いつだってワクワクドキドキするファンタジーの世界。もちろん「ウェブ漫画」の中にも面白いファンタジー漫画はたくさんあります。今回はそんな漫画の中から、特に「完結した作品」を5作紹介します。
- 著者
- 橋本花鳥
- 出版日
- 2016-01-13
21世紀末、人類には奇病「カガステル」が発生しているという世界の物語です。このカガステルという奇病は、人が巨大な虫になるという病。虫になった彼らは人を食い殺し、虫同士で繁殖を続けていくのです。
人口の3分の2が食い殺され、ついに人類は彼らの駆除を認めることになります。そんなカガステルの発生から30年、物語は、駆除屋をしている少年キドウが、虫に襲われ死にかけている男性と出会うことから始まります。もはや生きる見込みのない男性は、自分の娘を母親に会わせてやってほしいとキドウに頼むのでした。
虫の発生により社会秩序も文明もなくなってしまった、荒廃した世界が舞台です。もともと個人サイトにて連載されていたものですが、その完成度の高さには目を見張るものがあります。イラストも非常に綺麗で、練り込まれた世界観やストーリーの魅力をこれ以上ないほどに魅力的に表現しています。
話の内容自体はとても「王道」なのですが、思わず時間を忘れるほど読み込んでしまうほどの力を持った作品です。自分の力ではどうにも出来ないような不条理と戦う幾人かのキャラクターに共感し、挫折して心閉ざしてもまた立ち上がる姿に勇気づけられます。Web上でこの作品が公開されているのはとてつもなく贅沢なことではないかと思います。
- 著者
- 高津カリノ
- 出版日
- 2014-12-25
舞台となるのは人間と妖怪が共存する世界。両方の種族がともに学ぶ学校での出来事が主に語られます。
主人公の福住篤志には思いを寄せる一人の雪の妖怪・白石無垢がいます。彼はある日、一大決心をして彼女に告白するのですが、あえなく撃沈。その理由はなんと、篤志の熱すぎる好意で体が溶けちゃうからというものでした。テンポよいコメディが心地よい、学園恋愛ものです。
作者は『WORKING!!』などで知られる高津カリノで、ギャグとラブコメがいい感じに入り混じった作風は健在です。ちょっとアホの子な篤志と、あまり表情を出さないが心優しい無垢のやり取りがとても可愛らしく、思わず応援したくなるような魅力にあふれています。
恋愛やギャグのほかにも「妖怪」というテーマを自分の作風にうまくマッチさせ、物語に組み込まれていることにもぜひ注目したいところです。
- 著者
- 岡部 閏
- 出版日
- 2012-12-18
「鏡の国のアリス症候群」という、鏡の中に幻想が見える奇病を患う少女・東雲あづまが主人公となる作品です。叔父一家の世話になっている彼女ですが、実は一家全員から暴力を受ける日々を過ごしているという、悲惨な状況から物語は始まります。
ある日、彼女は同じ病を抱えた6人と共に、鏡の向こうの異空間へと召喚されます。チェシャ鬼と名乗る案内役によると、そこは「ワンダーランド」という場所で、あづまたちは「アリス」として「世界鬼」を倒さなくてはならないことを告げるのです。
登場人物が皆、どこか狂っているという少し狂気じみた作品です。同じようにアリスとして戦うことになった仲間たちは、誰か1人の人間に依存しないと生きられなかったり、薬をやって服役中だったり、セックスを過剰なまでに求めたりしています。
物語の途中、「世界鬼を倒せば、現実世界で自分たちの身近な人間が死ぬ」ことが明らかになります。この事実を知って嘆き、悩む人もいるなか、あづまは他の誰よりも世界鬼、すなわち自分の家族を殺すことに、執着します。自分に虐待した叔父一家を間接的に殺すことで復讐を果たし、楽しむように「つぎだーれだ?」と彼女は笑って言うのです。
彼らの未来はどうなるのか、世界鬼を倒しきることができるのか。とにかく先が気になって一気に読んでしまう魅力に、どんどんと引き込まれてしまいます。
- 著者
- 筒井 哲也
- 出版日
- 2005-05-25
主人公は、老人介護サービス会社に勤めるナカニシという男です。仕事で日々ストレスをためていた彼は、インターネット上でエクサムという人物から、あるゲームを勧められます。そのゲームこそが、タイトルにもなっている「ダズハント」。マーキーという携帯端末を奪い合い、賞金を獲得できるという内容でした。
ナカニシは次第にそのゲームにのめり込んでいきますが、しばらくして生ぬるさを感じるようになっていきます。そんな時、彼に、命の危険がある「エクストラゲーム」の紹介が舞い込んできたのでした。
分類としては「デスゲームもの」に当たる作品です。非常に高い画力によって生み出される精緻な画面作りと、作り込まれたゲームの展開で、144Pと短い中でも読者を魅了させてくれます。飽きさせずぐいぐい引き込まれてしまうストーリーに、ゲームの戦略的、心理的な駆け引きが加わり、ひと息に読み終えてしまうでしょう。さらには社会的なテーマも非常に深く、なぜエクストラゲームが開催されたのかという謎も物語の全体像に深くかかわっていきます。
もともとはWEBサイト上で公開されていたウェブコミックですが、高い評価を受け、後に単行本化された作品です。1冊で読み切れるものですが、読んだ後に、自分はどう思ったのか、他の人はどう思うのだろうかと、考えてみたくなる作品です。
- 著者
- 水上 悟志
- 出版日
- 2007-10-27
1冊で完結する、非常にコンパクトな作品です。最初から1冊にまとめるために書かれた作品なので、密度と完成度が非常に高くなっています。物語としてはSF要素の強い王道なボーイミーツガールもの。テーマはセカイ系に近いのですが、実に明快で爽快に描かれているのが人気の理由です。
超能力者であることを隠して暮らしていた主人公・光一のもとに現れたのは、梅子という名の一人の少女でした。彼女は自分を惑星ルルイエの宇宙軍超能力部隊のスカウトであると名乗ります。
梅子は全力で光一を連行しようとしますが、あまりにも強い光一の能力に阻まれてしまいます。その後も光一に付きまとう梅子。しかし、少しずつ彼との関係は変化していくのです。そしてある日、光一が、街を襲う巨大隕石を止めると決意したとき、物語は大きく動き始めるのでした。
ハードなSF作品ではなく、コメディのある青春ものとしての要素をもち合わせている作品です。序盤はとにかくドタバタなラブコメ要素が強く、特にコメディのテイストが濃くなっています。しかし、隕石の接近からがらりと雰囲気が変わります。とはいえ隕石は話の本筋ではありません。この作品は、主人公が隕石をどうするか、ではなく、主人公を巡る人間ドラマにあるのです。
1冊で満足感が得られるとても良い作品です。
いかがでしたか。ファンタジー作品の世界観は、どれもその作者の個性が大きく出る傾向にあります。Web漫画という形態は得にその個性が色鮮やかにでている作品に出会えることが多いので、読んでみるととても楽しい思いができるのではないでしょうか。