「ヤングキング」で連載されている、たーしの作品。九州の極道をメインとしたヤクザ漫画で、フィクションながらリアルな裏社会が描かれています。とても主役とは思えない、常識外れの主人公による豪快なアクションも魅力的。 今回は、そんな『ドンケツ』の見所を余さずご紹介します。
舞台は福岡県北九州市にある、小倉。主人公のロケマサこと沢田マサトシは、その一帯を縄張りとする大組織「月輪会」に属する「孤月組」組員です。
彼は月輪会随一のならず者で、親分たる組長や絶対的権力者の会長ですら手を焼く、最強のヤクザでした。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2011-09-26
ロケマサは極道だろうとはぐれ者だろうと、はたまた一般人だろうと、見境なく腕っ節だけでねじ伏せることで、誰からも恐れられている人物。言動のすべてが喧嘩や暴力で、40を過ぎても役職なしの平役。にも関わらず、不思議な魅力で仲間を惹き付けるのです。
物語はそんな彼を中心として、個人規模から組織まで、表裏に渉る裏社会の抗争が克明に描かれていきます。
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1974年11月14日生まれ、2018年現在で44歳の漫画家です。血液型はO型。
1998年、『KUZU』がちばてつや賞準大賞に選ばれてデビューしました。あまり表には出て来ないため、その経歴はほとんど不明ですが、単行本の後書きからは優しげな人柄が垣間見えます。
代表作は『アーサーGARAGE』『ドンケツ』。前者は中古車ディーラーの人間ドラマで、後者はヤクザ漫画であり、作風は一貫して時代遅れとも取れる男くささをフィーチャーしたものとなっています。
ちなみに組の名前こそ違いますが、見た目も名前も同じ「村松」というヤクザが出てくるので、もしかすると両作には関連があるのかもしれません。
日常がコミカルに描かれたかと思えば、躍動感ある迫力の喧嘩シーン、血生臭い修羅場を巧みな表現力で楽しませてくるのが魅力の漫画家です。
沢田マサトシ、45歳。通称・ロケットランチャーのマサ、略して「ロケマサ」です。
その異名は、かつて敵対組織に単身乗り込んでロケットランチャーをぶち込んで退散させた、という逸話からきています。
その話からもわかるように、滅茶苦茶な人物。ただ、とにかく強いのです。剛腕という言葉では表せないほどのパワフルさ、天性の駆け引きは、他の追随を許しません。
主な稼ぎ口は、たかりと恐喝。この説明だけではクズのようにしか思えず、主役らしくない悪者のようなキャラですが、作者は意図的にそうしているようです。敢えてそうすることで、型にはまらない豪快さを狙ったのでしょう。
おかげでロケマサの、インパクトは抜群。1度見ればそうそう忘れることができないキャラクターとなりました。
内村タツオは、本作のもう1人の主人公といえるキャラクターです。
彼は元々、ヤクザの縄張りで非合法のクスリを売るチンピラでした。それがバレてヤクザに拉致、殺害されかかったところを、彼の母親に頼まれて来たロケマサに救出されます。
母子家庭で育った彼は父親を知らず、「理想の男」像をロケマサに見出して、やがて慕うようになったのです。
当初は精神面も肉体面もひ弱で、呆れるほどの小物でした。ですが、ロケマサに付いて回り、さまざまな男の背中を見て成長を遂げていきます。喧嘩は相変わらず弱いままですが、根性だけは一端の男になっていくのが読んでいて感動的です。
「このどんけつヤクザが
孤月の親分もろとも叩きツブしてしまうどアホが」
(『ドンケツ』1巻より引用)
ドンケツとは最下位を意味する言葉です。ロケマサは主人公ですが、金も権力もありません。そのため何も持たない下っ端ということで「どんけつ」と言われます。
ただ作中のナレーションでは、後に彼が中心となって、一大旋風を巻き起こすことが予告されています。ドンケツである彼がどのような展開を見せてくれるのか、また、そんな彼だからこそ見せられるものとはどういったものなのか、そういった点も非常に楽しみな作品となっているのです。
「おのれら全員 二度と極道ができん体にしちゃァわい
おまえがさっさとガキを渡さんから こうなったんやけのう」
(『ドンケツ』1巻より引用)
本作の舞台は、福岡県北九州市の小倉です。そういった背景のため登場人物の間で飛び交う言葉も、当然のように九州弁となっています。題材的に物騒な言い回しも多いので、正確には「ヤクザ弁」とでもいうべきかもしれませんが……。
日本で暮らしていると、テレビなどで1番多く聞くのが関東の方言、いわゆる標準語でしょう。次いでよく聞くのが、関西弁でしょうか。
実は九州弁というのは関西弁と言い回しが似ており、「~やん」とか「~やから」とか「~なん?」のような語尾が共通しています。そのため音声の伴わない文字媒体では、ぱっと見で区別が付かないこともあるのです。
その点『ドンケツ』では、非常に自然な九州弁が語られています。ヤクザを追うことで有名なフリーライター・鈴木智彦も、本作に登場するヤクザの使う北九州弁が素晴らしいと絶賛しているほど。
内容的に九州弁の教科書というわけにはいきませんが、そういった点にも注目して読んでみるのも面白いでしょう。
刺青は、世間から忌避される反社会勢力の象徴ともいえるでしょう。
大手を振って褒めることが出来ませんが、しかし、そこにはある種の美意識が感じられます。伝統技法による図案は、どこか日本画にも通じる芸術性があるのです。
『ドンケツ』本編ではあまり出てきませんが、各巻の表紙で登場人物の鮮やかな刺青が描かれるのも特徴の1つ。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2018-11-26
たとえば最新27巻の表紙では、野江谷の背中に激流を登る鯉の意匠が見て取れます。鯉は滝を登って竜に変化したという伝説(「登竜門」の語源)のある魚です。昇り龍ではなく鯉というところに、彼の生きざまが感じられるでしょう。
こういった意味まで想像しつつ、刺青を見るのも面白いです。
本作では、昔気質の腕っ節自慢のヤクザが多く登場します。刃物や拳銃に頼らない、素手にすべてを賭けた力強い姿は非常に魅力的です。そんな猛者から、選りすぐった5人をご紹介しましょう。
彼は孤月組若頭で、ロケマサを筆頭に血の気の多い組員のなかでは貴重な抑え役です。しかし、立場上諫めることが多いだけで、本来は喧嘩好きで実力もトップクラス。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2013-05-13
通称・チャカシン。ロケマサと2大巨頭を張る、孤月組の狂犬です。銃器に異常な執着を見せますが、素手で戦っても彼に勝てるキャラはほとんどいません。
通称・ゲンコ。関西を締める天豪会で最強の男です。ロケマサと2度も戦い、なお戦意を喪失していない唯一の人間。腕力と耐久力は作中随一といえるでしょう。
東京武双山一家の鷹十組で、本部長を強める男です。単純なパワーではゲンコが上手ですが、経験値が段違い。理知的でクレバーに立ち回ります。ロケマサとほとんど互角でした。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2011-09-26
説明不要の主人公。傍若無人が服を着ているような乱暴者ですが、実力はピカイチです。最強無敗を地でいく暴力の化身といえます。今のところ、誰も彼に勝った者はいません。
孤月組渡瀬組長に心酔する、裏の掃除人。見た目は浮浪者にしか見えない老人ですが、情報収集から暗殺、証拠隠滅までこなす万能キャラです。手段を問わなければ、番狂わせを起こしかねないでしょう。
九州弁で話される『ドンケツ』の台詞ですが、極道ならではの意地、義理と人情を感じさせる名言が作中でいくつも登場します。特に印象的なものをピックアップしてご紹介しましょう。
「当たり前のことができてねェとお前の親が笑われるんぞ(中略)
つまらんことで相手の風下に立つようなことをすんな バカ助が」
(『ドンケツ』3巻より引用)
まだ正式に杯を交わす前のタツオを叱る、ロケマサの言葉です。食事中の箸の持ち方1つで人間性が表れるという場面。野蛮で無茶苦茶な彼の口からこんな立派な言葉が出るということも含めて、いろいろと胸を打つ名言です。
「正義のためテメェの役目をまっとうするんが任侠道だと思っとります(中略)
任侠じゃねェヤクザなんて存在しちゃいけねェんです」
(『ドンケツ』14巻より引用)
ロケマサ組を切り盛りする愛馬桃次郎が、彼本来の目的を見失っているのではないかと問われた時の返答です。表面上は何事もなく振る舞っていても、心の奥底で燻る熱さを感じさせました。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2015-06-22
「関西は天豪会の城光組若頭補佐
姓は平山 名前は元
人呼んで日本一の喧嘩太郎 ゲンコや」
(『ドンケツ』18巻より引用)
月輪会が真っ二つに割れて、敵対勢力からロケマサの急所としてターゲットにされたタツオ達。その絶体絶命の窮地に割って入ってきたゲンコの台詞です。芝居がかった名乗りが、何よりも頼もしく思える印象的な名言といえます。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2017-07-24
「キレイごとをいうつもりはさらさらねェが
目の前にジャマな壁がありゃ叩き壊して前に進みてェじゃねェか
それが江戸の極道ってもんだ」
(『ドンケツ』22巻より引用)
月輪会絡みで全国的にヤクザへの締め付けが厳しくなりつつある状況に、果敢に立ち向かう決意を漲らせた速水の言葉。この混乱が、元はといえば東京から流れた麻生、小田切の仕業であることも知っており、その始末を自分達が付けるべきとも発言しています。主役以上に主役っぽい名言です。
東京から流れ着き、月輪会十五夜組の中核に収まった麻生と小田切。この2人は月輪会を乗っ取り、海外の窓口として巨大な地下マフィアに仕立て上げようとしていました。
そのために不安定な情勢を作り上げ、月輪会を二分する勢力の旗頭として月暈(げつうん)組の野江谷を担ぎ上げたのです。
こうして勃発した月輪会の内部抗争は、日本中が注視する騒動へと発展していきました。
- 著者
- たーし
- 出版日
- 2018-11-26
これまで月輪会本体と本家に迷惑がかからないよう、離脱して独自行動を取っていた通称・はぐれ月(孤月、朔月、華月組の連合)は、野江谷派の背後にいる旧十五夜組の炙り出しで後手に回り続けていました。
それが関西の天豪会、関東の武双山の援護によって、ついに勘所を抑えることに成功。本巻では、長らく続いた内紛に終止符が打たれます。
見所は、警察によって押さえられていた月輪会宮本会長の解放と、その後に振るわれる会長の辣腕です。溜まりに溜まった鬱憤が、すべて解消される気持ちよさは何にも変えられません。
そしてなんといっても、追い詰められた野江谷の最後のけじめ。ヤクザの矜持を見せ付けられます。
いかがでしたか?一節によると、現実の極道にも本作は人気だとか。本職も楽しめる『ドンケツ』の面白さを、ぜひ味わってみてください。