1994年刊行から連載され、全世界累計発行部数は2億3000万部の名作『名探偵コナン』のキャラクター。黒の組織の中でも特に謎の多い女性・ベルモット。敵でありながら新一(コナン)と蘭を決して傷つけないと決めている彼女は、今後の展開でもかなり重要なキーパーソンとなるでしょう。今回はそんなベルモットについて徹底考察します。
- 著者
- 青山 剛昌
- 出版日
黒の組織の幹部でありながら、コナンにとっては敵か味方かいまいち判断のつかない女性であるベルモット。彼女は『名探偵コナン』史上最大の謎を抱える重要な人物です。そこで今回は、ベルモットの情報を振り返りつつ、彼女の意味深な言動について考察していきます。
黒の組織でのベルモットの立場
ベルモットは組織の中でも秘密主義者として知られており、「A secret makes a woman woman(女は秘密を着飾って美しくなる)」が口癖の美女。同時に、ジン曰く、組織のボスの「お気に入り」らしく、他の幹部よりも自由に動いており、独断専行も多いのが特徴です。
しかし最近ではその独断専行がボスにまで問題視されているようで、叱責も受けています。ジンに至っては完全にベルモットを警戒しているらしく、第42巻ではベルモットが妙な動きをしたら暗殺するようにウォッカに指示を出しており、第78巻では組織の裏切り者・シェリーごとベルモットを爆死させてもかまわないといった態度をとっています。組織で優位な立場にいながらも、組織のはぐれ者といったところでしょうか。
ベルモットの人となり
笑いながら人を殺すような残虐性を持ち、第42巻では先述の通り、FBIのジョディを相手取るために組織のスナイパーであるカルバドスを日本に呼び出しておきながら、計画が失敗し赤井に追い詰められると彼を見捨てて逃亡するなど、かなり独善的な面もあります。
その件でキャンティやコルンからはあからさまな敵意を受けていてもどこ吹く風といった感じで気に留めていない様子ですから、同じコードネーム持ちとはいえ、組織の他の人間を見下している傾向にあるようです。
しかしその一方で、「宝物」と称している蘭には殺人現場にさえ近づけさせない過保護な面を持っていたり、コナンに害がおよばないよう小五郎を殺さないようジンに進言したりと、情がないわけではないことも分かります。
類稀なる変装能力
ベルモットの能力でもっとも特筆すべきなのは、その変装技術です。かつてベルモットは表の顔の女優として、役作りのためにマジシャン・黒羽盗一に弟子入りした過去があり、変装技術は盗一から教わったもの。顔はメイクで、声は変声器無しで自由自在に他人に成りすますことができるのは、現在ではベルモットと怪盗キッドくらいでしょう。ベルモットの場合は大女優ですから、その卓越した演技力も大いに変装の役に立っています。FBIのキャメル捜査官すら騙せるのですから相当なものですよね。その実力は、作中で「千の顔を持つ魔女」と称されるほどです。
表の顔は大女優
ベルモットの本名はシャロン・ヴィンヤード。ハリウッドでアカデミー賞を受賞した大女優です。少なくとも40代は越えているはずであり、娘のクリス・ヴィンヤードの姿も確認されています。シャロンは有希子の友人であり、一度シャロンとして新一や蘭と顔を合わせています。
「死ぬ思いでスクリーンデビューしたその日に、父と母を火事で亡くし…オスカーを取った翌日に夫が病死…私の娘として鳴り物入りであっさりデビューし、ちやほやされてるクリスとは雲泥の差だわ…」(『名探偵コナン』第35巻より引用)
蘭たちに「私にはエンジェルは微笑みかけてくれなかった」とこのような過去を語るシャロン。しかし、原作者・青山剛昌によると、これはまったくの作り話だそうです。
現在はクリス・ヴィンヤードとして表舞台に
ベルモットの表の顔はシャロンなのですが、シャロンは1年前に他界し、葬儀も開かれています。実は現在ベルモットは、シャロンの娘・クリス・ヴィンヤードとしてハリウッド女優として活躍中なのです。シャロンとクリスは、実は同一人物だったということですね。
シャロン「あの子とはそれっきり…もう10年近く会ってないわ…質の悪そうな友達とつるんでたみたいだし…」(『名探偵コナン』第35巻より引用)
阿笠「なにしろ撮影以外でマスコミの前に現れたのは、一年前のあの日が初めてだそうじゃから…」
コナン「あの日って?」
阿笠「母親のシャロンの葬儀の日じゃよ!」「ホレ、日本でもニュースでチラッと放送されたじゃろ?」
コナン「あ、ああ…」
阿笠「その時、葬儀に潜り込んでいた質の悪い雑誌記者が彼女を質問責めにしたそうじゃ…「通っていた学校はどこか?母親との不仲説は本当か?父親はいったい誰なのか?噂の恋人はこの葬儀に来ないのか?」とな」
阿笠「じゃが彼女はノーコメントの一点張りで…」(『名探偵コナン』第34巻より引用)
おそらく、クリスとシャロンとの不仲は同一人物であると悟られないよう同じ場面にふたり存在することを避けるため、クリスがプライベートを一切明かさないのはそもそもクリス・ヴィンヤードが架空の存在であり、通っていた学校も父親も存在しないからでしょう。
工藤新一・毛利蘭との関係
新一と蘭とは最初NYにてシャロンとして出会ったベルモット。そのときは「親友・工藤有希子の息子とその友人」として認識していただけでした。
実はそのときベルモットがNYに来ていたのは、FBIとして組織に潜入していた赤井秀一を始末するためでした。ただの通り魔相手ならばそこまで警戒しないだろうと、当時NYを騒がせていた通り魔に変装して赤井を狙うも、逆に腹を撃たれることになります。通り魔の変装をしたままFBIから逃げるベルモットは、潜伏先でたまたま近くを通りかかった蘭に遭遇し、口封じのために蘭を殺そうとします。
しかし、寄りかかっていた柵が外れ、落ちそうになるベルモット。そんな彼女に救いの手を差し伸べたのが、彼女が今まさに殺そうとしていた蘭だったのです。
「何してるの!?早くわたしの腕につかまって!!」(『名探偵コナン』第35巻より引用)
さらに駆けつけた新一によりベルモットは助け出されます。なおも口封じのために新一と蘭に銃口を向けるベルモットに向かって、新一はこんなことを言います。
「わけなんているのかよ?人が人を殺す動機なんて、知ったこったねーが…人が人を助ける理由に…論理的な思考は存在しねーだろ?」(『名探偵コナン』第35巻より引用)
この言葉にベルモットは胸を貫かれてしまったのです。以降、新一(コナン)のことをクールガイ、蘭のことをエンジェルと呼び、ふたりを守ろうとしているのが分かります。
たとえば、コナンの正体が幼児化した工藤新一であると知っていながら組織に黙っていたり、第42巻では灰原を殺そうとした際、彼女を庇う蘭をカルバドスに撃たせることも自分で撃つこともできなかったりしたのがいい例でしょう。
また、バーボンが任務のためにふたりと接触すると聞いて、バーボンがふたりに危害を加えないか心配し、梓に変装してまで見張りに来ています。梓の事前情報もないままに、梓のことを知る人たちのいるところに変装して来ることは、正体が露見するリスクを孕んでいるにも関わらず、です。ベルモットがどれだけふたりを守りたいかが分かりますね。
ベルモットはふたりを「この世でたったふたつの宝物」と称しており、特に蘭については、組織のことや殺人などといった血なまぐさいことには触れさせたくないと考えているようです。
工藤有希子との関係
ベルモットと有希子は新一が生まれる前からの友人同士です。NYで車を飛ばしすぎて警官につかまっていた有希子を、刑事に変装して助け出すなど、仲の良い関係だったようです。先述した盗一への弟子入りも、有希子と一緒でした。
第78巻では、久しぶりの再会であり、ベルモットが有希子に銃を突きつけながらも、気の置けない会話をしていました。友人の有希子を殺すことにためらいはないような口ぶりをしていましたが、本心ではどうか分かりません。友人ということに加えて、新一の母であるということもベルモットが有希子を殺すことにためらう理由になると考えられます。
ベルモットの不老の謎
「貴方…どうして…どうして年をとらないの?」(『名探偵コナン』第42巻より引用)
20年前、両親を殺されたFBI捜査官のジョディ・スターリングがベルモットに向けてはなった台詞です。
ジョディは両親を殺した人間が言った「A secret makes a woman woman」を手掛かりに、母・シャロンの葬式で同じ台詞を言っていたクリスの指紋と、両親を殺した犯人が残した指紋が同じものであることを突き止めます。しかし、20年前の事件の犯人にしては、29歳を自称し、見た目もその程度であるクリスは若すぎます。
そこでジョディがクリスの指紋と母親のシャロンの指紋を照合することで、シャロンとクリスが同一人物であることを突き止めたのです。
ここで、第78巻のベルモットと有希子の会話に注目してみましょう。
有希子「でも残念だわ…年を食っても輝き続けるメイクの仕方をいつか教わろうと思ってたのに、それがあなたの素顔?大女優シャロン・ヴィンヤードはただの老けメイクだったなんて…」
ベルモット「あら…結構辛いのよ?顔だけじゃなく普段から老けたフリをするのって…」(『名探偵コナン』第78巻より引用)
この会話から、ベルモットの真の姿はシャロンではなくクリスとしての姿であることが分かります。つまり、「シャロン」の姿が素顔で若く見えるよう変装しているというわけではないということです。
また、この事実を捉え、FBIではベルモットに「ラットゥンアップル(腐ったリンゴ)」という標的名をつけています。これは、シャロンが脚光を浴びた舞台「ゴールデンアップル」になぞらえてつけたものらしいですが、これにも意味が隠されていそうです。
「ゴールデンアップル」は、神話などでは不死の象徴として登場するのです。これはベルモットの身体が不死であることを象徴しているとも考えられます。
ベルモットの不老は薬によるもの?
ジョディは「年をとらない」と表現しましたが、実際には「若返った」とみるのが妥当だと考えられます。ベルモットは両親からAPTX4869の研究を引き継いだ灰原を始末することに並々ならぬ執着を見せています。その様子から、ベルモットはコナンや灰原のように、APTX4869またはそれに類される薬を飲み、若返ったのではないかと推察することは不可能ではないでしょう。
ベルモットが宮野夫妻の研究を「愚かな研究」と言っていることから、おそらくベルモットの若返りは彼女の望んだことではなかったのでしょう。そしてその「愚かな研究」を引き継ぐ灰原も、当然ベルモットの標的となります。
灰原哀については<【灰原哀編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>の記事で考察しています。気になる方はぜひご覧ください。
どうにもベルモットには自身の所属する組織の壊滅を望んでいるような節が見られます。気になるのは、ベルモットの第42巻の独白です。
「(私の胸を貫いた彼なら…なれるかもしれない…長い間待ち望んだ…銀の弾丸(シルバーブレット)に…)」(『名探偵コナン』第42巻より引用)
ここから、「シルバーブレッド」をベルモットは待ち望んでいることが分かります。「シルバーブレット」とは、組織のボスが「組織を壊滅させ得る存在」に対して使う呼称です。つまり、ベルモットは、組織の壊滅を望んでいるとみることができます。
しかしその一方で、彼女は自らが認めた人間にしか「シルバーブレッド」たりえる資格はないと思っているようです。
たとえば、FBIの赤井については、組織のボスがもっとも「シルバーブレッド」と恐れる人物でしたが、ベルモットはジンが彼を殺そうとすることに特に反対していません。
「(2発なんかいらないわ…シルバーブレットは…1発あれば十分よ…」(『名探偵コナン』第59巻より引用)
ベルモットは組織を壊滅させることについて、赤井にはほとんど期待しておらず、自分が惚れこんだコナンにのみ期待をかけているようです。
もしかすると、宮野夫妻や灰原の研究を阻止したい理由もそこにあるのかもしれません。宮野夫妻は開発した薬を「シルバーブレット」と呼んでいました。偶然の一致ということはないでしょうから、宮野夫妻はもともと組織を壊滅させ得る手段となる薬を開発していたと考えられます。しかもそれを組織に明かすわけにはいきませんから、おそらく研究の方向性次第で、組織にとって毒にも薬にもなるような代物だったのでしょう。
灰原は、「組織にとって良い方向」に研究を進めてしまったと考えられます。服用後毒物が体内に残らないという側面がいい証拠です。
そしておそらくベルモットが若返ったのは宮野夫妻の薬によるものでしょうから、組織を壊滅させるという目的において、ベルモットと宮野夫妻は協力関係にあったのかもしれません。
その過程または実験で、ベルモットが若返ってしまった……もっと言うならば「不老」になってしまったことによって、宮野夫妻と決別したのではないでしょうか。他人の人生を台無しにしておいて何が「シルバーブレット」だと、ベルモットはそう思っているのかもしれません。
そうすると、ベルモットが灰原を是が非でも殺そうとするのは、赤井同様期待していない「シルバーブレット」たりえる存在に終止符を打つためだと考えられます。
ベルモットが灰原の幼児化を組織に報告していないのには、それを報告すれば彼女が守ろうとしている新一が幼児化していることもバレてしまい、彼を危険な目に遭わせてしまうという理由も当然あるでしょう。
しかし、どうやらそれだけではないようです。ベルモットは板倉卓というCGクリエイターに何かのソフトを発注しており、第75巻ではそれがベルモットが幼児化を組織に隠す理由と関係しているのではないかと指摘されています。有希子によれば、シャロンと板倉は犬猿の仲。ベルモットが声色を変えてまで、犬猿の仲のCGクリエイターに発注したソフトとは何なのでしょうか?
板倉については第37巻で触れられています。板倉は2年前から、組織にあるソフトの制作を依頼(強制)されていたようです。どんなものかはまだ明らかになっていませんが、最初に板倉にソフトの依頼をしたのはテキーラ、ソフトの回収を請け負っていたのはウォッカであることから、板倉が作っていたソフトは組織全体にとって重要なものということが分かります。
板倉の日記にはソフトを組織に渡す直前に、このようなことが書かれています。
「ダメだ…やはり私にはできない…なぜならあのソフトは私が目を患ったからだけではなく、我々人間のために断念したのだから…」(『名探偵コナン』第37巻より引用)
このことから、組織が板倉に作成させていたソフトは、「人間を脅かすもの」ということになりそうです。幼児化と関係があるということ、さらに、板倉が時間に厳しい性格だったということを伏線としてとらえるならば、そのソフトは「時間」に関係するものだということで間違いなさそうです。
幼児化や若返りは、究極的には「不老不死」や「死者の蘇生」に繋がります。しかし、原作者の青山剛昌によると、組織の目的は「不老不死」ではないそうですから、ひょっとすると「死人を蘇らせる」ことなのかもしれません。死者の蘇生は生命の理に反するもの。板倉が「人間のため」に断念したとしても、不思議ではないですね。
「組織のメンバーが知ったら驚くでしょうね…まさかあなたがボスの…」(『名探偵コナン』第85巻より引用)
安室のこの台詞後すぐさまベルモットが安室に銃を突きつけていることから、ベルモットにとってこの「秘密」は決して誰にも知られてはならないものだということが分かります。果たして、ベルモットはボスの何なのでしょうか?
ベルモットはボスと親密な関係
ベルモットはボスを「石橋を叩きすぎて壊しちゃうタイプ」などと言っており、ボスの性格を熟知しているような口ぶりをしています。
「どうやら私はお前を自由にさせ過ぎたようだ 私の元へ帰って来ておくれ ベルモット」(『名探偵コナン』第42巻より引用)
さらに、ボスからベルモットに送られてきたこのメールは、かなり親密な関係であることを表しています。「私の元へ帰って来ておくれ」というのが、しばらく独断行動を慎むようにというお達しなのか、それとも言葉通りボスがベルモットの帰る場所なのか……気になるところです。
ベルモットとボスは血縁関係?
ベルモットがボスの何であるのかを考えると、一番ベタな予想は「血縁関係」ということになります。メールでの親しげな口調からみると、娘と考えるのが妥当でしょうか。
仮にベルモットがボスの娘だと考えると、辻褄の合う部分もあります。ベルモットが組織の壊滅を望んでいるような素振りを見せていることは先述した通りですが、ベルモットがボスの娘だった場合、彼女は望んで組織に所属しているわけではないということになります。ちょうど灰原や明美が宮野夫妻の娘だったがために組織の一員とさせられたのと同じですね。
ベルモットは父であるボスの凶行を止めたくて、「シルバーブレット」を待ち望んでいると考えられます。赤井でも宮野夫妻の薬でもなく、新一を頼みの綱にしているのは、新一にベルモットと同じように父を救ってほしいからなのかもしれません。ボスを殺すことに躊躇のなさそうなFBIや薬には頼れないということでしょうか。
問題は、そのことを組織のメンバーに是が非でも隠す理由が果たしてあるのかということです。ベルモットを人質にとれば組織の実権を握れると把握されてしまう可能性もあるので、「慎重主義」のボス的には隠したいという気持ちも分からなくはないですが、それにしてもどうもベルモットの反応が過剰なことは否めません。
ベルモットが握る秘密は、「ボスの娘」や「ボスの血縁者」以上に重大で、組織を揺るがしかねないものだとみるべきでしょう。
黒の組織については<漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!【黒の組織編】>の記事で考察しています。こちらもあわせてご覧ください。
考察すればするほど謎が深まるベルモット…これから先徐々に明かされていくであろう彼女の秘密から目が離せません!