浦沢直樹の最新作『あさドラ!』はヒロインのアサをはじめ、戦後昭和を生きた人々たちの群像劇漫画です。スケールが大きい物語な上に、『ゴジラ』や『あまちゃん』、『いだてん』などの名作を連想させるストーリー構成も魅力の1つ。この記事では『あさドラ!』のネタバレだけではなく、ポン・ジュノも絶賛する本作の魅力を語っていきます!
『あさドラ!』は、『20世紀少年』の作者・浦沢直樹の最新作です。戦後昭和の時代設定で、ヒロインのアサとその時代を生きた人々の物語が描かれています。パイロットとなり、やがては上陸してくる怪獣から日本を守ろうとするアサ。命を危険にさらして戦うアサだけではなく、他の登場人物一人ひとりの熱い思いにも感動できます。
さらに、ダイナミックな展開や惹きつけられる物語構成など、ストーリーテラー・浦沢直樹の描き方に圧倒されます。今後のストーリー展開の可能性について、映画『パラサイト 半地下の家族』の監督であるポン・ジュノも大絶賛するほど。浦沢直樹の作品ファンだけではなく、歴史漫画が好きな方、迫力ある作品が好きな方にもおすすめです。
ポン・ジュノ監督の『あさドラ!』に対するコメントが気になる方はぜひ、こちらもチェックしてみてください。
『あさドラ!』単行本第5集特設ページ ポン・ジュノ監督コメント全文掲載 | ビッグコミックBROS.NET(ビッグコミックブロス)|小学館 (bigcomicbros.net)
皆さんは『あさドラ!』と聞いて何を想像しますか?おそらく、タイトルからテレビドラマの朝ドラシリーズがパッと思い浮かび上がるでしょう。お察しの通り、『あさドラ!』は朝ドラ『あまちゃん』のように、女性を主人公としたストーリーでヒロインのたくましく成長する姿が見られます。実は、他にも名作を連想させるシーンがあって、物語構成にも注目したい漫画でもあります。
まずは物語の幕開け。いきなり炎の背後から、街を一気に破壊しそうな怪獣が登場します。この場面だけで、あの名作映画「ゴジラ」シリーズが頭に浮かんできますよね。
また、1964年の東京オリンピックについても重点的に描かれています。正ちゃんがオリンピック選手を目指すだけではなく、ゴジラのような怪獣が再び現れるのもオリンピック前の時期。戦後昭和の時代が主題の1部となっている点からも、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』が連想できます。
日本中を虜にした名作の物語構成がぎっしりと詰まった『あさドラ!』。昭和のあれこれに「懐かしい!」と思う方も、「へえ、そうだったんだ」と思う方も楽しめるでしょう。これもストーリーテラーと呼ばれる作者・浦沢直樹の腕前ですね。
伊勢湾台風が甚大な被害をもたらした1959年の名古屋。主人公の少女・アサは大雨の中、兄弟が生まれそうなので先生を呼びにあちこちと駆け回っていました。
しかし、突然ある男に誘拐されてしまいます。その男は春日晴夫といい、陸上攻撃機の元パイロットでした。暗い建物の中で彼の話を聞いているうちに、台風が上陸してしまいます。外の様子を伺うと、流木と高潮で街ごと流されていました。春日は飛行機を操縦し、アサの家族を探すために、アサとともに空を飛ぶことに。
手がかりを探しているうちに見つけたのは、途轍もなく大きい何かの足跡でした。さらに、ようやく見つけたアサの兄弟たちの背後には怪獣のような生物が。この出来事が後のアサの人生を大きく変えることになるのです。
本作のヒロイン。大家族の娘で、朝に生まれたから「アサ」と名付けられました。負けん気が強い、おてんば娘。幼少期に伊勢湾台風の被害に遭い、春日の誘拐をきっかけとして初めて飛行機を操縦しました。春日とともに航空会社「ASA」を立ち上げ、女子高生になってからも飛行機操縦士として活躍しています。
陸上攻撃機の元パイロット。伊勢湾台風の際、まだ幼かったアサを誘拐しました。それから台風で家族を失ったアサの面倒を見ます。操縦士の職業に人一倍誇りを持っており、「空の勇者」と自称するほど。アサにも厳しい訓練をし、立派な操縦士に育て上げました。
めし処「きぬよ」の女将で、春日と昔からの顔見知り。台風の日に初めてアサと出会います。彼女の親が行方不明になり、アサと兄弟の信六、ハヅキ、孝七を引き取ります。時には厳しくアサたちの成長を見守る頼もしい存在です。
春日の元上司。政府関係者で、伊勢湾台風の際に姿を現した謎の巨大生物「あれ」を追っています。次の出現では、アサとおっちゃんに出動するように依頼をしました。
巨大生物「あれ」の正体を追っていた生物学者・淀川教授の助手。亡き淀川教授の研究記録や資料を全て保管し、ひっそりと調べていました。アサと出会い、彼女たちに託された任務に協力します。
アサの幼馴染で、走ることが大好きな少年。1964年の東京オリンピックの出場を目指していましたが、惜しくも敗退してしまいます。アサのことをいつも気にかけており、親友のような存在です。
ここからは、『あさドラ!』各巻のエピソードを名セリフの引用とともに紹介していきます。
1959年、伊勢湾台風が上陸する夜のことです。主人公のアサは、春日という男に誘拐されてしまいました。彼は元パイロットで、戦時中のことを語り始めます。そして、台風が過ぎ去り、アサと春日は外へ。見てみると街は浸水していて、想像を絶する風景でした。アサの家族を捜すために、春日は再び飛行機を操縦することになります。
アサと春日が出会う1巻。アサが初めて飛行機に乗るシーンがいちばんの見所です。春日との出会いは、アサの人生を大きく変えます。飛行機の座席に座ってドキドキし、離陸する瞬間に思わず声を上げてしまい、空を飛んでいるときに呆然とするアサ。全てが新鮮でワクワクするアサの表情に惹きつけられちゃいます。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
台風でボロボロになった名古屋の空を旋回するアサと春日。アサの家を探す途中で、巨大な足跡を見つけます。やっとの思いで兄弟たちを見つけた瞬間、背後から怪獣のような生物が襲ってきて……。さらに春日の意識が朦朧とし始めて、操縦できない状態に。思わぬアクシデントにアサが取った行動とは?
2巻は、巨大生物の出現や春日の様態悪化でアサは大混乱。何とか大ピンチを乗り越えていくアサに、たくましさや強さを感じることができます。特に、死にかけの春日が下した決断や、落ち着いて覚悟を決めるアサの姿がポイント。無事帰還できるのか、最後までドキドキが止まりません。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
時は流れ、1964年の東京が舞台に。アサは成長し、女子高生になっていました。東京オリンピック開催で大盛り上がりの中、アサは春日に連れられて浜松に行きます。そこで待っていたのは、実相寺大佐です。オリンピックに向けてブルーインパルスの準備をしている一方、伊勢湾台風の際に現れた怪獣の跡を追っていました。実相寺は操縦士であるアサに、この巨大生物についての極秘任務を与えます。
アサを取り巻く他の登場人物たちにも様々な試練が与えられる3巻。アサの友人・ヨネちゃんは芸能事務所からスカウトされ、オーディションを受けることに。また、ずっと怪獣の研究を拒んでいた学者の仲井戸はアサと出会い、少しずつ気持ちに変化が訪れます。他にも、正ちゃんや孝七など、登場人物それぞれのエピソードがあります。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
アサが実相寺のもとを訪れて月日が経ちました。アサがいつでも出動できるよう、実相寺の部下・A倉が見張っていました。ある日、彼はアサが誰かに追われていることに気づき、血相を変えます。一方、春日も飛行場の倉庫に他人の足跡を発見し、極秘任務が誰かにバレているのかと、危機感を抱いて……。そんななか、いよいよ実相寺から出動命令が下されます。
4巻は巨大生物「アレ」の出現がポイント。情報が入り、任務に向かうアサたちですが、春日にトラブルが発生してしまいます。飛行機の操縦士がアサだけになってしまい、彼女は大ピンチ。そこに助っ人が現れます。一体誰なのか、その人物に注目です。
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
春日は不在ですが、アサと仲井戸はついに飛び立ちました。嵐の中、旋回していると「アレ」の姿を発見しますが、近づくとものすごい勢いで襲ってきます。太刀打ちできない状況にさまざまな作戦を打ち出していくアサ。仲井戸は、恩師・淀川が残したメモに記された弱点の解読を急ぎます。
アサたちが任務を遂行している一方、アサの友人・ヨネにも事件が発生。芸能事務所にスカウトされ、声を掛けられた男性とともに向かった場所はビルの一室でした。いかにも怪しい衣装を着せられ、困惑するヨネ。しかし、夜が明けたときには、覚悟を決めたようにスッキリした表情になっています。この一晩の間に何が起こったのか、気になる展開です。
書籍を購入すると、手書きの「メモ」のレプリカが挟まっているかも⁉
- 著者
- 浦沢 直樹
- 出版日
物語の幕開けからドキドキするような展開が『あさドラ!』の魅力です。最初のページをめくると、いきなり2020年の東京が火の海に。しかも、人々がゴジラのような巨大生物から必死に逃げている様子をスケール大きく描いています。その後すぐに、舞台は1959年の名古屋へ。まだ幼いヒロインのアサが台風の中、風を切るように駆け抜けているシーンに移ります。近所の人の名前間違いに対して、声を張り上げて名乗るアサ。大物を感じさせるヒロインの登場です。
この最初の数ページは、読めばあっという間に物語の世界に入り込んでしまいます。また、炎に包まれる首都やヒロインの登場が印象強いだけではありません。時代の幅も大きく、戦後昭和から現代へ続くことが予想できます。本を開けば、始まりから壮大なストーリーを期待させてくれますよ。
もう1つの特徴として、『あさドラ!』は群像劇であることが挙げられます。主人公のアサだけではなく、たくさんの登場人物が中心になってストーリーが展開。そのため、一人ひとりの胸に秘められた熱い思いに感動できます。
たとえばアサの師匠であるおっちゃんこと、春日の場合です。操縦士としての誇りを語る場面がたくさん出てきます。戦時中、戦闘機のパイロットを務めていた春日。当時の厳しい状況を伝えると同時に、何が何でもやり遂げたと誇らしげに語ります。自分を「空の勇者」だと胸を張って言う場面には、思わず心を打たれるでしょう。
他にも、アサの母親代わりになるきぬよの覚悟、正ちゃんの走ることに対する熱意、仲井戸の教授への敬意など、登場人物それぞれに情熱があります。戦後昭和を生き抜く彼らの心情がじっくりと描かれている点にも、ぜひ注目してみてください。
『20世紀少年』はもちろん、数々の名作を生み出した漫画家・浦沢直樹。最後に彼の人生を紐解いていきます。
幼少期から漫画を描き始め、就職活動をきっかけとして1983年に漫画家デビューします。いくつもの連載を掛け持ちし、月に100ページ以上の漫画を手掛けるというエピソードも。『MONSTER』と『PLUTO』の2作品で手塚治虫文化賞大賞を受賞しました。
彼の漫画作品は基本的に紙の漫画でしか読めません。というのも、作者自身が「自分の作品は紙の漫画でしか読んでほしくない」と考えているため。電子派の方も、紙でページを開くからこその迫力を楽しんでみてください。
大人気漫画家として活躍する一方、自身のアルバムを作成するなど、音楽活動も積極的に行っています。ボブ・ディランの大ファンで、仕事のイベントでも語りまくるほど。2021年に始めたYouTubeチャンネルのBGMも彼が演奏しています。気になる方はぜひチェックしてみてください!
『あさドラ!』の魅力は伝わったでしょうか?謎の巨大生物「アレ」と戦うアサたちのストーリーはまだまだ続きそうですね。これからもきっとドキドキの展開が待っているはずです。『あさドラ!』をもっと知りたい方は、ぜひ手に取ってご覧ください。