“プランB” の話【荒井沙織】

更新:2021.12.15

2019年7月からスタートし、毎月更新してきた連載「おやつのじかん」ですが、今回が最終回となります。全28本、様々なことを書いてきました。自分について、ここまで表に出したことはありませんでした。その時に感じていることを、できるだけ正しく、正直に綴ってきたつもりです。そしてこの2年の連載期間に改めて、本は、あらゆる物事にヒントを与えてくれる存在だということを実感しました。長らくお付き合いくださり、本当にありがとうございました。今回は、 “プランB” について書いていきます。

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“プランB” の捉え方

これまで、この言葉についての私の捉え方は、あくまで “代替案” であり、どちらかというとそのニュアンスは “妥協策” に近い印象だった。確かに一般的にはその意味で間違っていないようなのだが、最近私は、極めて個人的な範囲で、勝手にその意味を更新してみようと試みている。

不遇の時代を過ごした人物が、あるとき一躍脚光を浴びる。そういうエピソードは、実話でもフィクションでも素敵だと感じるし、一つの道をひたすら突き進むのは美しい生き方であると、私は今もそう思っている。でもその一方で、それだけが美徳ではないということもまた、事実なのだ。

初回の記事に書いたように、私は、未知の分野も自分なりの “GO” サインを感じたら「とりあえずやってみよう!」と行動するタイプだ。だから大抵の場合、その段階ではこの先どうなっていくのか見当もついていなかったりする。にも関わらず、何事も、継続することは当然の努力と思っている節があって、続けられなかった事に対しては、大なり小なり罪悪感を持ってしまいがちだ。

側からどう見えているかは判らないが、私には案外粘り強いところもある。これはもうダメかもしれない・・・と思うところで、ギリギリ生き延びるようなことも多いのだ。だからこそ、一度始めた事に自ら区切りをつけるのが苦手だった。

それが、30代を過ごすうち、徐々に「 “プランB” を持つことは悪いことではないのかもしれない。」と思うようになった。これは、単に年齢的な心境の変化だけでなく、日々吸収するあらゆるものから学んだ結果だ。

著者
吉藤オリィ
出版日

別の可能性を大して考えること無く、終始無鉄砲に進んでいくのにはリスクがある。ゴーカートで例えるならば、ひたすら真っ直ぐアクセルを踏み続けて、コーナーも勢いのまま、壁にぶつかりながら通過するようなものだ。見応えはあるが、ダメージも大きい。

実際のところ、私のゴーカートの運転技術も、まさにこの表現通りではあったのだが、ともかく、私には選択と変化、そのための休息が必要だと自覚したのだ。

これまで私が敬遠してきた、流れを一時停止したり方向転換することは、必ずしも “妥協” や “諦め” によるものだけではなさそうだ。“変化” は、時間や経験によって自然に起こる。その変化が作用した先の選択は、 “進化” なのだ。“変化” には幾らか抵抗できたとしても、 “進化” したい気持ちの芽生えに抗うことはできない。

プランBを、 “諦め” というよりは “次のステージに進む” とか、 “自分のために、より良い選択肢を持つ” というニュアンスで肯定的に捉えられるようになることは、これからの私の、あらゆる判断を後押ししてくれるだろう。

次のステージとは

前段では、ポジティブな意味でプランBを持ちたいと書いたが、正直なところ、そもそも今の私に何か明確なプランがあるかと聞かれると、自信を持って答える事ができない。

人生設計を早いうちに描き、それを着実に築いてきた人たちからすると、30代にもなって信じられない、と軽蔑されるかもしれない。けれどここまでを見る限り、どうもわたしの人生は、良くも悪くも想像通りとはいかないようなのだ。

想定外のところに道が生まれたり、予想外の展開で手にしたチャンスが多くあって、そのたび心血を注いできた。それぞれの経験は財産だ。だからこそ、プランBに移行するのは勇気が要ることなのだ。

著者
スペンサー ジョンソン
出版日
2000-11-27

きっとこの先も、何か面白い展開が待っているはずだ。それならば、チャンスの気配を繊細に感じ取り、そこにいくつもの未来図を見出すことができる、気力と体力を蓄えておきたい。

10年ほど前、自分の中に小さな種を見つけて歩き出した私は、少し大人になった。それでもまだ小さな萌芽かもしれない。けれどいつか、自由に旅する綿毛のように、自分のためにプランBを、迷わず選べる大人になれたらいい。プランCでもプランDでも、いくらでも選択肢は持てるのだ。

そうして過ごせば、次のステージも見えてくるだろう。今はそんな心境でいる。

『hope』
幸せの兆しは、
きっと目の前に。

(撮影・詩: 荒井沙織)

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