落語は、着物や音曲に頼らず、身振り手振りなどで何人も演じ分ける高度な技能を必要とする芸能です。今回は、古くから大衆に愛されてきた落語の世界に足を踏み入れたい方のためにおすすめの本5冊をご紹介します。
落語には興味があるけれど、敷居が高いと思っている方や、噺を知らないで寄席に行っていいか迷っている方は多いことでしょう。『今夜も落語で眠りたい』は、落語が大好きなコラムニスト中野翠による落語入門本です。
- 著者
- 中野 翠
- 出版日
- 2006-02-20
本書の大半は、どの落語家が、どんな噺をしたかというエピソードに割かれています。また登場する落語家も、落語界では著名な文楽、志ん朝、馬生といった方ばかりですので、既に落語に興味があったり、彼らの名を知っていたりすれば、気軽に手に取りやすい落語入門書といえるでしょう。
また本書は、落語のCDなどを聴いているけれども、周りに落語ファンがおらず、感想を共有できないという方にもおすすめです。著者の中野氏は、「寄席にはなかなか行けないが、CDで毎日聴いている」落語ファンの1人ですので、同じような立場で落語を聴いている誰かがいるのだな、と感じられるでしょう。家で寝る前に聴く落語の楽しさを語った本書は、落語ファンと共に時間を過ごしているかのような気分に浸れます。
落語は芸能であり、舞台演劇であり、話術でもある——人情の機微や、庶民の生活を笑いに変える落語こそ、最高の話芸だとする本書『古典落語』は、明治から昭和にかけて制作された速記本を元にして、21篇の有名な落語を書き起こしたものです。
- 著者
- 出版日
- 2002-12-10
落語を厳選してテキスト化している分、素人には難しいのではないかと思われるかもしれません。しかし古典落語と呼ばれる有名ネタは、読んでみると意外にもわかりやすく面白いものばかり。古典的なものを読めば読むほど、オチをつける滑稽話問いう落語の原点を知ることができることでしょう。
落語に興味はあるけれど、本で読んでもその楽しさはわかるのだろうか、と考える方にはぴったりの1冊といえます。
今は亡き立川談志が書いた『現代落語論』は、現代といっても初版の発売は1965年のことでした。まだ彼が29歳の若者の頃です。落語という笑いの話芸であるのに、サブタイトル「笑わないでください」とは一体どういうことなのか、思わず気になり、手に取ってしまうことでしょう。
- 著者
- 立川 談志
- 出版日
- 1965-12-10
談志曰く、落語は過去のものになってしまい、どんどん質が下がってしまったとのことです。なぜこんなことで客が笑うのか、なぜ新しい落語がつまらなくなったのか……など、談志は落語家として笑いの質が低下していることを危惧しています。それは現代のあらゆる笑いを扱う芸能に通ずることです。客の笑いの沸点や、笑うタイミングなどは、時代とともに変遷するもの。そういったことを、彼はわずか29歳の時点で感じ取り、いつか落語が過去の遺物になってしまうのではないかと懸念していたのです。
本書では、そのような落語に対する危惧だけでなく、どれほど落語に情熱を注いできたかという姿勢も知ることもできます。立川談志のファンはもとより、これから落語を知りたいという方にとっても読み応えのある1冊です。
日本語学などを専門とする野村雅昭による『落語の言語学』は、マエオキ、マクラ、本題、オチなど、落語をバラバラの言語空間から成り立つものとして捉え、解析した1冊です。
- 著者
- 野村 雅昭
- 出版日
- 2013-10-11
落語は他の伝統芸能と大きく異なり、扇子や手ぬぐい、また膝立てなどがあるのみで、あとは話者の舌だけで演じられます。庶民から殿様まで、様々な人間を1人が務める、ハイレベルな技能が要求されるのです。そんな落語が面白いのはなぜか。本書では、日常会話という一般的な言語活動と違う、落語特有の話し方について論じています。
志ん生、文楽、円生といった著名な落語家を引用し、マエオキや本オチといった落語の構成を1章ずつ解析しています。落語サークルに所属する学生など、落語を自ら作りたいと考えている方は、マニュアルとして読んでみるのも良いでしょう。
すでに落語にはまっている方、なぜ笑いが起きるのかといったことに興味のある方には、異色の落語本としておすすめします。言語学という「ことば」の視点から落語を知りたい方にも、ぜひ読んでもらいたい1冊です。
芸能史研究60年という山本進の『落語の履歴書―語り継がれて400年』では、戦国末期から現代までの400年にわたる落語の歴史を辿ります。豊富な資料を頼りに、「落語のようなもの」の誕生から、現代落語の成立までをわかりやすく解説しています。
- 著者
- 山本 進
- 出版日
目次は、第1章「戦国末期〜江戸時代: 落語の始まり」、第2章「明治維新とその後: 『近代落語』の成立」、第3章「大正時代〜太平洋戦争: 激動の落語界」、第4章「戦後〜平成: 復活からブームへ」の4章にわかれています。各章で、その時代の落語の名人を紹介していますので、落語名人図鑑とでもいえるでしょう。
長年落語を研究してきた著者だからこそ、歴史を詳細に書ける「落語の履歴書」は、落語と歴史双方が好きな方に特におすすめしたい本です。
いかがでしたか。落語ファンや落語家など、様々な視点から語られた落語本をご紹介しました。初心者向けの入門書もあれば、落語の笑いを分析したもの、歴史を紐解くものなど、落語に興味がある方には読んでもらいたい本ばかり。これらの本を通じて、並々ならぬ落語に対する愛情をぜひ感じ取ってみてくださいね。