小林泰三おすすめ小説5選!SF×ホラー×ミステリーの複雑な世界観

更新:2021.12.15

小林泰三はSF、ホラー、ミステリーなど多岐のジャンルにわたって活躍しています。その作品は得意とするジャンルの融合がよく見受けられ、読者を特定しないことも特徴的です。今回は様々な一面を持ったオススメの5作品を紹介します!

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異ジャンルの融合を得意とする小林泰三

小林泰三(こばやしやすみ)は1962年京都府に生まれました。大阪大学大学院を卒業。1995年に『玩具修理者』で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。翌1996年、同作を収録した短編集『玩具修理者』で作家デビューを果たします。2006年と2007年には日本SF新人賞の選考委員を務めるなど、様々な方面で活躍中の作家です。

1:ファンタジー×ホラーの融合『アリス殺し』

主人公・栗栖川亜理(くりすがわあり)は大学院生。彼女はここ最近、奇妙な夢ばかりみています。それは『不思議の国のアリス』の世界に迷い込むという夢。しかもその内容はいつも同じというわけではなく、夢の中で物語が少しずつ進んでゆくのです。

ある夜、夢の中でハンプティ・ダンプティが墜落死するシーンを目撃します。翌朝大学へ行くと、"玉子"というあだ名の博士研究員が、夢と同じように墜落死を遂げます。またある日の夢では生牡蠣を食べてグリフォンが窒息死すると、現実世界でも、生牡蠣を食べた教授が窒息死してしまいました。

夢の世界で起きたことは、現実世界でも起きてしまう。そしてどうやら夢の中に出てくるアリスは、亜理自身らしい。夢の世界では「三月兎」と「頭のおかしい帽子屋」が犯人探しを始めますが、なんとアリスが容疑者となってしまいます。もし犯人になったら、死刑にされてしまう!同じ夢を見ている同級生・井森と共に、亜理は事件の調査に乗り出しました。
 

著者
小林 泰三
出版日
2013-09-20

金髪に黒いリボンのカチューシャ、青いワンピースに白いエプロン―お馴染みのアリスの描かれた表紙ですが、アリスのワンピースには血痕が付着し、彼女の前には、絞首用のロープがぶら下がる……

私たちがよく知るアリスは可愛らしいファンタジーの世界の住人なので、この表紙は随分と物騒な雰囲気。ただ、グリム童話の原作など、おとぎ話は案外グロテスクな内容であったりします。可愛らしい世界で起きる残酷劇は、その不釣り合いな世界観からあなたの恐怖心を掻き立てるでしょう。

2:デビュー作とは思えない、確立された世界観『玩具修理者』

喫茶店で話す男女。女は男に、こんな話を語っています。子供の頃、「玩具修理者」と呼ばれる人物がいた。年齢も性別も分からないその人物は、子供たちが持ち込む壊れた玩具をなんでも修理してくれる。さらにその女は、自身が子供の頃に体験した「玩具修理者」とのエピソードを話し始めます。

女が少女だった頃、世話をしていた弟を誤って死なせてしまいます。親に知られたら怒られる、そう思った女は、「玩具修理者」のもとに死んだ猫を持ち込んだ友人のことを思い出しました。猫でも元に戻るなら、弟も修理してくれるかもしれないと…

著者
小林 泰三
出版日

筆者の記念すべきデビュー作である、この作品。大切なおもちゃを何でも直してくれる、子供のヒーローともいえる修理屋さん。持ち込まれたおもちゃ達を一度すべてバラバラにしてから、色々と組み合わせて修理をしていくのですが、「おもちゃ以外の物」も例外ではなく……

描写がとてもリアルでグロテスクです。読み進めるたび背筋がゾクッと寒くなる、なんとも不気味な世界観。日本ホラー小説大賞・短編賞を受賞したとおり、ホラー小説の傑作です。

3:珠玉の短編ホラー作品集『脳髄工場』

短編集『脳髄工場』の中から、表題作である「脳髄工場」をご紹介します。

「少年」が生まれる前、犯罪抑止のために開発された「人工脳髄」。脳に直接働きかけ感情を抑制し、健全な脳を創り出し、犯罪のない世界にしようというもの。この「人工脳髄」はだんだんと一般市民にも普及していき、今やつけるのが当たり前となっていました。

主人公の少年は「天然脳髄」で生きていきたいと考えます。しかし周りの人々がどんどん「人工脳髄」を手に入れていき、その中で孤独や疎外感を感じるようになり……
 

著者
小林 泰三
出版日
2006-03-10

タイトルからして不気味な雰囲気漂う本作。表紙もとんでもなく恐ろしいです。300ページほどのページ数ながら、11もの短編が収められています。「脳髄工場」のようなSFチックなホラーから、バスやビデオテープなど、日常に潜むホラーなど、様々な切り口の作品を収録。

4:SF冒険小説だけではない衝撃の展開『天獄と地国』

宇宙に浮かぶ超巨大コロニーの宇宙空間に面した外側・「天獄」に暮らす人々がいました。頭上には大地が広がり、足元には広大な宇宙が広がるこの場所で、物資はほとんどなく、遠心力のせいでいつ宇宙空間に放り出されるかも分からない極限の生活を送っていました。主人公たちは、地に足をつけて暮らせる世界・「地国」があるという神話を信じ、長い冒険の旅に出かけます。

著者
小林 泰三
出版日
2011-04-30

広大な宇宙を舞台としている本作は、ホラー作家として名高い作者の別の一面である、SF作家としての魅力が存分に発揮されていると思います。地獄のような環境である「天獄」から、地に足をつけて暮らせる天国のような環境の「地国」を目指し、勇敢に冒険をする主人公たちを応援する気持ちが芽生えてきます。しかし作者のホラー作家としての一面が「こんなところで!?」と驚くようなタイミングで出てきて、読み手を混乱の世界へと陥れます。

元々は短編として発表されましたが、その後長編として刊行された本作。わざわざ加筆して発表し直すという点だけでも、この作品に対する筆者の思い入れが感じられます。星雲賞日本長編部門を受賞した名作です。
 

5:記憶を巡る近未来SF小説『失われた過去と未来の犯罪』

すべての人類が、10分しか記憶を保てない。そんな世界がこの小説の舞台です。女子高生・結城梨乃は、ある時自分の記憶がたったの10分ほどしか持たないことに気づきます。しかもそれは自分だけではなく、すべての全人類が記憶障害に陥っている。そんな事態のなかで彼女はSNSに、人類が記憶障害に陥っている事、そして人類が生き残る術を急いで書き込むのです。

それから月日は流れ、人類は記憶を長期間保持するために「外部記憶装置」(メモリ)を開発。ただこのメモリ、簡単に取り外しが出来てしまうため、それによって様々なトラブルが巻き起こっていくのです。
 

著者
小林 泰三
出版日
2016-06-02

作中にSNSが登場したり、記憶をメモリに保存するなど、現代を生きる私たちにも身近な品物や方法が用いられているので、とてもリアリティを感じました。物語は2部構成になっており、1部では記憶が保てなくなった直後の世界、そして2部ではメモリを使って生活する人々が登場します。繋がらない記憶と身体…。容易に記憶を入れ替えることのできる世界で、魂は「身体」に宿るのか、それとも「記憶」に宿るのか、葛藤する人々を描きます。

作品全体に迫りくるような恐怖を潜ませた本格ホラー小説から、近未来を舞台にしたSF冒険譚まで、様々な舞台やトリックで私たちを楽しませてくれる、小林泰三の5作品を紹介させて頂きました!いかがでしたでしょうか。まだまだスリルが足りない方は必読です!

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