名言で読む、森見登美彦の名作小説5選!

更新:2021.7.2

圧倒的な文章力と、万華鏡のようにめくるめく摩訶不思議な世界観で人気の作家、森見登美彦。京都大学農学部の出身であり、京都を舞台にしたものが多い彼の小説の中から、京都で生き生きと輝く登場人物たちの名言を通して、5つの物語を紹介します。

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森見登美彦、その華麗なる作家の経歴

森見登美彦は2003年、京都大学在学中に執筆した『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し文壇デビューを果たしました。自身の経験をベースにしたこの作品は、審査員から「美点満載」と称されるほどの美文でありながら、多くの読者を爆笑させるストーリーで世間の注目を集めました。

卒業後は国立国会図書館で司書として働きながら執筆していましたが、現在は退職し専業作家として活躍しています。

この記事では、森見登美彦の著作の中から名言やセリフとともに名作を紹介していきます。

森見登美彦のおすすめの小説をもっと知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

森見登美彦のおすすめ書籍ランキングベスト12!京都いち愛される作家!【2021最新】

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京都を舞台にした作品を多く執筆し、京都いち愛されていると言っても過言ではない作家・森見登美彦。くせのある文体、世界観ですが、ハマってしまえば森見ファンとなること間違いなしです!学生時代に好きだった、という方も大人になってからもう一度手を伸ばしてみるのはいかがでしょう?

全てのモテない男に捧ぐ!『太陽の塔』の名言

京都大学休学中の5回生である"私"が、「崩壊しかけた四畳半の真ん中にでんと腰を据えて」書いたあまりにもクレイジーな手記です。

前述した通り、『太陽の塔』は森見登美彦のデビュー作であり、日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。この小説の登場人物があまりに強烈な個性の持ち主であり、そこにどハマりしてしまう読者が続出。

そのおかしな登場人物を代表する主人公は、「研究」と称して元カノをストーキングし、自分の自転車にまで彼女の名前を付ける人物。当然、そんな男の友人たちも変態ばかりで、非リア充の極地を見せつけられているような気持ちになります。

「そんな小説が何故ファンタジーなの?」と思う人もいるでしょう。そここそが森見登美彦が作り出す世界観の最大の魅力なのです。どうしようもない現実の中に突然現れるとびきりのファンタジー。そんな唯一無二の世界観がこの物語には散りばめられているのです。非リア充を自覚する人には特に読んでもらいたい作品です。

著者
森見 登美彦
出版日
2006-05-30

印象的なのが、物語の冒頭と終わりの主人公の言葉。

「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。なぜなら、私が間違っているはずがないからだ」
(『太陽の塔』より引用)

この台詞から始まった物語が

「何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。そして、まあ、おそらく私も間違っている」
(『太陽の塔』より引用)

という台詞に収束していく。

彼の身に何が起こったのか確かめ、彼の心に寄り添うか、或いは彼を思い切り軽蔑してあげてください。おすすめの森見登美彦作品です。

読んだら必ず、誰かに手紙で思いを綴りたくなる『恋文の技術』の名言

教授から見放され、京都から能登の研究所へと島流しされた崖っぷち大学院生・守田一郎が友人や先輩、家庭教師の教え子へ出した手紙によって、書簡体形式で物語が進んでいきます。10分ほど読めばこの守田という男がいかに愚かで卑屈で臆病な大馬鹿大学院生か理解できるでしょう。『太陽の塔』の主人公に非常に近い性根の腐りっぷりです。

しかし同時に、彼の愚痴と悪ふざけと虚勢にまみれた手紙を読んでいくうち、不思議と魅了されていくことも事実なのです。

恋愛成就した友人が、その彼女のおっぱいに執着することに対して

「今の君は世界の中心で『おっぱいが大好きだ』と叫んでいるようなものだ。それはもう、救いがたい阿呆に見えるよ」
(『恋文の技術』より引用)

と綴ってみたり

「君はおっぱいに信頼を寄せすぎている。君の夢と栄光の一切を、ただ二つのおっぱいに賭けようとしている。しかし、落ち着いて考えてみよう。おっぱいとは、そんなにも絶対的なものであろうか」
(『恋文の技術』より引用)

と咎めたり。

また、ある時は京都へ帰った際、憎き先輩のパソコンを盗み

「パソコンの在処を教えて欲しければ、以下の要求に答えよ。
1今後、守田一郎を顎で使わない。
2朝と晩には必ず守田一郎のおわします方向に向かって礼拝する。
3守田が食べたいと言ったら、必ず猫ラーメンを奢る(無期限)」
(『恋文の技術』より引用)

と脅迫の手紙を出してみたり。

馬鹿らしい手紙のやりとりを通じて、主人公とその周辺の人々が、なんとも愛おしくなってくるのです。

著者
森見 登美彦
出版日
2011-04-06

そして後半、主人公は大事な人に手紙を書くのですが、そこにこれまでのおふざけはありません。あれほど饒舌だった主人公の筆ですが、本当に伝えたいことを書こうとした時、とても正直で素直な言葉が綴られるのです。

「僕はたくさん手紙を書き、ずいぶん考察を重ねた。どういう手紙が良い手紙か。(中略)伝えなければいけない要件なんか何も書いてない。ただなんとなく、相手とつながりたがってる言葉だけが、ぽつんと空に浮かんでいる。この世で一番美しい手紙というのは、そういうものではなかろうかと考えたのです。」

「だから、我々はもっとどうでもいい、なんでもない手紙をたくさん書くべきである。さすれば世界に平和が訪れるであろう。」
(『恋文の技術』より引用)

この作品を読み終わった時、きっとあなたは誰かに手紙を書きたくなるでしょう。手紙ってこんなに素敵なものだったのかと、森見登美彦のこの本が気づかせてくれるはずです。

素晴らしき暴挙『新釈 走れメロス 他4篇』の名言

『走れメロス』や『山月記』といった、日本文学史に燦然と輝く名作を、森見登美彦が新しく生まれ変わらせた傑作です。

「芽野史郎は激怒した。必ずかの邪知暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。」
(『新釈 走れメロス 他四篇』より引用)

という文章から始まる表題作では、大学生である主人公が、学内で絶大な権力を振るう「自転車にこやか整理軍」長官に楯突き、罰として学園祭のステージ上でブリーフ1丁で踊ることを強制されますが、姉の結婚式に出席するため、友人の芹名を身代わりにして駆け出します。

長官は身代わりになった芹名へ言います。

「彼が戻って来ればあんたは自由の身だ。友情とやらを信じることだね」
「あいつは戻らんぜ」
「そんなわけあるもんが。約束したんだ。姉さんの結婚式が済めば、帰ってくるさ」
「あいつに姉はいないよ」
(『新釈 走れメロス 他四篇』より引用)

そうです、芽野はとんでもないクズ野郎だったのです。

著者
森見 登美彦
出版日
2009-10-15

ここから、原作では美しき友情物語であった『走れメロス』は、友人を売って逃げ出した芽野を自転車にこやか整理軍が追うという展開になっていきます。

走れメロスという傑作をここまで無茶苦茶な設定で書き直す勇気。下手をすれば作品への冒涜と捉えかねられる危険もありますが、森見登美彦の類まれなる文章力はここでも遺憾なく発揮され、爆笑必至の文学作品ができあがっています。

結局、自転車にこやか整理軍に捕えられてしまった芽野は芹名に言います。

「芹名、俺を殴れ。ちょっと手加減して殴ってくれ。俺は途中で一度、約束を守った方がコトが丸く収まっていいな、なんぞと軟弱なことを考えた。君が俺を殴ってくれなければ、俺は君と一緒に踊る資格さえないのだ」
(『新釈 走れメロス 他四篇』より引用)

世の中にはこんな友情もある、という事を教えてくれるお話なのかもしれません。もちろん他の4篇も、森見登美彦の新たな解釈によって素晴らしい作品になっています。

狸がこんなにも愛おしいなんて『有頂天家族』の名言

森見登美彦は「家族愛」というテーマを、狸を代弁者として表現させてしまう作家です。

『有頂天家族』とは狸の名家「下鴨一家」のこと。京都を舞台に彼らの活躍を描いた森見登美彦作品です。かつては父母と4人の息子で暮らしていましたが、ある時父親は人間どもに美味しい狸鍋にされてしまいます。

次男はそれをきっかけに覇気をなくし、今ではお寺の古井戸の底で蛙に化け、狸への戻り方を忘れてしまっています。残る3兄弟も問題児ばかり。長男はプレッシャーに極端に弱く、3男は面白主義の阿呆で、4男は未熟な泣き虫。

敵対する夷川一家との抗争や、狸の師匠である天狗の赤玉先生の傍若無人っぷりなどに振り回される一家ですが、彼らの絆は本物です。

かつて狸界のリーダーであった父親のことを思いながら兄弟は自嘲します。

「母上の言ったように、器の大きい子どもたちに育ったけれども、うち3匹は役立たずだぜ」
「さらに言えば、1匹は蛙だ」
(『有頂天家族』より引用)

そこに母親がすかさず

「蛙でもなんでもかまわないよ。あなたたちがこの世にいるだけで、私はじゅうぶん」
「それに、あなたたちは皆、立派な狸だものね。お母さんにはわかっているよ」
(『有頂天家族』より引用)

と言います。

森見登美彦は、どれほど物語が幻想的であっても、こうした何気ない場面で普遍的な母親の愛情を表現しているのです。

著者
森見 登美彦
出版日
2010-08-05

また、かつて父親が長男に語った言葉も鋭いものです。

「いずれおまえも、俺の跡を継ぐことになるだろう。(中略)狸界にはいけすかん狸もいるし、おまえはまた頭の硬いところがあるから、喧嘩をすることも多いだろう。(中略)いつか狸界の半分を敵に廻しても、かたわらを見ろ、おまえには3匹の弟がいる。これはたいへん心強いことだ。それがおまえの切り札となる日が必ず来る」
(『有頂天家族』より引用)

両親の子を思う心というのは、狸だろうが人間だろうが共通なのでしょう。

この小説はアニメ化もされていますし、読み進めていくうちに、狸が大騒動の中で一喜一憂する姿が自然と頭に浮かんできて、敵味方含め、彼らのことがとても愛おしくなってくる森見登美彦の1冊です。 

正義の味方、ぽんぽこ仮面!『聖なる怠け者の冒険』の名言

タイトル通り、主人公が怠け者です。物語が半分も進まないうちに、偶然発見した居心地のよい座布団の山の中で眠ってしまうのです。その後しばらく登場しないのですが、主人公が居眠りで話から離脱するなんてことが許されて良いのでしょうか?

しかしここで突然、森見登美彦は読者に語りかけるのです。主人公だから頑張らなくてはならないなんて、一体誰が決めたのだ、と。

主人公が怠ける一方で、正義の味方ぽんぽこ仮面が一生懸命頑張ります。ぽんぽこ仮面はこれまで街中の困っている人間を助けてきたヒーローなのです。

物語序盤では早速川を流される犬を助けます。が、ひょんなことからぽんぽこ仮面は、これまで彼が助けてきた人間に捕えられそうになります。彼は必死に逃げ回ります。

主人公なのに怠け者。正義の味方なのに逃亡者。

『有頂天家族』における狸で家族愛を表現いたことに通ずる、いかにも森見登美彦らしい捻くれ方です。

著者
森見登美彦
出版日
2016-09-07

それにしても主人公の怠け者っぷりは筋金入りです。休日はいかにのんびり過ごすかを考え、趣味は「将来お嫁さんをもらったら実現したいことリスト」を作成すること。

先輩に怠けっぷりを指摘され、「転がる石に苔はつかない」という言葉を紹介されると、「もっと苔をつけて、やはらかくなります」と返すほど。

物語が進むにつれてもちろん主人公が活躍する場面も与えられるのですが、そこでも怠け者らしさを前面に押し出した活躍っぷりでまさに面目躍如。ここまで徹頭徹尾怠け者を貫けるのは立派な才能でしょう。

この小説はある土曜日、たった1日の物語ですが、物語の最後に登場人物が言います。

「うかうかしてたら、あっという間に月曜日がやってくるんだぞ。あの月曜日がやってくれば、我々は寸暇を惜しんで働くことになるんだ。やるべきことは山ほどある」
(『聖なる怠け者の冒険』より引用)

小説の登場人物にも仕事が待っていて、私たちと同じように、月曜日のことを考えると憂鬱になるのです。

しかし、その言葉に対し、ぽんぽこ仮面が言うのです。

「たしかにいずれ必ず月曜日は来る。しかし明日は日曜日ですよ、みなさん。
イヤになるぐらい怠けるがいい」
(『聖なる怠け者の冒険』より引用)

めちゃくちゃ頑張ったぽんぽこ仮面だからこそ、この一言にとても説得力がありますし、読者に対するぽんぽこ仮面からのエールのようにも思えます。森見登美彦の本作を読むのは、ぜひとも土曜日がおすすめです。


森見登美彦の小説の舞台は、ほとんどが大学時代を過ごした京都です。美しさと歴史が詰まった京都の町並み、例えば鴨川であったり、祇園祭であったり、歴史的な神社仏閣であったり、そういったものが度々作中で重要な役割を担っており、森見作品をガイドブックがわりに、京都探訪を楽しむファンも大勢います。

小説の楽しみ方や世界観はとても沢山ある。森見登美彦がそんなことを教えてくれる小説をご紹介いたしました。ぜひ読んでみてください。

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