バブル期の日本を舞台に女装の殺し屋が活躍する『鈍色のカメレオン』でセンセーショナルな連載デビューを飾った漫画家・春日井晶。 そんな春日井晶が満を持して世に送り出した次作『踊る千年家族』は、不老不死の7人兄弟が世界を股にかけ暴れ回る、壮大なスケールのファミリーコメディです。 今回はヤングキングアワーズで絶賛連載中の『踊る千年家族』のあらすじや魅力をネタバレレビューしていきます。
舞台は現代日本、都会の片隅。
先輩にいじめられているコンビニバイトの青年・テオことテオドール・ベンフィールドを、弟のアーサーがリムジンで迎えに来ます。
あれよあれよといううちに自家用ジェットに乗せられたロックは、そこで長男ヘイデン、ならびに長女イヴと再会を果たしました。
ヘイデン曰く、ロックの妹でありベンフィールド一家の次女にあたるライネが、アメリカの秘密機関に拉致監禁されて、非道な人体実験を受けているというのです。
ライネが狙われた理由はベンフィールド7人兄弟の体の秘密にありました。イギリススコットランド出身の彼ら7人兄弟は不老不死の呪いを受けており、千年の長い歳月を生きていたのです。
普段は世界各地に散らばっているものの、兄弟の危機とあらばたちまち集結し、総力を挙げて救出に挑むのがベンフィールド兄弟の信条でした。
しかしロックは「うちの兄弟が揃うとろくなことにならない」と考え、ヘイデンたちとの接触を長年避けてきました。ロックにとって個性的すぎる兄弟たちは疫病神に等しい存在だったのです。
その予感は的中し、アメリカに向かっていたジェット機が敵に爆破され、ロックたちの体はばらばらに飛散した上空中に投げ出されます。
どうにか復活を遂げたロックたちは、先行していた三男の助けを借りて研究所に潜入をはたし、ライネのもとへ急ぐのでした。
以下、ベンフィールド7人兄弟一覧です。
- 著者
- 春日井 晶
- 出版日
『踊る千年家族』は次にくるマンガ大賞 2022にノミネートされるなど、現在注目が高まっている漫画です。ヤングキングアワーズ2021年5月号にて連載スタートし、2023年4月時点で既刊3巻が発売されています。
春日井晶(『鈍色のカメレオン』までは春日井明名義)の代表作は『鈍色のカメレオン』。こちらはバブル終盤の日本を舞台に、13歳の女装の殺し屋・ユウが、最愛の姉の仇をさがす復讐ものです。
全4巻と巻数こそ少な目ですが、冷酷非道な殺し屋業界の実情と、ユウの姉殺しの真相が絡んで極上のスリルとサスペンスを生み出していました。
見た目は黒髪ロングの清楚系美女、その本性は13歳の多感な少年。組織の命令に従い標的を屠りながら、姉を惨殺した犯人を追い続けるユウの姿は、刹那的な疾走感と共に鮮烈な印象を残しました。
ゴージャスなボディコンやセーラー服など、エピソードごとに魅せてくれる大和撫子七変化も見所です。
- 著者
- 春日井 明
- 出版日
前作『鈍色のカメレオン』のテーマが復讐なら、『踊る千年家族』のテーマは家族(兄弟愛)。本作はミレニアムを生きた7人兄弟の群像劇であり、不老不死であるが故の苦悩や苦労、または喜びを描いたイロモノホームコメディとなっています。
ベンフィールド兄弟は7人全員キャラが立っており、誰一人として埋没しない強烈な個性の持ち主。長男のヘイデンは堅物元検事、次女のイヴは整形マニアで素顔にコンプレックス持ちのセレブ、イブと双子の次男ノエルはファミリー大好きな殺人鬼、三男ヒューゴはストイックな傭兵、五男アーサーは見た目ショタな大企業のオブザーバー。
次女のライネはフランスでオタクに目覚め、日本のコミケに積極的に参加しています。
一番平凡な四男ロックにしても、実は居合斬りの達人です。
この7人が織りなすドタバタ劇が捧腹絶倒の面白さなのは間違いありませんが、ロック達が毎回の如く受ける拷問も見逃せません。ベンフィールド7人兄弟は全員が不老不死であり、欠損してもすぐ回復する不死身の肉体を持っています。
その為大昔から異端狩りの標的にされ、数限りない拷問・処刑を経験してきました。両手両足の爪を剥がされる、生きながら解剖される、目玉をくりぬかれるなどはもはや日常茶飯事。
とはいえ回復力が凄まじいだけで、痛覚は常人のそれと変わらないのですから生き地獄。
春日井晶は一切手抜きをせずゴアシーンを描いており、キャラクターの手足がもがれ、血と肉片が飛び散る戦闘シーンの迫力は圧巻の一言に尽きます。
正常な神経の持ち主なら発狂してもおかしくない状況ですが、ベンフィールド7人兄弟はお互い支え合い、波乱万丈なミレニアムを家族の絆で逆境を乗り切ってきました。
兄弟たちがワイワイガヤガヤご飯を食べる日常シーンが微笑ましい傍ら、ファミリーの捕獲を企む勢力を返り討ちにしていく展開は痛快!
前述したとおり、ベンフィールド7人兄弟は肉体以外は普通の人間。ギフトと呼ばれるちょっとした異能を持っていますが、魔法を使えるわけではありません。従ってバトルは徹底した肉弾戦。
ちなみにテオのギフトは他人の記憶から自分の存在を消す「忘却」。イヴは怪力の持ち主でライネは動物と会話可能。アーサーは人の心が読めます。
長男ヘイデンは弓、三男ノエルはナイフ、四男ロックは日本刀と、それぞれが慣れ親しんだ得物を駆使し、全身武装の集団を屠っていくフィジカル特化のバトルは、少年漫画の王道を感じさせる痛快さにあふれています。
イロモノホームドラマと痛快バトル、過激なゴア表現を同時に味わえるエンタメ漫画の傑作をぜひ読んでください。
- 著者
- 春日井 晶
- 出版日
- 著者
- 春日井 晶
- 出版日
- 著者
- 篠原 健太
- 出版日
春日井晶『踊る千年家族』を読んだ人には、週刊少年ジャンプ連載中の『ウイッチウォッチ』(篠原健太)がおすすめです。作者は『SKET DANCE』『彼方のアストラ』がアニメ化されており、本作もギャグ漫画として安定した面白さを誇っています。
主人公は高校生の乙木守仁(モリヒト)。彼は生まれながらに鬼の力を宿していたが故、他人を傷付けることを避け、人付き合いに不器用になっていました。
そんなある日、幼馴染の若月ニコと6年ぶりに再会。ニコの正体はポンコツ魔女で、モリヒトを使い魔にしてしまい……?
- 著者
- 西修
- 出版日
- 2017-07-07
続いておすすめするのは『魔入りました!入間くん』(西修)。
中学生の鈴木入間はクズ両親に虐げられる可哀想な身の上。ある時両親の借金のカタに魔界に売り飛ばされ、悪魔学校バビルスの理事長・サリバンの孫にされてしまいます。
周囲は凶暴な悪魔だらけ。人間だとばれたら命がない……入間のドキドキ学園生活がスタートしました。
大人から子供まで楽しめるハチャメチャギャグである同時に、友達の大切さや仲間の絆に感動できる、王道少年漫画に仕上がっています。