5分で分かるプロタゴラスの哲学|1回の講義で軍艦が買える!? 古代ギリシアの政治家が恋した哲学者とは|元教員が解説

更新:2026.5.26

「人間は万物の尺度である」 古代ギリシアの哲学者・プロタゴラスの言葉です。 プロタゴラスは、絶対的な真理や価値観は存在せず、すべては個人の主観に基づいていると主張しました。 この思想は「相対主義」と言われています。 当時の社会に大きな影響を与え、とくに政治家たちの間で議論の武器として活用されました。 プロタゴラスの相対主義哲は、古代ギリシアの知的世界に革新をもたらし、のちの西洋哲学の発展にも重要な役割を果たしました。 今回の記事では、プロタゴラスの哲学を解説し、現代社会における相対主義の意義について考察します。 先人たちの知恵に学びつつ、私たちが相対主義をどのように活かしていくべきか、一緒に探っていきましょう。

大学院のときは、ハイデガーを少し。 その後、高校の社会科教員を10年ほど。 身長が高いので、あだ名は“巨人”。 今はライターとして色々と。
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神話とは身近な謎を説明する物語

古代を生きた人々にとって、身の回り(世界)で起きる不思議な出来事を理解することは簡単ではありませんでした。そのため彼らは「神話」を使い、世界の成り立ちを説明しようとしたのです。

たとえば雷については、神様が怒ったときに起こるのだと信じられていました。自然現象や日常的な出来事は、神様の行動や感情と結び付けられていたのです。

これらの神話は、親から子へ、そしてその子から孫へと、長い時間をかけて語り継がれていきました。そのため人々にとって神話は、疑うことのできない「常識」のようなものになっていったのです。

神話は、古代の人々が世界を理解するための重要な手がかりになっています。

農耕革命と都市国家の誕生

農業技術の発展は、人類の生活に大きな変化をもたらしました。安定した食料供給が可能になったことで、人口が急激に増加し始めたのです。

人口が増えるにつれ、人々は集まって住むようになります。そして都市国家と呼ばれる大きなコミュニティが形成されていきました。

都市国家が成長して、活動範囲が広がるにつれて、人々は遠く離れた地域の人々と交流するようになります。今までにはなかった新しい経験でした。

農耕の発展は人類の生活様式を大きく変え、都市国家の誕生と活発な交流をもたらしたのです。

人々が気付き始めた神話への疑問

都市国家の間で交流が盛んになると、人々は興味深い事実に気づき始めました。それぞれの都市国家で語られている神話の内容が、全く異なっているということです。

ある国では雷は「神様の怒りによって起こる」と信じられていましたが、別の国では神様が悪魔と戦うときに発生すると考えられていました。

このような違いを目の当たりにして、人々は混乱し、疑問を抱くようになりました。「もしかして、私たちが信じている神話は本当ではないのかもしれない」と考え始めたのです。

それまで疑うことのなかった神話の「真実」に、人々は初めて疑問を投げかけ始めました。この気付きは、人類の思考に大きな変化をもたらすきっかけとなったのです。

「正義」と「悪」が相対的? 国による価値観の違い

神話だけではありません。人々は「正義」や「犯罪」といった概念も、国によって大きく異なることに気づきました。

たとえば、仇討ちという行為が、ある国では勇気ある行動として称賛される一方で、別の国では違法な殺人行為とみなされることがあったのです。

同じ行動でも国が変われば、正義にも犯罪にもなり得ることが明らかになりました。

このことから、人々は「正しさ」というものが絶対的なものではなく、国や文化によって異なる相対的なものであると理解し始めたのです。

「何が正義で、何が悪か」は、その社会の価値観によって決まるのだと気づいたのです。この発見は、人々の世界に対する態度に大きな影響を与えました。

絶対的真理への疑問と相対主義の誕生

神話や正義の概念が国によって異なることを知った人々は、「絶対的な真理」という考え方自体に疑問を持ち始めました。

「何が正しいのか」ということは、人、場所、時代によって変化するものであり、普遍的で不変の真理などはないのではないか、と考えるようになったのです。

真理は相対的なものであり、絶対的な基準は存在しないという考えに至ったのです。

このような考え方を「相対主義」と呼びます。

相対主義は、それまで当然のものとされていた「絶対的な真理」という概念を覆す、革新的な思想でした。

この考え方は、人々が物事を多角的に見るようになるきっかけを作り、画一的な価値観からの脱却を促しました。相対主義の登場は、人類の思想史において重要な転換点となったのです。

相対主義の代表的哲学者・プロタゴラス

プロタゴラスは、古代ギリシアで活躍した哲学者の一人です。

彼は「人間は万物の尺度である」という言葉を残したことで知られています。

プロタゴラスが相対主義の考え方を表現した言葉です。相対主義とは、物事の捉え方が人によって異なるという考え方のことを指します。

プロタゴラスは、絶対的な真理や価値観は存在せず、すべては個人の主観に基づいていると主張しました。彼の思想は、当時の社会に大きな影響を与え、多くの議論を巻き起こしました。

プロタゴラスの相対主義は、現代にも通じる考え方であり、私たちが物事を多角的に見るためのヒントを与えてくれます。

相対主義とは? 主観で決まる物事の捉え方

相対主義とは「物事の捉え方は人それぞれの主観によって異なる」という考え方です。同じ物事でも、人によって感じ方や評価が違うことを意味します。

たとえば、コップに入った水の温度について考えてみましょう。ある人にとっては「冷たい」と感じられる水でも、別の人には「温かい」と感じられることがあります。これは、人それぞれの主観が働いているからです。

また「善悪」や「美醜」といった概念も、個人の価値観によって決まります。ある行動が「善」だと考える人がいる一方で、同じ行動を「悪」だと考える人もいるでしょう。美しいと感じるものも、人によって異なります。

現代のSNSを少し覗いてみると、様々な考え方を持つ人がいることを知れるはずです。

このように相対主義は、物事に対する絶対的な基準はなく、すべては個人の主観に基づいているという考え方なのです。私たちは、相対主義の視点を持つことで、多様な意見や価値観を理解し、尊重することができるでしょう。

相対主義に恋した古代ギリシアの政治家たち

古代ギリシアの政治家たちは、プロタゴラスの相対主義哲学を議論の武器として活用しました。当時の政治家は、公開討論で相手を打ち負かす必要がありましたが、相対主義を使えば自分の主張を有利に、相手の主張を不利に見せることができたのです。

たとえば「弱小国家を攻め滅ぼす」という主張でも、言葉を巧みに変えることで「未開の地の人々を救う」という感じに見せかけることが可能でした。相対主義を使えば、同じ内容でも表現の仕方次第で全く違った印象を与えられるのです。

古代ギリシアは民主主義国家だったため、政治家にとって民衆の前で論破されることは避けたい事態でした。そのためプロタゴラスの相対主義哲学は、最強の議論テクニックとして重宝されました。

多くの政治家がプロタゴラスのもとを訪れ、相対主義の教えを求めたと言われています。相対主義は、政治家たちにとって議論に勝利するための強力な武器だったのです。

プロタゴラスの相対主義哲学が政治家たちの間で人気を博すにつれ、彼の授業料は急激に高騰しました。

プロタゴラスの講義に参加するために、多くの政治家が高額の授業料を支払ったのです。

その授業料があまりに高額だったため「プロタゴラスによる1回の講義で軍艦が買えるほどだった」という言い伝えが残っているほどです。

もちろん言い過ぎた表現だったかもしれません。

しかしプロタゴラスの教えが、それだけ価値があったことを示すエピソードとして、現在まで語り継がれているのです。

プロタゴラスの相対主義哲学は、古代ギリシアの政治家たちにとって、それほどまでに魅力的で重要なものだったのでしょう。

古代ギリシアで主流となった相対主義

プロタゴラスの相対主義は、古代ギリシアの社会に大きな影響を与えました。多くの政治家が彼の教えを求め、相対主義の考え方を議論の場で活用したことで、この哲学は古代の世界で広く受け入れられるようになったのです。

この相対主義の考え方は、古代ギリシアの社会に浸透し、やがて主流となっていきました。人々は物事を多面的に捉えるようになり、他者の意見を尊重することの重要性を認識し始めたのです。

プロタゴラスの哲学は、古代ギリシアの知的世界に大きな影響を与え、その後の西洋哲学の発展にも重要な役割を果たしました。彼の思想は、現代にも通じる示唆に富んだ考え方として、今もなお学ぶべき点が多いと言えるでしょう。

現代人の思い込みを覆す相対主義の歴史

現代人は、昔の人々は迷信を盲目的に信じていたと思いがちです。科学が発展していない時代の人々は、絶対的な真理を疑うことなく受け入れていたのではないかと考えるのです。

しかし相対主義的な考え方は、今から2000年以上も前の古代ギリシアの時代から存在していました。プロタゴラスが提唱した「人間は万物の尺度である」という言葉に象徴されるように、古代の哲学者たちはすでに物事の捉え方が人によって異なることを認識していたのです。

絶対的な真理を疑い、物事を相対的に見る考え方は、決して現代になって初めて生まれたものではありません。むしろ古代の人々の中にも、固定観念にとらわれず、柔軟な思考を持つ人がいたことを示しています。

現代人は古代人を過小評価する傾向がありますが、プロタゴラスを学ぶことで、私たちは相対主義的な思考の重要性を再認識するきっかけにもなるかもしれません。先人たちの知恵に学びつつ、現代社会で相対主義をどのように活かしていくかを考えることが大切だと言えます。

プロタゴラスを理解するためのオススメ書籍

プラトン(2010)『プロタゴラス あるソフィストとの対話』(中澤務訳)光文社

著者
["プラトン", "中澤 務"]
出版日

古代ギリシャの哲学者ソクラテスとプロタゴラスによる対話篇です。プラトンによって書かれた本書は、徳の本質と教育の可能性について深く探求した作品になっています。

当時の著名なソフィストであるプロタゴラスとソクラテスが、5つの徳(知恵、節制、正義、敬虔、勇気)の関係性や、徳は教育できるのかについて議論を交わします。

プロタゴラスの主張する「あらゆる技術の根本には徳の追求がある」という考え方は、現代の教育を考える上でも多くのヒントを含んでいます。

一方のソクラテスは「勇気」という徳は「知恵、節制、正義、敬虔」の4つとは少し違うと言っています。

たとえば、あまり考えもせずに危険な行動を取る人がいるとします。そういう人は勇気があるように見えるかもしれませんが、本当に正しい判断ができているのでしょうか。

何が良くて、何が悪いのかを判断する場合、ソクラテスは物事をしっかり測れる力が必要だと言います。定規で長さを測るように、私たちも物事の善悪を正確に測る必要があるのです。

この考え方は、著者であるプラトンが幾何学を大切にしていたことが反映されているのかもしれません。幾何学では、形を正確に測ることが大切です。幾何学を学ぶことで、物事を正しく判断する力も身に付くと考えたのでしょう。

勇気だけでなく、しっかりと考えて正しい判断をすることが大切だというのが、ソクラテスの主張なのです。

対話は結論に至らずに終わりますが、徳という普遍的なテーマについて深く考えさせてくれる内容となっています。哲学初心者にもおすすめできる、プラトン思想への入門書としても最適な一冊です。

古代ギリシアの知恵に触れながら、現代社会における徳や教育の在り方について考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。本書を通して、自らの生き方を見つめ直すきっかけが得られるはずです。

岸見 一郎(2017)『幸福の哲学 アドラー×古代ギリシアの智恵』講談社

著者
岸見 一郎
出版日

誰もが求める「幸福」の本質に迫る、岸見先生渾身の幸福論です。

ギリシア哲学の研究者であり、アドラー心理学にも精通する岸見先生が、生と死をめぐる自身の体験を契機に、長年探求してきた「真の幸福とは何か」という問いに答えを出します。

岸見先生は、哲学者たちの生涯を調べる中で、幸福に生きた哲学者がほとんどいないことに気付いたそうです。そこで「自分が幸福な哲学者になろう」と決意。古代ギリシアの知恵とアドラー心理学を融合させ、幸福になるための鍵は「ちょっとした気づき、視点の転換」にあると説きます。

本書を読めば、幸福を遠くに求めるのではなく、今ここにある幸せに気付くことができるでしょう。岸見先生の思索をたどることで、あなた自身の人生を見つめ直すきっかけにもなるはずです。

幸福になりたいと願うすべての人に、ぜひ手に取ってほしい一冊です。哲学とアドラー心理学が織りなす「幸福の方程式」から、きっと人生を変える大きなヒントを得られるでしょう。

廣川 洋一(1997)『ソクラテス以前の哲学者』講談社

著者
廣川 洋一
出版日

古代ギリシア哲学の源流に位置する先駆者たちの思想を、その真正の言葉から丹念に読み解いた意欲作です。

アリストテレスは彼らを単なる自然学者と見なしましたが、実際には「神的なもの」「自己の内的世界」「国家・社会の問題」など、幅広いテーマに強い関心を寄せていました。

本書では、万物の根源を水と考えたタレス、魂の神性と転生を説いたピュタゴラス、自己と魂の探求を第一とするヘラクレイトスなど、主要な哲学者たちの思想が丁寧に解説されます。彼らの言葉は断片的にしか残されていませんが、その言葉一つひとつに込められた深い洞察と知恵を、著者は見事に拾い上げています。

ソクラテス以前の哲学者たちは、今日の哲学の基礎を築いた重要な存在です。本書を読むことで、彼らの思想の真価とその影響力の大きさを実感できるでしょう。

哲学の原点に立ち返り、古代の叡智に触れてみたい方には必読の一冊です。現代に通じる彼らの洞察は、私たちの生き方や世界観を見つめ直すきっかけをくれるはずです。

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