性が強く、若者がどんどん日本の伝統文化から離れていることを懸念した記述が多く見られます。この懸念は、今でも変わらない一つの問題です。昭和に行われた講義の内容でありますが、現代の若者が知らない「物忌み」などの伝統や祭事が、いかに日本人にとって大切な精神的支柱であったかを語ります。
日本の豊富な祭りの事例を取り上げつつ、その祭りにおいての参拝の仕方などを記した実用書とも言えるでしょう。
自然または霊界に対する信仰という民俗学的であり、精神性に重きを置いた祭に関しての考えに興味のある方には、是非読んでいただきたい1冊です。
玲月流初代篠笛奏者である森田玲氏による、祭りと日本人に関する1冊です。その特徴は、彼が実際にフィールドワークで得た貴重な史料集などの成果から生み出される論述だけでなく、たくさんの写真やオリジナルの図版など、視覚的にも楽しめる点にあります。
- 著者
- 森田 玲
- 出版日
- 2015-07-22
普段何気なく過ごしている我々日本人ですが、そこには何かしらの歴史があるのです。豊穣を祝う祭りなど、祭禮にはハレの日として、地域がおこなう祭りがありますが、そうした地域の祭りを丁寧に調べ上げて書かれた本書は、その内容の濃さから学術的にも十分通用するでしょう。また、本書はいかに祭りが発達してきたかという歴史を通じて、人々が祭りに熱中する理由を探ることもテーマとしています。
祭りを考察し、日本人とは一体何者であるかという日本人論まで論じているこの本は、日本人のアイデンティティを探るための1冊としても価値があるものです。そういった意味では、日本のことに興味のある海外の学生が読めば、勉強の手助けになることは間違いなしでしょう。もちろん我々日本人も、無意識の影に隠されている日本人のアイデンティティに気づかされます。
文系学部で日本史専攻をしている学生さんにはもちろんのこと、「我々とは何か」という日本人論に興味のある方にもおすすめの1冊です。
祭りは今、日本全国およそ30万カ所で行われているくらい、日本人はお祭りが好きです。祭りといえば仙台や神奈川の七夕祭り、京都の祇園祭や葵祭りなど大規模なものもあれば、村や町単位で行われるひっそりとした小さなものまで多種多様に種類があります。けれども、どんなお祭りであっても、準備をしたり練習に励んだり、楽しみにしている人々が大勢おり、1年前から祭を楽しみにしている人もいることが魅力の一つですよね。
『「日本の祭り」はここを見る』は、お祭りを歴史や民俗学的な視点で見るというよりも、地域振興や町づくり、メセナなど文化政策的な視点で見ている点で、他のお祭りの本とは一味違います。著者が文化政策やイベント等の調査や計画に携わってきたからこそ、地域発展とお祭りを結びつけることができるのではないでしょうか。
- 著者
- ["八幡 和郎", "西村 正裕"]
- 出版日
地域社会の発展のために、お祭りをどう有効活用するかというプロデュース的側面から読むことで、参加する側だけでなく実行する側の視点も得られます。そういった意味では、何かイベントを計画している方にも読んでいただきたいところ。
祭りカレンダーやマップもついていますので、全国のお祭りを練り歩きたいお祭り大好きな方には、ぜひ手にとっていただきたい1冊です。
奇祭評論家である、杉岡幸徳氏が編集担当者を連れて、日本各地の祭りをめぐったことで生まれた本書は、北海道から沖縄までの珍妙な奇祭を網羅しています。仮面を被った怪物が登場する祭りや、少女が生贄に捧げられる祭りなど、ありとあらゆる奇祭が綿密な解説と共に紹介されており、知的好奇心をくすぐってくれること間違い無いでしょう。
本書は第1章の「奇妙かつ不可解な祭り」に始まり、第2章「笑いの祭り」、第3章「性の祭り」、そして第4章の「怖い祭り」までのテーマごとに各地の祭りを紹介しています。1番ボリュームのある第1章の「奇妙かつ不可解な祭り」だけでも、今まで知らなかった祭りの名前が多いです。
- 著者
- 杉岡 幸徳
- 出版日
- 2014-07-30
パラパラめくるだけでも、写真が多いので視覚的に楽しめますし、「こんな祭りがあったのか!」と知ったら思わず行きたくなってくるでしょう。まるで自分も一緒に同行しているかのように、どんどん読み進めることができますので、これをハンドブック代わりにして各地のお祭りに参加してみるのも楽しいと思います。
キリストは青森にいたという理由から行われるオカルトじみたお祭りなど、まだまだ知らないことばかりの世界に足を踏み入れることができますので、、久々に子供時代の探検ごっこの気分が味わえる1冊です。この本で、童心に帰ったつもりでワクワクしてみてはいかがでしょうか。きっと知らない祭りの世界に胸が踊ることでしょう。
写真家として日本各地の祭りのみならず、世界の祭りについて取材を続けてきた著者・芳賀日出男氏の記念碑的大作です。半世紀かけて撮影された写真を元に本が作られています。1970年の大阪府万国博の「お祭り広場」のプロデューサーとしても功績を積んだ彼は、今まで世界100か国以上を訪れ、祭りの研究を行ってきました。
そのような研究者的な一面を持つ芳賀氏が、四季の移ろいの中から生まれる精霊の概念を解説します。
- 著者
- 芳賀 日出男
- 出版日
- 2014-11-21
とにかく写真が魅力的で、昭和から平成だけでなく、より古い時代から今現在までと時代が移る中で、失われてゆく土着信仰の情景を200点越えの写真と共に論じており、見ごたえ抜群です。
郷土芸能に携わる人々と信仰の結びつきなど、「芸能」としての祭りに着目した本書は、演劇や舞台などの芸術を学ぶ方にも勉強になる1冊です。
今回は、日本の祭りについて紹介している個性豊かな本を5冊ご紹介させていただきました。どれも写真や図番などが多く、目で見て楽しむこともできますし、もちろん勉強になります。祭りを通じて、日本人のアイデンティティや信仰についても知ることができますので、じっくり深く読むための読み物としても面白いでしょう。
日本人がまだ知らない祭りの姿や、その根底にあるメンタリティを知るのにふさわしい本ばかりです。