大手製薬会社の研究員が持つ科学知識を存分に活かしたミステリーを描く喜多喜久(きた よしひさ)。ライトなキャラクターと展開ですが、魅力的な謎と解決を描き出します。今回は喜多喜久のおすすめ小説を5点紹介します。
喜多喜久は2010年、『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し、翌年、『ラブ・ケミストリー』で小説家としてデビューしました。ライトノベルのような親しみやすいキャラクターを用いて、ライトな展開が多い小説家です。
喜多喜久の作風の特徴として、科学的知識の豊富さがあります。東大薬学科修士課程を修了し、現在は大手製薬会社の研究員をしています。その知識をフルに使って、他の作家にはできないトリックと解決を描き出します。
藤村は東大農学部で有機合成化学を専攻する大学院生です。どんな化合物でも合成経路が瞬時にわかるという能力を持ち、将来を嘱望されていました。しかし、研究室にやってきた新人秘書の真下に一目惚れした途端、能力を失ってしまいます。
そして、藤村の前に突然死神が現れ、こう言います。「真下と恋人になれば能力は戻る」。草食系男子の藤村は真下と恋人になり、能力を取り戻せるのでしょうか。
- 著者
- 喜多 喜久
- 出版日
- 2012-03-06
『ラブ・ケミストリー』は2011年に発表されたデビュー作です。ファンタジックなラブコメ・ミステリーで、主人公が特殊能力を持っていたり、死神が出てきたりと、個性豊かなキャラクターたちが登場します。主人公の恋路がメインとなりますが、その傍らで、死神はなぜ主人公を助けるのか?といった謎があります。
喜多喜久による本作の魅力は、理系大学生の学生生活の描写です。キムワイプやロータリーエバポレーターなど、理系の実験でおなじみのものがあちらこちらに出てきますし、研究室の雰囲気や学生同士のやり取りがとてもリアルです。理系大学生だった方は懐かしく感じるでしょうし、そうでない方は普段目にすることが少ない理系の現場を楽しむことができる喜多喜久の作品です。
四宮大学の新人事務員・七瀬舞衣の元に、次々とキャンパスで起こったトラブルが舞い込んできます。穴から見つかった化学式の暗号や、教授の髪の毛が燃える人体発火など、七瀬では解決できないものばかり。そこで解決しようと頑張っている時に出会った、理学部の准教授・沖野春彦の力を借ります。沖野は嫌々ながらも七瀬の熱意に負けて、事件に挑みます。
『化学探偵Mr.キュリー』は2013年に発表された喜多喜久の短編集です。コメディタッチなノリのミステリーで、提示された魅力的な謎を化学の知識で解決していきます。化学を扱うといっても、小難しい内容にはなっておらず、わかりやすく説明されているので、化学が苦手という方も安心して読むことができます。
- 著者
- 喜多 喜久
- 出版日
- 2013-07-23
本作の魅力は、七瀬と沖野のデコボココンビです。猪突猛進型の七瀬が沈着冷静な沖野を引っ張りまわす姿は読んでいて微笑ましくなります。二人の関係が今後進展するのか、という楽しみ方もできます。シリーズ作なので、長く読み続けられるのも魅力である、喜多喜久の作品です。
大学に入学したばかりの拓也は、美少女と出会います。彼女は日本人女性初のノーベル賞受賞者の桐島教授でした。でも、桐島教授はもう老人のはず……。実は、彼女は未知のウイルスに感染して、若返ってしまったのです。ウイルスに免疫があったために、助手に任命された拓也は、ひょんなことから大学で噂になっている吸血鬼の謎を追うことになってしまいます。
『桐島教授の研究報告書 - テロメアと吸血鬼の謎』は、2012年に発表された喜多喜久の作品です。分子生物学を題材に、大学での噂の真相を突き止めるミステリーです。
- 著者
- 喜多 喜久
- 出版日
- 2015-03-20
主人公が大学1年生ということもあり、専門的な知識も少なめで、読みやすい内容になっています。美少女のキャラ設定や描き方が上手で、キャラものとしても楽しめます。
本作の魅力は、ウイルスを主軸に置いたことです。症例が少ないウイルスを用いた犯罪は立証が難しいものです。それを、如何にして解決するのかが見どころの喜多喜久作品です。
大学の助手をしている香坂啓介は、先輩の一人娘・真奈佳を亡くなった妹の代わりに可愛がっていました。ある日、真奈佳が一人でプールに出かけて、そのままいなくなってしまいます。やがて、先輩の元に誘拐を知らせる電話がかかってきました。犯人は一体誰なのでしょうか、真奈佳は無事に戻ってくるのでしょうか。
喜多喜久の『二重螺旋の誘拐』は2013年に発表されました。香坂と、娘を誘拐された佐倉の二つの視点から物語は展開されていきます。他作品に比べれば科学的知識は少なくなっていますが、その分巧妙なプロットに力を入れて、驚きのラストを演出しています。
- 著者
- 喜多 喜久
- 出版日
- 2014-10-04
本作の魅力は、トリックの巧妙さです。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、よくあるトリックを使っています。しかし、他とは違うもの同士でのトリックとなっています。
ぜひ読んで確認してみて頂きたい、喜多喜久の一作です。
原因不明の難病に苦しむ患者の主治医の依頼を受けた創薬チームは、難病のメカニズムを解明して、新薬を創り出して患者を助けます。調査担当の薬師寺、化学合成のスペシャリストの遠藤の二人は、数々の難題に挑んでいきます。
『創薬探偵から祝福を』は2015年に刊行された喜多喜久の連作短編集です。世界に数例しかない症例に対して、普通は数年かかる創薬をたったの数週間で創り上げるスーパーチームの活躍を描きます。患者を救おうと熱意を持って創薬に挑むチームの姿には、思わず胸が熱くなります。
- 著者
- 喜多 喜久
- 出版日
- 2015-11-28
本作の魅力は、やはり創薬をテーマにしたことです。創薬をテーマにした作品が少ないということもありますが、喜多喜久の製薬会社の研究員という、本業で培ってきている知識を最も活かした作品です。深い化学的な展開を楽しむことができます。
以上、喜多喜久のおすすめ小説を5点紹介しました。気軽に科学知識に触れることができるミステリーはそう多くありませんので、ぜひ読んでみてください。