赤ノ宮翼の今月の偏愛本 A面|第5回『君のクイズ』無駄が一切ない、一気読み間違いなしのクイズ小説

更新:2023.3.1

赤ノ宮翼さんによるブックセレクトコラム「今月の偏愛本 A面/B面」!A面では映像化作や文学賞受賞作など、今月買って読んで間違いなしの1作をパワープッシュしていきます。 今月は、直木賞作家の小川哲さんによるクイズを題材にした小説『君のクイズ』をセレクト。本作がノミネートしている「本屋大賞」は4月に大賞が発表される予定ですので、未読の方は要チェックです!

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『君のクイズ』を一言でおすすめ

一切無駄がない、一気読み間違いなしのクイズ小説

この本を推す理由

先日、小川哲さんの『地図と拳』と千早茜さんの『しろがねの葉』の二作が第168回直木賞を受賞した。

書店を訪れてもこの二作品は大々的に宣伝されていて、やはり直木賞という権威ある賞が持つ効力は大きいのだと実感する。

そんなことを考えながら別の棚に目を移すと、また別の賞のノミネート作が並べられていた。

「2023年本屋大賞」ノミネート作の10作品だ。

本屋大賞は、出版社や作家ではなく書店員が投票によって決める賞であり、こちらも毎年大きな話題になっている。

個人的な感覚だが、直木賞は歴史も長く権威ある賞であるがゆえに「この賞に相応しい作品」というものが選ばれているような気がする。

当然その考えは必要だと思うし、内容の面白さには関係ないのだけど、やはり読者としては「これが直木賞か……」と少し身構えてしまうのも事実である。

それに対して、本屋大賞は「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」というキャッチコピーにある通り、書店員の「この本面白いので読んでください!」というようなフランクさを感じて、こちらも友達に勧められたような感覚で向き合いやすい。

さらに、以前から書店で平積みになっていたり、熱量のあるPOPが書かれていた本がノミネートされていると「確かにずっとこの本を推していたな」と思えて、親近感も湧く。

要は、権威ある賞と等しく私は本屋大賞を信頼している。

本を読む理由のほとんどは「面白い本を読みたい」なので、書店員が面白いと思うものはきっと自分も面白く感じるだろうと思いノミネート作を見ると、やはりそれまで書店でもよく目にしていた作品が並んでいる。

その中の一作、『君のクイズ』は実はずっと前から気になっていた本だった。

競技クイズを題材にした小説は珍しいし、色々な人が勧めていたこともありずっと読みたいと思っていた。

本を手に取り、著者名の“小川哲”という名前を見た時驚いた。

『君のクイズ』は直木賞を受賞した『地図と拳』を書いた小川哲さんが書いていたのだ

その二作は内容的にもかけ離れているし、別作品が同時期に直木賞と本屋大賞にノミネートされているなんて思いもしなかった。

タイミング的には直木賞受賞作品の『地図と拳』を取り上げるべきだろうが、「直木賞作家が描くクイズ小説」という何が飛び出してくるか予測がつかない内容の本をどうしても先に読みたくなってしまったのでこちらを推させて頂くことにした。

あらすじ

著者
小川 哲
出版日

生放送のクイズ番組の決勝戦に出場したクイズプレイヤー三島玲央は、対戦相手の本庄絆が問題文を一文字も読まれていないうちにボタンを押し正解し、優勝を果たすという不可解な事態を訝しむ。真相を究明するために、三島は決勝戦の問題を全て振り返っていき、その過程で驚きの真実に辿り着く。

魅力①クイズプレイヤーの脳内を覗ける

「日本でクイズは人気である」と言われて首をかしげる人は少ないだろう。

2023年2月現在、全国ネットで放送されているクイズ番組は数多く存在し、過去に人気を博したクイズ番組も数えきれないほどある。

さらにクイズプレイヤーの伊沢拓司さんを中心に結成された、QuizKnock(クイズノック)という存在によりクイズは更に幅広い世代に広がった。

私自身もクイズノックのYouTubeはよく見ており、そこでクイズプレイヤーの興味深い思考を知る機会も数多くあった。

 

クイズプレイヤーの早押しクイズを見ていて「なんでそんな早いタイミングで押せるのだろう?」と思ったことはないだろうか。

そういう人たちを見るたびに「自分とはそもそも頭の出来が違うんだ」とか「これだけ知識があるのは凄いな」と私は思ってきたが、実は知識量だけでクイズは回答するものではない、ということが『君のクイズ』を読めば分かる。

 

競技クイズという一般的にはまだそこまで馴染みが無いものを題材にしている、という点でこの小説はまず素晴らしいものだと思う。

先にも書いたが、本を読む理由のほとんどは「面白い本を読みたい」であり、「面白い」には様々なものがある。登場人物が魅力的であったり、物語にハラハラしたり、「面白い」に求めるものは人それぞれだろう。

その中でも私は「知らないことを知りたい」という気持ちが強くあり、それが面白さに繋がっていることが多い。

自分とはかけ離れた職業を題材にしているドキュメンタリー番組を見ることも好きで、その後に世界の見え方が少し変わるような体験をしたいと常々思っている。

小説に関しては、「今まで読んだことがないものが読みたい」という気持ちを大切にしているので「自分の知らない世界かどうか」はそこまで考えていないのだけど(そもそも小説自体が“自分の知らない世界”という側面がある)、『君のクイズ』に関しては、今まで知らなかったクイズプレイヤーの脳内を詳細に描いている、という時点で私にとっては非常に面白い。

特に、物語の根幹に関わってくる早押しクイズの「確定ポイント(早押しクイズで、問題文をここまで聞けば回答を特定しボタンを押すことができる、という箇所のこと)」に関する内容は、クイズプレイヤーの思考の一片を覗かせてもらっているようで、それを知れただけでも貴重な体験だったと言える。

魅力②ゴールが見えているから一気読みさせられる

小説を読むうえで私が大切にしていることの一つに「どれだけのめり込めるか」ということがある。別に興味も無いのに嫌々読んでも何にも楽しくない。

「主人公はどうなってしまうんだろう」「この謎は解けるのだろうか」という、興味を最後まで持続できるかどうかが良い小説の条件の一つだと思っている。

その点で言うと『君のクイズ』は最高の小説であると言える。

 

「少しだけ読んで寝るか」と思って読み始めたのが午前1時ごろ。

気が付いたら時刻は3時近くになっていた。

絶対に途中で寝ようと思っていたのに、自分の都合よりも「この小説を最後まで読みたい」という欲望が勝ち、一回も止まることなく一気に最後まで読んでしまったのだ。

最近、本を読んでも映画を観ても途中で止まってしまうことが多く、年齢のせいで集中力が無くなっていたのだと思っていたのだが、どうやら違っていたみたいだ。

自分に合う、面白い小説であれば集中して一気に最後まで読むことは可能なのだ。

 

当然、物語の面白さが一気読みの理由の一つではあるが、それ以上に構成の見事さによりページをめくる手を止められなかった。

この物語は「なぜ本庄絆は問題が読まれていないのに正解できたのか」という謎を解明していくことが本筋になっていて、その他の余計な部分は限りなく排除されている。主要以外の登場人物もその謎を解明するためにしか存在していないと言ってもいい。そしてその謎は主人公の三島玲央による「決勝で出された問題を一問ずつ振り返る」という方法によって解明されていく

出されたクイズは全部で16問。一問ずつ振り返っていくことで「必ず16問目で全ての謎が明かされるだろう」というゴールが最初から見えているのだ。

読者によって好みは様々だろうが「一気読みできるかどうか」で考えたら、最初からゴールが見えている方が個人的にはありがたい。

「ここで絶対に終わるのだから最後まで読もう」という気になり、その結果が一気読みに繋がったのだ。

魅力③クイズに対する見方が変わるラスト

「登場人物が謎を解明されるためにしか存在していない」と、暴論とも取れることを書いてしまったが(物語の本筋の面白さを重視するためなら、その方法が合っていると思う)それに対して、三島玲央と本庄絆の主要人物は魅力的に描かれている。

『君のクイズ』は三島の一人称視点で描かれるため、どうしても三島に感情移入をしてしまうが、だからこそ大きな謎を解明される過程で描かれる三島と本庄という2人の人間について考えざるを得ない。

最初は読者も三島と同じく「なんで本庄はあんな答え方ができたのだろう」という謎(クイズ)の答えが知りたくて、読み進めていくだろう。

そのクイズの答えだけ知れればよかったはずなのに、その答えに近づけば近づくほど「クイズとは何か?」というまた別の問いが頭に浮かんでくるはずだ

物語を通して、三島と本庄という対照的な二人の登場人物が「クイズとは何か?」というクイズに向かい合っていく。同じように読者も最後まで読めばクイズが持つ奥深さに気づくはずである。

おまけ

少し長めの中編ぐらいではあるものの、この文量の小説を一気に読んだことは久しぶりで個人的に「一気読みできた」という経験を得られた時点で『君のクイズ』は本当に素晴らしい小説だと思う。

本書の魅力に関しては先に書いた通りだけど、今は著者の小川哲さんの方に興味が向いている。直木賞受賞の『地図と拳』を始め、そもそもデビューしたきっかけがハヤカワSFコンテストということもあり、世間的にはSF作家というイメージが強いみたいだけど、『君のクイズ』を読んだ限りは「面白い小説を書く人」なのだと思う。面白い小説を書く人が書いた面白い小説は生きているうちにできるだけ読んでいきたい。


 

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writer:赤ノ宮翼 Twitter

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