年に一度、3月に発表される「マンガ大賞」。2008年の第一回からこれまで、多くの作品が受賞してきました。選ばれた漫画はどれも面白いに違いない。でも、どれから読んだらいいの…? そんなあなたに、おすすめの5作をランキング形式でご紹介します!
この物語は主人公・八軒勇吾が、札幌の私立中学から大蝦夷農業高等学校(通称・エゾノー)に進学したところから始まります。流石農業高校、クラスメイトは農場や養鶏場の跡取り息子、獣医師を目指す人、チーズが大好きな人と、それぞれが夢や目的を持った個性的な面々がズラリ。
実は受験に失敗し、家に居づらくなって寮のあるこの学校を選んだ勇吾。それだけに、彼にはこのエゾノーは肩身の狭い場所でした。勉強から逃げてきた自分のような将来を何も考えてない人間が居ても良いのだろうかと、勇吾は悩みます。
しかし、なんと相手は豚、牛、馬の家畜たち! そしてそんな家畜を愛してやまない濃すぎる人たちがみんな悩みなんて一切お構いなしに勇吾を振り回していきます。動物たちの世話をしたり、面倒ごとを押し付けられたりと強烈な人たちに関わっていくうちに、勇吾は過去の自分と将来への不安と向き合うように…
- 著者
- 荒川 弘
- 出版日
- 2011-07-15
しかし、豚、牛、馬などの家畜たちを愛してやまない、濃すぎる人たちが、悩みなんて一切お構いなしに勇吾を振り回していきます。動物たちの世話をしたり、面倒ごとを押し付けられたりと強烈な人たちに関わっていくうちに、勇吾は過去の自分と将来への不安と向き合うように。
学生のうちは将来なんてわからないもの。クラスメイトたちのようにはっきりと将来の目標が決まっている人なんてほんの一握りで、勇吾のように悩む人の方が大多数ではないでしょうか。勇吾が目標を見つけ、仲間に認められ、一歩一歩前に進んでいく姿は、漠然とした未来に不安を持っている人に勇気を与えてくれるに違いありません。
余談ですが、畜産が題材なだけあり、チーズにソーセージにピザにと、読んでいるととんでもなくお腹が空いてきます。美味しいもの好きにも堪らない一冊です。
物語は、鎌倉に住む幸田三姉妹の元に、離婚して出ていった父親の訃報が届く場面から始まります。一言で「離婚」と言っても、その原因は父の不倫。姉妹は各々、複雑な気持ちで葬儀に参列し、そこで、彼女らは腹違いの妹のすずと出会います。
中学生だというすずは、年齢の割に大人びている少女でした。すずは、父と離婚の原因となった不倫相手の娘でした。すずの母は亡くなり、今の母親はさらに次の再婚相手の継母です。泣き崩れる継母の隣で、式の最中でも涙を見せなかったすずですが、長女の幸は、彼女が悲しい気持ちを必死で押し込めているのを見抜き…
- 著者
- 吉田 秋生
- 出版日
- 2007-04-26
この物語は、ちょっと変わった四姉妹の、穏やかな日常が描かれた作品です。登場人物一人一人は、ごく普通の人たちです。ですが、それぞれに心の重しを内に秘めています。すずは、周りの人たちの「悪意のない同情」に傷付けられてきました。世間一般で見れば、彼女の境遇は「可哀想な少女」なのでしょう。
でもそれはすずにとっては大きなお世話。同情なんて知ったこっちゃない。だって、自分が不幸だと、可哀想だと思ったことなんかないのです。「可哀想」の言葉は、彼女にとって的外れでしかありません。この、すずの心の吐露が胸に刺さる人も多いのではないでしょうか。
悪意のない同情に憤る人。周りのことばかりで自分のことが見えなくなる人。それぞれ違う人が、お互いに思い合い、思い合うが故にぶつかったり、傷付いたりする。これは漫画の世界の話だけではなく、きっと読んでいるこちらにも少なからず日常にあること。一ページ一ページ読み進めるごとに、それぞれの登場人物に感情移入してしまう穏やかな魅力のある一作です。
主人公・綾瀬千早は大雑把でさっぱりとした性格の女の子。そんな彼女はひょんなことをきっかけに、転校生である綿谷新の家にお邪魔することになります。学校では無口で敬遠されている新。そんな彼には夢がありました。「かるたで日本一になったら、世界で一番ってことだろう?」
そう、新の夢は、競技かるたで名人になり、日本一になること。
最初は「たかがかるただし」と舐めてかかっていた千早は、新のかるたの実力とかるたへの真剣さに圧倒され、やがて自分もかるたをやりたい、と思うようになります。
- 著者
- 末次 由紀
- 出版日
- 2008-05-13
この物語は、とにかく熱くなれます。「題材はあの、かるた、でしょう?」と甘く見ることなかれ。ここでのかるたは「競技かるた」。判断力と、瞬発力と、綿密な作戦が求められるスポーツです。お正月ののんびりと家族でやるかるたを想像した人は、さぞやびっくりされるはず。
物語の展開は王道少女漫画でありながら、なんとびっくり王道少年漫画の要素も兼ね備えています。つまりは、女性だけではなく、熱い話が大好きな男性諸君にも楽しめてしまうのというわけなのです。
少女漫画でありながら、少年漫画の面白さも味わえるこの一作。かるたに興味がなくても、一巻から夢中になれることは間違いなしです。
この物語は、作者である東村アキコが漫画家になるまでを描いた自伝エッセイです。どうして絵を描き始めたのか、どうして絵で食べていくことを決めたか、東村アキコ自身がどういう風に「絵」と向き合ってきたかが描かれています。
一番の重要人物は、東村アキコ本人ではなく、彼女が通った絵画教室の先生である日高健三先生。この先生がとんでもなくスパルタ。まずは小手調べに自分は天才だと思っていたアキコの「肥大化した自意識」を竹刀でバキバキにへし折ります。ちょっと口答えをすれば、顔面わしづかみのアイアンクロ―。花の女子高生でも幼児でもおじいちゃんでも老若男女に容赦なく、無茶苦茶で、面白いのです。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2012-07-25
散々こちらを笑わせておいて、その合間合間に染み込むように、アキコの先生への思いが挟まれています。暖かく思い出を懐かしむといったものではなく、それは、日高先生への懺悔の気持ち。無茶苦茶な指導をする先生でしたが、その一つ一つに意味があり、愛情が込められていました。
その愛情を、アキコは自分の身勝手な理由で、罪悪感を覚えながらも拒否してしまいます。そして「東村アキコ」となった今になって、自分の行いの意味に気付き、後悔しているのです。先生が滅茶苦茶で面白い分、このアキコの自責の念とのギャップで切なくて泣けてきます。
基本的には笑えるギャグ漫画ですが、笑いの中に切なさがこめられていて、それがなんとも心に染みてくるのです。とても味わい深い作品です。
『かくかくしかじか』については<『かくかくしかじか』の名言全巻ネタバレ紹介!東村アキコと日高先生の絆とは>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
主人公・桐山零は十七歳のプロ棋士です。それも、史上五人目となる中学生でプロの将棋の棋士となった青年。周りからは天才と呼ばれ一目置かれていました。しかし、「天才」の過去は華々しいものではありませんでした。
事故で家族を亡くし、自分の才能のために新たに迎え入れてくれた家族を失くし、学校では孤立し、将棋も伸び悩んでいる。零の境遇はなんとも八方塞がりです。家族を二度も失った零。ですがある日、ひょんなことから川本一家と出会います。
優しいお姉さんの長女・あかり。元気溌剌な次女・ひなた。可愛い家族のアイドルの三女・モモ。川本家の人々の明るく、暖かく、みんなで助け合う姿は、零にとっては理想の家族像だったのでしょう。最初は遠慮がちだった彼も、徐々に心を許していき…
- 著者
- 羽海野 チカ
- 出版日
- 2008-02-22
天才と言っても、将棋の世界から出ればただの十七歳の男の子です。家族の温かさだって、友達との馬鹿騒ぎだってほしい年齢です。でも、プロ棋士と言う肩書が、自分が力を持っていたことでお世話になった一家をギスギスさせてしまったという後悔の念が、零の本音を押し込めてしまうのです。それが、なんとももどかしくて切なく、細やかな描写でこちらの心を刺していきます。
それを川本家の人々や自称零の「心友」・二階堂を始めとした個性的な棋士たちが、彼を思いやり、彼を助けようとする様はこちらまで嬉しくなります。主人公は零ですが、棋士の面々に焦点を当てた話もあり、それぞれの苦悩や喜びを垣間見ることもできます。
周りの人たちの温かさで心の鎧を脱いでいった零が、普通の「十七歳の男の子」の顔を覗かせ、時に暴走気味に奮闘する姿。是非手に取っていただきたい、泣いて笑える心温まる一作です。
さて、以上おすすめの5作、いかがでしたでしょうか。マンガ大賞で話題になった作品は他にもまだまだあります。この記事が、マンガ大賞受賞作を読むきっかけになれば幸いです。