歴史ミステリーというジャンルをご存知でしょうか。 謎や事件を推理し物語を進めていくミステリーに、歴史を融合させたのが歴史ミステリーです。テレビなどでも取り上げられていることがありますよね。 ここでは歴史ミステリー小説のおすすめをご紹介いたします。
パリのホテル・リッツに宿泊していた、ハーバード大学宗教象徴学教授ロバート・ラングドンの元に、フランス司法警察中央局警部補ジェローム・コレが訪ねてきたところから物語が始まります。
用件は「死体の謎を解いてほしい」というものです。
ルーブル美術館館長のジャック・ソニエールの死体がウィトルウィウス的人体図を模した形で発見されたことが原因でした。
表向きの依頼は、奇妙な死体についての見解を聞きたいというものでしたが、本当の目的は当日にソニエールと会う約束をしていたラングドンを容疑者として疑い逮捕するためでした。その場に調査で来ていたフランス警察の暗号解読官であり、ソニエールの孫娘ソフィー・ヌヴーの協力によりその場を脱したラングドンは、ソフィーと共にソニエールの残した謎を解き明かしていきます。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2006-03-10
シリーズ化されていて、映画化もされた世界的に有名な歴史ミステリーです。レオナルド・ダ・ヴィンチの作品である、ウィトルウィウス的人体図、モナ・リザ、岩窟の聖母マリア、最後の晩餐から謎は始まり、作品に関する多くの流説を結びつけたことで世界的に大ヒットしました。
さて、この作品、物語が進んでいく中で、秘密宗教団体も登場し、ラングドンたちは警察だけでなくこの団体にも身を追われることになります。2つの追手から逃亡しつつ、各地の要所へ赴き宗教的、歴史的観点から、ダイイングメッセージを解き明かしていくのです。そして何よりも解き明かしていく中で浮かび上がってきたビックテーマが「イエスの末裔とは誰なのか?」
歴史や芸術について深く知識がなくても楽しめる、まるでラングドンたちと一緒にその場を飛び回っているような感覚にもなれる、ぐっと入り込める作品です。
ロンドン警視庁のアラン・グラント警部は犯人を追跡中に足を骨折してしまい入院と相成ったのですが、ベッドから動くことができずに暇を持て余していました。そこで友人である女優のマータ・ハラードは退屈を紛らわすために歴史上のミステリーの解読を提案します。
何枚もの歴史上の人物の肖像画を見せられたグラントの目にとある人物がとまります。グラントはその人物の性格を見抜くことには自信を持っていたのですが、良心的に目に映った人物とは、かの悪名高い、リチャード3世でした。
- 著者
- ジョセフィン・テイ
- 出版日
- 1977-06-30
リチャード3世とは、狡猾で残忍であり、2人の甥をロンドン塔に幽閉し殺害したとされる、イギリス史上でも「希代の悪王」です。
しかし、自分の目には良心的で責任感の強い人物に映ったこの人物は本当に残虐非道な王だったのだろうか?グラントは友人たちの力を借り、会話をしながらリチャード3世の「王子殺し」の容疑について推理していきます。
ここで1つのみそとなるのが、グラント警部は現場や参考施設に赴くことなく、あくまでベッドの上で推理を展開していくというところです。推理していく本人は動いていないのに、まるでその場にいたかのように展開される推理には圧倒されます。時にはベッドにいることさえ忘れてしまうほど。ふとした時に、入院中である事実を思い出しそのたびに驚かされる作品です。
手先の器用さと愛嬌のある顔を見込まれ、オーナーから任されたバーを営む松永の前のカウンターには個性的な3人が並んでいます。私立大学文学部教授、専攻は日本古代史の三谷敦彦。三谷の助手であり世界史を専攻とする早乙女静香。そして自称歴史家の宮田六郎。そんな3人を相手に松永は、かろうじて作れる数少ないカクテルと、まるでスナックのようなフードを提供して、ひっそりとバーを営んでいます。
とある日、いつものように3人がバーで飲んでいると、「四苦八苦」という言葉から仏教についての歴史的見解が早乙女静香から披露されます。そこに自称歴史家、宮田六郎が切り込みます。
「仏陀は本当に悟りを開いたのか?」
常識として知られているものを根底から覆しかねないそのセリフに静香が激昂し、解釈のバトルが始まります。
- 著者
- 鯨 統一郎
- 出版日
この作品は短編集となっています。最初の短編が「悟りとはなんですか?」。
史実に基づいた静香や三谷の解釈を覆し、二人を黙らせてしまうほどの根拠を持った宮田の新しい見解には、専門知識がなくても目から鱗がでるほどで、本当に読み応えのある作品となっています。
そして表題作「邪馬台国はどこですか?」では、いまだに明らかになっていない邪馬台国が存在した地域についての解釈論争が繰り広げられています。
専門知識がなくても楽しめるだけではなく、もう一度高校の教科書を開き地図も携えて学びなおしてみようかと思える作品です。受験を控える学生の方々も、勉強を始める前にぜひとも読んでみてください。宮田の語る解釈は本当なのか?と史料を確認したくなります。
民俗学専攻の大学院生・香坂明は、「R試薬のモニターになってほしい」と製薬会社に破格のバイト料を提示され招かれます。この試薬を注射することで、物理的にではなく、人間の精神を過去へ遡らせることができるというのです。香坂は騙されているのではないかと疑いながらも、金欠学生であるがゆえに結局モニターとなることを承諾します。
試薬を注射し遡った先は、1887年から1953年に存在した折口信夫の頭の中。彼の頭ならば百人一首にもある猿丸太夫の謎を解けると考えたからです。
折口は借金を棒引きにする代わりに、柿本栄作の先祖伝来の歌額、猿丸太夫の首「奥山に もみぢ踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき」を見せてもらいます。そこで栄作がこの首の隠し文を探してみろと折口に話すところから、謎解きがスタートしていきます。
- 著者
- 井沢 元彦
- 出版日
- 2007-12-14
「猿丸太夫と柿本人麻呂は同一人物だったのではないか?」
この仮説を折口は、いろは歌をヒントに隠されたメッセージや、猿丸太夫の謎や、偶然とは思えない同じ苗字の柿本栄作の一族の謎を解いていきます。
過去の人物の頭の中に入り、さらに過去の謎を解いていく、まるで夢の中で夢を見ているような感覚の作品ですが、誰もが一度は手に取ったことがある百人一首が使われていることもあり、なじみやすい作品ではないでしょうか。
他人の頭の中から、他人の視点を過去を遡ることでリアルタイムで味わう。何とも奇妙な感覚を、読者が香坂明になったような感覚で楽しめる作品です。
剣道部主将の武蔵と友恵は幼馴染で、この日もいつものように二人で帰宅していました。急な雷雨に見舞われ近くの祠の大きな欅の木の下で雨宿りをしていると、突然、赤い光に包まれます。目が覚めるとそこは平家が天下を支配する平安時代末期。二人と同じ場に居合わせた志郎もタイムスリップし、3人は別々の場所で、別々の人生を歩んでいきます。
- 著者
- 浅倉 卓弥
- 出版日
「時」とは何なのか、どうして自分たちが飛ばされてしまったのか。いったい何のために。
友恵は、木曽義仲の妻巴として、武蔵は源義経の相棒武蔵坊弁慶として、そして志郎は、のちの北条政子を支える北条義時としてその人生を歩んでいきます。
今自分が歩んでいる道はすでに定められたものなのではないか?そんな葛藤を秘めつつ歩む3人の道は、リアルに、切なく描かれています。
今までにご紹介したような謎を解き明かすタイプのものではありませんが、「時」とは一体何なのかというものがテーマとして物語が進んでいきます。
まさにキーとなるのが「平家物語」などの資料を携えて読んでみると、より楽しめる作品です。
歴史ミステリーといっても堅苦しいものではありません。専門知識がなくても十分楽しめますし、むしろ、これを機会に学んでみようかしらと思えるものが多いジャンルです。何よりすでに確立されているともいえる解釈や史実に対して、新たな解釈を目の前に展開される快感は何とも言い表せないほど。ぜひ、楽しんでみてください。