動物などの糞を食べるコガネムシ科の昆虫、「フンコロガシ」。アフリカでは「スカラベ」と呼ばれ、神の化身としてあがめられているそうです。この記事では、そんな彼らの生態や生息地、糞を転がす理由、子育て方法などをわかりやすく解説していきます。あわせて理解を深めることができるおすすめの関連本もご紹介するので、最後までチェックしてみてください。
「糞虫」と呼ばれる、主に哺乳類の糞を食糧とするコガネムシ科の昆虫です。大きなくくりではカブトムシと同類ですが、「フンを転がす」という習性が大きな特徴になっています。
生息地はアフリカ周辺。体長は2~4cmほどで、黒光りする甲殻を身にまとっています。
糞虫の仲間には、日本に生息している「ダイコクコガネ」や「センチコガネ」もいますが、いずれも糞は転がしません。唯一、奈良県などで見られる体長3mmほどの「マメダルマコガネ」は糞を転がす習性を持ちますが、フンコロガシとは別種です。
ちなみに糞虫は、家畜のウンチをあっという間に食べてくれるため、オーストラリアでは牧場や農場のお掃除役として大量に飼育され、糞にたかるハエの退治に一役買っていました。
フンコロガシは、動物が排泄した新鮮な糞の匂いを嗅ぎつけるとすぐに飛んできて、食べたい部分をノコギリのような前足で切り取ります。ここですぐに食べはじめたいところをぐっと我慢し、後ろ足を使って適当な大きさに成形します。そして、後ろ向きに逆立ちをするような格好で玉になった糞を転がし、別の場所まで運んでいき、食事をするのです。
なぜ彼らがその場ですぐに食事をせず、別の場所まで糞を転がすかというと、確実に餌を食べるためです。
糞は動物の排泄物なので栄養分がほとんどありません。そのため大量に食べる必要があります。しかし新しい糞ができると、あちこちから糞虫が集まってきて争奪戦がはじまるため、うかうかしていると無くなってしまうのです。
その場ですぐに食べる糞虫もいますが、フンコロガシは自分が手にした糞を確実に、そして安全に食べるために別の場所へ運ぶと考えられています。
この作業は昼夜を問わずおこなわれます。しかも逆立ちの状態で。どうして彼らは道に迷うことなく糞を運ぶことができるのでしょうか。
実はここに、驚くべき生態の秘密が隠されていました。
古くから、フンコロガシは昼間は太陽の光を、夜は月の明かりを頼りに方角を定めていると考えられていましたが、2013年にスウェーデンと南アフリカの共同研究チームによる新たな研究結果が発表されました。
それによると、夜空を模擬するためにプラネタリウムに天の川を投影してフンコロガシの動きを観察したところ、道に迷うことなく運ぶことができたとのこと。しかしいくつかの明るい星だけを残し天の川を消した場合は、回り道をしてしまい時間がかかったそうです。
つまりフンコロガシは、天の川を頼りに糞を運んでいました。GPSにも負けず劣らずの能力を持ち合わせていたのです。
彼らが糞を運ぶ大きな理由のひとつに、子育てがあげられます。
オスが糞を転がす姿が求愛のサインとなり、メスが寄ってくるそう。無事にカップルになると、糞玉の上にメスが乗り、オスは子育てができる新居を探します。メスは振り落とされないようにしがみついているそうです。
新居を見つけるとオスは穴を掘って糞を埋め、その場で交尾をはじめます。その後オスはすぐに姿を消し、雌は糞の中に卵を産み落とすそう。2ヶ月ほど経って糞の中で卵がかえると、メスはわが子の姿を見ぬまま一生を終えます。
孵化した幼虫は親が用意してくれていた糞を食べて大きくなり、1年ほどすると成虫になって外に出てきます。両親の姿を見ることはなく、今度は自分でせっせと糞を転がすのです。
古代エジプトでは、太陽を崇める習慣がありました。ある時、フンコロガシが糞を転がす姿を見たエジプト人が「まるで太陽を動かす神の化身のようだ」と思ったそうです。
また太陽の象徴である糞の中から生まれてくるため、太陽神「ケプリ」の生まれ変わりだとされ、「スカラベ」と呼ばれるようになりました。「スカラベ」には「聖なる甲虫」という意味があります。
ちなみに ケプリはエジプト神話に登場し、フンコロガシの頭を持つ男性の姿をしています。
またスカラベは、古代エジプトの王の墓から発見された首飾りにも彫られていました。故人を守り、いつか蘇ることを願って祀られたと考えられています。いまでも現地では、お守りとしてスカラベをモチーフにした装飾品を見ることができるそうです。
- 著者
- ["奥本 大三郎", "海野 和男"]
- 出版日
作者の奥本大三郎は、ファーブルの『昆虫記』を完訳したことでも知られる文学者で、昆虫館の館長も務めている人物です。
本書は、図鑑といっていいほど豊富に写真を用いて、フンコロガシの生態を説明している絵本。添えられている文章はやさしく、小学生でも問題なく読むことができます。
まるで動いているような写真や、巣の断面を映した写真など、彼らの生活に寄り添った研究はファーブルの熱意を思い起こさせるもの。まだまだ不思議なことが多いフンコロガシの世界に惹きこまれていく一冊です。
- 著者
- 塚本珪一
- 出版日
- 2010-08-25
作者の塚本珪一は、長年フンコロガシの生態を調査してきた第一人者。彼自身の目で見たフィールドワークの成果が本書に収められています。
動物の排泄物を食べるフンコロガシは、実は地球の生態系を維持する重要な役割を担っているそう。しかし環境の変動などで徐々に数を減らしていて、なかには絶滅してしまっている種もいます。
彼らの生態を学びつつ、自然や生物多様性について考えられる一冊です。