電車っぽい本たち

電車っぽい本たち

更新:2021.12.15

小学生のときの話だ。都内に住むおばあちゃんの家に泊まりにいく日、おばあちゃんとの待ち合わせ場所は決まって新宿駅だった。新宿駅のJR改札口までの道のりは長く、そして乗り換えていくおばあちゃんの家までの道のりも長く感じていた。 今ではすんなりと1人で移動してしまう長さなのに。車内なのに私には外の世界。隣に座る相方が、親からおばあちゃんに変わってからは景色も変わる。カバンの中から出てくるお菓子も変わる。 そうだ、それは間違いなく冒険の始まりだった。

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前回紹介した『犬が星見た』の列車での情景を楽しく感じたのと、1月11日にリリースするアナログ7inchに「鉄道」という曲があるので、今回は電車っぽい3冊を紹介します。

銀河には一瞬では届かない距離がある

著者
宮沢 賢治
出版日
1969-07-19
久しぶりに銀河鉄道に行く。有名な作品だけど、読むたびに気になる箇所が変わっていく。ジョバンニとカンパネルラが銀河をかける冒険。
最初に学校の先生は天の川について「そんなら何がその川の水にあたるかといいますと、それは真空という光をある速さで伝えるもので、太陽や地球もやっぱりそのなかに浮かんでいるわけです」と説明する。
光の速さっていうのは不思議な話だな、と思う。
黄色い星マークがビューンと藍色の銀河を過ぎていくのを想像する。
銀河には一瞬では届かない距離がある。光の速さで、と使うときはものすごい速さなのに。
銀河には何があるのだろう。この話はそんなことの答えでもある気がしてくる。

銀河鉄道に乗って、さまざまな生き物や風景やひとに出会う2人。
自分のしあわせは自分でしか分からない、だからその出会い一つひとつがおもしろいと思うんだ。
ジョバンニがアルバイトで活版印刷の写植を行うシーンも好き。

激怒したのは電車じゃなかった

著者
太宰 治
出版日
新学期に教科書が配布されると、ぱらぱらとめくり何となく新しいページたちを確認する。その中に走れメロスはいた。
冒頭の一文を見て「メロス、か。電車の話なんだな」と私は思ったんだ。
その後授業でこの話を読んだとき、わたしは驚く。
メロスは電車じゃなかったのだ。激怒したのは電車じゃなかった。
走っていたのは電車でなく人間だった。
そうだけど、そんな小さなことが何かを変えたり生んだりする気もする。
あと、セリヌンティウスという名前は素晴らしいと思う。

地下鉄に、なかなか乗れない

著者
レーモン・クノー
出版日
1974-10-10
タイトルとは不思議なものです。
ずっと読んでみたくて、映画も見てみたかった、ザジ。
ザジと同じく地下鉄の登場を楽しみにしているんだけど、本当に、なかなか乗れない。
タイトルやテーマが必ずしも沢山出てこなくてはいけないわけではないのかな。
それがはじまりであることは確かだけれど、そこから何にでもなれてしまうからおもしろい。

騒がしい様子がリズミカルなことばで語られるのは、どんな情景でも愛らしく感じさせた。台詞が多く展開が重なっていく作品をあまり読んだことがなかったので新鮮でした。
翻訳はもう一つ出ているらしくそれも気になる。
冒頭でのザジと叔父さんが待ち合わせるシーンは、わたしの小学生時にも似ていたがその後の展開はハチャメチャ、全然違った。
落ち着かない気持ちはある種の楽しさでもあるな!と感じた1冊。

映画でザジが着ているオレンジ色の長袖に似た服を持っていて、私はそれを着るとザジの気分になって大きく手を振りながら東京の街を歩いてしまう!

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