5分でわかるウラジミール・ナボコフ『ロリータ』解説 ロリコンは罪なのか?

更新:2022.7.27

あなたは幼い少女に欲情する、ロリコンをどう思いますか? 多様性が謳われる世の中においてもなお、ロリコンはタブー視されています。気持ち悪い、ありえないと生理的嫌悪を抱く読者も多いのではないでしょうか。 しかし生まれ持った嗜好や性癖は、自分の意志で矯正できるものでもありません。今回はロリコンを主人公にした名作文学、ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』のあらすじや魅力を解説していきます。

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『ロリータ』の簡単なあらすじと登場人物紹介

著者
ウラジーミル ナボコフ
出版日
2006-10-30

『ロリータ』は主人公ハンバート・ハンバートの獄中手記です。彼はある罪を犯し刑務所に収監されています。

欧州からアメリカに亡命してきた紳士ハンバート・ハンバートには、ローティーンの少女しか愛せない秘密がありました。1947年、ハンバートは初恋のアナベルによく似たドローレス・ヘイズ、通称ロリータと運命の出会いを果たします。

ハンバートはロリータを手に入れる為、その母親の未亡人と再婚。ロリータと密かに関係を持ち、夫人の事故死後は全米を股にかけた逃避行にでました。

その後ロリータは名門校に編入、劇作家クレア・クィルティの指導のもと演劇にのめりこみます。

出会いから2年後の1949年7月4日、14歳のロリータが突如失踪。ハンバートは半狂乱になり消息を追い求めるものの、結局戻ってきませんでした。

最愛のロリータを失い悲嘆に暮れるハンバート。そのさらに3年後、17歳になったロリータから手紙が届きます。ハンバートはこれを足がかりにロリータを捜し出しますが、彼女は既に結婚し妊娠中の身でした。

絶望したハンバートはロリータを連れて逃げた犯人がクレアだと突き止め、彼に復讐します。結果、クレアを殺害した罪でハンバートは監獄送り。ロリータも出産時に命を落としました。

ロリコンは罪か否か?禁じられた快楽を追求したハンバート・ハンバート

『ロリータ』は幼い少女を性的対象とする精神病理であるロリータ・コンプレックス、通称ロリコンの由来となったことでも知られています。

それ故ポルノ紛いの図書だと批判を受けることもありますが、格調高い比喩を駆使した饒舌な文体は一定水準以上に達しており、テーマの是非はともかくとして優れた文学である事実は否定できません。

とはいえ本作の主人公ハンバート・ハンバートが少女の性を搾取した醜く狡い大人であるのは間違いなく、ロリータの末路に照らした罪は計り知れません。

ハンバートは初恋の思い出を美化しており、その為アナベルと同じ年頃の少女にしか性欲を抱けないと理由付けされています。しかしながら彼の行為は到底許されざるものです。

もしハンバートが実在したら世間に叩かれるのは確実。

小児性愛者はグルーミングを行うことで知られています。グルーミングとは性犯罪用語で、大人が子供を手懐けて性行為に及ぶことをさします。ハンバートもある時はロリータをなだめすかし、ある時はおだてあげ、彼女をもてあそびました。

自分の欲望に忠実な変態紳士、それがハンバート・ハンバートの本性でした。過激で俗悪と見なされ、一部の国で発禁処分にされたのも頷けますね。

『ロリータ』が発売された1958年当時の価値観や時代背景を考えれば、本作を執筆したナボコフと刊行した出版社は、随分大胆な行動に踏みきったといえます。

一方、『ロリータ』はフィクションの世界におけるロリコンの救済装置として働きました。

大前提として、本人の意志に関係なく特定の対象にしか性欲を抱けない人々は存在します。ハンバートの場合は初恋の少女の死がきっかけですが、実際は何故自分がそうなってしまったのか、わからないケースが大半を占めるのではないでしょうか。

現実の少女に手を出すのはれっきとした犯罪。

しかしながら本の中では誰に対し何をしようと自由、作者が喚起するイメージと読者の想像力に戸は立てられません。

非実在少女のロリータが現在もロリコンの偶像として語り継がれているのは、彼女にロリコンの理想が凝縮されているからなのです。

著者
["ウラジーミル・ナボコフ", "大久保 康雄"]
出版日

哀れな犠牲者か魔性の女か?ロリータの小悪魔的魅力

ここまでハンバートを卑劣な誘拐犯として、ロリータをその犠牲者として論を展開してきました。しかし作中では、あたかも合意の上で行為に及んでいるように書かれています。のみならず、ロリータがハンバートの股間を足で刺激している描写さえありました。

読者各位に注目してほしいのは、本作がハンバートの一人称視点による獄中手記であること。

即ち、『ロリータ』はハンバートの主観で語られる回想録なのです。

したがってロリータが色仕掛けをしているようにとれる描写も、信用ならざる語り手・ハンバートの都合が良い解釈として、疑ってかかったほうが賢明かもしれません。

とはいえ、ロリータが小悪魔的魅力を備えたコケティッシュな少女として描かれているのは事実。

彼女はハンバートに対し従順一辺倒ではなく、ある時はヒステリックに反発し、ある時は悪知恵を働かせ挑発し、ある時は愛らしく媚びて思うさまコントロールしようとします。

男と女、大人と子ども。正反対の立場の二人の主導権をめぐる攻防が、『ロリータ』の真の醍醐味なのです。

義理の父親にもてあそばれた可哀想な娘、誘拐の被害者。そんなステレオタイプな悲劇のヒロイン像に落とし込めないしたたかさが、今も読者を魅了してやまないロリータの魅力なのでしょうね。

物語後半にて、ロリータは劇作家クレアの手引きにより逃亡します。

ハンバートはクレアを逆恨みして殺しますが、ロリータがクレアを利用し逃亡を手伝わせたというのが真相なら、これこそ自分の人生を破壊した義理の父への「復讐」なのかもしれません。

『ロリータ』をもっと楽しみたい人におすすめの一冊

著者
["アーザル・ナフィーシー", "市川恵里"]
出版日

『ロリータ』をもっと楽しみたい人は、『テヘランでロリータを読む』を手にとってください。

こちらはイランのテヘランで、禁書に指定された『ロリータ』の読書会を開いた女性教授の回想録。同じ回想録でも倒錯した欲望にまみれたハンバートとは違い、虐げられた女性の地位向上をめざす崇高な理念が感じられました。

一夫多妻制を敷いており、男尊女卑が未だに根強いイランには、ロリータと同じ年頃の少女たちが家の取り決めに逆らえず、遥かに年上の男に嫁いでいる現実があります。

そんなフィクションとリンクする過酷な状況の中、禁じられた『ロリータ』を読む行為にどれほどの勇気と覚悟が伴うか……タブーを犯すこともまた革命であると、啓蒙される一冊です。

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