映画オタクのミワは他人になりすまし、推し俳優の八海の家政婦になりました。 なりすましは犯罪であるのにも関わらず、推し俳優と同じ時間を過ごせる幸せにどっぷり浸っていくミワ。 しかし、八海に正体がバレそうになるピンチが何度も訪れます。果たしてミワは正体を隠し続けられるのでしょうか。
主人公の久保田ミワはレンタルDVDショップで働く29歳で、年間1,520本の映画を観る映画オタク。
特に八海 崇(やつみ たかし)という俳優に対してはファンを通り越して恋心を抱いているほど、深くのめり込んでいました。
ある日、働いていたレンタルショップをクビになってしまったミワが新しい仕事を探していると、偶然にも八海の家政婦を募集していることを知ります。
しかし、八海の家政婦になるためには複数の資格が必要で、ファンは応募できない形となっていました。
応募資格のないミワは、「せめてどんな人が採用されたのかだけでも見てみたい」という好奇心から、八海の家の近くまでいきます。
するとミワは家政婦として採用されたと思われる女性を発見するのですが、なんとその女性は車に轢かれてしまったのです。
ミワは救急車を呼んで病院へ運ばれる女性を見送っていると、八海の家から秘書が現れました。
秘書はミワを家政婦と勘違いし、「あなた、家政婦の美羽(みわ)さくらさんね」と声を掛けます。
ここでミワが「はい」と答えれば憧れの八海の家で働くことができますが、それはなりすましとなり犯罪行為です。
しかし、犯罪とわかっていながらも、どうしても八海に会いたいミワは「はい」と返事をしてしまいました。
こうして、ミワは美羽(みわ)さんになりすまし、八海の家で働くことになったのです。
いつ本物の美羽さんが戻ってくるのかハラハラしながらも、憧れの八海に会える快感に浸っていくミワの末路はどうなるのでしょうか....。
- 著者
- 青木 U平
- 出版日
『ミワさんなりすます』の魅力は、ミワの本当の正体がバレそうになる展開が訪れるたびに、思わず体がギュッとなってしまうような緊張感を感じられるところです。
そもそも、本物の家政婦である美羽さくらは大卒で英語が堪能。さらに栄養士、クリーニングインストラクターなど、複数の資格を持っている超エリートですが、一方の偽物のミワは高卒で時給920円で働くフリーター。
八海や秘書から、ミワが本物の美羽よりも能力や経歴的に劣っていることがいつバレてもおかしくない状況です。
さらに、秘書から「ミーハー心を出して変なきを起こさないように」と釘を刺されたものの、ミワは八海と初対面した際に興奮して鼻血を出したり、八海が大切にしているボトルシップを壊したりと、初日から大ミスをしてしまいます。
八海の寛大な心によってミスは許されているものの、秘書から疑いの目を向けられてしまうのです。
思いもしない形でミワにピンチが訪れる度に、読んでいる側も冷や汗が出るような緊張感を味わうことができるのが『ミワさんなりすます』の面白いポイントとなっています。
『ミワさんなりすます』では、ミワが犯罪とわかっていながらも、推しと一緒の空間にいることができる幸福感と罪悪感の葛藤が細かく描写されています。
ミワは映画オタクはもとより、八海オタクとしてお金も時間も捧げてきました。
そんな中でミワは偶然にも八海の近くで仕事をすることができ、さらに自分の行動が八海の役に立っていることに大きな喜びを得ていました。
一方で偽物として働いてることは犯罪であり、バレたら社会的にも終わってしまうことも重々承知。
また本物の美羽さんにはなりすましたことについて申し訳なく思っており、何よりも大好きな八海を騙している罪悪感を感じています。
その罪悪感に耐えきれず、何度も自分が偽物であることを八海に打ち明けようとするのですが、現在の夢のような状況を手放すことができません。
そんな自分勝手な考えに嫌悪感を感じ、心苦しくなっていく様子も描かれています。
ミワの心情の移り変わりが丁寧に表現されており、深く感情移入できるところも魅力です。
『ミワさんなりすます』はなりすましによる緊張感や葛藤が主に描かれているところですが、一方でクスッと笑える緩急のあるシーンも見どころです。
例えばミワが本物の家政婦である美羽の後をつけていくと、美羽がいきなり車に轢かれてしまうシーンでは、シリアスな場面にも関わらず「轢かれたッ!」というミワさんのリアクションにクスッと笑ってしまいます。
さらに、美羽が轢かれてから救急車に運ばれるまでの流れを数コマで済ませてしまうドタバタ感も面白いポイントです。
他にも、ミワが家政婦として初めて八海に話かけられる場面では、神として崇める八海との会話できることに泣きそうになるほどの喜びを噛み締めていると同時に、ファンだとバレないように我慢している表情に笑えてしまいます。
ちょっとしたドタバタ感や、ミワさんのリアクションにクスッと笑ってしまうことでしょう。
『ミワさんなりすます』では不器用に生きるミワの姿に共感できるところもあり、犯罪をしているにも関わらず応援したくなる場面もあります。
ミワは自己主張をほとんどせず、誰も見ていないのに人に気を遣って結果的にワリを食ってしまうお人好し。
さらに映画になると周りが見えなくなってしまい、それが原因でお客さんを怒らせてバイトをクビになってしまう不器用な性格です。
ミワのように気を遣いすぎて自分を主張することができず、生き辛さを感じている様子に、共感を覚える人も多いです。
一方で、八海はミワの映画に関する圧倒的な知識や、誰も気がつかないようなさりげない気遣いができることを高く評価していきます。
八海の言動によって、ミワは今までの人生で抱えていたコンプレックスが消えていき、少しずつキャラクターが変わっていくところも見どころの一つとなっています。
ミワは不器用ながらも八海の信頼を得ていく優越感に浸りつつ、「いつか本物の美羽が戻って来るのではないか」という不安を抱えています。
本物が現れれば偽物とバレてしまい、ミワは犯罪者として捕まってしまいます。さらに、大好きな八海の信頼も壊しかねません。
なりすましをしたミワに罰が下ってしまうのか。それとも、罪悪感を感じながらなりすましを続けていくのか。
ミワの末路に注目です。