春場ねぎが描く『戦隊大失格』!八百長戦隊ヒーローに反旗を翻す戦闘員の物語

更新:2021.12.12

『戦隊大失格』は「週刊少年マガジン」で連載されているバトル漫画です。作者は『五等分の花嫁』で知られる春場ねぎ。前作のラブコメとは一変、ザコ戦闘員を主軸として、戦隊ヒーローモチーフのアクションが描かれています。 この記事ではそんな『戦隊大失格』のあらすじや魅力、見所をご紹介していきます。

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不正な正義を悪が討つ!『戦隊大失格』をネタバレ紹介!

 

2021年2月から「週刊少年マガジン」で連載されている『戦隊大失格』。架空の日本を舞台として、悪の怪人軍団と大戦隊が週に1度戦うバトル漫画です

特撮モノのパロディ――というより、はっきりとニチアサのスーパー戦隊を意識した作品。毎週ヒーローと怪人が戦うという構図を作品に組み込み、ストーリー上でそのお約束の戦闘に必然性を持たせた意欲作となっています。

『戦隊大失格』で面白いのは、主人公がヒーローではなく怪人側……それも名前ありの幹部怪人ではなく、やられ役の戦闘員というところ。主人公は常に負け続ける状況に嫌気が差し、長年に渡って行われるヒーローの理不尽な八百長を阻止すべく、ひそかに立ち上がります。

作者はテレビアニメ化もされた『五等分の花嫁』の春場ねぎです。ラブコメからバトル漫画へと大幅な路線変更を図った形。もともと能力バトルを描きたかったことが語られているので、実は『戦隊大失格』こそ春場ねぎの真骨頂といえるのかもしれません。

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そんな『戦隊大失格』のストーリーや魅力、作品内容を考察していきたいと思います。

 

『戦隊大失格』は特撮のお約束を打ち破るバトル漫画!【あらすじ】

 

正義の竜神戦隊ドラゴンキーパーと、平和をおびやかす悪の怪人の戦い。それは13年前から始まり、今もまだ続く終わりのない死闘でした。……表向きには。

戦いは決まって毎週日曜に行われることから、いつごろからか「日曜決戦」と呼ばれるように。そしていつしか、必ずヒーローの勝つ死闘は、人々を熱狂させる娯楽と化したのです。

実はすでに悪の怪人軍団はほぼ壊滅状態でした。彼らは全滅を免れる条件として、ヒーロー側から必ず負ける八百長試合を持ちかけられていたのです。つまり日曜決戦は、仕組まれたイベントだったのです

ただ負けるためだけに生きる日々。やがて1人の戦闘員が、状況を好転させるべく立ち上がります。彼はひそかに竜神戦隊に潜り込み、ヒーロー抹殺に向けて動き始めました。

著者
春場 ねぎ
出版日

 

悪の怪人が主人公⁉登場人物紹介

 

戦闘員D

本作最大の特徴は、主人公がヒーローではなく怪人側のキャラということ。しかも幹部でもない「ダスター」と呼ばれるただの戦闘員……つまりやられ役のザコです。

そんな主人公の名前は戦闘員D。仮称ではなくこれが本名です。仲間や本性を知る者からは、単に「D」や「D君」と呼ばれることもあります。物語の途中で桜間日々輝(さくらまひびき)と入れ替わり、Dは表向き大戦隊の一員として活動するようになります。

桜間日々輝

桜間日々輝はヒーロー側、大戦隊所属の一般隊員。彼の実姉は大戦隊の頂点にいる5人の1人、ピンクキーパーこと桜間世々良です。Dが地上で最初に出会った人間の1人。Dと違った意味でヒーローの八百長に嫌気が差しており、歪んだ構図を是正したいという点で2人の利害が一致しました。理想のためにDと入れ替わり、物語の裏で独自行動を始めます。

錫切夢子(すずきりゆめこ)

Dの正体を知るもう1人の人間が錫切夢子です。出会ってすぐ怪人と見破り、Dの目的を知ってからは大戦隊を内部から崩壊させるべく、協力関係を結びます。イエロー部隊の従一位という役職持ち。大戦隊を敵視する真意は不明ですが、Dを何かとサポートする重要キャラです。日々輝が穏便に状況を変えようとしているのに対して、夢子の思想ややり方は過激。

Dから見た悪役、すなわちヒーローもかなりアクが強いのです。

赤刎創星(あかばねそうせい)

たとえば竜神戦隊を束ねるリーダー、赤刎創星。一般にはレッドキーパーとして知られており、もっとも認知度と人気の高い男です。見た目は爽やかイケメンですが、世の中が弱肉強食の思想に従えば、争いは起こらないと考える歪んだ人物。彼の中では力こそすべてであり、腕試しで直属の部下をボコボコにすることも。

レッドキーパーをはじめとして、現実の一般常識とはちょっとズレたヒーローが登場するので、正義のあり方についてちょっと考えさせられます。

 

組織化されたヒーロー戦隊に立ち向かう!『戦隊大失格』の面白さは世界観にあり!

 

戦い続けるヒーローと怪人

『戦隊大失格』の魅力の源には、ヒーローと悪の怪人軍団が戦い続ける世界観にあります。毎週日曜に大規模な戦いをくり広げる日曜決戦からわかるように、これは現実で放送されているニチアサ特撮番組のオマージュ

ただ特撮番組をなぞるのではなく、『戦隊大失格』が1年間で戦隊と悪の軍団が入れ替わるのではなく、13年間も同じ戦隊と怪人軍団が戦い続けているというのが面白いところです。

このヒーローと怪人が戦い続けている設定は、毎年新しい作品が始まっても、ヒーロー番組という枠組み自体はずっと続いていることのパロディでしょう。

世界観を成立させているカラクリ

『戦隊大失格』の世界観は、怪人の不死性なくして成立しません。戦闘員を含む怪人軍団は不死の存在で、何度やられても復活できるという特性があります。

怪人の不死だけ見るとヒーロー側が不利に思えますが、それを解決するのが必殺技と変身アイテムを兼ねる「神具」。神具だけが不死を滅ぼせます

この神具のおかげで、長く続く戦いの最初の1年間で幹部クラスは全滅済み。以後の10数年間は、ザコ戦闘員が交代で幹部に見た目だけ擬態し、外聞を取り繕ってる有様です。

戦闘員たちは命を見逃す代償に、毎週の茶番に付き合うようヒーローに強制させられているわけです。

皮肉にも怪人の天敵「神具」が唯一の希望

人々から悪の権化と恐れられている怪人軍団ですが、その実態は竜神戦隊の引き立て役でしかありません。怪人に残された道は従順に負け続けるか、絶望して復活することなく消滅するか。

唯一の希望は、竜神戦隊の5人が持つ5つの神具です。ヒーロー側の最強兵器なので、もし奪い取れれば怪人の切り札になるうえ、ヒーローの戦力を大きく削れます

夢子の入れ知恵で戦闘員Dは神具を狙いますが、そうそう簡単にいきません。ヒーローは単体でも戦闘力が異常に高く、不死だけが取り柄の戦闘員では歯が立たないのです。しかもヒーローの側近には、神具に匹敵する神具レプリカが配備されています。

なんにせよ、一筋縄ではいかない内部からの戦隊攻略。戦闘員Dがどうやってヒーローを打倒し、怪人軍団の現状をいかにして変えるかが魅力であり、物語の焦点になってきます。

 

『戦隊大失格』のテーマを考察!タイトルに込められた意味とは

 

『戦隊大失格』は作品のタイトルとして、かなりインパクトがあります。正義の戦隊ヒーローを真っ向から否定する、野心的な試みといえるでしょう。

竜神戦隊の作中でのポジションは(怪人側から見て)悪役とはいえ、単に不正義を働くだけの腐敗した組織というわけでもありません。かつて悪の怪人軍団と真っ向対決し、表向き秘密とはいえ1年間で壊滅状態に追い込み、世界を守ったのはまぎれもない事実です。戦隊構成員の中には、本気で悪を憎んで平和を願う者もいます。

しかしその一方で、レッドキーパーを筆頭とする一部のトップは、独善的な正義を振りかざす危うさがあります。彼らは弱肉強食を盲信するなど、自分達の正義に酔っているのです。「正しさ」を免罪符にして、優位な立場の者が一方的に価値観を押しつける……竜神戦隊のスタンスは、現実の社会にも通じるものがあります。

こういった点から考えると、『戦隊大失格』というタイトルには2つの意味が見えてきます。

1つは言葉通り、ヒーローを名乗るに値しない竜神戦隊の否定

もう1つは「戦隊=正義」と定義して、正義のあり方や意義を問うアンチテーゼです。

この2つがそのまま、作品のテーマになっていると思われます。この点に注意して『戦隊大失格』を読むと、より深く楽しめるかもしれません。

 

『戦隊大失格』1巻の見所:ザコ戦闘員、立つ!【ネタバレ注意】

 

文字通りヒーローショーと化した、竜神戦隊と怪人軍団の「日曜決戦」。常に負け続ける怪人に対し、同情して応援の声が出てくるほど、竜神戦隊の強さは圧倒的でした。

軍団を率いる幹部もおらず、負け続ける怪人軍団の士気は落ちる一方。戦闘員の1人がローテーションで幹部に擬態しては、敗北して撤退するのを繰り返していました。

ある日の戦闘でも、いつも通り竜神戦隊の合体必殺技で決着……したのですが、戦闘員Dは攻撃をかわした上で、単身レッドキーパーに戦いを挑みます。

第1巻冒頭で描かれるこのシーンは、作品全体を象徴しています。結果はもちろん惨敗ですが、悲惨な状況を変えようとする意思が、読んでいて胸に響きます。不自然にも映る説明的な導入部が、しっかり物語上で意味のあるものだったとわかる展開も見事です。

著者
春場 ねぎ
出版日

 

『戦隊大失格』2巻の見所:それぞれの戦う意志【ネタバレ注意】

 

夢子の手引きで神具を強奪した戦闘員D。ところが脱出する前に、あろうことか神具の持ち主であるヒーローたちと遭遇してしまいます。ブルーキーパーの神具によって爆殺されるDでしたが……直撃寸前に自爆することで神具をかわし、かろうじて生き延びました。

追っ手から逃げるしかできないDの前に、日々輝が現れます。彼は追跡を誤魔化しつつ、戦隊に潜入する方法を提案し、2人は入れ替わるのでした。

2巻は序盤から緊迫の連続。合間にとぼけたギャグこそ差し挟まれますが、特殊能力を持つブルー部隊隊員との能力バトルがくり広げられます。そうして窮地に立たされたDを、鮮やかに救う日々輝の手並みが見事です。日々輝がただの理想主義者ではなく、戦う意志をしっかり持っていて意外としたたかなのも、読んでいて好感を抱きました。

なおDの奪った神具は、夢子がこっそり回収済み。この神具が今後、どんな形で物語に関わってくるのか注目しましょう。

著者
春場 ねぎ
出版日

 

『戦隊大失格』3巻の見所:怪人の生き残り【ネタバレ注意】

 

日々輝と入れ替わったDは、日々輝の部屋で匿われていた戦闘員XX(エクスズ)と出会いました。彼女は幹部が全滅させられてからも、降伏ではなく徹底抗戦を選び、怪人の本拠地から撃って出た戦闘員の生き残りでした。

同じ戦隊打倒を目指す怪人同士ではあるものの、やりとりするうちに2人の間に溝が見えてきます。現実的に戦隊と戦おうとするDと、好戦的すぎるXX。危うく同士討ちになりかけますが……。

第3巻はいろいろな面で、急展開を見せていきます。本拠地の外で生き残っていた戦闘員。そして4年前まで活動していたという、幹部クラスの怪人の存在。新情報が出てくるのと同時に、D=日々輝の正規隊員への最終入隊試験が開始されます。

気になる伏線が目白押しですが、入隊試験の激しいアクションや各隊員の個性が見えてくるので、小難しいことは抜きにしても楽しめるでしょう。

著者
春場 ねぎ
出版日

アンチヒーローモノとも呼べる『戦隊大失格』。ザコ戦闘員がどう立ち回り、正義の戦隊を変えていくのか、これからの展開が楽しみです。

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