連城三紀彦おすすめ文庫小説7選!多彩な文章で魅せる!

更新:2021.12.15

流れるような美しい表現方法を用いることでも有名な連城三紀彦。彼の描いた美しいミステリー作品を紹介します!

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恋愛ミステリーの名手・連城三紀彦

連城三紀彦は愛知県名古屋市の出身。愛知県立旭丘高校、早稲田大学政治経済学部を卒業しています。1977年、幻影城新人賞を『変調二人羽織』で受賞し、この作品でデビューを飾りました。ミステリーだけでなく、ミステリーの要素を盛り込んだ恋愛小説なども得意とした作家です。また、父の実家が寺だったため、僧侶としての一面もありました。

圧倒的な美を手に入れた女性の悲しくも美しい変奏曲

『私という名の変奏曲』の主人公の名は美織レイ子。彼女は5年前の交通事故で顔にケガを負いましたが、天才外科医の手によって絶世の美女に生まれ変わりました。その美貌で世界的なトップモデルまでのし上がった彼女。しかし彼女は、何者かによって毒殺されてしまいます。

警察はひとりの男に疑いをかけます。男はレイ子の元婚約者の医師でした。しかし男は「彼女を殺したいと思っていた人間は7人いる」と告げ、警察から逃亡します。

レイ子は、自身を陥れた7人の男女を恨んでいました。レイ子は自分のうらむ7人の弱みをそれぞれ握り、脅迫していました。脅迫をされた彼、彼女らもまた、レイ子のことを憎むようになったのです。浮かび上がった7人の容疑者は、全員が「美織レイ子は自分が殺した」と認め……。
 

著者
連城 三紀彦
出版日
2014-04-10

圧倒的な美貌と地位を手に入れながらも、悪魔的で残酷な美女・レイ子。彼女の性格の悪さには驚くかもしれませんが、まわりを取り囲むのは、自身を利用しようと考える人ばかり……

そんなどこを見渡しても悪意に包まれている本作は、連城作品の最高峰としても挙げられる作品です。非日常的な悪意を読んで実感してみてはいかかでしょうか。
 

夫婦の形とは…?様々な愛の形を描いた短編集

主人公の郷子は出版社で働きながら、小学生の子供を育てています。結婚して10年になる夫・将一との仲も悪くなく、平凡な日常を過ごしていました。しかし将一が突然郷子に離婚を申し出ます。なんと将一は、郷子以外に好きな人ができてしまったのです。

相手は郷子と結婚する前に付き合っていた江津子という女性でした。彼女は白血病で余命わずかで、頼れる人は将一しかいない。そんな話を聞いても納得がいかず、居ても立ってもいられなくなった郷子は、なんと直接江津子の入院する病院へ押しかけます。しかし自身の正体を隠して江津子と接するうち、その感情が次第に変化してゆき……。
 

著者
連城 三紀彦
出版日

女性からすると、ただただ夫・将一に腹が立ち「なんて自分勝手なんだ!」という怒りの気持ちが芽生えるかもしれません。しかし、妻・郷子の振る舞いにも疑問が残る場面があります。ぜひ男性にも読んでいただき、女性と男性の感じ方の違いを照らし合わせてみても面白いはずです。

美しい花々と文章に彩られた、傑作短編集

「藤、桔梗、桐、蓮、菖蒲」5つの花になぞらえて進む事件を描いた短編集。この短編集の表題作『戻り川心中』を紹介します。

大正時代の天才歌人・苑田岳葉。2度の心中未遂、そして2人の女性を死に追いやります。苑田はその事件をそれぞれ「情歌」「蘇生」として歌に詠み、自ら命を絶ちます。苑田の友人である主人公は、苑田の死、そして2つの心中事件に興味を抱き、調査にのり出しました。
 

著者
連城 三紀彦
出版日

時代背景は大正~昭和初期のあたりですが、心中事件という内容に、戦争が近づいてくる"時代"そのものの暗さが、更なる影を落としています。

表題作以外の作品も花のようにはかない恋愛模様を描いているので、一冊読み終わると胸がじーんとすること間違いなしです。
 

問われる家族の形・・・重厚な人間ドラマを描く

『白光』は、ひとりの少女の死にまつわる家族の愛憎を描いた作品です。夫と妻、姉、祖父、そして浮気相手の男・・・登場人物の全員に、少女を殺害する動機がありました。幼い少女を庭に埋めて殺害するという残忍な手口。なぜ、少女は殺されることになってしまったのか……。

著者
連城 三紀彦
出版日
2008-08-07

本作は、遺された家族たちそれぞれの視点で展開されます。「少女が殺された」という痛ましい事件に始まり、次第に遺された家族同士の人間模様も浮き彫りになっていきます。家族を疑ったり、秘密を持ったり、自身の保身に走ったり……ある意味とても人間くさい行動の数々。それぞれが持つうしろめたさや疑惑といったマイナスの感情が、作品全体にどんよりと重くのしかかっています。

深い絆でつながっていると思いがちな"家族"という集団がゆっくりと崩壊していく過程が、連城三紀彦の美しい筆致で描かれている作品です。
 

美しく緻密な誘拐劇に、あなたはきっと戦慄する

『造花の密』は歯科医の夫と離婚をし、実家に戻り息子の圭太を育てる香奈子が主人公。ある日スーパーで旧友と偶然会い立ち話をしていると、圭太の姿が見えないことに気づきました。"誘拐"の2文字が頭をよぎったものの、圭太は無事に発見されますが、彼は「お父さん」と名乗る人物に、車で誘拐されかけていたのです。

その1か月後、圭太を預けている幼稚園から「圭太君がハチに刺された」と連絡が入り、香奈子は幼稚園へと向かいました。しかし幼稚園に圭太の姿はすでにありません。ここで香奈子は、圭太が今度は誘拐されたことを知ります。身代金目的の誘拐かと思いきや、「お金は要求しない」と妙なことを言い出す犯人。果たして誘拐の目的は一体……?
 

著者
連城 三紀彦
出版日
2010-11-01

単なる幼児の誘拐事件だと思って読み進めるうち、それは大きな事件の始まりでしかないことに気が付きます。連城三紀彦のミステリー作家としての実力を、存分に感じることができるでしょう。

情景豊かな美しい文章で綴るミステリー作品集

表題作「変調二人羽織」をはじめ、「ある東京の扉」「依子の日記」など、珠玉のミステリーが収録された傑作小説集です。

「変調二人羽織」は、落語家・伊呂八亭破鶴が、自身最後の舞台で謎の死を遂げるお話。伊呂八亭破鶴の最後の舞台の観客たち。彼らは皆、破鶴に恨みを持っていました。破鶴の死は、自殺か殺人か、そして消えた凶器の行方は……。

こちらの作品は落語家が登場するだけあり、ウィットがきいていてオチのある、大変粋な作品になっています。文章がとても美しく、ツヤっぽいのですが、最後に驚きが待っています。これぞ連城三紀彦という雰囲気を持った作品です。

著者
連城 三紀彦
出版日
2010-01-13

「依子の日記」は、山奥の静かな一軒家で暮らしはじめた作家とその妻のお話。ひっそりと静かな生活を送っていた夫婦のもとを、ある日編集者を名乗る女が訪ねてきます。女の登場により、変化していく夫婦の生活。女は一体何者なのか。そして夫婦の迎える結末は……。

この作品は、作家の妻「依子」の日記として語られる物語です。謎の女編集者によって徐々に夫婦の暮らしが壊れていきます。その不気味さと、二転三転するストーリー展開に目が離せません。女の恐ろしさ、そして悲しさが、情景豊かな文章で綴られています。読んでいて背筋がゾっとする愛憎ミステリーです。

収録されたどの作品も、「文章の美しさ」や「情景の美しさ」が感じられ、そして最後には、驚愕の結末が待っています。美しい文章をうっとりと読みながら、最後に驚かされる、連城三紀彦ならではの技をご堪能ください。

数々の傑作を残した連城三紀彦からの、最後の謎

連城三紀彦の最後の短編集、『小さな異邦人』。今回は表題作の『小さな異邦人』を中心に紹介します。

母ひとりと、高校2年生から小学校2年生まで子供8人が暮らす貧乏大家族・柳沢家。ある日1本の脅迫電話が掛かってきます。「子供を預かった。身代金として3千万円を用意しろ」という内容でした。しかし不思議なことに子供たちは8人全員が家にいて、誰も誘拐されていないのです。間違い電話かと思いきや、犯人は以前柳沢家が大家族を紹介する番組に出演していたことを知っていたため、どうやら間違いでもなさそうで……。
 

著者
連城 三紀彦
出版日
2016-08-04

同じ短編集に収録された他の作品は、不倫や離婚、心中など「恋愛ミステリーの名手」と言われる連城三紀彦が得意とする男女の繊細さが描かれています。男女の決して明るくない恋愛模様の作品が並ぶ中、最後に収録された表題作の「小さな異邦人」は、珍しく明るいタッチのコミカルな語り口です。曇り空からパッと太陽がのぞくような、"陰"と"陽"がきっぱりと分かれた短編集となっております。

惜しくも2013年に亡くなった筆者。しかし遺された数多くの名作たちは色褪せることなく愛され続けており、またドラマや映画などの映像作品となった作品も多数あります。流れるような美しい文体に乗せられたミステリーや恋愛模様は、本が好きな人であればジャンルも関係なく楽しめるでしょう。

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