数学が苦手という人に捧ぐ!物語から入門できるおすすめ5冊!

更新:2021.12.15

数学について熱く語る人にあなたは苦笑してしまいますか?それとも尊敬の眼差しを向けますか?そんな人を変人だと思ってしまう人は数学の魅力にまだ気付いていないかもしれません。今回はそんなあなたのおすすめの数学に関する本をご紹介します。

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父の言葉で語る数学の世界

数学について熱く語る人につい引いてしまう……そんな人もついつい数学の面白さに夢中になってしまう、それがこの本『数学の言葉で世界を見たら』です。

意外にもこの本の著者は大栗博司という物理学者。数学者ではないのです。東京大学のカブリ数物連携宇宙研究機構の主任研究員として宇宙の謎の解明に挑んだり、宇宙のメカニズムを解き明かす超弦理論という手法を「大栗博司の数学の予想」として独自に発展させたりしています。つまり、物理の分野から数学の分野まで多岐にわたる学問を極める研究者なのです。そんな著者が自分の娘に語りかけるように数学の奥深さ、面白さを伝えています。

 

著者
大栗 博司
出版日
2015-03-18


この本の中で紹介されている面白いエピソードの1つが「ゲーデルの不完全性定理」です。不完全性定理とは、オーストリアの数学者ゲーデルが証明した数学基礎論における重要な定理のことで、簡単に言えば「理屈だけで証明を進めていくと、正しいとも間違っているとも言えない矛盾が生じてしまう」というものです。

例えば「自分は嘘つきだ」とある人が言ったとします。それが本当だとしたら「嘘つきなのに本当の事を言った」と真実が矛盾してしまい、それが嘘だとしても「嘘つきが嘘だということは、正直者だということなのに、嘘をついた」という矛盾が生じてしまいます。これは自己言及パラドックスと呼ばれ、不完全性定理を語る際の例として広く使われているのです。

著者も自身のホームページでこの定理について「深遠な内容のため、広く誤解を受けやすい」と語っていますが、誤解を受けやすい複雑な内容だからこそ、その面白さもひとしおです。縦横無尽に語られるディープな数学の世界をぜひお楽しみ下さい。

高校生が紐解く数学の世界!

『数学ガール』は結城浩というプログラマーが書いた小説です。日坂水柯などによって漫画化もされ、英語、韓国語、中国語にも翻訳されています。原作を書いた結城浩はYukiwiki(ユーキウィキ)というソフトウェアの開発をした事でも知られ、プログラマーの世界でも名の知れた人物です。

主人公は「ぼく」。高校2年生。名前は明かされていません。中学校の頃からずっと放課後図書室で数式を展開していたという数学オタクです。

そんな「ぼく」がミルカ(高2、ぼくと一緒に数学の世界を楽しんでいる)、テトラ(高1、ぼくに数学の指導を頼む)、ユーリ(中2、ぼくのいとこ)と一緒に数学の世界を旅する形で物語は進んでいきます。

 

著者
結城 浩
出版日
2007-06-27


この本の面白さはズバリ登場人物の魅力でしょう。宿題は休み時間に終わらせて、放課後はひたすら数式を展開することに情熱を燃やしている主人公「ぼく」。クールで頭脳明晰なミルカは「ぼく」の数学の思考を共に広げていくキャラクター。余りを求める数式を表す「mod」など「ぼく」の知らない知識まで網羅しています。テトラは素直で優しく可愛らしいキャラクター。実は「ぼく」に好意を寄せています。さらに彼女は「わからない」読者の視線に立って、本の中で疑問を代弁してくれるのです。そして「ぼく」のいとこである中学校2年生のユーリ。「ぼく」のことを「おにいちゃん」と呼び、「ぼく」の出題する数学クイズからどんどん数学の面白さに惹かれていきます。ユーリも「ぼく」に憧れを抱いているのが面白いところです。

構成比は数学70%、恋愛20%、笑い5%、日常5%といったところ。それぞれのキャラクターがそれぞれの思いを抱えながら、数学という奥深い世界を探求していきます。数式の定理の中を、数の規則性の中を、数字が織り成す図形の中を飛び回る彼らは辿り着く先で、一体何を見るのでしょうか。数学の旅を彼らと一緒にぜひ堪能してみて下さい。

紙と筆だけで壮大なプロジェクトに挑んだ男の物語

『天地明察』は冲方丁が囲碁将士で天文暦学者の渋川春海の生涯を描いた小説です。2010年に本屋大賞を受賞し、同じ年の直木賞の候補にもなりました。2012年には岡田准一主演で映画化もされています。

江戸時代前期、人々は中国唐の時代に使われていた「宣明暦(せんみょうれき)」という暦を使っていました。中国唐の時代に71年間しか使われていなかったこの暦を、当時の日本人は800年以上使用していました。その為誤差が蓄積し、正確性に欠けていたのです。そこで水戸藩主徳川光圀や会津藩主保科正之の推薦を受けて、渋川春海がまだ誰もなし得たことのない日本初の国産暦の開発を任されることとなりました。

 

著者
冲方 丁
出版日
2012-05-18


物語の全体を通して渋川春海が様々な人と出会い困難にぶつかりながらも大きな目標に向かって突き進んで行く様子がみずみずしくも壮大に描かれています。登場人物の中には実在する歴史上の人物も多く、読みやすいこともこの本の魅力です。

「星は時に人を惑わせるものとされますが、それは、ひとが天の定石を誤って受け取るからです。正しく天の定石をつかめば、天理暦法いずれも誤謬無く人の手の内となり、ひいては、天地明察となりましょう」
(『天地明察』より引用)

この言葉からも困難を何度も乗り越えていけば必ず成果を手に入れることができるという渋川春海の信念が伝わってきます。何かに向かってがむしゃらに努力をしたことのある経験がある人なら、きっと渋川の強い信念に胸を打たれることでしょう。一意専心任務に励む男の物語としても、歴史上の人物に夢を膨らませる歴史物語としても、江戸時代の政治や暦についての物語としても、しっかり楽しめる作品です。

算法の達人は江戸の町娘!?

『算法少女』は児童文学作家である遠藤寛子が、江戸時代に出版された『算法少女』という算法の本をもとに子供向けにリメイクした作品です。父である千葉桃三に算法を学んでいた町娘の千葉あきが、九州の久留米藩主である有馬頼徸の娘の算法の師として抜擢されますが、ただの町娘が大名のお屋敷に師として出入りすることを良く思わない人もおり、その反対勢力にあきの算法の実力を見せつけるために、あきは算法の本を出版することを決心する……というストーリーです。

 

著者
遠藤 寛子
出版日


この本の魅力は大きく分けて3点あります。まず、文章と挿絵が魅力的です。児童書なので簡単な漢字と平仮名で書かれています。文体もシンプルで読みやすいです。また、箕田源二郎が描く江戸時代の様子が何とも言えず愛らしいです。手毬で遊ぶ着物姿の女の子、寺子屋で勉強に励むまげ姿の子供たち、縁側で休みながらも少しお怒り気味のお殿様、どれを取っても江戸の時代を懸命に生きる登場人物の悲喜交交が優しくしっかりと伝わってきます。

2点目は、主人公のあきが、ただ純粋に「楽しみ」の追求のために算法に熱中しているところです。本の中で父の桃三はあきに「壺中の天」という言葉を教えます。壺中の天とはこの世とは別世界のような楽しみを持つことで、算法も良い学校に入るためだとか、お金を稼ぐ為ではなく、ただ単純に楽しむ上品な嗜みとして行いなさい、と桃三はあきに教えるのです。当時は女が算法をやることは何の役にも立たず無駄な事だと言われていましたが、あきは手毬遊びを楽しむのと同じように、算法の世界を楽しんでいます。

3つ目のの魅力はあきを取り巻く登場人物たちです。あきの友達のけい、千代。あきに想いを寄せる鈴木彦助。あきのライバルの中根宇多。父、桃三の親友である谷素外。どの登場人物も言葉遣いや仕草まで細かく描写され、飛び出す絵本のように本を開くとそれぞれの人物が目の前に飛び込んで来るようです。絵の魅力も重なってとても生き生きと描かれています。

物語を最後まで読むと、貧しい家庭の町娘だったあきが算法を通じて大きく成長する姿を見ることが出来るでしょう。算法が好きだという気持ちを武器に江戸時代の向かい風に立ち向かい続けたあきの自信が、あきを強くしているように思えます。物語の最後であきは知人への手紙にこんな言葉をしたためています。

「わたしたちは、算法を子どもたちにおしえ、じぶんでもそれをたのしむことができますから、しあわせですね。」

やはり楽しんで行うこと、壺中の天に勝るものはないのかも知れません。

夢の中の夢のような数のレッスン

『数の悪魔』は詩人エンツェンスベルガーが描く数学ファンタジーの物語です。

数学嫌いなロバートに夢の中で数の悪魔が数学を教えていくというストーリーになっています。小学校高学年レベルの漢字で書かれており、会話は対話形式。図や簡単な図形も描かれているので、文章的にも視覚的にも理解しやすい内容になっています。

 

著者
ハンス・マグヌス エンツェンスベルガー
出版日
2000-04-01


主人公のロバートと数の悪魔のホッケル先生のほのぼのとした会話が素敵です。無限に数があるって言うけど、確かめたの?と疑問に思うロバートに対してホッケル先生が「いや、たしかめちゃいない。まず第一にそうするには時間がかかりすぎる。第二にそれは余計なことだ!」と答えます。ホッケル先生の言葉はいつも的確で奥が深いのです。

数学が苦手な読者でも、全12夜の夢の中のレッスンをロバートと一緒に受けていくことで数の不思議とその面白さを感じることができます。数は定義の中ではその存在感をはっきり示すことが出来ますが、定義から外れるとまるで深奥な宇宙の一部分のように、その存在感に影がさしてしまいます。掴めそうで掴めないもの。それが数字の真の魅力なのかも知れません。

数学がテーマの本は数学が苦手な人からすると、手に取りにくいジャンルかも知れません。しかし、思い切って数学の海に潜り、リラックスして水の流れに身体を委ねてみて下さい。ふと息継ぎのために顔を出したらそこは、いま自分のいる世界とは全く違う別世界が広がっているかも知れません。

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