漫画『ダンダダン』は個性的な少年少女が、都市伝説やUFOといったオカルト事件に巻き込まれ、偶然得た力や機転で切り抜けていくアクション作品です。息つく間もなくハイテンションな展開に魅了される読者が続出! あまりの人気に2024年のアニメ化し、第二期の制作も発表されました。 この記事ではそんな漫画『ダンダダン』の内容と見所を紹介しつつ、魅力をお伝えしたいともいます。

漫画『ダンダダン』は龍幸伸のバトル作品です。幽霊はいると思っているギャル少女・綾瀬桃(あやせもも)と宇宙人はいると思っているオタク少年・高倉健(たかくらけん)が、怪奇現象に巻き込まれて妖怪や都市伝説、果ては宇宙から来た存在と戦うオカルトアクション。
2021年4月からWebコミック配信サイト(アプリ)「少年ジャンプ+」連載中、最新の第13巻が2024年1月に発売されて既刊は19巻、累計発行部数は1000万部以上となっています(2025年現在)。
有名無名問わずオカルト現象を扱いつつ、理屈抜きに楽しめるハイテンションな展開が多くの読者の心をガッチリ掴みました。アクの強いキャラクターと脱力のギャグ、下ネタがあるものの、おおむね万人向けの作風です。
『SPY×FAMILY』などとともに「少年ジャンプ+」の看板作品といえる漫画『ダンダダン』ですが、2025年4月にテレビアニメが放映されました。制作担当は『映像研には手を出すな!』、『四畳半タイムマシンブルース』で知られる株式会社サイエンスSARU。
メインキャストには『リコリス・リコイル』で井ノ上たきなを演じた若山詩音をはじめとして、花江夏樹や田中真弓といった錚々たる声優が参加しています。
アニメ放送第二期開始に向けて非常にアツい『ダンダダン』について、作品の内容や魅力をご紹介していきましょう。
宇宙人はいないと思っているが、幽霊は信じている綾瀬桃。非科学的な幽霊は信じていないが、宇宙人や不思議な現象は存在すると考えている高倉健。ある出来事から言い合いになった2人は、夜間お互いにUFO出現ポイントと心霊スポットへ出向いて、相手の信じるものがデタラメだと証明しようとします。
綾瀬桃が行ったのはただの荒れた廃病院で、高倉健が行ったのも立ち入り禁止の寂れた廃トンネル……のはずでした。しかし、病院にはいないはずの「セルポ星人」と名乗る宇宙人がいて、トンネルには都市伝説「ターボババア」がいたのです。
宇宙人も幽霊(妖怪)も実在する! からくも窮地を脱した2人は、次々起こる異変に巻き込まれ、望むと望まざるとにかかわらず常識とはかけ離れたオカルトの戦いに進んで行くのでした。
『ダンダダン』には個性豊かな主役級キャラクターが何人も登場しますが、主人公は綾瀬桃と高倉健の2人です。
綾瀬桃は誰にでも距離が近い、いわゆるギャルな女子高生。言動はややぶっきらぼうですが根は真面目で優しく、曲がったことが嫌い。俳優・高倉健のファンで、彼を意識させる男性に惹かれる悪癖あり。宇宙人との接触がきっかけで超能力が開花しました。どんな困難にも立ち向かう負けん気の強さ、機転の良さで怪異に対峙していきます。
通称オカルンこと高倉健はもう1人の主人公。内向的で友達がいなかったため、友達になってくれるかもしれない宇宙人の存在を信じて、オカルトにハマった少年です。荒事は苦手ながら、非常に義理堅くて誰かのピンチを見過ごせない性格。怪異の騒動で思わぬ変身能力を得てしまいます。初期は坊ちゃん刈りでしたが、変身以降パーマヘアーに変化。
桃の祖母、綾瀬星子(あやせせいこ)も重要人物です。「エセ霊媒師」を自称する本物の霊媒師です。実力も経験も桃を遙かに上回る能力者ですが、土地神の力を借りているため、地元を出ると力を発揮出来ない弱点があります。なぜかもの凄く若作りの美女で、言動とファッションを除けば外見的には桃の姉にしか見えません。
マスコット枠でオカルンたちの近くにいる招き猫、その正体は妖怪ターボババアの霊体が宿った存在。物凄く口が悪いものの意外と世話焼きなため、戦力にはなりませんが星子に次いでオカルンや桃を導く役を担っています。
そして桃とオカルンの同級生、白鳥愛羅(しらとりあいら)。自他共に認める美少女で人気者ですが、自分を「選ばれた人間」と思い込んでおり、やや腹黒くて裏表があります。怪異事件に巻き込まれてから、オカルンに惹かれる一方で桃を敵視(じゃれ合い程度)するように。ラブコメ的には桃のライバル。
桃の幼馴染みで、かつて初恋相手だった円城寺仁(えんじょうじじん)。通称ジジ。クール系のイケメンと思わせて、チャラチャラした言動がウザすぎる陽キャ少年です。ただしその本質は友愛で、自分に敵意がある者であってもかばおうとする優しい心を持っています。霊的な潜在能力は星子すら一目置くレベルの天才。分割2クールのアニメ前半1クール目では顔見せ程度でしたが、後半2クール目にはキーパーソンとなります。
坂田金太はオカルンのクラスメイトの冴えないオタク男子。自己中心的かつ中2病真っ盛りの痛い言葉遣いとネットミーム語録、アニメや漫画の知識に基づく一般とはかけ離れた思考が特徴的です。下心からオカルンと関わるようになりますが、やがて仲間思いの熱い魂を見せてくれるように。
バモラは綾瀬家に居候する宇宙人。頭から2本の触覚が生えている以外は、ショートカットの金髪がよく似合う美少女にしか見えません。地球の文化には不慣れで、よくわからないまま周囲の言葉を真似することがよくあります。
セルポ星人は敵対的な宇宙人。複数人登場しますが、全員同じ七三分けの中年男性のような見た目です。ある理由からセルポ星人の1人が単独行動するようになり、「セルポ6郎」と名乗って、何かとオカルンたちと関わりを持つようになります。元ネタはかつてアメリカが取り組んだとされる、宇宙人との交換留学計画「プロジェクト・セルポ」。
シャコ星人ことドーバーデーモンは、セルポ星人の計画でオカルンたちを狙ってきた宇宙人。セルポ星人に従う個人的理由があったのですが、事件後に星子に解決してもらったことで協力的になりました。
名前の元ネタはアメリカのマサチューセッツ州で目撃された同名のUMA(未確認生物)。エナジードリンクで形態変化した姿は「ウルトラマン」シリーズのバルタン星人のオマージュです。
作画がすべてとは言いませんが、漫画で真っ先に目につくのはやはり絵です。
その点、『ダンダダン』作者の龍幸伸は画力が圧倒的! 人物の動きに細かい表情、背景に至るまでみっちり書き込まれているのに、それでいて画面がうるさくなくて見やすいのが凄いです。はっきり言って、週刊連載で可能な作画レベルを超えています。
圧倒的画力で次から次へと繰り出される、ハイテンポかつハイテンションなバトルが何よりも魅力! 神作画と呼ばれるアニメなどで、動作の中にダイナミックな構図が描かれることがよくありますが、それと似た感じをイメージすればわかりやすいでしょうか。
『ダンダダン』の話は大筋としては、ターボババア騒動で失われた「金の玉」を回収することが目的ですが、あまりにも勢いが凄すぎて、ストーリーは二の次で見入ってしまいます。
バトルは妖怪の力に宇宙人の謎の技術、不思議な出来事がてんこ盛り。単純な力押しにならず、桃たちの知略と機転が光る場面が多くて、能力バトルの視点で持てもかなり楽しいです。
超絶画力の大迫力アクションが目立つ『ダンダダン』は、日常シーンにおけるラブコメもまた素晴らしいです。恋愛メインの作品ほどではなく、あくまで少年漫画レベルのほのかな恋愛模様ですが、王道を行くトキメキから目が離せません。
ラブコメの中心にいるのはもちろん桃とオカルンです。ギャルとオタクの組み合わせは近年流行のジャンルだけに、ぐいぐい行く桃と一途でお堅いオカルンは流行の組み合わせにばっちりフィットしています。
まず桃は高倉健似のルックス、および高倉健を連想させる不器用さなどの要素がツボです。名前が同姓同名なことに加えて、無数の高倉健的要素を持つオカルンは、桃の乙女心を揺さぶる存在。
一方のオカルンは友達のいないオタク少年です。友達のいないオタクが優しいギャルを意識するのは自然。しかも桃との間にはオカルトという共通の話題があり、命の恩人でもあり、同時に怪異現象をともに戦う秘密の仲間でもあります。
桃とオカルンは気持ちを言葉にこそしていませんが、お互い意識しているのは見え見え。何かにつけて思わず相手を目で追う仕草はラブコメ以外の何者でもありません。
このノリは愛羅、ジジが加入するとさらに加速します。多角関係はラブコメの花。ニヤニヤする日常パートの一幕も楽しんでみてください。
互いに心霊スポットへ赴き、宇宙人と妖怪に遭遇した桃とオカルン。なんとか難は逃れたもののオカルンは呪われますが、副作用としてターボババアの能力を一部使えるようになりました。
2人は桃の祖母・星子に相談します。星子は土地神の都合上動けないため、2人が訓練を受けてターボババアの本拠地に乗り込む……はずでした。
ターボババアは正能市の廃トンネルにいる地縛霊の集合体と融合しており、想像以上に呪いが強力だったのです。呪いは直接会ってない星子すらむしばみ始めたことから、すぐに対決しなければいけなくなります。
窮地に立たされた2人に、星子は策を授けました。足に絶対の自信があるターボババアにあえて鬼ごっこを挑みんで神越市に連れてくる――。
神越市なら星子の力がフルに発揮出来て、逆に正能市から出たターボババアは弱体化します。ターボババア側もそのことはある程度把握していて、速度へのプライドから鬼ごっこの誘いには乗るものの、人外の論理で奇襲したり霊を総動員したりと滅茶苦茶。市街地を股にかけた怪獣映画並みの大スペクタクルが展開されます。
ターボババアは別名「100キロばばあ」、「ターボばあちゃん」などとも呼ばれる近代妖怪。ざっくり説明すると、道路上で普通あり得ない速度で高速ダッシュしてくる老婆……の都市伝説です。
元々の都市伝説はインパクトが凄い反面、車と併走してただ走ってるだけだったり、どこまで追いかけてくるなど怪異としては穏やかな部類。
本作のターボババアは足の速さ+巨大化と、かけっこで勝った時にあるものと引き換えに相手を呪う能力を持っています。さらに無数の地縛霊(なぜかカニの姿)と合体、おどろおどろしい怪物に変貌して手に負えないくらいパワーアップし、正面切って倒すのはほぼ不可能。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
劇中では星子がターボババアを倒したあと、その目的が推測混じりに披露されました。ターボババアが目撃されたのは、決まって非業の死を遂げた少女の霊が出る心霊スポット。本拠地だった廃トンネルも、連続少女殺人事件の現場でした。
つまり、ターボババアは成仏出来ない少女の霊を慰めて回っていたのではないか、という説です。めちゃくちゃな難敵でしたが、地縛霊との関係から見えてくる背景を思うと、悪い妖怪ではない気がしてきます。
ちなみにターボババアは成仏寸前、わずかな力とともにオカルンの中に潜り込んで生存していました。現在は意識のみ招き猫に移され、憎まれ口を叩くマスコット兼相談役のようなポジションになっています。
オカルンの2つの「金の玉」が、あろうことかターボババア騒動の最中に失われてしまいます。なんとか回収しようとする2人を尻目に、それが何かを知らず拾ってしまった人物がいました。白鳥愛羅です。彼女は玉を拾って以来、霊力が目覚めて尋常ならざるものが見えるようになってしまいました。同時に幽霊の側も愛羅を認識し、付け狙うように。
厄介なことに桃の超能力の片鱗を見た愛羅は、最近自信の周りに出没し始めた幽霊と関連付け、一方的に敵対心を抱いてしまいます。愛羅は桃を倉庫に呼び出し、動きを封じて除霊を試みますが、そこへ割って入ってきたのが騒ぎの元凶である幽霊でした。
赤いワンピースを着た大女、アクロバティックさらさら。名前に違わずとんでもない身体能力で、自在に伸縮する髪と合わせて倉庫の中を縦横無尽に暴れ回り、ターボババアの力を使うオカルンですら手に負えないバケモノぶりを見せます。
なぜか愛羅を我が子と認識し、執着するアクロバティックさらさら。かと思えばあっさり丸呑みにしたり、捕まえた桃に自身を「お母さん」と呼ばせようとしたり、一切の理屈が通用しない人外の存在であることが強調されます。
あわや全滅というところからの脱出劇、アクロバティックさらさらに有利な倉庫の状況を逆手に取った戦闘など、手に汗握る流れが魅力。
アクロバティックさらさらは通称「アクさら」、または「悪皿」と呼ばれる近代妖怪です。インターネットのオカルト掲示板を中心に噂される都市伝説で、2008年ごろから福島県に現れるようになったと言われています。
ぱっと見は異様に背が高い女性の姿。赤い服に長くさらさらした黒髪、口が大きくて目の部分には眼球はなく、建物や車の上を身軽に飛び回ります。腕には自傷痕があるとされており、自殺した女性の幽霊と言われています。特徴から推察するに、口裂け女と八尺様のイメージが合わさった都市伝説かもしれません。
劇中では異様に「お母さん」にこだわったアクロバティックさらさらですが、その過去がエピソードの最後で明らかになりました。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
元々人間だった彼女は、バイトのかけ持ちや体を売る仕事で、なんとか食いつなぐ生活を送っていました。生きがいは可愛い1人娘。愛する娘のためならどんなつらい生活にも耐えられました。
ところがある日、借金取りと思われる男たちに家を荒らされ、娘がさらわれてしまいます。絶望した彼女は、娘にも教えていた得意のバレエを踊りながら身投げし、悪霊となってしまったのです。
そんなアクロバティックさらさらの唯一の救いは、愛羅との出会いでした。執着心から暴走したものの、その愛は本物。救いであり、悲しすぎる結末に思わず涙が堪えきれなくなります。
騒動の後、愛羅はオカルンと同じように、アクロバティックさらさらの力が使えるようになりました。
怪異騒動に愛羅まで加わるようになったころ、桃の幼馴染みのジジこと円乗寺仁が突然現れました。
実はジジの家族が現在住む家に悪霊がいて、なぜか霊力が目覚めた彼ははっきりそれを視認し、星子に助けを求めに来たのです。すでに何人もの霊媒師がさじを投げた難敵ですが、神越市を出られない星子は代理で桃に依頼を受けさせました。
人里離れた郊外に建つジジの家は、地元の名家・鬼頭家が権利を持つ借家でした。鬼頭家と呪いの家、大昔の天変地異、今も残る大蛇伝説……地元に伝わる怪しげな事情が複雑に絡み合い、やがて1つの事実が浮き彫りとなります。
鬼頭家は先祖代々、地元の平穏のために「大蛇」と称する何かを囲っており、生贄を差し出すための場所がジジの家だったのです。桃たちは地下に落ち、大蛇――もとい巨大なモンゴリアンデスワームと直接対峙することになりますが、規模が違い過ぎて手も足も出ません。
そこへジジの見た悪霊、邪視が現れて事態は二転三転します。怪獣映画もかくやという大立ち回りの末、モンゴリアンデスワームはなんとかなったものの、ジジが邪視に取り憑かれてしまいました。積み重なった年月の怨念は凄まじく、星子の力をもってしてギリギリ封じるのが手一杯という有様でした。
邪視は英語で「Evil eye」と呼ばれ、邪眼や魔眼とも言います。視線によって害(呪い)をなす迷信の通称で、主に魔女が持つとされていますが、似た概念は世界中にあります。
本作の邪視は、見た者の精神を狂わせる都市伝説「くねくね」と同一視されていて、邪視の目を見た者の精神を汚染して自殺願望を植え付けることが可能です。また鬼頭家が管理する家で生贄にされた者の怒りと憎悪の具現化であるため、人間の怨念を操った攻撃と防御も出来ます。
外見は異様に手足が長く、つり上がった目と耳まで届く口が特徴的。ブリーフ1枚だけ履いた半裸ですが、異常さの方が際立っています。特に言及されていませんが、カルト的な人気を誇るホラー漫画『不安の種』に登場する怪異「オチョナンさん」に印象が似ているので、ある種のオマージュなのかも知れません。
邪視はターボババア、アクロバティックさらさらとは比較にならないほど危険な怪異です。運動能力が高いのもありますが、非常に攻撃的で人間と見るや誰彼構わず殺傷しようとする殺意の高さが問題。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
元は普通の子供だったのですが、鬼頭家の先祖によって人柱にされた子供が霊となり、別の生贄の子供に憑依したのが邪視です。自分たちに理不尽な扱いを強いた人間、引いては世界そのものを憎んでいます。正体を知ると完全に悪とも言い切れないのが複雑なところ。
ジジをそそのかして完全な力を手に入れた邪視は、人知を超える危険な怪異となりました。意外な方法で解決出来るまでかなり時間がかかり、第4巻から第8巻にまたがる長編エピソードとなっています。
水とお湯でジジと邪視の人格が入れ替わるようになりますが、これは完全に高橋留美子『らんま1/2』のパロディ。ジジがアニメ版のオープニングテーマを口ずさむ場面があるので、完全に故意です。
邪視の騒動がようやく一段落し。日常に戻った桃は同級生から偶然「団地の幽霊」の噂を耳にします。とある団地に出没するという、何もない空中に浮かぶ金色の玉。
突如降って湧いた「金の玉」らしき情報を確かめるべく、オカルンと桃は放課後に現場へ急行しました。途中、色々と誤解した坂田金太の乱入があったものの、そのおかげ(?)で「金の玉」の正体が光学迷彩で透明化していた宇宙怪獣だったことがわかります。
しかし、正体がわかった直後、ビルを越える巨体となった宇宙怪獣の反撃が始まりました。オカルンのターボババアの力も、駆けつけた愛羅のアクさらの力も通じない強敵。オカルンたちは一旦散り散りに別れて、桃の家に集まることに。
本作にはさまざまな都市伝説が登場してきましたが、ここに来て巨大な宇宙怪獣が出現するというかつてないスケールのとんでもないエピソード。それこそ巨大ヒーローか巨大メカでもないと対抗出来なさそうですが……そこでまさかの伏線回収がされます。
実は直前の騒動で綾瀬家の家が巻き込まれたのですが、万能宇宙人ルドリスのナノスキン(ナノマシン)を建材にして元通りに再建されたのです。ナノスキンは使用者のイメージに反応して形を変える――ということでSF好きな坂田金太を中心として、綾瀬家は各々が思い浮かべた「大きなもの」がごちゃ混ぜになった巨大大仏ロボに変形してしまいます。
かくして勃発する大仏ロボと宇宙怪獣の一大決戦! ハイテンションですべて乗り切る『ダンダダン』の真骨頂を味わえます。
宇宙怪獣は地球外生物の中でも凶暴で動物的な種を指す言葉で、オカルトというよりはSFや特撮の領域。本作に登場する宇宙怪獣バモラは、とりわけ特撮のパロディになっています。
外見は歴代「ウルトラマン」に登場するゴモラとレッドキングのミックスで、名前の由来は『電光超人グリッドマン』の同名怪獣でしょう。初登場時は等身大だったのに、突然大きくなったのはおそらく「戦隊ヒーロー」の怪人が1度やられて巨大化するお約束展開のオマージュ。
オカルンや愛羅は怪異の力を使えるようになっていますが、相手がデカすぎてまったく歯が足りません。そこで対抗手段になるのがまさかの巨大ロボ。
巨大大仏ロボはパーマのような螺髪(らほつ)や袈裟といった大仏らしい容姿に、ディテールの異なる装備が加わったちぐはぐなデザインになっています。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
ガンダムのV字アンテナにザクの肩アーマー、νガンダムのフィン・ファンネル……。言動から察するに、すべて坂田金太の趣味です。桃の雑念が交じって大仏になっていなければ、著作権的にアウトなごちゃ混ぜメカになっていた可能性が高いです。
ちなみに大仏ロボ変形過程の操縦者の移動は、学校が変形して巨大ロボが出撃する『絶対無敵ライジンオー』もしくは『熱血最強ゴウザウラー』のパロディ。
また大仏ロボには搭乗者の能力を大型化して上乗せ出来る描写が出てきますが、これは和月伸宏の漫画『武装錬金』に出てくる全身甲冑の武装錬金「バスターバロン」を意識している可能性があります。
繰り出す技に至っては『闘将ダイモス』や『超時空要塞マクロス』、『聖戦士ダンバイン』に『マジンガーZ』、『超電磁ロボ コン・バトラーV』。おまけにトドメを刺す時の大仏ロボは鋭角のサングラスをしているせいで、控えめに見てグレンラガン――全体的に金太というか、作者の趣味が暴走気味です。
巨大大仏ロボの活躍で事なきを得ますが、すべて終わってから宇宙怪獣の中身が美少女宇宙人だったことが発覚します。
バモラは怪獣ではなく中で操作していた美少女の名前。彼女はある理由で怪獣スーツを着用し、地球に来訪したのですが……。そしてここから、バモラの正体と目的を巡る宇宙スケールの話が続いていきます。
これまで何かとオカルンを気にかけていた「委員長」こと佐脇凛(さわきりん)。彼女は近頃オカルンが妙に魅力的に見えるようになってしまって、原因を探ってみるとまたしても「金の玉」絡み。偶然拾った「金の玉」は警察に届けてすでに手元にはないものの、凜は愛羅と同じように霊感が目覚めて、謎の怪異に取り憑かれてしまいました。
気がつくと背中にのしかかってきて、日に日に重くなっていく怪異。それはオンブスマン――かつて「子泣きじじい」と呼ばれた妖怪でした。
オンブスマンは成仏出来ずに悪霊化した幽霊の一種。星子の調べにより、凜に取り憑いているのは幼少期の友人、川番河舞(かわばんがまい)だったことが判明します。かつて凜とともに夢を目指し、すれ違いから喧嘩別れして、仲直りする前に交通事故死した親友。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
正体がなんであれ、放置すればオンブスマンはどんどん重さを増し、最終的に凜は押し潰されてしまいます。ところが成仏させようにも、オンブスマンは臆病で隠れるのが得意な子供霊なので普段は姿を見せず、外部から干渉することは困難。
そこで星子はオンブスマン=幼い舞の執着心を利用し、無念を晴らして成仏させる計画を立てます。
スタート地点は思念渦巻き、霊が引き寄せられる学校。オンブスマンを他の霊で釣って誘き寄せつつ、祭りの山車で街中を爆走してオンブスマンのけしかけてくる悪霊を追い払い、そのままオーディション会場――凜と舞が夢見たアイドルのオーディション会場を目指します。
誰が悪いわけでもないのに、すれ違いと不幸の連鎖で起きてしまった悲しい事件。幼いころの夢がいつしか呪いに変わり、その呪いを昇華する秀逸なエピソードです。
オンブスマンは1990年代に生まれた都市伝説、近代妖怪です。詳しい由来は不明ですが、当時外来語として使われるようになった「オンブズマン(行政監察制度)」と「おんぶ」をかけ合わせた、言葉遊びが元になていると考えられます。
山中や街中で標的を待ち伏せて、人間が近付くと赤ちゃんのような泣き声を上げて注意を引き、誤って抱き上げた者に取り憑く……。やがて重さを増して取り憑いた人間を押し潰す、というのがオンブスマンの基本的な生態です。要は『ゲゲゲの鬼太郎』などで日本人には馴染み深い、子泣きじじいの現代版。
『ダンダダン』ではオンブスマンは善悪を問わず、幼くして亡くなった子供が生前に抱いた愛情などの執着が怨念に転化し、悪霊化したものとされています。劇中では凜の親友、川番河舞がオンブスマンの正体でした。
幼少期の凜は、忙しい母親に代わって祖母を介護するヤングケアラーでした。一方の舞はそんな家庭事情を知るよしもなく、介護を優先した凜にアイドル歌手オーディションへ行く約束を破られて、怒りにまかせて罵ってしまいました。後日事情を知り、彼女はオーディションの日に母親とともに凜を迎えに行って、謝罪するつもりだったのですが……。
切なくも悲しい不運の連鎖。過去の一件から歌がトラウマになっていた凜ですが、それを乗り越えて立ち上がり、舞と並び立つシーンが非常に感動的です。
ちなみに凜も舞も名前の元ネタはアメコミヒーローの『ミュータント・タートルズ』。舞の名字「川番河」はタートルズの決め台詞「カワバンガ((Cowabunga、やったぜ!)」で、凜の名字「佐脇」がタートルズの宿敵シュレッダーの本名「サワキ・オロク」(1987年版アニメ設定)に由来します。
凜が警察に届けた「金の玉」はすでに何者かに持ち去られていました。わずかな手がかりを追ったオカルンたちは、謎の男と「ズマ」こと頭間雲児(ずまうんじ)という少年に行き着きます。
ズマは義理を重んじる非常に硬派な人物でした。彼は仲間を危険に晒す呪いのボードゲーム「團曼羅(だんまら)」を破壊するため、「金の玉」を所持して単身でゲームの中に入ったことが判明。
突発的な出来事でゲームに入ってしまった桃は、ズマと協力してゲームをクリアしたのですが……。それは悪魔が仕掛けた罠でした。
見たモノを洗脳してしまう、悪魔のメルヘンカルタ。「團曼羅」に封じられていたメルヘンカルタは、誰かに封印を解かせるようとズマたちを呼び込んでいたのです。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
メルヘンカルタは目論見通り解放されると、ズマを乗っ取って彼の能力――アンブレボーイの力を限界以上に引き出し、桃と合流したオカルンたちを襲い始めます。「團曼羅」の中にいる間は依然として「金の玉」なしに能力が使えず、万事休す。
しかし、そこへ乱入してきたセルポ6朗と、彼を追いかけてきた職務に忠実すぎる警察官・部賀(べが)のおかげで事態が動きます。
自滅を厭わないアンブレボーイの猛攻をなんとかしのぎ、オカルンはズマの過去を垣間見ます。それは彼が失った家族と、そしてアンブレボーイの力を手にした経緯でした……。
まさにゲームのごとく、二転三転する怒濤の展開。オンブスマン――もといカワバンガの力を使えるようになった凜、謎の男「サンジェルマン」の介入で物語は予測不能の様相を見せていきます。
様々な要素、怪異が絡んでくる複雑怪奇なエピソード。
1つずつ解説していきますが、メインの舞台となる團曼羅は映画『ジュマンジ』に登場するボードゲーム「ジュマンジ」と曼荼羅を組み合わせたもの。これはゲーム内マップが曼荼羅風になっていることからも明らかです。また、頭間雲児の名前もジュマンジが由来。
曼荼羅は安定や調和の象徴とされ、仏の供養に用いる密教の流派もあるため、その辺りから團曼羅本来の役目である封印を暗示しているとも考えられます。そしてその團曼羅の正体は邪悪な妖怪、悪魔のメルヘンカルタを封じる呪行李でした。
元ネタは都市伝説「悪魔(もしくは悪夢)のメルヘンカルタ」です。ヨーロッパの呪術師が「この世の悪」を封じ込めた絵札が怪異になったもので、全6枚の絵札のイラストは『白雪姫』などの6種類の童話がモチーフ。本作のメルヘンカルタの絵札は、フランス人画家オディロン・ルドンを思わせる人体のパーツになっています。
劇中でメルヘンカルタは攻撃のかけ声で、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の邦題『ああ無情』や主人公ジャン・バルジャンと思わせる叫び声を上げますが、なぜなのかはわかりません。
そんなメルヘンカルタをいつ誰がなんの目的で封印したのかも不明。メルヘンカルタは物体を乗っ取れますが、呪行李の封印そのものは解けないため、ボードゲームに改造して人間に解除させるよう仕向けました。そして自由になったメルヘンカルタが目を付けたのが、アンブレボーイの力を持つズマです。
- 著者
- 龍 幸伸
- 出版日
アンブレボーイはいわゆる「唐傘小僧(唐傘お化け)」。長い間使われた唐傘が妖怪化した付喪神の一種で、一つ目と一本足が特徴です。アンブレボーイの呼び名は本作が初出なので、おそらく英語名のアンブレラゴーストと小僧から連想した造語でしょう。
唐傘小僧は有名な反面、インパクトの強い外見以外の説話がほとんどないという一風変わった妖怪です。そういった事情からか『ダンダダン』では、心優しいが一度暴れ始めると手が付けられない強力な妖怪と設定されています。ズマのつらい過去を知ると、寄り添うように力を貸すアンブレボーイの優しさに、思わず込み上げてくるものがあります。
エピソード終盤で登場するサンジェルマンは、そのものズバリ「サンジェルマン伯爵」が元ネタ。化学と錬金術の研究に没頭した18世紀の人物ですが、あまりにも謎が多すぎるため、実在したはずですが正体がはっきりしません。サンジェルマン伯爵は不老不死伝説とセットで語られることが多く、劇中の人物は本人の可能性が高いです。
なおサンジェルマンの初登場は少し遡って第14巻120話。次の121話で国立西洋美術館にあるブロンズ像「地獄の門」から現れ、「三丈目」の名前でオカルンたちの学校の教師になりすましていました。彼は独自の目的で行動しており、ターボババアからは「ハイパージジイ」とも呼ばれます。
物語の根幹に関わりそうな「あるもの」を探しているようですが……。
アニメ『ダンダダン』の第1期は毎日放送・TBS系で、2024年10月から12月にかけて放送されました。
原作漫画の超絶画力とアクションをアニメ制作を担当したサイエンスSARUは見事に映像化して、原作の良さを保ったままぶっ飛んだエンターテインメント作品に昇華させています。インターネット配信を通じて世界的に配信されたことから、国内外の評価が非常に高く、第1期は1クール12話で終了したこともあって続編が待ち望まれている状態。
そんな中、2025年4月に『ダンダダン』第2期が発表、同年7月3日からスタートすることがわかりました。TV放送は毎週木曜深夜24時26分、サブスクサービス等は約30分遅れの25時配信が予定されています。
第2期のアニメ化の範囲ですが、第1期は原作漫画第5巻序盤の34話(の途中)までだったので、同じ程度の分量進むと仮定して第9巻73話辺りになると思われます。新キャラクターの坂田金太とバモラが登場し、話が上手くまとまってキリが良いためです。
第3期があるかは今のところ未発表。ただ、『ダンダダン』が人気作品でアニメ版の評判も素晴らしいため、さらなる続編があるのはほぼ間違いないでしょう。まだ第2期も始まっていないうちから気が早いですが、アニメ化の範囲が予想通りだとするなら、第3期を待ちきれない方は原作漫画の第9巻74話から読んで予習するのがおすすめです。
龍幸伸(たつゆきのぶ)は埼玉県出身の漫画家です。詳しいプロフィールは非公開。
漫画家を目指したのは21歳の時、就職に失敗してコンビニバイトをしていた際、落書きを見た店長から勧められたのがきっかけ。
自作のガンダム作品を「ガンダムエース」に持ち込んだ龍幸伸は、絵の上手さを評価されて曽野由大のアシスタントになりました。そして2010年、「月刊少年マガジン」連載のヒーロー漫画『正義の禄号』で商業デビュー。
龍幸伸はデビューしてから伸び悩み、2015年に「ジャンプSQ.」に持ち込んで、現在の担当者・林士平と出会います。そこから『地獄楽』の賀来ゆうじ、『チェンソーマン』の藤本タツキのアシスタントを経験し、2021年の『ダンダダン』連載開始に繋がりました。
龍幸伸には設定を煮詰めすぎる性格らしく、とにかく好きなものを描くといいという林士平のアドバイスによって、設定はホラーなのにいい意味で馬鹿らしい『ダンダダン』が生まれたそうです。
作画の上手さに定評があり、密度の高い描き込みと緻密な背景描写によって、架空の怪異に説得力を持たせていることが高く評価されています。コマ割りの大きさと見開きを上手く使い、緻密なのに画面がうるさくならず、気持ち良く読ませる天性の勘が見事。
龍幸伸はキャラクターの表現にもこだわっていて、1人1人の個性に合わせた言動を意識して、台詞作りや展開を考えているそうです。
『ダンダダン』にはオカルトにSFにアクション、ラブコメや青春といった、多彩な要素が組み込まれています(ジャンルミックス)が、これは意図的なもの。
1つのパターンにハマると読者が離れてしまうため、映画などでは難しい長期連載の漫画ならではの手法として取り入れている、と龍幸伸は「全国書店員が選んだおすすめコミック2022」のインタビューで語っています。
漫画『ダンダダン』は現在もWebコミック配信サイト(アプリ)「少年ジャンプ+」で絶賛連載中。全話初回無料で読めるので、気になった方はまずこちらから読んでみてください!