誰でも1つの本棚から本屋さんになれる「シェア型書店」という場をご存知でしょうか。店に並んだ棚の1つを個人が「借りる」ことで、そこに好きな本を並べて売ることができるという仕組み。本の新旧やジャンルを問わずそれぞれの棚主の個性が光る選書を楽しむことができるのは、訪れる人にとっても魅力です。 そこでホンシェルジュでは、その「シェア型書店の棚主」に本をおすすめしてもらう連載企画をスタート!トップバッターは、江古田にある「ぼっとう&よはく」の店主であり自身の棚も管理する、akkoさんです。(編集者)
初めまして。練馬区の江古田というところでぼっとう&よはくというスペース運営をしています。akkoです。
10坪ほどのスペース内に最近、流行りの一棚本屋も併設しています。
全くキラキラしていない当スペースですが、棚主さんたちは、みんなとてもあたたかい人たちばかりで自分の想いを持っています。
そんな、ぼっとう&よはく一棚本屋の棚主さんによるリレーコラム
スタートします!!
前置きが長くなりましたが、今回、トップバッターを務めます、【ぼっとう店主akko】のお薦め本は、こちらの三冊です。
『古くてあたらしい仕事』
『あしたから出版社』
『父と子の絆』
いずれも、既に一人出版社界隈では、超有名な夏葉社の島田潤一郎さんの著作。本や起業という文脈でない方々にも読んで欲しい、家族のお話でもある三部作だと私は、勝手に思っています。
- 著者
- 島田 潤一郎
- 出版日
ある日の私のアマゾンのお薦め本にひょっこり現れたのが、このグッと惹きつけられる表紙の『古くてあたらしい仕事』だった。
いつもは、割と素通りするアマゾンのお薦め本。でもこの時は、何だか直感的に「この本を買わねば!」と思った。
そして届いたのは、手のひらに収まり、手にとった時にとてもしっくりくる大きさ。
品が良く少し不思議な表紙に魅了されて、一気に読み、途中、何度も何度も胸が詰まる思いをした。
本の中で島田さんは、就職をしないで、小説家を目指し、恋をしたり、転職をしても長くつづかなかったり、就職活動で何十社も書類選考で落ちたりする20代を過ごす。
氷河期世代のモラトリアムで上手くいかない人生トップランナーのようなかっこ悪さだ。それでも、いつも必死に真面目に誠実に生きていこうとしている姿は、とても胸が締め付けられる。
ただ、一生懸命に普通に仕事をしたいだけなのに、どうしてそんな簡単な事さえ叶わないのだろう?と。
その間に何人もの大切な人が亡くなる。
上手くいかない人生と若くして亡くなる恩師や友人たち。
大好きな従兄弟。
そして、大事な人のために始める仕事。
子供の頃から本屋と本にいつも励まされていた島田さんが本を作る仕事を唐突に始める事になる。それを突き動かす事の中で私は、ある事に気付いた。
この「大切な人のために出版社を作って、本をプレゼントしたい!」という型破りな行為ができるのも、これがあるからなんだなぁということ。
それは、『あしたから出版社』を読むとさらに如実に感じられた。
- 著者
- 島田 潤一郎
- 出版日
『あしたから出版社』の中で特に印象に残った場面。香港で書店とカフェを経営しているお父さんに出版社を立ち上げる話しをしにいく箇所がある。
久しぶりに会った、そして前よりすこし年老いた父は、スターバックスにぼくを誘い、あっさり「やればいいじゃない」といった。
「なんともならなければ、応援するよ」「本当にいいの?」というと、「いい」という。
「お金も貸してほしいってことだよ?」聞くと、「わかってる」という。
(『あしたから出版社』より引用)
ここを読んで「こんな理解ある父親いるの?」とびっくりしたが、『古くてあたらしい仕事』のあとがきを思い出し、そしてその後に出版する事になる『父と子の絆』を読む事で全て、腑に落ちた。
ぼくが息子に望むのは、立身出世ではなく、社会的な成功でもなく、身の回りのひとを助けられる人になってほしいということだ。学校に行き、落ち込んでいるクラスメートがいたら、その人のそばにいてほしい。会社に行き、なにかに思い悩んでいる人がいたら、その人を食事に誘ってあげてほしい。そういう大人になってほしい。
(『父と子の絆』あとがきより引用)
- 著者
- ["島田潤一郎", "髙橋将貴"]
- 出版日
『父と子の絆』を読むとわかるのだが、きっと島田家の子育ては、通常よりちょっと大変な子育てだったと思う。
そう、世に言うイージーモードではない、ハードモード。
なかなか寝てくれない子育てほど大変な事は、ない。
幼稚園や学校を普通に楽しく通う子育てとは、ちょっぴり違う子育て。
そんな中でも寝られなかった最初の三ヶ月は、地獄のような大変さで息子くんを慈しむ余裕は、なかったようだ。
しかしそれ以降、「アー」と言ってる息子くんを、真っ暗闇の中でハイハイをしてふすまを叩いたり、いつも同じ三台の車のおもちゃで夢中に遊んだりしている息子くんを常に温かく見守っている。
自分と違う小さな生き物を見て、時に不思議に思い、時に甘やかしすぎでは?と思いながらも、おもちゃを買い、お菓子を買い、たくさんのトミカを買う。
その眼差しは、いつもしっかりと息子くん、そうくんに注がれている。
「みることは、愛なんだな」とつくづく思う。
子供ができる事により、経済的な困難を忌避したいと仕事により力を注ぐ事になりがちなのが父親だ。
でも島田さんは、違った。たまたま一人出版社という普通のお父さんよりも時間が自由になる職業という事もあるだろうが、仕事を時短し、たくさんの時間を子供達と一緒に過ごそうと、妻の負担を軽くしようとするその様は、まさに古くて新しい父と子の絆を感じさせる。
どんなに生きづらくて、困難な人生でもそこで優しく、どんな時にも応援してくれる保護者がいることが、幾つになっても子供の人生を明るく照らすのだ。
どんな無謀なことでも何とかやっていける力になるのだ。
だから、私たち保護者は、自分の力をもう少し信じていいのだと思う。
どんなに大きくなってしまっても、子供を信じて、応援することで、立ち止まってしまった子供もやり直すことができるのだと。
この三冊を読んで、そんな事を感じた。
追記;登場する、お母さんや叔母さん、叔父さんそして、奥さんもみんな素敵なので、ぜひ、三冊とも読んで欲しいです。
練馬区江古田の「ぼっとう&よはく」というスペース内に併設する一棚本屋。
スペースにて不登校の親の会を開いたりしていたため、棚主さんには本好きというより社会課題に興味のある方が多い印象です。 棚主さんは、緩く仲良し。
「普通が苦手な方にもあたたかいスペース」をスローガンに掲げています。棚主さん募集中!!
スペース内には、店主の私物棚も有り、閲覧可能。
一棚本屋営業の日:水/土/日/祝 13:00~17:00
コワーキングスペース:月/木/金 12:00~17:30
詳細はカレンダーでチェックできます。
西武池袋線 江古田駅 南口より徒歩3分/都営大江戸線 新江古田駅 A2出口より徒歩6分
東京都練馬区旭丘1丁目 65-18 旭丘ダイヤモンドビル 2F
営業最新の情報は、ぼっとう&よはく公式ホームページをご覧ください!
文中でご紹介した島田潤一郎さんの『あしたから出版社』は、2022年6月に文庫版も出版されたばかり。文庫化を記念して、島田さんによるトークイベント「あしたから出版社のころ」も開催されますので、興味のある方は青山ブックセンターのHPをチェックしてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 島田 潤一郎
- 出版日
シェア書店からのおすそわけ
誰でも1つの本棚から本屋さんになれる「シェア型書店」という場をご存知でしょうか。店に並んだ棚の1つを個人が「借りる」ことで、そこに好きな本を並べて売ることができるという仕組み。本の新旧やジャンルを問わずそれぞれの棚主の個性が光る選書を楽しむことができるのは、訪れる人にとっても魅力です。 そこでホンシェルジュでは、その「シェア型書店の棚主」に本をおすすめしてもらう連載企画をスタート!リレー形式で、様々な思いを抱える方へ届けたい本を語っていただきます。