年齢を重ねると(いつかは)もっと幸せになれる。“幸せ”は今や、一種の強迫観念になっています。幸せを探し求める、幸せを手放さない、大切な人々の幸せを願う――そのどれもが生き方の原動力となっています。私たちはまた、幸せを人生の重大事を決める際の物差しにもします。たとえば、今の仕事では幸せになれないと思ったら、それを辞めます。今の人間関係では幸せになれないと思ったら、そこから離れます。
幸せは私たちの生活の真ん中に深く入り込んでいます。ですから、そこに到達したいと必死になるあまり、私たちはときに思い切った選択をします。30代や40代の頃は特にそうで、この時期は抗うつ剤に頼ったり、気分障害に陥ったりする危険性が最も高まります。
30代から40代は、自己啓発業界の大口顧客でもあります。この世代は喧噪を離れての心身のリフレッシュや旅行、幸福感を増進するネット活動、ポップな心理学本などに進んでお金をかけます。ただ皮肉にも、幸せを追い求めるほど不幸せになるばかりか、ますます孤独になる恐れがあるとの研究結果もあります。
ところで、今日が不幸せだとして、明日はもっといい日になるのでしょうか? 幸い、研究結果によれば、なれます。人生では、私たちの誰もが、幸せに影響するいくつかの変化を経験します。そうした変化は一般に、20代のときに高いレベルの幸せをもたらしてくれますが、その後、幸福感は転げるようにして落ちていき、30代後半から40代前半にかけて底に達します――そして、そこから再び上りはじめるのです。
この自然な上昇には、5つの理由があります。
西洋社会では一般に、20代から30代は自身の未来作りに忙しいものです。そして、30代後半から40代前半頃に、a) 成し遂げたいと思っていたことが、まだ成し遂げられていない b) 未来は急速に萎みつつある――という2つの事実に気づくのですが、その際、私たちには選択肢が2つあります。
慌てふためくか、楽しかった過去に目を向けて現実と折り合いをつけるか。多くの人は後者を選びますし、そうすることで、より大きな安心感と幸福感を抱いて人生の後半に臨むことができるのです。
若い頃は、感情を暴れるままにするものです。感情の波は高く上がれば上がるほど、落ちるときも激しく落ちます。この波をうまくコントロールできるようになるには、時間がかかります。
ですが、不安定だった感情も50代に差しかかる頃には落ち着きはじめ、平安な気持ちを得られる機会が増えてきます。また、以前よりも前向きな考えに惹かれ、それを長い間手放さずにいられるようにもなります。これも、年齢を重ねるにつれてより幸せを感じるようになる理由の一つです。
20代では、人間関係の輪が大きく広がっていくものです。新たな仕事の同僚、新たな友だちやその友だち、新たな恋愛/生活のパートナーとその家族など、新しい人々が次々と輪の中に入ってきます。30代に入ると、事態は一変します。それまでのように、すべての友情を維持して育む時間もエネルギーもなくなり、そのため多くの人々が次々に輪から出て行ってしまいます。
より幸せになるには社会とのつながりが不可欠ですから、この変化は私たちの幸福に壊滅的な影響を与えかねません。ですが、50代に差しかかると、経験も知恵も増え、今度は輪の中にいる人々に、より多くの時間とエネルギーをかけ、友情を厚くしていけるのです。これもまた、人生の後半になるとより幸せを感じる理由の一つです。
人生は運転に似ています。道がすいていれば、運転は楽しい。ですが、混むとたちまち大変になる。心の痛手となる出来事も、デイリーハッスル(苛々させられる日々の些末事)も、人生の半ばごろに最も多く経験するという研究結果があります。
しかしその後は徐々に数が減っていき、それと同時に、より効率的な対処法も身についてきます。その結果、より幸せになれるのです。
次に何が起きるのかを予測できるのは、気持ちの良いものです。状況を把握できているという思いが心に余裕を生み、人生が投げつけてくるどんな困難にも立ち向かえるという自信が湧いてきます。年を取るにつれて、自分の、そして他人の振る舞いによって何が起きるのかをより的確に予見できるようになり、人生のさまざまな変化をくぐり抜けるのに最適な行動計画を立てるのも上手になっていきます。毎日が新たなライフスキル――日常のさまざまな問題や要求に対し、より建設的かつ効果的に対処するために必要な能力――を教えてくれます。そして、その一つひとつが私たちをより幸せにしてくれるのです。
このように、私たちは年齢を重ねるにつれて、より幸せになっていきます。ところが、人生で最も幸せな年代は、と聞かれると、年齢にかかわらず、大半は20代と答えます。年を取るにつれて充実感が減っていくと勘違いしているのです。
本当は、肩の力を抜いて自然の成り行きに任せてみるほうがいいのです。年齢とともに事態は改善していき、毎日を幸せに暮らせる可能性がどこまでも高まっていくのですから。
Conversation誌より転用(theconversation.com)
ジョランタ・バーク:イースト・ロンドン大学心理学講師
Photo:(C)WENN / Zeta Image
Text:(C)The Independent / Zeta Image
Translation:Takatsugu Arai
- 著者
- ["岸見 一郎", "古賀 史健"]
- 出版日
- 2016-02-26
- 著者
- ["NHK「幸福学」白熱教室制作班", "エリザベス・ダン", "ロバート・ビスワス=ディーナー"]
- 出版日
- 2014-12-20
- 著者
- 前野 隆司
- 出版日
- 2013-12-18