Alfred Beach Sandalが選ぶ「死にオチ四冊」

Alfred Beach Sandalが選ぶ「死にオチ四冊」

更新:2021.12.6

どんな人でもやがて死ぬし、それはあまりに絶対的なので、物語の最後としてはある意味いちばん元も子もない終わり方。でも元も子もないことをどう描くかを見ると、その人の人生感が見えてくるかもしれない。「死に様は生き様」は現実には当てはまらないと思うけど(自分の意志で選べるものじゃないから)、フィクションの中では言えるかもしれない……!! 人生は根本的には不条理だし理不尽だが、そんな中でどう前向きに生きて行くかっていうメッセージを、死にオチから受け取りたい。

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どんな人でもやがて死ぬし、それはあまりに絶対的なので、物語の最後としてはある意味いちばん元も子もない終わり方。でも元も子もないことをどう描くかを見ると、その人の人生感が見えてくるかもしれない。

「死に様は生き様」は現実には当てはまらないと思うけど(自分の意志で選べるものじゃないから)、フィクションの中では言えるかもしれない……!! 人生は根本的には不条理だし理不尽だが、そんな中でどう前向きに生きて行くかっていうメッセージを、死にオチから受け取りたい。

恋空 --切ナイ恋物語

著者
美嘉
出版日
十年ぐらい前? ケータイ小説等を中心に難病純愛ものみたいなのがすごく流行っている時期があって、そういう本も映画もめちゃたくさんあった。当時なんとなくそういうのをかたっぱしから読みまくったり見まくったりしていたのだけど(なぜそんなことをしてたかはもはやよくわからない。金欠や失恋などで頭がおかしくなっていた)、だいたいどれも読んでてまじで苦痛な中、恋空に関しては苦痛の向こう側にぶっ壊れた世界が広がっていた。

恋をしてレイプされて妊娠して流産して、彼氏と別れ新しい大学生の彼氏ができて両親の離婚の危機を経て元彼の癌、大学生と別れ、彼との恋再び、彼氏の死、妊娠再びっていう感じなんですが、もうここまで盛り盛りだと感情がまったく追いつかないというか、そもそも主人公の女の子にしてもこんだけジェットコースターライフなのに「感動☆」「悲しいよ…」「嬉しい~泣」「ツラい…」とかだけで、ただ表面的に反応するだけっていう。プラスチック人間みたい。

でも、これ舞台が現代日本の高校ってことだからアレだけど、そうじゃなくてもっと破滅的終末的な北斗の拳とかマッドマックスみたいな世界で、そこで生活する荒みきった若者たちの物語なんだとしたらピュアな話かもなって思います。ですから、小説としてのつまんなさ稚拙さはこの際置いとくとすると、この本はただただ「世界は無慈悲である」ということをあらわしている。なのでラストは、希望とか感動とか純愛っていうんじゃ全然なくて、恋人を失い荒れ果てた荒野をお腹に子を抱えて一人進んでいく母の姿が見えるのみで、それはそれはとてもつらい結末です。

恋空から約10年、世界はゆるやかに崩れ続けてどんどん余裕のない方向へ向かっています。

いちご同盟 --純愛・中学編

著者
三田 誠広
出版日
1991-10-18
あらすじだけ言ったら『恋空』とか『世界の中心で愛を叫ぶ』とかと同じようなもんみたいな雰囲気でとられかねないけど、全然ちがうじゃ~~ん! ちゃんと人の心の揺らぎや機微を描けば、ただの泣ける話で終わらないのだということをはっきりわからせてくれる。文章や表現がとても簡潔で淡々としているのが良い。これ以上いくと湿っぽすぎてダメだっていうギリギリのとこで余白を残す感じで。

生、死、恋、友情といったかなりナイーブかつウェットな内容で、15歳過ぎて青臭くて無理っていう方もいるかもしれないけど、読後感は全然爽やかです。生と死っていうかなりヘヴィなものが主題でありつつも、それが青春時代のどうしようもなさとかだんだん終わっていくムードみたいのとも絡めて描かれてるので、ただの壮大なシンフォニーみたいなのでは終わってないのが良い(そういう大仰な雰囲気もなくはないけど)。だからここでの死っていうのは、青春の終わりっていう、誰もにとってかなり身近なテーマと表裏。

この作品読んだのは20代半ばをとっくに超えた頃だったと思うんですけど、中学生ぐらいの時に出会っていたら、好きな子が病気で死んでしまうことを想像して布団の中で泣いたり、ポエム書いたりとかしたと思う。

予告された殺人の記録

著者
G・ガルシア=マルケス
出版日
町全体を巻き込んでの結婚パーティの翌日、サンティアゴ・ナサールはなぜ殺されてしまったのか? それを、様々な人の記憶から多視点的に再構成していく物語。小さな田舎町で渦巻いていた人間模様や村社会的ややこしさが、微妙なバランスで作用しあった結果、起こることが知れ渡っていた殺人を誰も止められなかった、その過程をドキュメンタリー的に追っていく。

一人の男の死から、その当人だけじゃなく町の人々の人生や共同体のあり方までが浮かび上がってくる。すごい面白いっす

麻雀放浪記(一) 青春編

著者
阿佐田 哲也
出版日
戦後の焼け野原をバクチの腕一本でサバイブしていく坊や哲やドサ建たちは、恋空の世界の登場人物とはまったく真逆の存在だと思う。こういう強烈な生の体現が恋空には完全に欠けていて、ほとんどが最初からソフトに死んでいるみたいな感じなので。

全財産を賭け、ヒロポンきめながら不眠不休で打ちつづける雀士たち。体力の限界が来て泡を吹いて死んでしまった対戦相手を、その瞬間に身ぐるみはいでドブに投げ捨てる。「これが俺たちなりの弔いだ。成仏しろよ」ってめちゃくちゃだけどひたすら美学とロマンだけはある。最高。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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