ぬいぐるみのような愛らしさが人気のコアラ。日本では飼育されている動物園も少なく、実は謎の多い動物なんです。写真やお菓子でしか見たことのない方も多いのではないでしょうか。この記事では、はコアラの不思議な生態と意外な魅力をお伝えしていきます。
学名はファスコラルクトス・シネレウス。ギリシャ語で「袋を持つ灰色の熊」という意味です。体長は65~82cm、体重は4kg~15kgで、平均寿命は13~18年といわれています。生息地によって大きさや体格が異なり、雄のほうが短命です。
主な生息区域は、オーストラリア南部と東部の沿岸区域で、内陸部で姿を見ることはあまりありません。生息地が限られている背景には、18世紀の後半にオーストラリアがヨーロッパの植民地となったため、入植者によって乱獲された過去があるから。
特にスポーツハンティングや、ゴールドラッシュに敗れた人々による毛皮目的のコアラ猟が大流行し、数が激減。20世紀に入ってからオーストラリア東部に保護区域が作られ、絶滅を免れることができました。このコアラの保護活動は、自然大国であるオーストラリアが野生動物保護について考えるきっかけになったといわれています。
また、コアラの祖先は1トンを超える巨体を持つ史上最大の有袋類「ディプロトドン」であったと考えられていますが、原種と考えられる化石がいまだに発掘されていないないため、どのような進化を辿り現在の姿になったのかも不明な点が多く、生態にはまだ謎な部分が多くある動物です。
彼らは群れを作らず、単独で生活をします。縄張り意識が強く、1匹あたり数百メートル四方の縄張りを持つそう。自分の縄張りに他のコアラが入ってこようものなら歯を剥き出しにして噛みつき、引っ掻き、それでも駄目ならば組み付いて蹴り、全力で侵入者を追い出しにかかります。
繁殖期には、雌をめぐっての雄同士のみならず雌雄間でも激しい争いがあり、大人しい印象があるコアラの意外に暴力的な一面がわかるでしょう。
またストレスに非常に弱く、人間に抱かれることすら強いストレスになるそう。ストレスが溜まると元々保有しているクラミジアという細菌の影響が強まり、失明や不妊、最悪の場合は命を落とすことさえあるのです。
そのためオーストラリアでは、コアラの抱っこを禁止する条例を定めた州が増えています。
外敵から身を守るため、背が高いユーカリの木を住処として選んだのではないかと考えられています。ユーカリの葉に含まれる「シネオール」という油の匂いを嫌がる動物が多いことも手伝い、彼らにとって木の上こそが安住の地となったのです。
樹上生活をおこなう動物の多くは、木登りの際にバランスをとるために長い尻尾を持ちますが、コアラの尻尾は短いもの。これは、木の股に長時間同じ姿勢で座っていても邪魔にならないよう、退化した結果だと考えられています。
手足も樹上生活に適した特異な発達をしています。前足の5指のうち2指が手の平の側面から生えており、親指が2本あるような見た目をしています。この2本の親指と中指の間に枝を挟むことで、しっかりと樹皮にしがみつくことができるのです。
コアラは、ユーカリのみを食べて生きることができる珍しい特徴を持っていますが、実はユーカリには強い毒性をもつ「青酸」が含まれているのです。ただコアラは2メートルもの長い盲腸があり、そこに青酸を分解できる微生物がいるため、中毒にはなりません。
しかし青酸の分解にはかなりのエネルギーが必要なうえ、ユーカリから摂取できるカロリーも少ないので、コアラは体力温存のために1日に20時間前後もの睡眠をとる必要があります。
また彼らは驚くべきことに、個体によって食事の好みがあり、500種類以上もあるユーカリから匂いで自分に合うものを探し出し、その新芽を選んで食べるのです。ユーカリに含まれる青酸の量を大きな鼻で嗅ぎわけ、そこから好みの種類を選別しているとも考えられています。
ただユーカリを選別する行動については、体に負担が掛からないよう青酸の含有量が少ない葉を選んでいるという説もあり、食事に対する嗜好性はまだ解明されていない部分も多いのが現状です。
あまり知られていないかもしれませんが、有袋類の仲間であるコアラのお腹には袋があり、1円玉程度の大きさで生まれてくる未熟な赤ちゃんを袋の中で育てています。
特徴は、カンガルーなどと違い、口が下向きに開くこと。その理由は、コアラの一風変わった離乳食に関係があります。
コアラの赤ちゃんは、離乳食として母親の体内で半分消化された柔らかい糞を食べます。「パップ」と呼ばれる母親の糞には、ユーカリの中の青酸を分解する微生物が含まれていて、赤ちゃんはパップを食べることで微生物を体内に取り込み、ユーカリを消化できるようになるのです。
通常、生後6ヶ月頃まで母親の袋の中で過ごし、最初の5ヶ月は母乳を飲んで、外に出る1ヶ月前からパップを食べて青酸への耐性をつけます。袋から出た後もしばらくは母親の縄張り内で暮らし、生後1年~3年で巣立っていきます。
実は飼育費用がとてもかかる動物として有名なコアラ。とにかく餌代がかかり、その額は1匹につき年間1000万を超えるといわれています。
高額な餌代の背景には、寒暖差が激しい日本の環境下ではユーカリの栽培が難しく、厳選した土地のみでしかおこなえないこと、農薬が使えないこと、風害対策が難しいことなどの理由があります。餌代の捻出に頭を悩ませる動物園も多いそう。
2013年には名古屋の東山動物園がクラウドファンディングでユーカリ栽培の費用援助を求めており、このことからも動物園側の苦悩がうかがえるでしょう。
また大阪の天王寺動物園は、費用の問題と繁殖の難しさから、現在飼育している雄のコアラを最後にコアラの展示に見切りをつけることを発表しており、国内でコアラを見ることができる貴重な施設がひとつ減ってしまうこととなりました。
- 著者
- 村上 春樹
- 出版日
- 2004-07-01
村上春樹のシドニーオリンピック観戦記。競技のみならず、オリンピックの持つ商業的な側面や、オーストラリアという国の複雑な歴史、そこに住む人々や動物についても村上独自の視点で描いています。
コアラについてはブリーディング・センターを訪れた際の記述があり、思わずくすりとさせられる内容。そのほかカモノハシやエミューなど、さまざまな動物についての記述があり、一見シニカルですが愛情を感じさせる考察は、興味深いものばかりです。
- 著者
- メアリ マーフィ
- 出版日
しおれてしまったお気に入りのお花をとおして、ちいさいコアラちゃんが感じる「なんで?」と「知る喜び」を描いた絵本。あどけない表情や天真爛漫な様子がとても魅力的な一冊です。
小さいお子さんも感情移入がしやすい可愛いコアラが主人公なので、読み聞かせにもおすすめ。またほのぼのとした語り口と美しい色使いで描かれたイラストには、大人の方も癒されるでしょう。
コアラの可愛いイメージを存分につめこんだ作品になっています。
コアラは2018年現在、絶滅危惧種に指定されており、相次ぐ環境破壊で住むところを追われ続けています。知識を深めながら、この愛すべき存在のために人間にできることは何かを考えてみるのも良いかもしれません。