平成ノブシコブシ徳井「タブーだからこそやる」/『敗北からの芸人論』インタビュー【後編】

更新:2022.3.18

平成ノブシコブシの徳井健太さんが『敗北からの芸人論』を出版しました。「ダウンタウンより面白くはなれない」という思いを一度は味わいながらも自分たちのスタイルを貫く21組の芸人について、徳井さんが独自の視点から彼らの背中を押すような考察を述べた1冊になっています。 ホンシェルジュでは徳井さんの芸人考察の本質に迫りつつ、より多くの人に徳井さんと徳井さんの着目する芸人さんを応援してほしいという思いで取材を敢行。インタビュー後編では、芸人の立場からお笑いを語ることについての考えをお聞きします。

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インタビュー前編(平成ノブシコブシ徳井「売れる」若手の条件とは/『敗北からの芸人論』インタビュー【前編】)を先に読みたい方はこちらからご覧いただけます。

平成ノブシコブシ徳井「売れる」若手の条件とは/『敗北からの芸人論』インタビュー【前編】

平成ノブシコブシ徳井「売れる」若手の条件とは/『敗北からの芸人論』インタビュー【前編】

平成ノブシコブシの徳井健太さんが『敗北からの芸人論』を出版しました。「ダウンタウンより面白くはなれない」という思いを一度は味わいながらも自分たちのスタイルを貫く21組の芸人について、徳井さんが独自の視点から彼らの背中を押すような考察を述べた1冊です。 そこでホンシェルジュは、徳井さんの芸人考察の本質に迫りつつ、より多くの人に徳井さんと徳井さんの着目する芸人さんを応援してほしいという思いで取材をしました。インタビューは前半と後半に分けて公開。前編ではまず、徳井さんが「この芸人さんは売れる」という思いに至る基準や、若手芸人の主戦場である劇場についての考えをお聞きします。

 

平成ノブシコブシ徳井健太の「芸人考察」は、芸人の「感情」に寄り添うこと

 

徳井健太さん

 

ーー本作『敗北からの芸人論』のほか徳井さんは「バラエティ観るの大好き芸人(※1)」として語ったり、YouTubeでも「徳井の考察」と銘打って芸人さんの魅力を伝えたりしていますね。

「考察」といっても僕は批評をしているつもりはないんです。たとえて言うなら、ニンジンがあるとして、「このニンジンのビタミンはこうで、何科で……」とか言うのは分析だと思うけど、僕は「このニンジンこうやったらおいしくなるよ」とおすすめしたり、個人的なニンジンとの思い出を語っているだけだから、分析はできてないと思うんですよ。ただそのニンジンのことを褒めて喋ることは向いてると思います。

ーーわかりやすいたとえですね!

前に水道橋博士と喋る機会があった時、「俺も似たようなことをやってたよ」って言ってもらえました。自分では水道橋博士のほかに伊集院(光)さんぐらいしか見たことないスタイルだと思ってます。僕にあまり興味がなかったり、ちょっと距離がある人には、「批評」と誤解されやすいのかもしれません。

ーー「考察」と聞いただけでは、視聴者目線で分析しているイメージを浮かべてしまうのでしょうか。

1番視聴者に近い考察をしたのは、この本で言うと『笑っていいとも!最終回』。ダウンタウンさんも短い期間ながら出ているのを見ていたし、40代の我々世代の芸人からすると「いいとも(※2)」は出ておきたかった番組で。そのなかでも売れっ子だらけが出ていたあの最終回の「出方」については語りたくてしょうがなかったんですよ。

まず、あれだけ引き芸って言われていた松本さんが画面の端から1番デカい声でボケを連呼してて。浜田さんもあえて立ち位置をタモリさんの横に取って、松本さんが外側にいってその間に芸人を並べて、振って落として……を全部ダウンタウンさんでやってる感じ。「あれ見た?」ってみんなに言いたかった(笑)。

ーー本書でも「まるで神々の狂宴」として語られていますね。

「なにが起きていて、なんでこうなってるか」の構造を伝えたくて。それがわかるともっとバラエティを面白く見られるよ、というのを言いたかったんです。

ーー書籍でも熱く語られているので、ここはぜひ実際に読んでほしいところですね。他の章では視聴者に近い目線ではありつつも、あくまで「芸人だから言えること」がこの作品の魅力になっていると感じました。徳井さんのスタンスを言葉にするとすれば、どういう表現になると思いますか。

「これまで見てきた芸人さんの面白かった一言は?」とか「面白かった番組は?」とかよく聞かれたりするけど、あんまり覚えてないんですよ。自分が伝えたいのは「どんなふうに感情が動いたのか」なんだと思うんですよね。自分たちも「この時うまいひとことを言えたな」とか、「この時はうまくいかなかったな」みたいな瞬間を味わってきて。

コンビのどちらかが売れてテレビに出始めたコンビを見ると、「じゃない方」をつい見てしまう。番組の終わり際、時間ないから黙っておこうって思いがちだけど、コンビの「じゃない方」がエンディング残り何秒とかにガッと踏み込んでボケてきたりすると、ウケたとかすべったとかじゃなくて勝手に感動してしまう。出る必要のない瞬間に敢えて踏み込んで頑張ったんだろうな、と。その人の心が動いた瞬間に立ち会ったようで、「いいなあ」と思ったのを言いたいというだけです。

ーー芸人さんの生き様自体に感じるものがあるということですね。

著者
徳井 健太
出版日

 

「芸人について語る芸人」という、劇薬でいたい

 

ーーさて、ここからは「芸人が芸人について語る」ことについてお話をお聞きしたいと思います。

大阪の若手芸人のほうが、ちっちゃい頃からお笑いの話をしてきていると思うんですよ。「あいつおもんない」とかも口に出せる文化がある。見取り図の盛山とか、いかにもお笑いのこと喋るのを嫌いそうな雰囲気があるけど、「徳井さんのコラム読んでます!」と直接会った時に言ってくれたり。

東京の方が、「お笑い芸人がお笑いのこと言うな」という風潮があるかもしれません。

ーー徳井さんの活動に対して「誰が誰に何を言うてんねん」という意見もあるとのことですが、『ゴッドタン』の「お笑いを存分に語れるバー」という企画(※3)や、コロナ禍で芸人がYoutubeをやることが当たり前になったことによって、お笑いを語りやすくなった面はありますか?

求められることは多いですよね。ただ僕としては、語りづらいからあえて語ってたっていうだけで。タブーだからやってたので、あんまりこれがポピュラーになるともう僕がやってることが「ボケ」じゃなくなるのがいやですね。劇薬でいたいので。

「否定する人が多いなかで僕はほめる」、というつもりでいました。みんながみんなほめ出したら、今度は毒舌にいくしかなくなっちゃう(笑)。

ーーそうなると本心ではないですよね?

本心ではないですよね。そもそも僕が芸人をほめることには、1割2割はボケという意味もあるので。やっちゃいけないことをやっちゃってます、っていうつもりは一応あります。

たとえば千鳥さんも、本当は言われたくないと思うんですよ、「いい人だ!」なんて。千鳥さんは「柄が悪いのにたまにあったかいことをする」、っていうボケでやってるのに。千鳥さんは優しくて面白いから怒らないでいてくれていますけど、違う人だったら怒ってくる可能性ありますからね。「本当は裏側を語るのはよくない」となっている方が、僕としてはいいですね。

ーーとても納得がいきました。千鳥さんの他に、取り上げた芸人さん本人からどんな反応がありましたか?

先輩方はみんな照れてましたね。全然いいよいいよ、って感じ。事実の修正以外はNGなしで、「これは書いてほしくない」というのはなかったです。後輩たちは……ニューヨークやかまいたちは「ありがとうございました」って感じでしたかね。特に屋敷はお笑い大好きなので、「むしろ書いてもらえてありがたいです」というようなリアクションでした。

距離感の近いダイアン、オードリー、ハライチとかは、どう思ってるかわからないです(笑)。文句言うのもダサいし、ありがとうって言うのも恥ずかしいし……、一旦ステイって感じなんじゃないですか。

ーー徳井さん自身が他の芸人さんから褒められたらどうですか?

まあたしかに同じようなリアクションをとるでしょうね。ありがとうって言えないかもしれないです、恥ずかしくて。

ーー「この人になら書かれてもいい」という人はいますか?

あまりいないですね……自分ぐらい嫉妬もなくナチュラルに、お笑いを楽しんで見てる人って見たことないですからね。だから他ジャンルの人になるんじゃないですか。音楽とか、文芸界とか。

ーー取り上げた芸人さんのファンからはどんな反応がありましたか?

「ありがとうございます」と言われることがありますね。でもたとえばEXITの場合は、2人の1番好きなところとして児童養護と福祉についての側面を書いたんですけど、ナイーブな問題でもあるので、書き方間違えるとEXITに迷惑かかっちゃうなっていうのもありました。

EXITのファンにはワーキャーのファンと、内面が好きなファンが半々いるとしたら、ワーキャーのファンに刺さる内容ではもしかしたらなかったかもしれません。彼らは歌も出していて、歌とか踊りとかをあえてやることで、今のお笑い界に一石を投じようとしている。僕はそんなEXITのスピリッツは好きだけど、EXITの歌とか踊りそのものが好きなわけじゃないから。でもワーキャーの人たちはその歌とかが単に好きな人もいると思うので。その人たちからしたら「徳井なに書いてんの?」と思ったかもしれないですけどね。

ーーなるほど、紙一重ですね。私の調べた限りでは、喜ぶファンの反応も見かけましたよ。エゴサーチはあまりしないのですか。

エゴサはするんですけど、嫌なことを書いている人をミュートしちゃうんで、見られないんですよね。僕に対してネガティブなことを書いてる人については、自分のTwitterからは見られないって環境を、10年ぐらいかけて作り上げてきたので。心地のよい世界にするために……(笑)。

ーー逆に悪い意見も積極的に見るタイプの芸人さんもいると思いますが、それをしないということが徳井さんの芸人生活を長く続けるための秘訣になっているのでしょうか。

そうでしょうね。それができる人は自信があるんでしょうね。僕はやっぱり自信がないので、100人にほめられても、1人のコメントで鈍っちゃうんですよ。生配信のコメントでも「面白い!」と書かれていると調子が上がるけど、「黙れ徳井」って1件でも見ちゃうとテンションが下がってボケ言えなくなるんだったら見ない方がいいかなと。本当はそういうネガティブなコメントも拾ってツッコミを入れられる方がいいんだろうけど、僕は向いていないから見ないですね。

ーーそういった気持ちがあるからこそ、まだ売れていない芸人さんにも寄り添えるのでしょうか。

そうかもしれないですね。ちょっと心折れかけてたり、困ってたり悩んでたりしてるコンビに立ち上がってほしいなと思いますね。

ーーでは最後に、徳井さんが売れてほしいと考えている芸人さんたちと、そして読者にそれぞれ一言ずつお願いいたします!

売れてる人たちは誰でも、すごくお世話になった先輩がいると思うので。面白いのに売れてない人は、そういう先輩に巡り合ってないだけだと思います。巡り合うまで頑張ってください。

劇場で面白い人がテレビの世界でうまくいかないのもまた、僕は面白いと思うんですよね。そこで諦める人もいれば、売れる方向に合わせることで成功していった人もいて。その成功した人たちが劇場に戻ってきたらやっぱり面白かった、というパターンもある。南海キャンディーズの山ちゃんとかその典型だと思いますけど。だから本来は劇場から追っかけていった方がより楽しめるとは思うんですよね。

最初からテレビでその芸人を知った人は、劇場に行ったらもっと面白いんだって思える。でも劇場から見てる人は、劇場で面白くてテレビで売れて「あれ?」と思っても劇場に戻ってきたら「やっぱり面白いんだ」って3段階楽しめるので。劇場から見るのはオススメです、やっぱりね。

ーー劇場に足を運ぶことが、芸人さんの応援にもつながるのですね。ありがとうございました。


『敗北からの芸人論』を試し読みしてみたい方は、デイリー新潮をご覧ください。

※1 『アメトーーク!』の企画、2020年放送

※2 『森田一義アワー 笑っていいとも!』が正式タイトル。2014年放送終了

※3 東京03飯塚を中心に、他芸人のネタの面白さやコント設定の秀逸さなどについて語るという企画、2019年初回放送

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