京都を舞台にした作品を多く執筆し、京都いち愛されていると言っても過言ではない作家・森見登美彦。くせのある文体、世界観ですが、ハマってしまえば森見ファンとなること間違いなしです!学生時代に好きだった、という方も大人になってからもう一度手を伸ばしてみるのはいかがでしょう?
京都大学出身の森見登美彦が手がけるお話は、京都を舞台にしたファンタジーが多いのが最大の特徴。学生時代を過ごした土地であるだけに、その描写は実に活き活きとしています。
ウィットに溢れた語り口調や、個性的なキャラクターによる予想もつかない展開は多くのファンを夢中にさせ、特に舞台の京都では森見信者までいるんだとか。京都を感じる作品を読みたい方や、詭弁のように独特の論理の筋が1本通っている文体にハマりたい方におすすめです。
そんな京都を代表する森見登美彦のおすすめの書籍をランキング形式で10作、ご紹介。売上や知名度のほか、「この作品から読めばこの作者が好きになる」とライターが考えたランキングになっています。
森見登美彦の小説に登場する名言について知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
名言で読む、森見登美彦の名作小説5選!
圧倒的な文章力と、万華鏡のようにめくるめく摩訶不思議な世界観で人気の作家、森見登美彦。京都大学農学部の出身であり、京都を舞台にしたものが多い彼の小説の中から、京都で生き生きと輝く登場人物たちの名言を通して、5つの物語を紹介します。
森見登美彦のおすすめ作品第1位は、「夜は短し歩けよ乙女」です。まずなんといっても語感がいいですよね。
そして、その内容も森見ワールドを堪能するには申し分ありません。主人公は素性のよく分からない、けれども森見作品の例に漏れずちょっと変わり者の大学生である「私」。「私」はある時「黒髪の乙女」に恋心を抱いてしまいます。
なんとか彼女の気を引こうとしますが、黒髪の乙女はその奔放な性格ゆえに「私」の想いになかなか気づきません。お酒が好きな黒髪の乙女は夜の町に繰り出し、それを追う「私」。そして、夜の町では摩訶不思議な人物やモノに出会うことに……。
物語は「私」の視点と、黒髪の乙女の視点が章ごとに交代して進んでゆきます。「私」の悶えるような愛情と、ごく自然な黒髪の乙女の振舞いの応酬には、なんだか微笑ましい気持ちにさせられてしまいます。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2008-12-25
古都・京都とそれゆえに醸し出るファンタジーの要素が、これでもかといわんばかりに詰まっている作品です。特に古本市めぐりをする乙女と、それを追いかける主人公のエピソードからは「本を読むということ」の奥深さが感じられます。読書好きにとっては実に面白い箇所です。
登場人物たちの強烈な個性とそれを取り巻く少し不思議な世界観、乙女に手の届かない主人公の狂いそうなほどもどかしい感じへの共感などが相まって、1位に選ばれました。
「たぬきシリーズ」と銘打った当シリーズは、その名の通り狸たちを題材にした物語です。森見登美彦初となる連作小説で、3章に渡ってお話が展開します。
自然が身近な京都では、狸たちが人間界に降り立って人に化けて生活することがありました。狸の名門である下鴨家の父であった総一郎は、ひょんなことから人間に捕獲され狸鍋とされてしまい、やがて、下鴨家自体も狙われてしまうことになるのです。さらに人間だけでなく、狸界のライバル・夷川家との抗争も絶えません。下鴨家の狸たちはこのピンチにどう立ち回るのでしょうか。
また、狸だけでなく天狗の赤玉先生や、彼らと交流を持つ正真正銘の人間の女の子・弁天など多彩な登場人物で、色彩鮮やかな「ちょっと異世界ファンタジー」となっています。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2010-08-05
平和な京都の町に激震が走りました。天狗の赤玉先生の跡を継ぐという「二代目」が、帰ってきたのです。彼の帰還にみんなは大慌て。下鴨家と夷川家の対立も新たな展開を迎え、二代目と弁天が物語のカギを握ることになります。さあ、終章の第3章に向けてどのようなお話が待っているのでしょうか。
化け狸や天狗といった日本古来の伝承をもとにしたお話ですが、人間の弁天や金曜倶楽部などもどことなくファンタジーな要素が強く、想像力がかきたてられること間違いなしです。
太宰治の『走れメロス』とはある男とその友人の互いに信じる姿を描いた作品ですが、森見登美彦の「走れメロス」は一味違うようです。
主人公は大学の詭弁論部に属する茅野という男。不真面目な学生である彼が部室に行くのに久しぶりに大学へ行ってみたところ、大事な部室がなくなっていました。激怒した茅野は図書館警察の長官に文句を言いに行きますが、長官からは「ブリーフ一枚で踊ったら返してやる」と突っぱねられてしまいます。この条件を飲みたくない茅野は嘘をついて、身代わりに友人の芹那を置いて行ってしまいます。嘘を見抜いた長官はなんとしても茅野に条件を飲ませるべく、彼の捜索に打って出ます。
逃げる茅野、そして残された芹那。詭弁論部の部室はどうなってしまうのでしょうか。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2009-10-15
原作と違い、約束を破りぬくために走り回るというところがなんともコミカル。本書は『走れメロス』の他にも、『山月記』『藪の中』など日本の古典小説とされる作品が森見登美彦の世界観で「新訳」されています。日本文学の巨匠たちの作品をオマージュしたものですが、原作とはまた違った角度から「友情」「誠実」などのテーマに焦点を当てているのが面白いですね。
本家の『走れメロス』について興味がある方はこちらの記事もおすすめです。
『走れメロス』のダメダメな3日間に密着!太宰治の名作の面白さを斜め読み!
『走れメロス』は太宰治の小説です。執筆されたのは1940年、初出は「新潮」の同年5月号でした。主人公・メロスは親友・セリヌンティウスをほっぽいて、3日間をのんびりと過ごしていたダメ青年。 今回はそんな男が活躍(?)する『走れメロス』の面白さを斜め読みしていきます。
こちらも京都大学のある学生のお話です。主人公は京都大学農学部に属する3回生の「私」。歯の浮くような出来事も特になく、友人として付き合うのは小津という変わり者だけ。「ふはふはして、繊細微妙で夢のような、美しいものだけで頭がいっぱいな黒髪の乙女」と恋仲になるのが彼の夢でした。
そんな主人公が理想のキャンパスライフを満喫すべく、数々の並行世界で新しいスタートを切っていきます。この並行世界という設定が、この物語の1番の特徴。1回生の時に違うサークルを選んでいたら大学生活がどう変わっていたかというもしも話を4話構成で描きます。
それぞれに登場人物や結末は違いますが、そのうえで少しずつリンクしています。そして仕上げの4章では、複数の並行世界にわたることになるのですが、果たして「私」は念願の乙女と恋仲になれるのでしょうか。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2008-03-25
この作品の魅力はなんといっても登場人物のセリフのひとつひとつです。少しひねくれているけれども知性に溢れ、詩的な会話は読んでいてほれぼれするほど。
「世の中はバラ色ではない。実に雑多な色をしている」
「私は貴方を全力で駄目にします」
「成就した恋ほど語るに値しないことはない」
語彙の豊富さがとても気持ちのよい文章です。文体は完全な一人称で、「私」がテンポよく話を進めていくまさに軽快そのもの。ページを繰る手が止まることを知りません。
『四畳半神話大系』についてはもっと詳しくこちらの記事で紹介しています。
小説『四畳半神話大系』6の魅力をネタバレ!明石さんにはモデルがいる!?
京都のオンボロアパートの四畳半に暮らし、薔薇色とは、ほど遠いキャンパスライフを送る「私」。「こんなはずじゃなかった」と言いますが、果たして本当にそうなのか。違う選択をしたら、違う道筋を辿れていたのか……。 本作は、テレビアニメ化されたことでも有名な森見登美彦の人気小説です。4つの平行世界を通じて描かれる「私」の物語と、それを彩るのキャラクター、怪しさと笑いに満ちた作品の見所をご紹介していきましょう。
森見登美彦作品の主人公にはある共通点があります。それは、どことなく変わり者で、世界の流れから少し外れてしまったような、そんなところ。「太陽の塔」も例外ではありません。
主人公は京都大学農学部5回生で半年の休学をしている「私(森本)」。4回生の時に研究に嫌気がさして、ロンドンへ飛んでしまいます。ここまでなら、「まあそういうことがあってもおかしくはないかな」という感じですが、この男のぶっ飛び具合は留まるところを知りません。
「私」はサークルの後輩である「水尾さん」と交際するのですが、結局振られます。水尾さんのことをきっぱりと切り捨てることのできない「私」は、彼女のことをもっと知るべく「水尾さん研究」なるものに大学休学期間を使って取り組み始めるのです。親が聞いたら泣くでしょう。しかし、そんなことは「私」にとっては関係ありません。ストーカーとしての才能をあらわにする主人公ですが、その姿は恐怖というより、むしろ滑稽。
そんな狂気にも思える研究に没頭する「私」の前に、同じように水尾さんに近づこうとする「遠藤」という学生が登場します。ちょっと変わった恋敵、という構図ですね。
物語は進み、クリスマスにある事件が起きます。果たして、水尾さん研究は完成するのでしょうか。そして、この京大生たちの結末は……。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2006-05-30
「ゴキブリキューブ」「ソーラー招き猫事件」「砂漠の俺作戦」など個性的な固有名詞のエピソードが満載。読んだ人にしかわからないような奥の深さが魅力的です。 作者が大学在学中に発表し、デビュー作となった「太陽の塔」。森見文学の記念すべき1冊です。
作者自身が「呆れるような怪作」と称した作品が『熱帯』。書籍のタイトルも「熱帯」ですが、物語内にも「熱帯」という書籍が登場し、複雑な入れ子構造の迷宮にいざなわれるような作品です。
登場人物の作家・森見は、学生時代に「熱帯」という小説に出会います。毎日少しずつ読み進めていましたが、約半分読んだところで突然その小説が消えていることに気が付きます。
それから16年、この小説のことが忘れられず問い合わせたり図書館で調査したりしますが一向に手がかりがつかめません。ある日、謎のある本を持ち寄る「沈黙読書会」に参加することになり、森見は「熱帯」の話題を出すことに。
すると、そこには「熱帯」を手にした女性がいたのです。彼女の口は、読み終わることができないこの小説について何か知っているようです。
小説の謎を追う仲間が増えていくうち、その中のある人物の行動を記した手記が手がかりになり……。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2018-11-16
ECサイト内の「マトグロッソ」というページで連載していた物語。その連載は途中で休止していましたが、年月を空けて完結にたどりつきました。待ち望んでいたファンも多かったのでは。
『千夜一夜物語』へのオマージュに挑戦した物語になっており、夢なのか現実なのか、誰の物語なのか、複雑なメタ構造が最大の魅力。何度も読み返すたびに新しい発見があるので、手元に1冊置いておくのもおすすめです。
宵山とは本祭の前夜に行われる祭りのことで、特に京都八坂神社の祇園祭前夜のことです。その宵山を舞台にした森見登美彦作品『宵山万華鏡』はとても不思議なミステリーでもありファンタジーでもあります。
夜店の駒形提灯や裸電球の連なり、紅い幕どりはおぼろげで、しかも妖しげな宵山独特の雰囲気を生み出します。そんな宵山を利用して友達を壮大なドッキリではめる古道具屋がいるのです。
ドッキリ劇場はかなり本格的。劇団元道具担当を雇い、キャストを揃え、町家を予約し、本物感を追求します。そして、当日はまんまとドッキリに仕上げるのです。宵山という、もともとの不思議ワールドに加えて、さらに不思議なキャスト達が宵山の夜を盛り上げます。ドッキリであることが明かされたとき、傍らを赤い浴衣を着た女の子たちが駆け抜けていきます。
しかし宵山では、実際に女の子が消えてしまったのです。娘が帰ってこない家では、毎日が宵山の夜となります。なぜ宵山の夜は繰り返されるのでしょうか。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2012-06-26
森見登美彦ワールドは、京都を舞台にしている点と不思議なストーリー展開で一世を風靡しています。そのなかでも、『宵山万華鏡』はファンタジーとミステリーが複雑に織りなす不思議森見ワールドの最高峰です。混雑した夜店の雑踏の中を颯爽とすり抜ける赤い浴衣の女の子がどのシーンでも必ず現れ、不思議感を盛り上げます。
森見登美彦小説独特の浮遊感の中で、しっとりと語られていくミステリー。『宵山万華鏡』に触れることで一味違った京都祇園祭の夜に触れてみてはいかがでしょうか。
森見登美彦の『恋文の技術』は実は「恋文への恋文」です。そこには恋文への愛情が満ち溢れています。愛が溢れると物語になります。そんな風に出来上がった素敵な物語です。
守田一郎は、大学の研究の一環で京都から能登に「飛ばされ」ました。能登で、研究以外に何も楽しみのない守田一郎は、手紙に没頭します。文通の相手は親友であったり、元家庭教師の教え子の小学生であったり、ライバル(?)の女性であったり、たまたまつながりのあった女性たちが敬愛する作家である森見登美彦(!)であったりするのです。
そして、相手からの返信は一切載せず、一方的な文面ながら、創意工夫に満ちたお手紙を披露し続けるのです。手紙では、どれも上から目線なのですが、内容は愛に満ちています。その愛とは何に対する愛なのでしょうか?創意工夫に満ちている手紙に対する愛なのでしょうか、手紙を送る相手への愛なのでしょうか?全編を通して感じたことは、月並みなのですが、手紙と手紙を送る相手への両方への愛だと思います。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2011-04-06
相手への思いや愛がないとこれほど大量かつ創意工夫に満ちた手紙は書けません。手紙そのものに思いや愛がないと、やはりこんなに創意工夫に満ちた手紙は書けないと思います。素敵なのは、毎度差出人名と相手先名が変わること。1番のお気に入りは「無知無知もりた拝」です。
何かへの、あるいはどなたかへの想いを表現する『恋文の技術』を読んで、メールではなく、手紙で想いを伝えてみるのも悪くないかも、なんて思います。本書を読んで、ぜひ恋文と手紙への恋心を感じてみてください。
研究熱心な小学生、アオヤマ君が暮らす郊外の街に、ある日突然ペンギンが現れた!そんな奇想天外な物語なのに、どこか爽やかなファンタジー小説です。
小学四年生のアオヤマ君はとても研究熱心です。いつもノートを持ち歩き、気づいたことをメモします。小学生らしからぬ論理的思考力を持っており、テーマを決めて研究するのです。
アオヤマ君は通っている歯科医院のお姉さんが大好き。お姉さんもアオヤマ君が好きなんだと思います。歯科医院だけではなく「海辺のカフェ」で会っているのです。「海辺のカフェ」ではお姉さんとチェスをします。そんなお姉さんは、実はペンギンを「創り出す」ことができるのです。
ある日、街の空き地にペンギンが現れます。ペンギンはどこから来たのか?街の人たちはいろいろと考えますが、誰にもわかりませんでした。しかしあるとき、お姉さんが現れてペンギンを「創り出した」のです。
アオヤマ君は同級生のウチダ君、ハマモトさんと一緒に街の不思議を研究します。研究対象の一つがペンギンであり、お姉さんなのです。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2012-11-22
アオヤマ君はお姉さんとチェスをしたり、コーヒーを飲んだり大人の世界を体験します。そして、お姉さんのことを観察し、記録するのです。そんなアオヤマ君をお姉さんはやさしく見守り、導きます。
『ペンギン・ハイウェイ』では、子どもからみた大人の女性へのほのかな憧れを、森見登美彦の独特の文体で表現しています。こましゃくれた子供と街に現れたペンギンを組み合わせて大人世界へのあこがれを表現しているのです。そうすることで純粋な憧れが恋ごころへと変化していく様を見事に表しています。
森見登美彦の不思議な世界観で表現された、ファンタジー物語をぜひ堪能してください。
『ペンギン・ハイウェイ』について紹介したこちらの記事もご覧ください。
『ペンギン・ハイウェイ』をネタバレ考察!5分で分かるアニメ映画化小説!
本作は、小学4年生のアオヤマくんが不思議体験をしながら成長をしてく物語。さまざまな未知との遭遇があります。この未知との遭遇を乗り越えて、アオヤマくんはどうなっていくのでしょうか。 この記事では、あらすじから結末まで解説いたします。どうぞ最後までご覧ください。
タイトルを見て、ピンと来た方も多いのではないでしょうか。森見登美彦の代表作『四畳半神話大系』でお馴染みのクセの強い登場人物らが暮らす寮を舞台に、映画化もされた人気の舞台『サマータイムマシン・ブルース』の物語が展開します。
寮に住む「私」の部屋のエアコンのリモコンに惨事が起こるところから物語は始まります。悪友の小津がコーラをこぼし、壊してしまったのです。
これだけでも最悪の事態。さらには「私」が誘おうと思っていた女性・明石さんが、五山の送り火見物を誰かと一緒に行くと言うのです。それからというもの不可解なことが頻繁に起こります。
ある日、どこかの漫画で見たことのあるようなタイムマシンとおぼしき機械とモッサリした風貌の男子生徒が寮に現れます。小津が試し乗りしタイムマシンが本物だと判明したところで、リモコンが壊れる前の世界に行ってリモコンを取ってこようという案が出ます。
しかし、過去を変えてしまえば現在も変わってしまいます。リモコンが壊れた結果としての今日がなくなれば、リモコンを求めてタイムマシンに乗ることもなくなってしまうのです。その矛盾が発生すれば、この全宇宙が丸々消滅してしまうのではないか……?
全宇宙消滅を回避すべく動き出す面々。そして、「私」は明石さんと送り火に行けるのか?モッサリした少年は一体誰?ハラハラする展開の末、怒涛の伏線回収がラストに待ち受けています。
- 著者
- ["森見 登美彦", "上田 誠"]
- 出版日
『サマータイムマシン・ブルース』は、『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』などのアニメ脚本を担当した上田誠の作品です。ストーリーは舞台や登場人物が違うだけでほぼ『サマータイムマシン・ブルース』のままですが、元を知っている方でも森見流にどう置き換えられているのかを楽しみながら読める作品に仕上がっています。
『サマータイムマシン・ブルース』を知らない方、作者や『四畳半神話大系』のファンという方にももちろんおすすめ。パラレルワールドをテーマにしていることから、『四畳半神話大系』のアナザーストーリーのように味わうことができます。樋口師匠のようなアクの強いキャラクターも健在。
タイムマシンが存在するという設定を通して、二度と取り返せない青春の美しさを眩しく思える作品です。
物語の舞台は京都。主人公の小和田君は京都の郊外にある化学企業に勤める青年で、週末を独身寮でゴロゴロとして過ごすことを無上の喜びとしています。そんな筋金入りの怠け者である小和田君は、ある問題に遭遇していました。それは「ぽんぽこ仮面」という狸のお面を被った正義の味方から自分の後継ぎになれと強引に迫られている事です。
ある日突然京都の街に現れたぽんぽこ仮面は、最初はその怪しい姿から警察に通報されていましたが、その後のたび重なる善行から今ではすっかり世間から認知された人気者です。
ぽんぽこ仮面は小和田君に、世のため人のため正義のために自分の時間を犠牲にすることの尊さを一生懸命説きます。しかし怠けることに情熱を燃やす小和田君は、ぽんぽこ仮面のたび重なる要求を拒否してきました。そしてある土曜日の始まりとともに小和田君の身の上には様々な出来事が起こり、小和田君の休日は非日常的な混沌の世界へと変わってしまいます。
- 著者
- 森見登美彦
- 出版日
- 2016-09-07
物語の混沌の度合いとは反対に、作品の文体や登場人物たちの科白は常に大げさなまでに理路整然としています。そのギャップを楽しむのが本作品の読みどころです。
怠けることの尊さもあり、一生懸命行動することの尊さもあり、世の中は常に混沌としている事、物事の全てにはそれぞれ筋と道理があることを本作は教えてくれます。肩の力を抜いて楽しむのにうってつけの一作です。
物語は学生時代、同じ英会話スクールに通った仲間5人が京都・鞍馬へ集まったことから始まります。10年前の秋にも彼らは叡山電車に乗り鞍馬の火祭見物へ出かけますが、その夜仲間の1人が姿を消しました。いまだ行方不明である長谷川の失踪をきっかけとして彼らの「青春」は終幕を迎え、やりきれない想いを個々に抱えてきたことが浮かびあがります。
再会した彼らは、旅先で体験した不可思議な怪談めいた物語をそれぞれに語り始めます。
この10年間、ほぼ交差することのない生活を送っていた彼らが、行った時期も場所も違う旅先で偶然か必然なのか、銅版画家・岸田道生が製作した「夜行」という連作作品のひとつに必ず出会います。48作品ある「夜行」はその土地ごと、列車と顔のない女性の姿を描き入れることで、「夜明けのくる感じがしないね」と登場人物のひとりが囁く、昏く深い夜の世界を表現しています。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2016-10-25
彼らが語る旅先での体験は、ふだん自分自身すら意識していなかった深層部、いわば影の部分が日常に引きずり出された物語といえます。いえ、日常と思っていたことが非日常だったのかもしれません。どこまでが真実で、どこからが妄想なのか。すべては昏い夜に呑み込まれ曖昧です。
「世界はつねに夜なんだよ」と囁く、岸田道生の声が聞こえてきます。最後の最後まで「夜行」という銅版作品と作者である岸田道生、失踪した長谷川の謎が散りばめられ、怪談ともミステリーとも、ファンタジーともいえる世界がこの『夜行』という作品になっています。読了後、答えの出ない謎に行き着く方もいると思いますが、自分なりの解釈や答えを求めながら再読すると、また違う世界が見えてくるかもしれません。
まとめ
以上、森見登美彦のおすすめ作品をご紹介いたしました。少し癖があるけど魅力的なキャラクターや、情緒豊かな京都の町の描写、森見節とされる独特の言い回しなど、心惹かれるところがたくさんあります。また、読んだ後には実際に京都に行きたくなるという人もしばしば。森見登美彦の本を持って、京都の町を散策してみるのはまた新しい楽しみがありそうですね。お読みいただきありがとうございました。