『チ。ー地球の運動についてー』はマンガ大賞2021で2位をとった注目の作品ですが、タイトルからはどんな作品なのかイメージすることができず、まだ手に取っていない方も多いのではないでしょうか。 シンプルなタイトルから想像できない、壮大なストーリーと信念を貫く熱さを感じることができる、作品の魅力を紹介します。
まずは作品の設定やあらすじについてです。
15世紀の中世ヨーロッパのような、架空の国であるP国が舞台。P国ではC教という宗教が絶対的な力を持っており、C教の思想に背いた人は異端者として迫害されていました。
また、C教では天動説が正しいとされていて、地動説を唱える人も異端者として激しい拷問をされたり、焼き殺されてしまうのです。
しかし、P国の中には地動説が正しいと考える人たちがいて、C教からの迫害をうまく避けながら真理を追求していきます。
地動説という考えに魅了された人たちが、時間を超えて知識をつないでいき、真理を求めていくストーリー。
タイトルの『チ。』には地動説の「地」、さらに真理を求める知性の「知」、そして異端者に対して暴力の「血」という意味も含まれているのだとか。
作品の中でも3つの「チ」がストーリーにおいて重要な鍵となっています。
- 著者
- 魚豊
- 出版日
この作品の魅力の一つは、主人公が一人ではなくどんどん変わっていくところです。
ストーリーは最初の主人公である学生のラファウとフベルトという天文学者と出会うところから始まります。
フベルトは異端者としてC教から狙われており、自分の研究成果をラファウに託すのですが、今度はラファウがC教から狙われるようになり、研究を山奥に隠すのです。
そこから10年後、次の主人公は傭兵のオクジーです。様々な偶然が重なり、仕事仲間のダラスから、ラファウの研究を他の人に引き継ぐように託されます。
しかし、オクジーは文字を読むことができず、天文学も詳しくありません。
オクジーはC教の修道院で働く天才のバデーニに研究を伝え、協力して地動説の証明を進めていきます。
さらに天文研究所の図書館で働く少女のヨレンタなども加わり、それぞれの力を発揮して、地動説の真理に近づいていくのです。
地動説を明らかにするためにいろんな人が知識を積み重ね、次の世代に渡しながら真理を突き詰めていくところが見所。
他の作品ではなかなか見られないストーリーの展開に、気持ちが高まってしまうでしょう。
最終的に誰が地動説を完成させるのか、そしてC教に地動説が正しいということを伝えていくのか、続きが気になります。
実際の歴史でもあったように、『チ。』では地動説を唱えることは禁忌となっていてます。C教にバレると異教徒とみなされ、身体的な拷問や火あぶりによる死刑に処されてしまうのです。
それでも、地動説は正しいと考え、命をかけて地動説を証明していく様子が、スポーツ漫画やバトル漫画にも負けない熱さを見せてくれます。
最初の主人公である、学生のラファウもその一人。
ラファウは勉強ができる秀才。ただ、プライドが高く、この世はバカばかりで、自分が合理的に生きることによって快適にこの世を過ごすことができると考えています。
また、天体観測が趣味で天動説が合理的で正しいものであると思っています。
そこに異端者として捕まっていたフベルトという学者と出会い、彼に無理やり研究を手伝わされる間に、地動説が合理的で正しいものであると感じるようになりました。
地動説の方が美しく、またそれが真実であることを突き止めることに没頭していきます。
しかし、ラファウの研究がC教の人にバレそうになってしまうのです。
ところが、フベルトが今まで研究してきた記録などをラファウに託し、身代わりとなり処刑されてしまいます。
ラファウは隠れながら天文学を学ぶことを決意するのですが、再度C教に研究がバレて捕まってしまうのです。
そしてC教はラファウに対して、天動説への改心と関係資料の開示を要求。
しかし、ラファウは地動説を信じると宣言。このことによって、ラファウは異端者として認定され、拷問の対象となってしまいました。
ところがラファウは拷問の前日、研究を山の奥に隠して自殺してしまうのです。
拷問を受けて今まで積み上げてきた研究を漏らさないように、そして研究を他の見知らぬ未来の人に託すために、まだ少年であるラファウは自殺を選んだのです。
知識のため、そして自分の信念を貫くために、命をかけていく熱さに感動してしまいます。
他の登場人物たちもラファウに負けないくらいの熱さと信念を持っており、地動説を明らかにしようとします。その姿を見る度に胸が熱くなってしまうのも作品の魅力となっています。
登場人物にはC教の修道院で働くバデーニや傭兵のオクジーなど、いろんな職業の人が地動説を明らかにしていきます。
それぞれの生い立ちや立場によって、地動説を研究していく上で様々な葛藤や壁が現れるのも作品の魅力の一つです。
中でもヨレンタという少女は、壁や葛藤がありながらも、知的欲求を満たすためならなりふり構わず行動していくところに勇気をもらえます。
ヨレンタは天文研究所で助手として働いていて、論文も書きながら研究を進めていました。
しかし、いくら優秀な論文を書いても女性の名前で書くと読まれないという理由で、なんと上司の名前で論文が提出されてしまうのです。
また、親からも女性なのだからこれ以上勉強する必要ないと言われたり、女性という理由で研究会に参加させてもらえないなど、周りから冷たく当たられていました。
そんな中、掲示板で宇宙に関する問題が貼られているのを発見。惑星の記録がないと解けない問題だったので、やってはいけないと思いながらも、上司の部屋に入り記録を読み漁ります。
もちろんバレると研究所から追い出される可能性もありますし、自分でもよくないことをしていると自覚しています。
それでも「でも悪いとかどうでもいいから、アレの答えが気になる。」という知的欲求を優先し、なりふりかわまず行動していくのです。
知りたいという気持ちだけで、危険を犯しながらも真理を突き止めていく様子に勇気をもらえることでしょう。
自分も同じように何かに熱中してみたい!とも感じてしまうのも作品の魅力かもしれません。
シンプルなタイトルですが、地動説の研究がバトンのように繋がっていく大河ドラマのような面白さがあります。
また真理を解き明かすために、命をかけての研究にのめり込む姿に熱くなってしまうでしょう。
地動説はどうなるのか?次にどんな人が引き継いでいくのか?も気になるところです。