『ラーメン赤猫』は猫たちが運営するラーメン屋で起こる、お客さんや従業員同士の関係に癒やされるコメディタッチの漫画です。Webコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で連載中であり、人気の高さから2024年にアニメ化され、2期の制作も予定されています。 そんな漫画『ラーメン赤猫』がなぜ面白いのか、作品内容を紹介しながら魅力に迫っていきます。

『ラーメン赤猫』はWebコミック配信サイトおよびアプリ「少年ジャンプ+」で連載中の漫画です。単行本は現在第6巻まで発売中で、3月4日に第7巻が発売予定。
調理も経営も、猫が行っているラーメン店。知る人ぞ知るその名店で、従業員同士のやりとりや猫好きのお客の交流が描かれるハートフルコメディです。
タイトル通りラーメン屋「ラーメン赤猫」(以下、店名を指す場合は「」表記)がメインの作品ですが、主要人物の大半が猫という異色の動物漫画でもあります。
元は人気によってインディーズ連載が決まる「ジャンプルーキー!」の作品でしたが、多くのファンに支持されてインディーズ連載となり、さらに正式連載に移行しました。連載の経緯からもわかりますが、癒やされる作風で老若男女問わずファンの多い漫画です。
同じ「少年ジャンプ+」連載作繋がりで、『SPY×FAMILY』のアーニャ(種﨑敦美)の歌うCM動画が公式に制作されたこともあります。
2023年11月、そんな『ラーメン赤猫』のアニメが2024年7月に放送決定。制作は尾田栄一郎原作の『MONSTERS 一百三情飛龍侍極』で今話題のE&H productionです。同時にメインキャラクター文蔵の声優は津田健次郎です。
「ジャンプルーキー!」から正式連載&アニメ化した漫画は『ラーメン赤猫』が初めてです。どうしてこれほどの人気作になったのか、作品の魅力をご紹介していきます。
ネコ科の従業員しかいない「ラーメン赤猫」。「接客1番、味2番」をモットーにするその店は、猫好きやラーメンファンが訪れる隠れた繁盛店でした。
経営は順調すぎるくらいでしたが、人手があった方がスムーズなことから、店長・文蔵(ぶんぞう)は前店主の紹介でやってきた社珠子(やしろたまこ)を雇い入れます。最初は反発する猫もいましたが、珠子の丁寧な仕事ぶり(ブラッシングなど)で徐々にわだかまりは解消。
とはいえ、飲食店は日々の営業でさまざまなことが起こります。従業員間の問題、お客を含む個々の悩み、招かれざる迷惑客の騒動などなど。しかし、どんなことも猫たちと珠子は一丸になって乗り越えて、ほっこりさせてくれる“ワン”ダフルならぬ“キャット”フルコメディとなっています。
『ラーメン赤猫』のメインキャラクターは猫ですが、主人公を筆頭に人間も少なくありません。
まず社珠子。本作の主人公で、眼鏡をかけた大人しい女性です。猫たちのブラッシング、大量の洗い物、製麺作業の手伝いや広告……猫に難しい雑事を担う、縁の下の力持ち。厨房に出る際は、黒子衣装に猫耳を装着して雰囲気を壊さないようにしています。
「ラーメン赤猫」店長は文蔵です。茶トラ柄のオーソドックスな家猫でお店の顔。主に調理を担当しており、猫には食べられない人間用の味付けを経験と勘で行うプロの料理人。営業時間の前後や合間に、ほとんど休まず仕込みをする職人気質の猫です。
ハチワレの佐々木は接客・レジ・経理といった裏方担当。猫らしからぬ勤勉さと知識の持ち主でITにも強く、猫の自立支援を援助する社会事業も行っています。実は「ラーメン赤猫」のオーナーでサービスを第一にしつつも、意外とちゃっかりしてる計算高い猫。珠子の人権を尊重する一方、冗談めかして「猫に労働法はない」と言うややブラックな一面も。
黒猫のサブはサイドメニュー調理と盛り付け担当。文蔵と違って抜けている部分はありますが、職人気質でない分、思ったことを素直に発言したり細やかな配慮が出来る猫です。かなりのゲーマーで、FPSプロチームに誘われるほどの腕前。
メスの白猫ハナは「ラーメン赤猫」のアイドル的存在です。甘え上手かつ説明上手で、初来店のお客でも心をガッチリ掴める接客のプロ。オンオフがしっかりしていて、身内相手や営業外での言動は少しキツめ。ある事情から人間不信気味でしたが、珠子とは接するうちに打ち解けていきます。
クリシュナは基本的に裏方に徹して、製麺作業に勤しむトラ(彼女だけ猫ではなくネコ科)です。表に出てこないのは、大きな体格に反して臆病で恥ずかしがり屋なため。とても優しく穏やかなメスですが、麺作りに賭ける情熱は猫一倍あります。従業員は全員住み込みで2階居住区に個室を持っていますが、体格のせいかクリシュナはハナと同室。
初期メンバーにはいませんが、のちのちにジュエルという長毛種の猫も登場ます。自分自身でホストクラブを経営するのが夢で、接客を学ぶために「ラーメン赤猫」で働くことに。
他には「ラーメン赤猫」の実質的な顧問弁護士・寺田みきお、機材の保守点検をする業者・城崎、しょっちゅう来店するお客などの準レギュラーがいます。
あえてご説明するまでもないと思いますが、猫はとても可愛らしい生き物です。本作に登場する猫たちも同様。漫画なので少しデフォルメされているものの、丸っこい以外は現実の猫に近いデザインです。
そんな猫たちが言葉を喋って、表情豊かに動くのですから可愛くないはずがありません。語尾は「にゃ」、返事は元気いっぱいに「にゃー!」。お話によって多少シリアスなこともありますが、基本は明るく楽しく、時にふざけて働く猫の姿に癒やされます。
来店する客層は主に「ラーメン赤猫」贔屓の猫好きばかりなので、お店全体の雰囲気がいいのも和むポイント。
ちなみに『ラーメン赤猫』世界では喋る猫は一般的とまでは行かないですが、ある程度社会に浸透している概念のようです。
我々のイメージする普通の猫が大半で、一部の才能と訓練をした猫が言葉を話す……ようなのですが、喋る猫の生態はコメディタッチの本筋と関係ないため曖昧にされています。
細かい理屈抜きで、猫好きが猫を楽しめるのが魅力と言えるでしょう。
本作はギャグ漫画ではありませんが、基本はコミカルかつコメディタッチです。
例えば第1話でバイトの面接に訪れた珠子に、文蔵が「猫好き?」と問うシーン。普通に考えると猫が運営するお店ですし、猫が好きと答えた方が有利そうに思えますが……珠子は少し迷って「どちらかといえば犬派」と答えました。それを聞いた文蔵は迷わず「よし採用」と即決。
これはお客さんが大抵猫好きなので、人間のスタッフまで猫派だと、猫の従業員一同が常に意識して気疲れしてしまうことを防ぐため。事情を知ると納得出来ますが、スピード感と反射的に想像するイメージとのギャップが面白いです。
他にはいい意味で難解な思考を出来ない猫らしさをストーリーに落とし込み、論点がズレていったり思い違いによるすれ違いが発生し、笑いに繋がることが多々あります。
しかし笑い話に終始しないのが『ラーメン赤猫』。登場人物の悩みや対人関係の問題など、現実でもありそうなことを珠子や猫たち、時にお客さんまで加わって親身に解決する話も珍しくありません。意外なほど人情味(猫ですが)があって、ほろりと来る感動も魅力。
猫の料理店はかなりファンタジックですが、『ラーメン赤猫』の猫たちは人間並みの知性を持っており、毛を落とさない特殊な訓練をしている設定。一見すると奇抜な設定をしっかり補強しており(細かい部分ははぐらかされていますが)、働く猫たちの姿に説得力が持たされています。
実は『ラーメン赤猫』より前に、そにしけんじの不条理ギャグ4コマ漫画で『猫ラーメン』という作品がすでにあるのですが、共通点は猫のラーメン屋というだけで内容はまったく違います。『ラーメン赤猫』は働くキャラクターを描く、いわゆるお仕事漫画として読めるのが面白いところです。
飲食店にトラブルは付きものですが、「ラーメン赤猫」でも同様。大小さまざまな問題からクレーマーが出てきます。現実だと飲食店側がとりあえず謝罪対応しがちですが、「ラーメン赤猫」では明らかに問題がない場合、毅然とした対応を取ります。普段寡黙な文蔵、柔和な佐々木が矢面に立って、しっかり上司の姿を見せるのがちょっと感動。
さらに他の従業員たちも、連携して素早く対処するのが凄いです。ハナの気遣いと愛想の良さは一見の価値あり。
同席したお客さんへ気の利いたフォローをするのは当たり前で、時にはクレーマーになりかける人を寸前で止めることも! どの話もオチはほっこり温かい気持ちにさせてくれます。
本作はあくまでフィクションですし、突き詰めると理想論ではあるのですが、経営の観点から見ても楽しめるのが魅力です。
面接らしい面接もなく、あっさり採用された珠子。入社2日目から本格的に仕事が始まりました。
主な業務は5匹の猫のブラッシング。これがなかなかの重労働で、各々が違う体格(クリシュナに至ってはサイズも)で好みがあり、衛生面から可能な限り抜け毛を除去しないといけないので神経を使います。
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珠子の他の作業はスタッフルームの掃除。猫の手しかないので散らかり放題だった場所が、几帳面な仕事のおかげで見違えるほど綺麗に。ちなみに今回は日が浅いので簡単なものばかりですが、のちのち食器洗いや猫には難しい雑事をするようになります。
警戒心の強いハナだけまだツンケンしていますが、猫たちは皆好意的です。新入りの珠子を温かく迎え入れてくれます。
このエピソードには面白いというか、ハッとさせられる場面が出てきます。人間の珠子に雇用者である佐々木が労働条件通知書を手渡し、諸々の手続きの説明をするシーン。珠子が前職がブラックな広告会社で、職場や雇用条件がめちゃくちゃだったのです。人間よりよっぽど人間らしい猫のお店なのがよくわかって、非常に印象的でした。
ホワイトな職場なのにオチがブラックジョークというのも見事!
一段と冷えるある冬の日。製麺室前の店外に設置されたストーブを囲んで、何人かのお客さんが雑談をしていました。
ほとんどは好意的なお店の感想でしたが、中には「味が変わった」という意見が。耳のいいクリシュナは、珠子のせいでおかしくなったのではという話し声を聞いて、やきもきしてしまいます。
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お客さんはクリシュナに聞こえていることを知りませんし、悪意があって言っているわけでもありません。そのためお店側から「味は変わってない」と言い出すのは不自然です。
そこで一肌脱いだのは、なんと昔なじみの常連客・松村でした。彼は「ラーメン赤猫」の先代(元々の店主は人間)や、文蔵が屋台を引いていた時代を引き合いに出しつつ、変わりなく美味しいとさりげなく文蔵に伝えます。
松村の言動があまりにも粋。人手が必要になった背景にも触れますし、おそらくクリシュナに聞こえるように、美味しかったことを呟いて帰るのが素敵です。
これまで不明だった屋台時代の文蔵や、常連が「ラーメン赤猫」にどういう想いを抱いているのかよくわかる温かいエピソードになっています。
いつも通り夕方から午後営業を開始した「ラーメン赤猫」。開店と同時に何人ものお客さんが席に着きました。勝手知ったる人が多い中、初めて訪れた年配の女性が1人。
カウンターへ座った女性は働く猫たちに心を和ませるのですが、黒子姿の珠子を見た途端に豹変します。猫を働かせておいて、あなたは何をしているのかと怒り始めるのでした。
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珠子の言い分は聞き入れず、佐々木が説明に入っても効果なし。実際には珠子が雇われている側なのに、その女性の中では珠子が責任者で、猫を働かせて利益を上げているという図式になっていました。
ただ単にケチをつけるのではなく、お店を誤解した挙げ句に自分が正義と思い込んだ面倒なお客さん。善意の行動な分、クレーマーより厄介です。
不穏な気配を察知したハナの対応がさすが。そして文蔵はお店の看板メニューをすかさず提供し、さりげなく猫(とトラ)だけで作っていることをアピールします。さらに文蔵は「猫はやりたくないことを絶対やらない」と力説。
その後、女性側の事情も明かされて、しっとりした終わり方になるのが印象的なエピソードです。
アンギャマンは大阪府出身の漫画家です。詳しいプロフィールは非公開。
2007年ごろから、左剛蔵(ひだりごうぞう)名義で活動しており、徒歩の旅行記を描いたルポ漫画『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』などを発表していました。2011年、同作タイトルをペンネームにしますが作品が売れず、一時就職するものの結局は再度漫画家を志します。
そして2017年、読み切り作品が「少年ジャンプ+」に掲載されて商業デビューしました。2019年には初連載作『夜ヲ東ニ』が始まりますが、2巻で打ち切られて低迷。
連載会議で何度もボツを受けたアンギャマンは、読者人気だけで勝負出来る「ジャンプルーキー!」に挑戦することを思い立ちました。X(旧Twitter)向け漫画のつもりだったネームを転用した『ラーメン赤猫』を描き直して投稿し、現在の大ヒットに繋がります。
アンギャマンの絵柄は線が少し荒いですが、ほどよいデフォルメが『ラーメン赤猫』の作風と絶妙にマッチして、温かみを感じさせるのが特徴。Xでは非常にリアルな猫のイラストを投稿しているため、画力はかなり高いです。
アウトドア思考らしく自然との共存、妖怪や不思議な存在との関係がいくつかの作品のモチーフとなっています。人間と人間以外の関わりという意味では、『ラーメン赤猫』にも通じるものがあるかも知れません。
アンギャマンのほとんどの作品は「ジャンプルーキー!」で今も閲覧可能なので、気になった方は他の作品もチェックしてみてください。
漫画『ラーメン赤猫』は現在も「少年ジャンプ+」で連載中。アプリなら全話初回無料で読めるので、気になった方はまずそちらからどうぞ。ちなみに単行本には描き下ろしページがあるので、面白いと思ったらぜひ購入してください。