てれびのスキマ著『芸能界誕生』は“実話”が心揺さぶる群像劇!|本好き芸人レッドブルつばさの新刊レビュー

更新:2022.10.8

膨大な証言により裏打ちされた芸能界の「誕生」の裏側を知れば、今のテレビの見え方がガラリと変わる!『芸能界誕生』は、『THE 夜もヒッパレ』や『24時間テレビ』など数々の番組の企画に携わってきた菅原正豊と渡辺弘が土台の構想を練り、番組レビューや芸人論のライターとして知られる「てれびのスキマ」こと戸部田誠が書き上げました。現在のテレビが好きな人はもちろん、つまらないと思う人にもおすすめの1冊です。 今回はそんな『芸能界誕生』を、本好き芸人のレッドブルつばささんにレビューしていただきました!(編)(2022年10月公開)

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『芸能界誕生』を1行でおすすめ!

夢や希望や情熱では何も変わらないと思う人こそ、
夢や希望や情熱で『芸能界』を誕生させた若者たちの物語を。

 

『芸能界誕生』のあらまし

1958年に開催された「日劇ウエスタン・カーニバル」。

その場には今後の日本の芸能界を担う若者が集結していた。

彼らはどのようにしてその場に辿り着き、その後どのような人生を送ったのか。

その姿を追った先に「芸能界」が誕生したのだった。

著者
戸部田 誠(てれびのスキマ)
出版日

 

見どころ1:新書なのに登場人物の相関図から始まる⁉長編“実話”小説

まず驚いたのは、冒頭に書かれている「主な登場人物」と「本書に関する芸能プロダクション相関図」というページを読んだ時。

実在の人物の話で、しかも新書で「主な登場人物」と紹介されているものは見たことがない。

まるで長編小説の始まりのようだと思いながら読み進めていき気づく。

『芸能界誕生』より引用

本書は芸能界の裏側を暴露するような意地の悪い本などではない。

時代を必死に生き抜いた若者による群像劇である。

全て実際に起きたことではあるが、その壮絶さや数々の巡り合わせは非常に物語的である。最初はタイトルの通り「どうやって芸能界が生まれたのだろう」という興味から読み始めたが、次第に「彼らの生きた軌跡を辿っていきたい」と思うようになっていった。

そこで、「主な登場人物」という紹介が冒頭にある意味がわかった。

人はそれぞれ生きているだけである種の物語が発生する。

どんな人から生まれ、どの時代、どの場所で生き、誰に出会ったのか。

数々の出来事が複雑に絡み合うことによって、長編小説のような読み応えのある物語になっている。

 

見どころ2:「みんな必死で生きていた」

この物語は終戦後の宮城県から始まる。

戦争により壊滅的な被害を受けた仙台にやってきた進駐軍に娯楽を与えるために、進駐軍専用のダンスホール「ミヤギ」が建てられた。

「ミヤギ」でのビジネスを掌握するために、現存する最古の戦後生まれの芸能プロダクションのひとつ、「オリエンタル芸能社」(のちのマナセプロダクション)が誕生するのだ。

進駐軍に娯楽を与えるために音楽を奏でていた人たちの胸中を全て推し量ることはできない。

何しろ終戦からまだ間もないときのことだ。複雑な心情で演奏をしていた人たちもいるだろう。だが、彼らは「音楽で生活できる時代が来る」という予感ともにその瞬間瞬間を必死で生き抜いた。

 

時代が移り変わっていき、ブームが起きては廃れていき、そのたびに進退を余儀なくされていく。それでも彼らは前を向き必死で生きてきた。

そして1958年に開催された「日劇ウエスタン・カーニバル」でその熱狂は爆発する。

音楽に情熱を燃やし、必死で生き抜いた人間に熱狂は必ず付随する。

その熱狂はその瞬間だけに留まらず、その後日本全国を巻き込んでいくのであった。

 

本書に出てくる人物の中に共通しているのは「みんな必死で生きていた」ということだろう。時代を変えた人物らの物語にはフィクションでは味わえない厚みがあり、なんとなく現代を生きる我々も心を動かされるに違いない。

 

見どころ3:今の芸能界がもっと面白く見えてくる

冒頭に述べた通り、本書はその時代を必死に生き抜いた若者たちの群像劇である。

だが、それと同時にどうやって今の芸能界が出来上がっていったのかを示す歴史の教科書にもなっている。

現代のテレビで大御所として活躍している数々の芸能人が、どのようにこの世界に入り、どうやって駆け上がって行ったのか、その歴史を知ることができるという一面もある。

 

それを支えるのは巻末に示されている膨大な数の引用・出典一覧と参考文献だろう。

それぞれの目線から紡ぎ出された言葉をつなぎ合わせ、一つの大きな物語にまとめ上げた本書を読んだ後、今見える「芸能界」の姿が少し違ったように見えた

 

おまけの感想:一晩で生まれた、レコード大賞受賞曲

「黒い花びら」制作秘話

一晩で8曲を作れと命じられた中村八大が永六輔とともに曲を作りあげ、その中の1つ「黒い花びら」が第1回レコード大賞受賞した、というエピソード。

薬物中毒に陥った中村八大が再起をかけて受けた重すぎる仕事。それをたまたま道で遭遇した永六輔とともに作りあげた、という事実にまず運命的なものを感じる。

その作り方も壮絶で“永は歌詞を、八大は曲をそれぞれ勝手にまず作り、それを明るいものから暗い順に並べていく。そうして詞と曲を組み合わせた”と書いてあるが、よくその方法で8曲も、しかも一晩で作ることができたと思う。

 

しかし、状況や立場は全く違うが自分も1人の芸人、ものを作るという場面においては似たような状況もある。

明日までにコントをどうしても作らなければいけない状況になり、とりあえず思いついた1シーンを膨らませて膨らませて、気がついたら15分もの台本を一気に最初から最後まで書き切っていた。

自分の中で意識して「これをこうしよう」など考えずに、無意識で手が動くままに台本を書いていたと記憶している。追い込まれた状況になると、人間は無意識のうちに1番良い方向に進むこともあるのだとそこで知った。

おそらくその時の2人も、「時間がないからとりあえずやろう」という気持ちで作りだして、それが無意識のうちに1番良いものを生み出していき、レコード大賞受賞、という栄誉にまで繋がったのではないかと思う。

 

しかも、当時受賞の資格すらなかったというフリーランスの作曲家だったにも関わず賞に輝いたという。そのようなレコード大賞というものの内情も含め、このエピソードが1番心に残っている。


 

最後のエピソードは「日本レコード大賞」「八・六コンビ」の章に収録されています。他にも本書には芸能プロダクションの変遷や男性アイドルの興亡といった話題が。ぜひ本書を手に取って、気になる見出しから読んでみてはいかがでしょうか。

定刻にテレビ画面の前に張り付いていなくともあらゆる手段で好きな番組を見ることができる今日ですが、エンターテインメントの裏には努力した人々がいます。その心に触れることができる1冊となっています。(編)

著者
戸部田 誠(てれびのスキマ)
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